ヒフミちゃんアーカイブ   作:煮豆

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PCの壁紙を補習授業部のイラストにしたら愛が抑えきれなくなったので投稿します。

ヒフミちゃんが大人気になることで期間限定ヒフミちゃんが増えていつの日かパジャマヒフミちゃんが実装されることを願って…。


ヒフアズお泊り会(1/2)

「ふぁぁ……ぽかぽかですー……」

 

 お風呂から上がったヒフミは、未だ残る心地良い温もりに幸せな声を上げながら脱衣所を出た。

 自室に戻ってくると、少々だらしないことは自覚しつつ、その魅力に抗えずベッドに身を投げる。

 

 ゴロンと寝転がって天井を見上げると、その気持ち良さから、はふぅ、と吐息を漏らす。

 お風呂上がり特有の脱力感もあり、いつまでもこうしていたい衝動に駆られてしまう。

 

 フカフカなお布団が眠気を誘い、徐々に瞼が下がってきてしまっていたが……途中でハッとして、ブンブン首を横に振って眠気を払った。

 寝転がっているのは掛け布団の上だし、このまま寝てしまったら風邪を引いてしまう。電気だってつけっぱなしだ。

 それに、まだ眠るには少し早い時間帯だった。

 

 脱力感に身を任せゴロゴロしている時間は非常に心地良かったけれど、このまま横になっていたら気づかないうちに意識が飛んでしまいそうだ。

 そう判断したヒフミは、少々後ろ髪を引かれる感覚を覚えながらも上半身を起こした。

 

 けれどふかふかへの魅力はとても抗いたいもので……お布団の代わりとばかりに、ヒフミは枕の横に置いていたペロロのぬいぐるみを手に取った。

 ギュッと両手で抱えると、中に詰まった綿がギュムッと柔らかな弾力で押し返してきて、ヒフミは締まらない笑みで何度もギュムギュムとぬいぐるみを抱きしめた。

 

「えへへ、ペロロ様~♪」

 

 寝ないようにベッドから起き上がったはずなのに、ぬいぐるみの温もりで再び眠気に苛まれていると、ふと、枕の近くに置いていた端末の通知ランプが点滅していることにヒフミは気がついた。

 片手でぬいぐるみを抱えながら、ぐっと手を伸ばし、端末の画面を明かりをつける。

 どうやらモモトークでアズサから連絡が来ていたようだ。

 

『ヒフミ。今、部屋にいる?』

 

 最低限の文章で構成された簡素かつ簡潔なメッセージは、実にアズサらしい。

 時間を見ると三〇分前と表示されていたので、ヒフミは急いで返事を打ち込んだ。

 

『ごめんなさい、返信ちょっと遅れちゃいました! 寮の自分の部屋にいますよ。ちょうどお風呂から上がったところです!』

 

 既読はすぐについた。一拍置いて、返事も送られてくる。

 

『……その、ちょっとお願いしたいことがあって』

『お願いですか?』

 

 どこか言いにくそうに口ごもるようなメッセージに、ヒフミは現実でもペロロのぬいぐるみを抱えながら首を傾げた。

 

『今日一日だけでいいから、ヒフミの部屋に泊めてほしいの』

 

 今度は目をパチパチと瞬かせる。その後すぐに続けて『もちろん、無理にとは言わない』と遠慮気味に送られてきて、ヒフミはくすりと笑みをこぼした。

 

『もちろんいいですよ! いつ頃こちらにつきそうですか?』

『…………実は、もうヒフミの部屋の前にいる』

 

 え。と思わず声を漏らしながら、ヒフミはぬいぐるみを置いて慌てて玄関に向かった。

 覗き穴から外を覗くと確かに、見知った銀髪の少女が扉の向こうに立っている。

 

「あ、アズサちゃん?」

 

 急いで解錠して扉を開くと、アズサは少し気まずそうにヒフミを見上げてくる。

 その風貌は、なんというか迷子の子犬と重なるようで、くぅーん、という鳴き声がどこからともなく聞こえてきそうな光景だった。

 

