ホログラム・パラドクス   作:モガミのコッコ

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お菓子の姫とチアガール

〜姫森城〜

 

某日。

 

お菓子の国に、一人の少女が迷い込んだ。

 

「姫、異世界人の召喚に成功しました。……あとは、お好きなように」

 

「ありがとなのら」

 

全身をピンクに包んだ、幼い姫。

 

「カバー」の最南端に位置する小さなお菓子の国に君臨する姫君であり新たなる女王、「姫森ルーナ」。

 

忠実なる騎士、「ルーナイト」とその僕を率いる彼女は、幼くして女王となった。

 

強き王であった先代姫森王が死去してから二年。

 

ルーナは、父の死をいたく悲しんだ。

 

彼女には、母親というものが存在しなかった。

 

物心ついた頃にはもう、母親というものが存在しなかったのだ。

 

先代姫森王が、ルーナと関わることはほとんど無かった。

 

政治が忙しかったということもあるが、何より彼は、ルーナに大きな秘密を隠していたのだ。

 

しかし、彼女はそんな父親でも、嫌うことなく純粋に愛していた。

 

そして唯一の親であった父を失ったルーナは、いつからか「友人」を求めるようになったのである。

 

しかし、彼女は姫森王の一人娘であり、たった一人の新たな女王。友人とのトラブルが原因で、万が一のことがあってはならない。

 

それにルーナは、…………だから。

 

〜二年前〜

 

「なんでお部屋に閉じ込めるのら!?ルーナ、もう一人は嫌なのら!」

 

「すみません、姫。貴女は……」

 

姫森王の死後、すぐに小さなティアラと、何着かの着替えだけが乱雑に投げ込まれた部屋に、たった一人閉じ込められたルーナ。

 

「……ぐすっ。ルーナは、ルーナは……今日も一人なのら?」

 

誰とも話すことができなかった彼女の気は、次第に狂気を孕むようになった。

 

「……」

 

しかし、言葉の紡ぎ方すらも、次第に忘れ始めてしまった、とある日のこと。

 

「ルーナ姫、ルーナ姫!」

 

ルーナの近衛を務める一人の兵士が、実質的な牢である個室を訪れた。

 

「んん、どうしたのら?ルーナに、今更何の用なのら?」

 

光を失ったかのような目をしているルーナは、気怠げに応える。

 

「……予言者が厄災の予兆を感じとったので、姫にもご報告を致そうと考えた次第でございます」

 

「ふーん。ま、ルーナにはかんけーないのら〜はははははは」

 

「姫、そのような状況では、さぞお辛いでしょう……何かございましたら、遠慮なく私どもめにお申し付けください。我々は、姫の味方です」

 

「それなら、部下でも何でもない、お友達の一人でも用意して欲しいのら」

 

「っ……。承知致しました」

 

アテにはしていなかった。一日、また一日と、時が過ぎてゆく。

 

ルーナはただ、国を営むための知識と礼儀作法を本で学び、まともに人と話すことも無く、ただ一人、精神を磨耗しながら個室で過ごす日々が約二年続いた。

 

〜現在〜

 

そんな中、ルーナの耳に少し変わったニュースが入る。

 

それは、「この世界のしがらみを知らない異世界人を、ルーナの相手役として招き入れる」計画が、実行段階に移ったとの情報だ。

 

もちろん、公に挙がっている計画ではない。ルーナの近衛や一部のお世話係が結託して、秘密裏にルーナの孤独を癒すために考えたものである。

 

そして、ルーナイトによって異世界から呼び出された、一人の少女。

 

 

 

「夏色まつり」は、チア部に所属する高校一年生の少女であった。

 

〜???〜

 

「さーて、今日も早く帰って、ゲームの続きやろーっと……でも、ちょっとくらい……寄り道したいなぁ」

 

身軽に横断歩道を渡り、身体を弾ませる家路。

 

午後七時。部活終わりに彼女がふと立ち寄った喫茶店。

 

「いただきまーす!」

 

いつもは目にもつかない喫茶店に、偶然立ち寄ってしまったのは偶然か、それとも運命のいたずらか。

 

持っていたスマートフォンには、「新たなる契約」の文字。

 

「んぐんぐ……なにこの通知、胡散臭いなぁ」

 

まつりはロールケーキをゆっくりと食べ終わり、その後に紅茶を飲み干す。

 

そして、席を立とうとした瞬間。

 

その意識は、遥か彼方へと消えていった。

 

〜姫森城〜

 

その結果が、これである。

 

こうして異世界の女子高生は、ルーナイトと直属の魔術師達によって、お菓子の国へと迷い込んだのであった。

 

「えーと、おはようなのら。お〜い、起きるのら〜」

 

「うーん?おはよぉ……?」

 

まつりは、目を擦りながら周囲を見渡す。

 

ピンクの部屋、ピンクの髪、小さな女の子。

 

「???」

 

現代を生きてきた女子高生が状況を把握するには、少し時間が必要であった。

 

