~???~
「……う~ん」
桃色の髪をもつ少女は、白衣を着たまま伸びをする。
「研究室……?桜、寝てたの……?」
少女は机に置いてあった顕微鏡を片付け、プレパラートの上に置いてあったいくつかの種を別々の瓶に入れ、そのまま靴も履かずに外へ飛び出した。
「この町も、すっかり変わっちまったにぇ……」
区画整理だとか都市開発だとか、そんなちゃちなものではない。
かつて、もっと恐ろしいことがこの街を襲った。
世界は変わった、あの日の夜。
アポカリプス、或いは世界樹の悲劇。
ほんの生き残りがそう呼んだ、世界崩壊のシナリオ。
その発端こそが何を隠そう、この「桜」という名を自称する少女が住む町なのであった。
もはや名前を知る者達さえも殆どが死に絶えたこの町。
そして廃墟と化して久しい町の空き屋を改装した研究室で、桜は今も尚、腐敗し切った世界を蘇らせるべく、新たなる世界樹の種を生み出さんと研究を続けていた。
「世界樹の悲劇」とあるように、原因はおそらくこの町に太古の昔から生えていたと言われる巨木。
……長い夢を見ていた。
巫女服を身に纏い、少女達の戦いを見届ける夢。
「あの夢は……何だったんだにぇ……」
桜は研究室を出て、裏山へ向かう。
仮に「名無し町」としておこう、その町の外れに位置する裏山の果てにこそ、世界樹と呼ばれた巨木は存在していた。
古の時代より生きてきた、大都市一つを丸々呑み込んでも足りない程の太さと、天高くにまで伸びる幹。
そこから広がる無限にも等しい枝。
この辺り最大の観光名所でもあった世界樹は、名無し町の土壌にも豊かな恵みをもたらしていたのだ。
あの木は普通では無かった。
少なくとも、世界崩壊後どころか世界が崩壊していなかった5年前でさえ、そんな植物は存在していないのだ。
ただ一本、あの木を除いては。
「この木……使えるかな……あの花も、もしかしたら……」
プラスチック製の容器に植物のサンプルとなるを詰め、山を奥へ奥へと進んでいく。
「あっ!」
木の根によって盛り上がっていた岩につまづき転んでしまう桜。
「いっててててててて……」
膝の出血を手当てすることも白衣の泥を掃うことも無く、さらに歩いて山の奥へ向かう。
「まだ、まだサンプルが……もっと世界樹に近付かないと……」
世界樹の近くには、突然変異を繰り返すことによって他の地域ではまず見ることができない種の植物が多様に存在している。
桜は枯れ果てた世界樹を望む丘で、町を見下ろす。
「この町は、私が……」
桜は、すっかり蔓が伸びきった家々が並ぶ町を眺めて呟いた。
世界樹の悲劇
名も無き町の裏山、世界樹と呼ばれた大樹によって引き起こされた事件
恵みを失った名無しの町を中心に世界は一晩にして崩壊し、世界には災厄が降り注いだ
これはやはり人の業、許されざる思い上がりなのだろうか
かのバベルの塔のように