~サーバ海~
頼もしい三人の仲間と新たなる船を手に入れ、「カバー」の海を進むマリン。
「う~ん……こうして海を往くのも久しぶりですねぇ~……」
マリンは甲板にもたれかかり、伸びをする。
「せんちょ、風向きが変わるよー!よいしょ、よいしょ……これでスピードダウンは防げるはず……」
吹きつける逆風。
あくあは広げていた帆の角度を変え、魔力モーターの出力を上げる。
「海風が涼しいね~!……それに、この照りつける日差し……懐かしいなぁ」
「……ルーナがこの世界に呼ぶ前の話なのら?」
「うん。……まつりがいた町は自然に囲まれてて……学校も……学校……?」
「んな?まつりちゃ?」
まつりは膝を突き、右手の甲を額に当てながら腰を落とす。
「……アレ、何の話してたんだっけ?」
「お日さまの話なのら。まつりちゃ、大丈夫なのら?」
「……う、うん、大丈夫。それより!この海!ほら、ルーナも見てみなよ!」
しかし、まつりは何事も無かったかのように話題を逸らし、ルーナを抱き上げて海を見渡す。
「………………波が、あるのら」
ルーナが生きている内に見た事があった海は、全て描かれた世界の中にあった。
その絵に入る事はできず、また、その絵から水や魚が飛び出してくることも無い絵。
それが今、目の前にある関心に、ルーナの口からはしばらく言葉が出て来なかった。
「綺麗だね~……水も透き通ってる……」
まつりが水面に視線を移すと、ルーナは目を輝かせてまつりに訴えかける。
「お魚!お魚が食いてーのら!」
「魚?何で?」
「実はルーナ……魚食べた事ねーのらよ」
荒地の姫君は大海を知らなかった。
そこに生きる者達も、透き通る水の色も。
それらは全て物語の中に、或いは絵画に映る虚像であった。
現実で目にしたことがある水は、ただ口に含む為の真水のみ。
「じゃあ、ルーナ!釣りしようよ、釣り!」
「うーん。でもルーナの力じゃ、逆に引きずりこまれちまいそうなのら」
「大丈夫!まつりと一緒に一本の竿で釣ればいいんだよ!」
「んなーい!まつりちゃんと二人で一緒なら安心なのらー!」
ルーナは魔術で釣り竿を生成し、まつりと二人で持ち手を握る。
「じゃあ、行くよ!ルーナ!」
「「そぉぉぉーーれっ!」」
ルーナとまつりは息を合わせて釣り竿を海へ投げ込む。
そして、
「っ!!かかったのら!」
「え!?もう!?」
竿を投げ入れて数十秒、何かの反応があった。
「二人とも!?何やってるんですかぁ!?」
マリンが気付いた時にはもう手遅れだった。
「で、でっかいタコさんなのらぁぁぁぁ!?」
「ナニコレぇぇぇぇぇぇ!?」
ルーナとまつりの釣り糸を伝って、一体の怪物が姿を現す。
「INA'NISシステム、スタンバイ」
怪物は八本の足を振り回し、それらを何度も船体に叩きつける。
海の怪物、サーバ海の番人。
彼女は、新たなる門出を祝したばかりの宝鐘海賊団に牙を剝いた。
荒地の女王
荒地の女王は、能力を用いて無意識の内に理想の王国を生み出した
だが荒地の女王は、魚を見た事が無かった
荒地の女王は、海を見た事が無かった
荒地の女王は、友人をもったことが無かった
友を召喚し、そして海へ出た女王は、やがて全てを手に入れた
それが望むものばかりとは限らないが