秘密の共有。それは人間関係においてとても強い結束力を生む。学園のマドンナのあの子が実は粗暴な性格。地味なあの子が実は今人気の美少女アイドル。など、美女と2人だけの秘密など、男子にとっては一度は夢見る物だ。もちろん、それは青春真っ只中の俺にも当てはまることで、そんな甘美な体験を一度でいいからしてみたいと常々思っていた。
そう、思っていたんだ。
「あなた、同じクラスの……えっと…金崎くん…だっけ?」
人型の黒い化物の首を撥ねた彼女は、化物の首から噴出する血が雨のように降り注ぐ中そう言った。
「誤算だわ。まさか一般人に、しかもよりにもよってクラスメイトに目撃されるなんてね」
化け物の血で汚れた身の丈以上の長刀を持つ彼女。
黒い化け物に、先程彼女が見せた人間離れした身体能力。胴体と頭が別れた黒い化け物。全てが異常な光景。血生臭い匂いが鼻をつき、脳が現状を処理しきれず激しく混乱する。俺はまともに立ってられなくなり、やがて意識を手放した。
なんてことは、一切なく。
「あまたこれかぁ…」
俺の口からは酷くこざっぱりした言葉が出ていた。
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初まり……も既に掠れ始めてはいるが、やはり初めての衝撃というものはあったので覚えてはいる。
えっと……どれだっけな…。俺は学校用の鞄をガサゴソと漁る。大抵の生徒は教科書などの荷物は学校の鍵付きロッカーに入れてるし、鞄などスカスカもいいところなのだが、俺のそれは他と比べて明らかにパンパンに膨れ上がっていた。友達に毎日教科書を持って帰っていると誤魔化すのも大変だ。おかげで俺はキャラでもない真面目な印象を持たれるにも関わらず学力がそこまで比例していない容量悪い人間に見られている。
話がそれた。それで初まりの話だったか。
よし、あったあった。鞄の下の方から取り出したそれは1つの腕輪。いやブレスレットと言った方が伝わるだろうか。何やら銀色の金属で作られており、表面には一周するように何やらよくわからん言語が書いてある。
これが何かって?
はい。これはクローズ・ギアです。
なんじゃそら。
いや俺もよくはわかっていないのだが、どうやら世界に散った500個のオーパーツのうちの一つらしい。古代に存在した不思議な力を持つオカルトクリスタル。通称ギアクリスタルはまだ人が種として存在する前に1つの大きな鉱物として存在した。しかし地球を破った巨大隕石によりギアクリスタルも木っ端微塵となった。およそ500個に砕かれたギアクリスタルは世界に点在し、時を渡り様々な経路を辿って色々な道具の加工に使われた。
そう、そのギアクリスタルが練り込まれた道具こそ、このクローズ・ギアである。ギアクリスタルは加工されて尚も不思議な力を宿していた。クローズ・ギアの適合者は不思議な力と常軌を逸した身体能力を手にする。そんな物騒なものがあったらもちろん悪事転用する輩がいるもんで。そしたらそれを律する組織も出来るわけで。俺は一応はその組織の一員ということになっている。
と、また急に話が飛んで謎に俺が組織の一員となっているわけだが、もちろん初まりの話ならその経緯もちゃんと説明する。
その時の俺はまだ非日常に憧れる普通の男子高校生だった。日常に退屈はせず、けれど満足感もない。行動も起こさず刺激的な日が来ないかなぁなんて思ってた。その日もそんな感じのことを考えながら夜のコンビニに散歩がてら向かったんだと思う。適当な飲み物と漫画雑誌を買って、磯の匂いのする風が吹く中帰っていた。そんな時だった。
「痛っ」
「うあっと」
曲がり角に差し掛かった時、俺は突如襲ってきた衝撃に尻餅をついた。目を開くとそこには綺麗な白髪を宿した美女が俺と同じく尻餅をついていた。
「嘘っ!人!?人払いの結界が作用していない…?」
美女は大変困惑した様子で何やら早口で呟いている。大丈夫だろうか。もしかして尻ではなく頭を打ったんだろうか。
「あの…大丈夫で」「ごめんなさい急いでいるの!今度お詫びはさせてもらうわ!」
いや今度っていつだよ…。なんて突っ込みを入れる間も無く美女はそそくさとその場を去っていった。
「なんだったんだ…?」
アジア系の顔ではなかったな。いやしかし白髪の人種なんていただろうか…。染めてるのか?
