イッシュの吸血鬼戦争   作:ぽっきー。

4 / 4
グレイシアのフィールは、吸血鬼なのか、ポケモンなのか。吸血鬼という謎の生物を解明するには、フィールが必要だと感じたブロード博士は、レイのイッシュ地方の旅を提案する。レイはこれに乗り、博士の研究を手伝うことになる。フィールは血を体内に取り込まなければ空腹で死んでしまうらしく、抵抗もあったがレイはフィールに血を飲ませる。が、レイに特に変化はなく、フィールとの仲を深めて旅の出発を待つのだった…。


出発

俺とグレイシアのフィールは、少し頑丈な部屋を与えられて、一緒に何日か過ごした。

 

フィールはどうやら、お腹を空かせると具合が悪くなるらしい。

 

前の凍結騒動から五日後、再びフィールの調子が悪くなった。

 

暴れはしなかったが、とても苦しい様子だった。

 

あまりいい顔はされなかったが、他に方法もなく、俺はもう一度血を与えた。

 

意識こそ失わなかったものの、その後はこの前の通り、フィールが噛んだ傷は消えていて、何日経っても俺が吸血鬼になることはなかった。

 

博士は興味深々で、自分もフィールに血を与えると言ってきたが、研究員が大勢止めに入った。

 

結果、フィールが俺以外受け付けなかったというのもあり、博士は断念した。

 

フィールは元気で、俺と遊んでいる時はずっと笑っていた。

 

寝ている時は少し苦しそうにしているのが気になるが…。

 

あと、やはり言葉によるコミュニケーションは未だ取れないことが分かった。

 

暮らして十数日、ついに出発の目処が立った。

 

ブロード博士「今日も異常なし。いよいよ明日、出発だね。」

 

モニター越しに博士と会話する俺。

 

俺「はい。もう準備まで済ませちゃいました。」

 

ブロード博士「うん、ところで…君にグレイシア以外に連れていくポケモンをあの施設で探すって言ったこと、覚えてるかい?」

 

俺「もちろんです。短時間でしたが、気になる子を見つけました。」

 

ブロード博士「そうか。なら明日、私が迎えに行くから一緒に行こう。」

 

俺「分かりました。フィールはどうすれば…。」

 

名前を呼ばれたと思ったフィールが体を寄せてきた。

 

俺は笑って頭を撫でた。

 

ブロード博士「あの施設に吸血鬼を連れていくわけには…すまないがその間だけ待機してくれ。」

 

俺「分かりました…言っておきます。」

 

撫でられて満足したのか、俺の横で座っている。

 

ブロード博士「それにしても…懐いているね。」

 

俺「言葉は交わせないんですが…不思議と分かるんですよね。」

 

普通、自分の手持ちになればポケモンが何を言いたいのか理解することができるが、フィールはまず声そのものを出さないために理解はできないが、予測はできた。

 

ブロード博士「油断はしないように…なんてこと、今更言うことでもないか…。」

 

俺「分かりました。」

 

画面を切って、フィールを抱き上げた。

 

俺「明日、少し一人でこの部屋で待てる?」

 

“一人”というワードに怯えたかのように反応するフィール。

 

俺「大丈夫。ほんの少しだけ。すぐ戻るから。」

 

「俺も本当は一人にしたくないよ?けど、俺たちと一緒に旅してくれる新しい仲間のためだから、我慢してくれないか?」

 

フィールは渋い顔で頷いた。

 

俺はありがとうと言ってフィールを横にそっと置く。

 

彼女を一人にしないと誓ったが、バトルができないフィールと俺を守ってくれる子を探しに行くためなら仕方がない。

 

捕まえるつもりのポケモンがフィールのことをどう思うか心配だが…何とかするのが俺の役目。

 

俺はフィールを抱えて眠った。

 

最早吸血鬼かなんて気にせず、ただ可愛がっていた。

*****

夜が明け、朝食を済ませてしばらくすると、博士が迎えに来てくれた。

 

悲しそうな顔をするフィールの頭を撫でてから、部屋を出た。

 

ブロード博士「体は…どうだい?」

 

俺「怖いくらいに、何もありません。傷も消えてしまって…。」

 

ブロード博士「何日も大丈夫だから何もないのは確かだね。」

 

「まあ、これが知れたら上の人たちにかなり怒られるんだけどね…。」

 

