イッシュの吸血鬼戦争   作:ぽっきー。

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ヒウンシティで倒れていたグレイシアをブロード博士がいるヒオウギシティの研究所に運んだレイは、そのグレイシアが吸血鬼とポケモンのどちらかはっきりしないことを知る。博士の夢を聞いたレイは研究を手伝い、吸血鬼とポケモン、人間の共存を目指してグレイシアと旅することを決意する。旅につれていく新しいポケモンを探していると、研究員のリツコから、グレイシアを捕らえている檻で異常事態が発生したことを知り、すぐに向かうのだった。


葛藤

俺はリツコさんについていって、すぐにさっきの研究所に戻ってきた。

 

通る研究員は全員慌てているように見える。

 

グレイシアに、何かあったのだろうか…。

 

さっきの檻があった部屋に戻ってきた。

 

その光景を見て、魅了されると同時に、圧倒された。

 

辺り一面、氷。

 

檻は見事に氷漬けにされていて、最早金属の部分など、厚い氷におおわれて、見えなくなっている。

 

部屋に気温はさっきより10度以上下がったように感じ、うっすらとだが、吐いた息が白くなった。

 

俺「博士…いったい何が…?」

 

ブロード博士「分からない。突如、あのグレイシアが苦しんだ様子を見せて…5秒経たずにこのありさまだ。」

 

やはり、技の威力が桁違いになっている。

 

伝説ポケモンでもない限り、こんな広い部屋を一瞬で凍てつかせることなどできるはずがない。

 

氷で覆われた檻の中で、丸まって倒れているグレイシアが辛うじて見えた。

 

俺「博士…どうして助けないんですか!?」

 

ブロード博士「すまない…さっきの氷で、システムに異常が発生して…檻の開閉すらも凍っていてできないんだ。」

 

俺「そんな…。」

 

グレイシアは、檻の中でひたすらうずくまったままだ。

 

ずっと一人で…苦しんで…誰も分かってくれなくて…。

 

俺「攻撃を仕掛けてきた…ということですか?」

 

ブロード博士「いや…なんだかひとりでに苦しみだした、の方が適切だと思うが…。」

 

俺はそのこと聞いた直後、体が動いていた。

 

たまたま近くに転がっていた、檻の金属の棒を拾って、氷を叩き割ろうとする。

 

研究員A「な…何をやってるんだ!?」

 

俺「グレイシアが…あの子が…助けを求めてるんです!」

 

リツコ「レイ君やめなさい!今は檻の制御が利かないのよ!その檻からあの子を出せば、皆危険に晒されてしまう!」

 

俺「グレイシアだって…今危険なんですよ!!」

 

俺は氷の柱を思いきり叩いた。

 

少し、歪んだ。

 

リツコ「博士!止めないんですか!?」

 

ブロード博士「私は…システムを直すのに手一杯だ…彼の好きにやらせよう。」

 

リツコ「手遅れになったとしても?」

 

ブロード博士「彼らなら…きっと…。」

 

氷を何とか叩き割って、檻を壊し、できた隙間から中に入った。

 

グレイシアは荒い息遣いをしていた。

 

俺「グレイシア!」

 

俺は近寄って膝をつき、そっと触れる。

 

俺の声が分かったのか、薄く目を開いた。

 

目は前よりも赤くなっていて、気のせいか、牙も長くなったように見える。

 

俺はグレイシアを抱き上げ、背中を摩った。

 

荒い息遣いは治まらない。

 

必死に本能に抗っている…ように見えた。

 

俺「まさか…やっぱり。」

 

グレイシアは吸血鬼だ。

 

だが、ポケモンでもある。

 

したがって、血を取り込まないと空腹で死んでしまう。

 

だが同時に、血を取り込むことを拒否しているのか。

 

摂取したくない。誰の血も、それが生きた人からの血ではなくても。しかし、摂取しなければ死ぬ。

 

この子は、その事実と闘っているのだ。

 

目の前に大量のご飯があるというのに、それを必死に堪えている。

 

俺「そんな…血を…でなければ君が…。」

 

グレイシアは首を横に振った。

 

“あなたの血は飲めない”そう聞こえた。

 

俺「いいんだ…飲まなきゃ君が死んでしまう…!」

 

彼女はもう吸血鬼である以上、血以外体が受け付けない。

 

口にしても栄養としてみなされず、体が拒絶してしまうかもしれない。

 

俺「ほら…。」

 