「……こんばんは。ヒフミ」

「は、はい。こんばんは……えっと……アズサちゃん、いつからここに……?」

 

 アズサは正直に答えるべきかどうか迷うように逡巡した後、諦めたようにポツリと漏らす。

 

「十五分くらい前かな」

「そ、そんな前からですか? 来てたなら、チャイムを押してくれてもよかったんですよ……? あ、お風呂に入っていたのですぐには出られなかったかもしれませんが……」

「モモトークならともかく、直接尋ねてまで泊まっていいか聞くのは、ダメだった時にヒフミが気にすると思って……」

「私のことを考えてくれたのは嬉しいですが、一番大事なのはアズサちゃん自身のことです! ……あ。ご、ごめんなさい、急に偉そうなことを言って……と、とりあえず、体が冷えちゃいますから中に入ってください」

「うん。ごめ……ううん。ありがとう、ヒフミ」

 

 普段よりちょっとだけしおらしい雰囲気のアズサを招き入れて、ヒフミは再び扉に鍵をかけた。

 アズサを自分の部屋に案内して、休むように言いつける。

 

「飲み物を淹れますが、紅茶とコーヒー、どちらが良いですか?」

「ん……砂糖はある?」

「ありますよ! 角砂糖がいっぱい!」

「じゃあコーヒーで。あと、角砂糖が二つくらい欲しいかな」

「わかりました! ちょっと待っててくださいね」

 

 キッチンに移動すると、電気ケトルに水を入れて電源を入れる。

 その後はコップを二つ用意して、自分用には紅茶の、アズサ用にコーヒーの粉末を投入し、電気ケトルが音を鳴らしたら、沸いたお湯をそれぞれに注いだ。

 

 キヴォトスの生徒たちは皆、頑丈ではあるが、痛いものは痛いし熱いものは熱い。

 熱そうに湯気を出すコップをこぼしてしまったら大変なことになってしまうので、ヒフミは普段のおっちょこちょいを発動してしまわないよう、慎重に自分の部屋に運んだ。

 

「淹れてきましたよー」

 

 少し前にヒフミが部屋を出ていく時、確かアズサはミニテーブルの前にちょこんと腰を下ろしていたはずだった。

 けれど戻ってきた際に同じ場所にアズサの姿がなく、不思議に思ったヒフミは、何気なく部屋を見渡すように視線を動かしていく。

 

 すると、ベッドの上に座ってギュ~~とペロロのぬいぐるみを抱きしめ、幸せそうに口元を緩めていたアズサと目が合って、二人の間に奇妙な静寂が流れた。

 

「……」

「……~~っ!?」

 

 ヒフミより一瞬早くハッと正気を取り戻したアズサは、シュバババッ! と目にも留まらぬ速度でペロロのぬいぐるみを横に置くと、何事もなかったかのように明後日の方向に視線をそらした。

 しかしながらその頬と耳はタコもかくやというほど真っ赤に染まってしまっており、つい終瞬前の出来事をなかったことにするには、いささか証拠が残りすぎていた。

 

 ……残りすぎていたというか、ヒフミは現行犯を目撃してしまったのだけれど。

 

「そのペロロ様のぬいぐるみ、モフモフで気持ちいいですよね」

 

 コップと角砂糖が乗ったトレイをミニテーブルに置きながらヒフミが言うと、アズサは答えづらそうに口を開いたり閉じたりした。

 

「……いや……その……」

「あ、特に羽根のところがすっごく気持ちいいんですよ! とってもふかふかで……せっかくですし、アズサちゃんも触ってみてください!」

「えっ、あ、いや……わ、私は……」

 

 ペロロのこととなると止まらないのがヒフミである。

 なにせヒフミのペロロ好きは、ペロロのゲリラ公演に参加するために試験をサボタージュしてしまうほどなのだ。

 いや、まあ、試験をすっぽかしてしまったのは覚えていた試験の日程が誤っていたからで、意図してサボったわけではないのだが……試験をサボタージュしたのは事実だし、覚えていた日程が合っていようと、試験日でなければ普通に授業をすっぽかしていただろうことも疑いようはない。

