~ムラサキ村跡~
「ハァ、ハァ……ハァ……ハァ……ヒュー、ヒュー……!」
ちょこは息を切らし、よろめきながらもナキリへ虚ろな瞳から視線を向け続ける。
やはり何度も黄泉帰りを繰り返した影響か、肉体は確かに全盛のそれだが、内側はすっかり蝕まれてしまっているようである。
「ゥゥゥ……」
そんなちょこを前に、ナキリは容赦無く居合の構えをとる。
「【麻酔針】……!」
「【瞬斬撃】」
「が、ぁう、う……ふ、【深みより】……!」
胴体を真っ二つに割かれ、それでも黄泉帰りによって蘇生を繰り返す。
「……」
「まだ、死なない……死ねない……皆が戻ってくるまで、ちょこが何とかするんだから……!」
「シマイ、ニ、スル……!」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ゼェ、ゼェ、ヒュー、ヒュー、ゼェ、ゼェ……!」
「【瞬火終刀……」
「は、針を……」
腕が動かない。
肉体は、度重なる黄泉帰りによって確かに蘇生している。
しかし、とうとう深みに侵されきってしまったのだろうか。
もはや魂も冷え切り、膝から崩れ落ちる。
視線ももはや生気を失い、指先を動かすことさえできていない。
「草斬噺】」
「うぅ……」
ちょこの口から漏れ出た、思念体として最後の呻き。
「楽、ニ……ナって」
失われたナキリの暴力性でさえも、魂まで深みに蝕まれたちょこに対しては、あやめ本人の慈悲を抑えることはできなかったのだろう。
「ハァ、ハァ……。ごめんね、メル様、シオン様、トワ様、ぺこら様、みこ様……時間稼ぎも、できなかった……それと……あやめ様も、ごめんね……元に戻して、あげられなくて……」
「ゥゥゥ……」
「ぁう」
灰と化しつつある肉体で、血を吐きながら涙を流して尚も懺悔のように言葉を紡ぐちょこ。
そんなちょこの胸元へ、餞別のようにナキリは大太刀を突き立てる。
ちょこはすっかり動かなくなり、肉体は徐々に灰と化していく。
深みに呑まれ赤黒く変色した魂は、地の底へ吸い込まれて消えていく。
ちょこの魂が、この先どこへ向かうのかは、ちょこ自身も知らない。
しかし、そこは決して安心など存在しないところだろう。
世界の根幹、システムの基盤。
世界樹の根本、或いは地の底。
その実像は誰にも分からない。
「お待たせ!みんな連れてきたよ、ちょこ先生!」
「大丈夫ぺこか!」
「うっ、ホントに村が血まみれ……」
「トワちゃん、構えて。この殺気は……本当にダメなやつだよ……!!」
境内から階段を飛び降りるように下っていき、村へと到着する一同。
「……ちょこ先生はどこ行ったぺこ?」
「ちょこ先生……?」
「……見てよ、皆。初代会長の刀……!」
トワはナキリの太刀を指差す。
そこには、滴り落ちる新鮮な血液。
「あの鬼の子の刀……。これは……」
何かを察したメルは、全身から血を噴き出して武装する。
「メルちゃん、待って……」
それにいち早く気付き、メルを引き留めようとしたシオンだが、時すでに遅し。
「【ヴラド・ツェペシュの残骸】」
メルは右手を地につけ、次から次へとナキリの足元から杭を突き出した。
「フン、フンッ!グアアアアッ!!」
それらを全て回避し、平地から斜め45度の角度で一太刀で叩き斬るナキリ。
「……許さないよ、メルは……ヴァンパイアの王は……怒らせたら怖いんだからねっ!!!」
冷気と血の鎧を纏うメルを前に、ナキリは刀を構え直す。
そしてまた、恨めしそうにメルを見つめ直した。
瞬火終刀草斬噺
刀に鬼火を纏わせ、草を刈るように敵対者へ食い込むような斬撃を繰り出す剣技
かつて、季節の趣を詠んだ随筆
刀は、鬼の無意識よりそれを呼び出し纏った
物語は新たなる世界を創る業、それは神に等しい力を宿した刃である
だが、結局は使い手によるのだろう
見よ、狼よ、御子の忍びよ