なんて考えながらズボンをはたき、俺もその場をさろうとした。がその時、
「ん?」
先ほど美女が尻餅をついていたそこに何かが落ちている。
「なんじゃこりゃ。木箱…?」
古びた木に読めない字でなにやら彫られている。サイズ的に中には万年筆やら時計やらが入っていそうだった。さてどうしたものか。
「人のもの勝手に物色するってのもなぁ」
箱を開けるのはやめとこう。まあ無難に言ったら警察なのだが、交番まで少し遠いな。
「今なら追いつけるかな?」
行った方向は一応わかるが果たして見つかるだろうか。交番まで行かずに、なんならもっと面倒そうな道を選んだのは、やはり俺が刺激的な何かを求めていたからだろう。
俺はあてもなく先程の美女を探すために走り出した。いつもより数段速く走れている気がした。
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暫く散策したあたりで俺は遠くから何やら破裂音のようなものがするのを聞いた。あっちの方向は…海辺の廃工場?何か事故でもあったのだろうか。別に変なギャラリー精神は持ち合わせていない。いや、人並みくらいはもしかしたら持っているが、そういう人種にはなりたくないと思っている。
しかし、その時は何やらそちらに引き寄せられた。第一優先はあの美女なのに、不思議とあの工場に行けばいいと感じた。身体は素直にその方向に足を踏み出していた。
運命が決まったのはきっとその時だ。
工場に近づくにつれ音は大きく連続して聞こえた。ここまでくれば俺も馬鹿ではない。明らかに異常なのはすぐに察知できた。しかし足はそちらに向かう。不思議と恐怖はなく、好奇心の独壇場だった。
そしてとうとう音の発生源につき、その光景を目にした。
「貴方さっきの!?どうしてここに!」
「なんだあ?新手か?」
眼前にはさっきの美女と何やら厳つい大柄の男が向き合っていた。一見するとただのそれだけだが、没落した地面や、拳のめり込んだ
跡がある鉄筋が状況の異常性を物語っていた。
「あ…いや…。えっと、お姉さんさっきこれ落としたかなって」
状況は全くわからなかったが、とりあえず目的を果たそうと思い、先ほどの木箱を取り出した。が、その瞬間だった。
「貴方それはっ!」
美女が驚きの声を上げたと同時に、俺の眼前には大柄な男が拳を振り上げ迫っていた。明らかに常識を超えた速度。こんなスピードで殴られたらただではすまない。いや、下手をすれば死ねる。迫る死を前に、俺は目を閉じることしかできなかった。
「っ!?」
が、そんな俺を襲ったのはパンチとは別の衝撃。体を押される感覚と一瞬の浮遊感。次いで鳴る破裂音。驚きで目を開けた俺の目に飛び込んできたのは、美女が俺を突き飛ばし、大柄な男から距離をとっている光景だった。
「に…げなさい…。このままここにいたら確実に殺されるわよ」
俺と共に倒れながら、美女は弱々しくそう言った。俺を、助けてくれたのか…。
「明らかな一般人。適合者でもねえやつが何故それを持っているか謎だが、まあ大方その女に託されたんだろう。まさか一般人に持たせるとは考えもつかなかったが、本人が持って来てくれるとはなぁ…。相当な間抜けらしい」
大柄な男は喋りながらも美女へと歩みを進めて行く。
「まずは女。目障りなお前からだ。ガキはお前を片付けた後でサクッと潰してやる」
男の顔が俺の方を向く。
「ああ、逃げてもいいぜ。身体が動かし足りねえんだ。軽い鬼ごっこだったら付き合ってやる」
男の圧に押され、俺は無意識に後退した。
男が座り込んだ美女の前に立つ。対して美女は動く気配がない。おかしい。何故動かないんだ。このままだと間違い無く殺される。
と、そんな思考に答えを出すように、俺の視線は美女の足へと向いた。
あれはっ…!
美女は足を負傷していた。先程俺を庇った時にやられたんだ。
「いい感じに鬱陶しかったぜお前」
男が腕を振り上げる。まずいまずいまずい!あれをくらえば確実に死だ。彼女が死ぬのは俺のせいだ。好奇心は猫をも殺す。俺が好奇心に負け彼女を追い、好奇心に負け危険な場所へ進んだ。全て軽率な俺の行動のせい。
その俺のせいで、彼女が死ぬのだ。
何か手はないか。彼女を救える手はっ。
「じゃあな」
男が拳を振り下ろした。美女は迫り来る拳を前にしても、その瞳から強い意志は消えない。男のパンチは一見しただけで恐ろしいパワーを秘めているのがわかった。あれが当たれば当然のように死ぬだろう。結局俺は何もできなかったのだ。
………まてよ。なんだ。何かがおかしい。何故俺はこんなにも"視えている"?恐ろしいスピードとパワーを持った拳。それを、何故こんなにも緩慢に感じるんだ?
