~ムラサキ村~
トワ、メルの二人を始末し、再び村へとゆっくり歩き出したナキリ。
「……アア」
腹部の肉は抉られ、刀を失った。
それでも鬼の力は健在。
寝たきり状態のみこと傷だらけのぺこらでは、ナキリの相手すらにならないだろう。
「……来やがった、ぺこか」
しかし、現実は非情である。
境内へと続く階段の前に倒れているぺこらとナキリの距離はだんだんと詰まっていく。
満身創痍のぺこらは、指一本たりとも動かすことができない。
文字通り、目に見えて近付いてくる「死」の気配。
肉体には震える程の力も残っていないが、それでも確かに寒気は背筋を伝う。
「……ウウ」
「ば、万事休す、ぺこか……この分だと、二人は……」
「ウアアアアア……!」
一歩、一歩とぺこらへ近付くナキリ。
拳を握りしめ、全身から邪気が溢れ出すその姿はまさしく「鬼」。
「鬼……ここまでひどいとは思わなかったぺこ……!そんな、そんなことが……!」
「……ガ、ガガガ……アアア!」
ぺこらの頭部へナキリの拳が迫る。
「【バイオレット・バレット】」
しかしその拳は大きく外側へ反れる。
「ガッ……?ア、ア、アガガガガガガ」
ナキリの全身に雷を圧縮した弾丸が命中する。
全身の痺れに感覚を失ったナキリはその場に膝をつく。
「あやめちゃん。ずっと……ずっと迷ってた」
シオンはナキリの眼前に迫り、魔術で重力をかけて話を始める。
「……」
「昔……あやめちゃんがまだ生きていた頃。いっつも、シオンに相談してたよね」
「……ア」
「鬼の力のこと。……ずっと、心配してたよね」
シオンはかつて、生前のあやめと同じ時代にも魔界学校へ通っていた。
当時の名は「ムラサキ」、後によく知る村と同じである。
「……ゥゥ」
「『自分』で言うのも恥ずかしいけど……大魔術師『ムラサキ』は、確かに最悪の手段をとった」
自身の鬼の力が暴走することを案じたあやめは、かつての大魔術師「ムラサキ」に一つの願いを託した。
鬼でありながら、学び舎における生徒会長のような「秩序」であることを望んだあやめ。
そんな彼女は、親友であるムラサキに自身の力について相談をしていた。
しかし、大魔術師と呼ばれていたムラサキにも、眠れる鬼の力だけはどうにもできなかった。
「……」
「なのに、結局……シオンの覚悟が足りていなかったから……」
頭を悩ませた末に、二人が選んだ道。
最悪にして唯一の手段。
それは、ムラサキが力の暴走を引き金とする「死の概念」という爆弾をあやめに埋め込むことで、事実上はあやめが「暴走した鬼」へと成ることを防ぐ、というものだった。
人並みに死を恐れてはいたあやめではあったが、それでも彼女は人間的な生き方を望んだのだ。
「……!ムラ、サキ」
「はっ……!そ、その名前……!あやめちゃん、まだ自我が残ってるの!?」
「ア、アア……」
ナキリはシオンに視線を向けたまま直らない。
「……そんな訳ないよね、ハハ……」
しかし、すぐさま再び殺気を出すナキリ。
シオンは少し上がっていた肩を落とした。
……ある日、突然訪れたあやめの死。
かつて二人で選択した運命の果て。
しかしそれを前にしたムラサキが、結論として現実を受け入れることは出来なかった。
火葬され、魔界学校の敷地内へ埋められることとなったあやめ。
ムラサキが持ち帰った骨壺が、それを全て物語っていた。
「ァァ」
それが、結果として災厄を招くことも知らずに。
「【
「ガアッ!!?」
「これは、シオンの覚悟が足りていなかったから。『死の概念』を与えられたあやめちゃんに、『生命の力』を与えちゃったから……こうして、魔界学校もムラサキ村も……もしかしたら他の場所も、滅ぼすことになっちゃった。……これは全部、シオンのせいだから」
「ガガガ、ガァ……シ、オ、ン……」
「だから……ここでシオンが止めなきゃいけない。被害なら、もうシオンが一生かけても償い切れないくらい出てる。でも……いや、だから……」
「……シマイ、ニ、スル!!」
「ここで、シオンはあやめちゃんをもう一回殺さなきゃいけない」
喰式
それは「グラビティ・イーター」に非ず古の魔術「グイシキ」は、魔術師「ムラサキ」によって見出された闇の魔術
狙いを定めた場所に「グラビティ・イーター」よりも強い重力をかけ、さらに激しい雷を落とす
足に纏わせることもできるそれは、命中した相手の肉体と魂を激しく削り取る
そして闇の魔術故だろうか、術者の魂も多からずだが消耗する
渡し舟を沈める雷
鬼をも喰らい、神威を振るう
しかしこれは確かに、禍つモノである