~桜神社・境内~
「……ん、にぇ」
桜神社の境内、鳥居から右側へ視線を移すとそこにある、小さな小屋。
さくらみこは、そこで意識を取り戻した。
「ここは……兎田が寝かせてくれてた……?」
枕元に置いてあるハンカチ、それがぺこらのものであったことに気付くと、みこは安堵したのか、大きく伸びをする。
「変な夢だったにぇ」
さくらみこは、夢を見ていた。
それは一瞬にも感じられるような、しかし数年にも感じられるような、おかしな夢。
「どれくらいの間……。ハッ、神社は!?兎田は!?」
みこは飛び起きるように寝床から立ち上がり、外へ飛び出す。
「こ、これは……何が起こって……!?」
境内から階段の下を見ると、そこにはゴーストタウンと化したムラサキ村があった。
「村人は……?皆は、どうなったんだよぉ!?」
境内には、ぺこら以外の誰かが訪れた形跡もあった。
しかし、意識を失っていたみこは彼女達を知らない。
「村の人達は!?どうなってるのぉ!?」
みこは階段を駆け下り、村へ向かう。
途中から段を飛ばし、宙を花弁のように舞って降下を続けていた。
しかしその途中で、見慣れた少女の姿を目にする。
「う、兎田!?」
階段に倒れたまま動かない、見慣れたぺこらの姿。
その腹部は抉られており、本当に辛うじて生きているようであった。
「兎田!兎田!しっかりするにぇ!」
みこはぺこらの耳元で叫ぶが、意識は無いのか返事は無い。
「……今は、村を見に行かないと……!」
常に持ち歩いている包帯を薬草を使って簡単な応急処置を施し、さらに階段を下っていくみこ。
そして数分後、みこはムラサキ村へ到着。
~ムラサキ村~
人っ子一人いなくなった村の跡には、微かに血のような赤みを帯びた液体が付着した家々だったものが並ぶ。
「ええ、ここも、ここも、何も……無い……皆、どこに……!」
つい意識を失う直前の戦いまで、共に家族のように接していた村人達が、人っ子一人いなくなってしまっている。
そして意識を失っている間に何が起こったのか、みこはそれを知らないのだ。
「皆、皆ー!どこ行ったのー!早く出てこいよぉ!」
現実を直視できないのか、みこは彼らの行方に結論を出そうとしない。
僅かに血が付着している全壊した家屋の中を調べることもせず、誰もいなくなった村を、ただ歩き回るばかり。
そして、数時間が経ち。
日が落ちてくると同時に、みこは階段の平らな面に寝かせておいたぺこらを背負って境内へ戻った。
「……みこは……みこは、何をやってるんだろ」
一人、みこはそう呟く。
藍色の夜空は、雲一つないその様とは正反対な巫女の少女を照らす。
「兎田。……起きたら全てを聞かせてよ。……みこが寝てる間に起こった、全部を」
そしてぺこらを、つい黄昏時まで自身が眠っていた寝床へ降ろした。
祈りの三矢
祈りによる神性によって投影した三本の矢を構え、放つ魔術
桜神社の巫女であるさくらみこは夢うつつの世界にて見出したものは、やはり奇跡でも加護なく、ただ純粋な魔術であった
三本の矢は折れぬ
束ねた信念は、いつかの英雄譚によく似ている