博士は暗い顔で言った。

 

俺「そ、それは…やっぱり危険ですよね…。」

 

ブロード博士「いいや、いいんだ。彼らも吸血鬼に対して早急に、かつ大きな進歩を求めている。」

 

「賭け事をして大きな資産を生み出すのと同じ。多少の危険を顧みず何かを成し遂げなければ、大きな進歩なんてそうすぐには手に入らないさ。」

 

「大きな進歩を望むのもまた、彼らだからね。君の旅は悪いけど、最後まで見守らせてもらうさ。」

 

博士と俺はポケモンが大勢収納されている施設まで来た。

 

ブロード博士「それで、いいポケモンは見つかったのかい?」

 

俺「はい。分かってくれるといいんですけど…。」

 

俺は中に入って、当たりを見回して探す。

 

(確か…この辺りにニンフィアが…。)

 

見つけた。池近くでウパーと話している。

 

俺「博士。あの子です。ニンフィア。」

 

ブロード博士「あの子か…確か、カロス地方から連れてきた子だ。」

 

俺「とても面倒見がよくて、いい子だね。」

 

「あの子なら…フィールのことも理解してくれるでしょうか…。」

 

ブロード博士「それは…君次第じゃないかな。」

 

俺は一歩進み出た。

 

ニンフィアはこちらを向いた。

 

ウパーたちは池に潜っていなくなってしまった。

 

俺「こんにちは。俺はレイだ。」

 

ニンフィアは大きな目でこっちを見たままだ。

 

「俺と一緒に旅をしてほしくて、君に会いに来た。」

 

「お願いだ!どうか俺と友達になってくれ!」

 

ニンフィアは躊躇なく俺に向かって走ってきた。

 

やっぱり伝わらなくて、突進しに向かってきた───と思った矢先。

 

ニンフィアはリボンを俺の身体に巻き付けてきた。

 

俺「な、なんだ?」

 

手首やら顔やら、足やらをぐるぐる巻かれた。

 

強くはなく、寧ろ優しい巻き方。

 

俺はしばらく待っていると、ニンフィアはリボンを解いた。

 

そして…俺に向かってにっこり笑った。

 

ブロード博士「よかったね、仲間になってくれて。」

 

俺「はい…途中、突進されるのかと思いましたよ…。」

 

ブロード博士「ニンフィアは、リボンを体に巻き付けて感情を読み取ったりするからね。きっと君の切実なオーラが伝わったんじゃないかな。」

 

俺「ならよかったです…。でも、問題はここからなんですよね。」

 

ブロード博士「ああ。とりあえず、グレイシアと合わせる前にニンフィアと向き合って話してあげた方がいい。」

 

俺はニンフィアをモンスターボールで捕まえた。

 

ボタンが赤く光り、3回揺れた後に、止まった。

 

ブロード博士「君のポケモンなのだから、話を聞いてくれるはずだ。」

 

ニンフィアが優しい性格だとはいえ、突然吸血鬼に会わせたら驚く以上に、暴れてしまうかもしれない。

 

ここは、ニンフィアに分かってもらえるよう、ちゃんと説明すべきだ。

 

俺「出ておいで、ニンフィア。」

 

俺はモンスターボールからニンフィアを出した。

 

ニンフィアは俺を見ると、またにっこり笑った。

 

しゃがんで目線を合わせる。

 

俺「ニンフィア…旅をするとは言ったけど…その…普通じゃないんだ。」

 

ニンフィア「普通…じゃない?」

 

俺はニンフィアの声を聴けて嬉しかったが、話は切らない。

 

俺「吸血鬼…なのかどうか、はっきりしていないグレイシアがいるんだ。襲ったりはしない。でもポケモンではないのは事実で…その子が何なのか、吸血鬼とどういう関係にあるのか、旅をして成長することで確かめたいんだ。」

 

「グレイシアのことは俺が面倒を見るし、君に迷惑は極力かけないようにはする!でも君にはその…友達として一緒に旅をしたいと思ってる。」

 

「…君の意思を尊重するよ。不安に思ったり、どうしても嫌だというのなら断ってくれて構わない。」

 

俺は不安げに彼女を見た。

 

「…どうかな?」

 

ニンフィアはキョトンとした目で俺を見つめていた。

 

