オールマイトの隠し子なんだけど、オールマイトに隠し子が居るってマジ? 作:米国主将
「馬鹿にしてるのか・・・?騙すつもりならもうちょっと頭使えよ…」
「同じ格好だから親子とか、いくら何でも安直すぎるでしょう」
「わざわざそんなスーツまで用意して、ご苦労な事だ」
「待ってください弔、状況的にこちらの狙いが最初からバレていたとは思えません」
「でもあれは急に用意できるもんじゃないだろ」
「ならばあれは、自前の物だという事でしょう」
「それじゃ、あいつは普段からコスプレしてるのか?常識とか無いのかよ」
顔を真っ赤にしながら、プルプルと震える美久子を見て、全身に手の装飾を付けた敵、弔は
ヒーロー達を挑発する時の詭弁と違って、かなり本気で雄英の選考基準を心配しながらため息をついた。
「いい年してオールマイトごっことか、頭大丈夫なのか」
結論から言えば、轟の心配は杞憂に終わった。
オールマイトを援護するために飛び出した緑谷たちから気を逸らすため
自らオールマイトの隠し子である事を暴露しながら、堂々と姿を現した美久子だが
敵達は誰も美久子のいう事を信じようとしなかったのだ。
「私は!本当に!オールマイトの娘だから!それと常識とかいうなら、そっちこそヴィランなんてやめたらどうなの!」
「脳無、爆発小僧をやっつけろ、出入り口の奪還だ」
「無視すんなぁ!」
左腕に全エネルギーを集中し、脳無と呼ばれた異形の敵へと突貫する
「やめるんだ!!逃げろ八木少女!!」
「八木さん!ダメだ!そいつは僕の力でもビクともしなくて!」
(デクくんのパワーでも通用しないって事は、それは間違いなく個性!)
ならば、今必要なのは攻撃力に頼らずに相手を無効化できる自分の個性。
美久子は二人の言葉を聞かず、そのまま脳無に接近すると、左腕のスマッシュをその腹に叩き込んだ。
「もらった…っ!?」
そのまま即座に吸収の個性を発動し、右腕へとエネルギーを送ろうとするが
脳無から流れ込んだ異様な感覚に、美久子は脳を殴られたような衝撃を受けて膝をついた。
(なにこれ…!?何で何人ものエネルギーが同時に!?)
一口にエネルギーと言っても、個人の持つエネルギーの質は、誰一人として同じ物では無い。
複数のエネルギーを同時に吸収するには、相応の処理能力が必要となる。
完全に一人からエネルギーを吸い尽くすつもりだった美久子の脳は、不意をつかれて完全に許容上限を超えてしまっていた。
「何がしたかったんだこいつ…マジでイカれてんのか。まぁいいや、やれ、脳無」
脳無の剛腕が、美久子の顔面へと振り下ろされる。
(あ…ヤバ…え、これって…死…)
――最善だと思った行動が、逆に最悪の結果を招く可能性もある。
考え無しの馬鹿な行動がもたらした結果を自覚する前に、美久子はデクの隣に、腰を抜かして座り込んでいた。
「八木さん!?避っ避けたの!?すごい…!」
(えっ、なんで生きてるの?)