 弁明の余地はなかった。

 

 そんなヒフミはアズサの消極的な反応は意に介さず、ベッドに腰をかけているアズサの横に座ると早速とばかりにペロロのぬいぐるみを再び手渡して、羽根の部分を触ってみるように促した。

 アズサは非常に戸惑っていたが、恐る恐ると言った具合にフニフニと羽根に触れる。

 すると普段は少々冷たい印象を与えがちなその瞳が、感心と恍惚で揺れた。

 

「や、柔らかい……」

「そうでしょうっ? 抱き枕としても使えますし、私のお気に入りのペロロ様グッズの一つなんです! あ、もちろんペロロ様のグッズはどれも全部大好きなんですけどね」

「……ふふ」

 

 自慢気にぬいぐるみの良さを力説するヒフミを見ていると羞恥心も薄れてきたのか、アズサは再びペロロ様のぬいぐるみをモフモフとし始めた。

 普段固めなアズサの表情が年相応に緩んでいる光景は少しばかり新鮮で、なんだかヒフミまで嬉しい気分になってくる。

 

 ぬいぐるみを堪能するアズサを、ヒフミは横でしばらくニコニコと眺めていた。

 

「ありがとう、ヒフミ。うん、少し元気が出た」

「えへへ、力になれたのならよかったです!」

 

 心なしか覇気がなかったアズサのことがちょっとだけ気にかかっていたが、彼女がそう言って気恥ずかしそうにしながらも微笑んでくれると、なんだかヒフミも救われるようだった。

 

 せっかく淹れてきた飲み物が冷めるともったいないので、一旦ペロロ様のぬいぐるみはベッドの脇に置いて、二人でミニテーブルの方に座り直す。

 角砂糖を入れ、フゥフゥと吐息で中身を冷ましながらコップを口につけるアズサに、ヒフミは少し申しわけなさそうに頬をかいた。

 

「インスタントでごめんなさい。お口に合いますか?」

「うん、平気。そういったこだわりはないし、ちゃんと美味しいよ。それに……このコップ、可愛いね」

「あ、わかりますかっ? アズサちゃんに渡したコップにはモモフレンズのウェーブキャットさんの模様が入ってるんです! そして、私のはペロロ様です!」

 

 ペロロやウェーブキャットは、同じモモフレンズというシリーズのキャラクターだ。

 そしてこの二人には唯一無二の親友だという設定がある。

 実は他にもモモフレンズシリーズのキャラクターが描かれたコップはあるのだが、アズサのそれにウェーブキャットをチョイスしたのはヒフミの無意識だった。

 自分が使うペロロ様のコップのすぐ近くにあったかもしれないし、もっと別の気持ちがあったのかもしれない。

 

「それで……アズサちゃん、急に泊まりたいという話でしたけど、なにかあったんですか?」

「……」

「あ、その……話したくないなら話さなくてもいいですから」

「ううん、大したことじゃないから大丈夫。ヒフミにはお世話になるんだし、ちゃんと話す」

 

 コップをミニテーブルの上に置いて、アズサが話をする態勢に入る。

 自然とヒフミも姿勢を正していた。

 

「……実は……」

「は、はい……実は……?」

「……部屋を、誤って爆発させてしまったんだ」

「…………はい?」

「だ、だから……部屋を誤って爆発させてしまって……」

「……え……っと……ど、どうしてそんなことに……?」

 

 アズサは初めこそヒフミの目を見ていたが、段々と視線を外し、再び頬を紅潮させていく。

 なかったことにしたい過去を話すようなアズサの様子に、「き、聞いてもいいんでしょうか?」とちょっとだけ躊躇しつつも、聞かなければ始まらないので最終的には問いを投げる。

 

 アズサは口をもごもごしながら事情を話してくれた。

 