ニンフィア「その子がどんな子か、会ってみたいな♪」

 

それもそのはず。会ったこともない子の情報と状況だけ聞かされても、決断できないのが当たり前だ。

 

俺「そ、そうだね。案内するよ。」

 

ニンフィア「うん♪」

*****

ニンフィアは上機嫌な足取りで俺の後ろをついてくる。

 

俺と博士は若干の不安を残しつつ、俺の部屋まで戻ることにした。

 

ポケモンと人は、本来言葉が通じず、遥か昔から共存してきたとはいえ、衝突することもあった。

 

人間がポケモンを金儲けの道具にしたり、住処に入り込んだ人間をポケモンたちが追い払って通行できなくしたりと、お互いマイナスの影響が存在しているのは事実だ。

 

だが、ここ10数年で吸血鬼という存在が拡大したこともあり、より一層ポケモンと人間の関わりが深くなった…のかもしれない。

 

少なくとも、「モンスターボールで捕まえたポケモンはそのトレーナーと意思疎通ができるようになる」というのは、明確な仲の深まりであった。

 

もちろん、それはモンスターボールの精度の向上でもあり、吸血鬼という脅威によって、人間・ポケモン共に感じた本能的な危機感が、かつて不可能であったことを可能にしたのだろうが、原因は推測にしか及ばない。

 

ただある事実は、自分のポケモンとだけなら言葉を交わすことができるということ。

 

それはポケモンと人間の関係をよりよくするもの…であってほしいが、野生のポケモンや伝説のポケモンとはコミュニケーションをとることは以前不可能のままだ。

 

とりあえず、人間とポケモンは協力して謎多き吸血鬼を何とかすることを優先したいようだ。

 

扉を開け、ニンフィアを俺の後ろへと回してから俺はフィールを呼んだ。

 

すぐに俺のもとへとやってきて、後ろのニンフィアを不思議な目で見る。

 

俺「これからの旅で一緒に来てくれるニンフィアだよ。名前は…ティナにしようと思ってる。」

 

昨日の夜から考えていた名前だったが、あまり自信がなく、ニンフィアに尋ねた。

 

俺「…どうかな?」

 

ティナ(ニンフィア)「うん!私は気に入ったよ♪」

 

ティナはご機嫌だ。

 

俺「この子がさっきも言ったグレイシアのフィール。一応、旅をするときにフィールに戦わせるわけにはいかないから…俺たちの旅を手伝ってほしいんだ。」

 

「無理な話だとは思うけど…

 

ティナ「いいよ!なんだか楽しそうだし!よろしくねご主人!」

 

俺が回りくどく申し訳ないという意を含んだ言葉を聞く前に、ティナは答えた。

 

流石は争いごとを収めるだけあって、聞き分けの良い子だった。

 

フィールもティナが悪いニンフィアでないと分かり、安心している様子だ。

 

ティナがフィールと仲良くしている間に荷物の準備が終わり、玄関へと向かう。

 

そこには全研究員が旅立ちを祝うために集まっていた。

 

もちろん、あまり気に食わない者もいただろうが…。

 

ブロード博士「気を付けてね。何かあったらすぐに連絡してくれ。」

 

俺「分かりました。」

 

ブロード博士「不安はあるかい?」

 

俺「ないといえば…嘘になります。」

 

心配する気持ちを話すと、博士は励ましてくれた。

 

ブロード博士「大丈夫。君にはフィールやティナだけじゃなく、これから仲間になるポケモンだっている。」

 

「それに…君の立場に立った者など今までいないんだ。吸血鬼の研究を手伝うために、旅をするなんていう経験、古今東西探しても見つからない。」

 

「だから…不安も当たり前。失敗も当たり前だ。何より、君が満足するように動けばいいさ。」

 

「それが明日へと導いてくれるはず。」

 

博士は丸眼鏡を通して俺の瞳を真っ直ぐ見た。

 

ブロード博士「じゃあ、無事を祈ってるよ。ここでいつまでも待ってるから。」

 

俺「はい。行ってきます!」

 

こうして俺の…いや、俺たちの特殊な旅が始まった。




お読みいただきありがとうございました。
筆者の私生活の都合により、一時投稿が遅れたことをお詫び申し上げます。
スローペースではありますが、これからも頑張る所存でございます。
次回もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。