美久子が呆然としていると、脳無は今度は黒霧を抑えていた爆豪に殴りかかり、気が付くと彼も
美久子の隣に座りこんでいた。
(あ、そうか、パパが助けてくれたのか)
爆豪はすぐに立ち上がり、オールマイトの横に並んで脳無を睨みつけるが
美久子は死の恐怖を自覚すら出来ていないまま、その場から動く事が出来なかった。
そのまま始まったオールマイトと脳無の激闘を眺めていると、何時の間にか居なくなっていた尾白が
気絶した敵を引きずって戻って来ていた。
「八木!怪我とかはないみたいだな、個性はまだ使えるか?」
「使えるけど、何で今…?」
「相澤先生が重傷なんだよ、こいつからエネルギーを吸って先生に渡せないか?」
「出来るけど、体力が回復するだけで、別に怪我が治るわけじゃ…」
「無いよりはマシだろ、それに体力があればリカバリーガールの治癒だって」
「…!解った!けどこいつはもう大分消耗してる、吸いすぎると死んじゃうから、数を集めてきて!」
言われて尾白は、戦いを見守る生徒にも声をかけながら敵を集めに走っていった。
腕力のある者は協力して敵を集め、そうでないものは警戒のためにその場に残る。
美久子は涙が出そうになるのを堪えながら、集められた敵からエネルギーを吸収していった。
同じタイミングで広場に来たのに、尾白はちゃんと考えて、人を救うために動いていたのだ、自分と違って。
「溜まった!一時間以内に効果が消えちゃうから、急いで飲ませて!」
「わかった!」
駆けだす尾白の背を美久子が見送っていると、丁度戦いが終わったらしく
その頭上をオールマイトに殴られた脳無が吹っ飛んでいった。
明らかな強敵が撃破された事で、生徒たちの緊張も緩む。
轟を始めとする強者達も、後は事後処理だという空気になり、未だ合流していない生徒を探しに各ゾーンへ向かおうとしていた。
だが、美久子は動こうとせずにに弔達を威嚇するオールマイトを見て、逆に嫌な予感が止まらなかった。
(もしかしてパパ、もう限界なんじゃないの?)
すぐにでもエネルギーを渡さなければいけない、だがどうやって?
集めた敵達からは既に限界まで搾り取った、クラスメイトに分けてもらう?
目の前に敵が居るのに、誰が自身の弱体化を受け入れるというのか?
それに、渡しに行くのは誰だ?自分は腰が抜けて立つ事すらできないし
今の自分が誰かに頼んだ所で、その意見に賛同する者は居ないだろう。
また邪魔になるだけ、素人が近づかない方がいいと。
悩んでいる内に、美久子の周囲に集まっていた生徒達も、轟達と合流しようとしていた。
父を救う手段が零れ落ちていくのを感じながら、纏まらない策を練っていると
逆に美久子へと走り寄る者が一人だけいた。
「八木さん!お願い!エネルギーを分けて!」
「何言ってんのデクくん爆死する気!?」
自身の持つ力すら使いこなせないのに、突然更なる力を要求する緑谷に美久子はドン引きした。
「僕じゃなくて、オールマイトに!急がないと!早く!」
「…!でももうエネルギー源…いや、あった!」
何故緑谷にその発想が出てくるのかという疑問があったが、それは今は追及すべき事ではない
下手な事を言って、考えを変えられる訳にはいかない。
「デクくん!エネルギーを分けて!どうせ扱いきれない程有り余ってるんだからいいでしょ!?」
「わかった!お願い!」
躊躇なく差し出された緑谷の手を掴み、その巨大な力を吸収し…
「…何で?」
「!?八木さん!なにか問題が!?」
「あっ…いや、一瞬で満タンになるほど凄いパワーだなって!行って早く!」
その瞬間、緑谷は両足も砕けよと言わんばかりの勢いで飛び出していった。
飛びついた緑谷からエネルギーを受け取ったオールマイトは、そのまま彼を抱いて
跳躍し、迫る弔達から距離を取る。
その直後、駆け付けた雄英教師たちの援護射撃を受け、黒霧は弔以外の敵達を見捨てて撤退。
山岳ゾーンに取り残されていた上鳴達も、教師たちにより救助され
生徒には、緑谷の両足骨折以外は重傷者はなし。
相澤や13号も、後遺症の残る怪我は無く
今度こそ安全が確保された生徒達は、安堵の空気に包まれ
分散させられた後の武勇伝を語りあっていた。
だがそんな中で、美久子の心は敵の襲撃時以上に乱れていた。
(デクくん…)
人間の持つエネルギーは、一人一人が全く違う。
別人が同じような個性を持っていたとしても、血の繋がりが無ければ、その本質は全くの別物なのだ。
(…なのに何で)
逆に、
(何で、パパのエネルギーにあんなに似ているの?)