「初めましてなのら〜!ルーナは、『姫森ルーナ』!この国のお姫様なのらよ〜!」

 

ルーナは、まつりに顔を近づける。

 

目の前にいる少女に、心を開いて欲しい。その一心で、元気そうなフリをしてでも、異世界の少女と友達になりたかったのだ。

 

「ええっと、ここはどこ?きみは誰かな?」

 

ひとまず、自身の状況を把握したまつりは、目の前の派手な少女に興味を示す。

 

「ここは姫森城!ルーナのお城なのら!」

 

ルーナは元気そうに振る舞っていたが、その表情は明らかに無理矢理繕ったものであった。

 

それもそのはず。今は自分のものである城に、軟禁されているのだから。

 

「ルーナ、無理はしなくていいんだよ?あの喫茶店で寝落ちしてから何があったか、まつりもよくわからないけど……まつりがここにいるのには、きっと意味があるんだよね?」

 

そしてまつりもまた、ルーナの心に宿っている影を、しっかりと見抜いていた。

 

「ありがとなのら、名も知らない異世界人さん」

 

「異世界人?っていうことは、ここは異世界なの?」

 

「ん」

 

ルーナは、自身が寂しがっていたせいで、まつりの意思が確認されずに異世界へと連れて来られてしまったため、申し訳なさそうに、小さく返事をする。

 

「その様子だと、この世界に来たのはルーナ姫か……その部下の人達のせいだったりする?」

 

「ん」

 

ルーナは俯き、小さく返事をする。

 

「……」

 

もし、異世界に連れてきたことを責められたら、お友達どころでは無くなってしまう。

 

それに、元の世界に戻す方法については、魔術師達から何も言われていない。

 

元の世界での人生を奪ってまで、ここに連れてきて良かったのか?

 

自分のために動いてくれていたのはいえ、ルーナイト達を止めなくて良かったのか?

 

「ご、ごめんなのらっ!ほんとうに、ごめんなのら……。勝手に異世界になんて連れてきちゃって……全部、ルーナのワガママで……!」

 

ルーナの瞳に涙が溜まる。

 

責められても仕方がない。

 

なぜならこれは、全て、ルーナが孤独を寂しがってしまったことが原因なのだから。

 

しかしまつりは、そんなルーナを無言で抱き締めた。

 

「よしよし。いいこ、いいこ」

 

「えっ……!?」

 

ルーナは、理解できなかった。

 

勝手に異世界へ連れて来られて、自身の運命を大きく捻じ曲げられて。

 

それなのに、元凶を目の前にしても邪険にするどころか、優しく抱きしめた、異世界人の行動を。

 

「……今まで、辛かったんだね。まつりにはわかるよ。さっき見せてくれたルーナ姫の笑った顔、本当の笑い方を忘れた人の笑顔だったから」

 

「な、なんでわかったのら?」

 

「なんとなく。本当に、なんとなく。とても、悲しそうな笑顔だと思ったんだ。……ねぇ、ルーナ姫。おいで」

 

まつりは、両手を広げて微笑む。

 

次の瞬間、ルーナの瞳からは、どっと涙が溢れ出した。

 

「ん、んっ……!んなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!異世界人ちゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ルーナは、涙も拭かずにまつりに抱きつく。

 

そして、まつりはそんなルーナを優しく抱き締めた。

 

「よしよし。……ルーナ姫。いつまでも『異世界人』って呼び方も慣れないし、『まつり』って呼んでいいよ」

 

「んな?まつり……?……うーん、なんか慣れないのらねぇ」

 

「お気に召さなかったかー」

 

「あーっ!『まつりちゃ先輩』!まつりちゃ先輩がいいのら!」

 

「いいねぇ!もう一回呼んで!」

 

「まつりちゃ先輩ー!」

 

「あー可愛いねぇルーナ姫ー!」

 

まつりはニヤニヤしながら、ルーナの顔を舐め回すように見つめる。

 

「んなぁぁぁ!ねぇねぇ、まつりちゃ先輩。いつまでも『姫』っていうのも慣れないから、ルーナのことも『ルーナ』って呼んでいいのらよ〜!」

 

「いいのー!?じゃあ、これからよろしくね、ルーナ!」

 

「ん!ずーっと一緒にいるのら!まつりちゃ先輩!」

 

夏色まつりと、姫森ルーナ。

 

二人の出会いは偶然か、それとも運命のいたずらか。

 

 

 

その夜、お菓子の国には突風が吹き込んだ。




お菓子の国


文字通り、様々な菓子をモチーフとしたデザインの建造物群が有名な、カバー最南端に位置する小国
銘菓が多い

軍事力は高くないが、姫の近衛であるルーナイトは、10人で1個師団にも匹敵する精鋭揃い
彼らは、冷酷、残忍と、非常に恐れられた

また、彼らは一つの大きな秘密を隠している

女王ルーナは、未だ目覚めぬ
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