俺は左手をグレイシアの顔の前に持って行った。

 

吸血鬼に血を吸われれば…その場で死ぬか、吸血鬼になる、のどちらかだろう。

 

俺が吸血鬼になったとしても…研究の対象になるだけだ。

 

何もせずこの子が苦しむよりかはその方がいい。

 

グレイシアは口と目を必死に閉じて首を振る…と思えば、突然頭を押さえた。

 

どこかが痛いのか、体がもう限界を迎えているのだ。

 

俺「俺のことは気にしなくていい…!」

 

そっとグレイシアの頭を支えて、手を再び前へ。

 

瞼のほんの少しの隙間から、俺を見た。

 

俺は、笑った。

 

ようやく…この子の口が俺の左手、親指と手首の間に触れた。

 

そして、微弱な痛み。

 

俺の手から流れ出る鮮血と、それをこぼさないように飲むグレイシア。

 

この子の目からは…透明な血が流れていた。

 

*****

 

照明が急に点いた。

 

誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。

 

気が付いたら、俺はベッドの上だった。

 

(あれ…?俺、確かグレイシアに血を…。)

 

ブロード博士「レイ君!!」

 

横で俺に声をかける博士を見た。

 

俺「グレイシアは…」

 

博士は微笑した。

 

ブロード博士「君のおかげなのか、とりあえず無事だ。呼吸も落ち着いて、元通り。」

 

俺「博士…残念ですが、俺はもう…。」

 

博士の夢…もとい旅ができなくなってしまったと、本気で思った。

 

ブロード博士「もう、何だい?」

 

俺「いえ…その…あの子を助けるために、血を飲ませました。」

 

ブロード博士「君が?」

 

俺「はい…。いつ吸血鬼になるか分かりませんし、すぐにでも隔離した方が…。」

 

博士は分かってはいたものの、浮かない顔をしている。

 

ブロード博士「して、その傷はどこに?」

 

俺「え…?ほら、左手のここに。」

 

俺は確かに噛まれたはず、左手の親指の付け根辺りだったのだが…傷はなかった。

 

ブロード博士「飲ませたことは確かなんだね?」

 

俺「はい…。」

 

何だか、俺が嘘を言ったように聞こえるじゃないか。

 

ブロード博士「私たちも念のため、スキャンを何度も行ったよ。傷を見つけるために世界でも数少ない大掛かりな機会をも使って調べたが…君の身体には何も異常はなかった。」

 

「てっきり君がそばについてあげたことで、落ち着いたものとばかり思っていた…。」

 

やはりあそこで倒れていたら、それはそうするだろう。

 

でも異常がなかったのは…変だ。

 

それに、グレイシアが何故苦しみだしたのか、その理由も俺にしか分からない。

 

俺「いえ…あの子は、お腹が空いていたんだと思います。でも、人の血は取り込みたくないと、最後の最後まで躊躇していました。」

 

「結果、僕が飲むように勧めたんです。」

 

ブロード博士「しかし…だとするとあと二日は待つしかない…か。」

 

俺「二日…ですか?」

 

ブロード博士「ああ。吸血鬼が血を吸ってから三日以内に、吸われた人が吸血鬼になると言われている。」

 

「あまり被検体が多いわけではないが…三日を過ぎると時間差で吸血鬼になる確率は一気に下がる。」

 

「もう既に一日たって、今日はもう夕方。君を自由にするのは、その三日後を迎えてからだ。」

 

もう一日経っていて、それで何にも感じないのは…ただの幸運?

 

ブロード博士「にしても、傷が消えていることは不思議だ。もし、血を吸っても吸血鬼にならないなんてことになったら…!」

 

博士は薄気味悪い顔で笑った。

 

ブロード博士「とりあえず、この部屋は隔離させてもらう。用があったら、その電話で呼んでくれ。」

 

俺はしばらく、ずっと天井を見ていた。

 

吸血鬼になるかもしれないという実感が全く湧かないが、こういうものだろう。

 

今思ってみると、“噛まれた”という表現は違う気もした。

 

グレイシアは、確かに俺から血を吸ったのだが、人が流れた血を飲んでいたように感じた。

 

そもそも、“吸血鬼に血を吸われる”ということは、吸血鬼に噛まれて、血を吸われるという二段階の行程があるはず。

 

そのどちらに人体に影響があるのかすらも分からないので、俺には何とも言えないが…。

 