「いつものように武装の点検をしていて……その中に手榴弾もあったの。それを誤って爆発させてしまって、他の爆発物も連鎖的に……」

「え!? ア、アズサちゃんは大丈夫だったんですかっ!? どこか怪我とかは……!」

「あ、私は大丈夫。爆発する寸前でギリギリ外に退避したから。でも部屋はベッドも含めて悲惨なことになってて……他の生徒たちも騒ぎを聞きつけて集まってきて、寮長にも怒られたし……」

「そ、そうでしたか。良かった、とは言えないかもしれませんが……アズサちゃんが無事なら、やっぱり良かったです。でも……手榴弾を誤って爆発させることなんてそうそうないと思うのですが、なにかあったんですか? どこか不備とか……」

 

 手榴弾は一般的にピンを抜いたらすぐに爆発するイメージがあるが、正確には少し違う。

 安全ピンの他に安全レバーが存在し、ピンはその安全レバーを握っている状態でなければ抜けない構造になっている。そしてピンを抜いてしまった場合でも、レバーを握っている限りは爆発せず、抜いてしまったピンを戻しても問題なく機能するようになっているのだ。

 レバーを握り込んだ状態でピンを外した後、レバーから手を離す。そうして初めて撃鉄が信管を叩き、手榴弾は爆発へのカウントダウンを始める。

 

 つまるところ適切な管理さえしていれば、意図的に爆発させようとしない限り、暴発なんてことはそうそう起きないはずなのだ。

 

「……それは、その……」

 

 アズサにはなにか暴発の心当たりがあるのか、ヒフミの純粋な疑問の視線を受けて、またなにか言いづらそうに口ごもっていた。

 しかしいつまでも黙っていても埒が明かない判断したらしく、意を決した様子でアズサは顔を上げた。

 

「……点検の最中、窓の外で物音がしたんだ。それで驚いてしまって……普段なら銃を向けるんだけど、ちょうど持っていたのが手榴弾だったから、反射でピンを外してしまって……」

「えぇ……」

「すぐにしまったと思ったけど、その時にはもう投げる直前で、レバーから手を離すところまでいってしまってて……窓の外に誰かいるかもしれなかった以上、そのまま外に投げるわけにもいかなかったし……くっ。不覚だった……数々の訓練を積んできた私が、まさかあんな間抜けで初歩的なミスを犯すなんて……」

 

 アズサは心底恥じるように唇を噛んでプルプルと震え、拳を握りしめている。

 やけに落ち込んでいたのは、自分の部屋が爆発してしまったこともあるが、それを引き起こしてしまった自分の未熟を痛感していたからということもあったようだ。

 

 ちなみに外から聞こえた物音の原因は、ちょうど部屋の外の手すりに鳥がとまっただけだったらしい。

 アズサは突然の事態や驚愕に晒されると咄嗟に武器を向けてしまう癖があるので、今回はそれが悪い方向に作用してしまった形と言えるだろう。

 警戒心が高いことは時にメリットにはなるが、高すぎるのも問題ということだ。

 

 予想だにしなかった泊まりたい理由にヒフミは苦笑してしまいつつも、アズサを安心させるように少し大げさにコクリと頷いてみせた。

 

「あはは……わかりました。そういうことなら、是非自分の家みたいにくつろいでくれていいですからね」

「……ありがとう。この恩はいつか必ず返す」

「えへへ。恩だなんて、そんなの気にしなくたっていいんですよ。私とアズサちゃんは友達ですし、お泊り会なんて合宿以来ですしっ。部屋が爆発しちゃったアズサちゃんにはちょっと悪いですけど、実はちょっと楽しくなってきちゃってるんです……!」

「……ふふ。うん、そう言ってもらえると嬉しい。やっぱり、ヒフミにお願いしてよかった。ヒフミといると、不思議と元気が出る」

 

 アズサが頼る候補には他に、ハナコやコハルと言った面々がいたはずだ。

 それでもその中から真っ先にヒフミを選んだのは、少なからずアズサがヒフミに懐いている証左でもあった。

 

 ヒフミもそれを感じて、照れくさそうに頬をかいて微笑む。

 そんなこんなで、急遽二人きりのお泊り会が開催される運びとなったのだった。

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