グレイシアは、通常の吸血鬼のように牙を指し、俺の体から直に取り込むのではなく、噛みついて、それから流れた血を飲んでいた気がする。

 

それで違いが生まれるのかは分からないし、もしかしたらグレイシアが誰かの血を吸っても、誰も吸血鬼にならないのかもしれない。

 

もしくは、今自分が大丈夫なだけで、明日には吸血鬼になっているかもしれない。

 

どちらにせよ、待つしかない。

 

俺は何もすることもなく、瞼を閉じた。

 

*****

 

あの日から3日が経った。

 

結局、俺の体は何ともなかった。

 

博士もそれからずっと警戒はしていたが、全くその予兆もなく、警戒は杞憂だった。

 

それから数日経って、俺はグレイシアにまた会うことを望んだ。

 

博士は許可してくれて、再度檻の中に入ることとなった。

 

檻を覆っていた厚い氷はなくなっており、今も変わらず伏せたままのグレイシアがいた。

 

俺「あれから…どうですか?」

 

ブロード博士「いや、本当にずっとあのままだよ。寝ているのだろうけれど、相変わらず食事は全て拒否し続けている。」

 

「“飢え”は吸血鬼にとって恐ろしい物だが…この前も突然だったから何も分からない。」

 

ずっとあの中にいるグレイシアがとてもかわいそうに思えてきた。

 

旅が始まれば、あの子を一人にしないであげようなんて考えていたが、今となってはこの前の凍結騒動で研究員が猛反対しているようだ。

 

博士もなだめてくれているみたいだが…。

 

俺は檻の中に入った。

 

何かを感じたのか、グレイシアの耳が少し動いた。

 

俺「また来たよ。」

 

俺だと分かったのか、顔を向けてくれた。

 

だが、暗い表情。何か後悔している様子だ。

 

俺「もしかして…あの時俺の血を飲んだこと、後悔してる?」

 

グレイシアは下を向いて頷いた。

 

俺はグレイシアの横に座って、頭を撫でた。

 

俺「大丈夫だよ。体は何ともなかったし、何より君を助けられてよかった。」

 

気づくと、グレイシアが立ち上がって、俺の方を見ていた。

 

“どうして自分に優しくしてくれるのか分からない”そう言っている様だ。

 

俺「吸血鬼になったこと、嫌なのかい?」

 

グレイシアはまた頷いた。

 

俺はグレイシアの背中を撫でた。

 

俺「俺は…君が優しいって分かってるから。」

 

「吸血鬼かポケモンかなんて気にしない。君と一緒にいたいんだ。」

 

グレイシアの顔は晴れない。

 

俺「大丈夫だよ。君と俺を信じてくれる人だっている。俺も君を信じる。」

 

「だから…一緒に行こう?」

 

俺は両手を出して、“おいで”と伝える。

 

グレイシアは迷っている。でもそれの理由はすぐに分かった。

 

この子は、自分が他人に迷惑をかけてしまうと分かっている。

 

前も、空腹で施設を凍らせて、俺の血を飲んでしまったこと、後悔しているのだ。

 

でも、思いは俺と同じ。行きたいと思っている。

 

だからこその、葛藤。

 

俺は、前に出た。

 

グレイシアを両手で抱え、ぎゅっと抱きしめた。

 

俺「安心して。何も怖くない。迷ったとき、辛いときは一緒に乗り越えよう。」

 

「俺は、君の味方だよ。」

 

グレイシアの顔の方、右肩に雫が落ちた。

 

俺はグレイシアと向き合って、目を見た。

 

目にはいっぱい、涙が溜まっている。

 

牙はやはり短いが確かに存在して、目は薄い紅。

 

でも、優しい瞳。

 

グレイシアは俺の頬を舐めた。

 

吸血鬼に首や顔をこれほどまでに近づけた人など、いるのだろうか。

 

俺は再度グレイシアを抱きしめた。

 

強く、そして優しく。

 

俺「君の名前…どうしよっか。」

 

グレイシアは腕の中で、俺を見た。

 

俺「…フィール、はどうかな?」

 

グレイシアは笑った。

 

気に入ってくれたのだろうか。

 

俺も自然と笑顔になり、これから起こる旅を夢見ていた。

 

ようやく、俺の吸血鬼、フィールとの旅が始まろうとしていた。




お読みいただきありがとうございました。
登場したポケモンに名前を付ける方針で行きますが、後にリストは作ろうと思ってます。
次回もよろしくお願いします。
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