これが走馬灯なのか。いや違うか。わからない。わからないが、視えているならどうにか出来るかも知れない。
俺と彼女の距離を考えれば当然間に合うはずもない。ただ、それが何もしない理由にはならなかった。
動け。動いてくれ!大丈夫!今日の俺はいつもより速く走れるはずだ!
ズガンッ!!!と廃工場を揺るがす打撃音が鳴った。男の拳はまるで隕石のようで、容易く地面にクレーターを作った………"だけだった"
「………あー?確かに捉えたと思ったんだけどな。ガキ、なんだその速度は」
「え……あなた…」
美女と男が驚嘆を孕んだ声を上げている。それもそのはず。かくいう俺も状況をまだ飲み込めていなかった。
無我夢中で飛び出した後、一歩踏み出したかと思えば、俺の世界は凄まじく加速した。緩慢な拳が美女へと届く寸前、俺は彼女を抱き抱え、男の背後に移動していた。
「ありえないわ…。適合者の速度を身体能力だけで上回るなんて…」
適合者が何かはわからないが、この大男がそうなのだろう。だとしたらその通りだ。俺は身体能力で言ったらかなり高いほうだが、先程の男の速度を上回れるわけなんてない。
「まさか…適合者かてめえ」
大男がここで初めて少しの動揺を見せた。だが、俺にそんなことを聞いても答えられるはずがない。何を聞かれてるかすらわからないのだから。
「物は試しだ。ガキ、さっきのがまぐれかどうか見せてみな」
大男が再度拳を振り上げる。が、先程と違い俺には微塵も焦りがなかった。男の拳が迫ってくるのを視認しながら、俺はバックステップを踏み距離を取る。男の拳は先ほどと変わらず地面にクレーターを作った。
「まさか本当に適合者…?だとしてもありえないわ。クローズ・ギアは身につけて初めて能力を発揮する。いくらあなたが適合者だとしても、身に付けもせずただ所持しているだけでここまで能力を発揮するなんて…。どれほどの適合率なの」
美女は驚きを通り越して呆然としているようだった。だから、俺に何を聞いてもわからないんだって。
「簡単な仕事だと思ったが、面倒くさくなってきやがったな。ガキ。お前を生かしとくと後々厄介そうだ。ここで確実に殺しておく」
瞬間、大男の持つ雰囲気が変わった。お遊びから本気で俺を殺す事にしたのだ。殺気なんて漫画の中だけだと思ったが、男から充満する死の気配がそれが殺気なのだと理解させる。
「あなた、早く距離を取って!」
美女に言われるまま俺は全速力で距離を取り、物陰に隠れた。
「大した速度だ。鬼ごっこの予定だったが隠れんぼも悪くない。さあ、どこに隠れたかな?」
大男は周囲の障害物を蹴散らしていく。ここも時間の問題だ。速度で上回れたとしてもそれじゃあジリ貧。見つかればジリジリと詰められて最後はやられるだろう。
「あなたがまさか適合者なんて、まぐれでも面白いものね。でも、もう一度言うわ。逃げなさい。貴方一人ならそれが出来る」
美女の脚は折れているのだろう。確かにこの速度ならここからすぐにとんずらすれば俺1人なら余裕で逃げ切れる。だが、
「何言ってんすか。俺のせいであんたがこうなったのに、どうして1人で逃げられますか。助けますよ。必ず」
「何言ってるの!巻き込んだのはもともと私!貴方に責任なんてっ」
とは言ったものの状況は変わらず手はない。どうするか、と思考を巡らせてみるが、時間はもうないらしい。
「後人が隠れそうなのはそこしかねえよなあ?」
男がこちらに目をつけた。ゆっくりその歩を進めてくる。俺は彼女を守る様に物陰から身体を出した。
「おお、観念したか」
先ほどより張り詰めた空気。喉が乾くが、ここから退く選択肢はない。
「……わかったわ。どうしてもその気ならいいわ。貴方、私と一緒に死んでくれる?」
「お安い御用さ」
いや、死ぬ気なんてないんだけど、必然的にそうなるよなぁ。
「なら、私も貴方にかけるわ。男の左脇腹を見てみなさい」
左脇腹を見た。が特に何もなかった。右脇腹を見る。と、そこには水色のナイフが刺さっていた。俺からして左じゃなくて、男からしての左だったらしい。どうやら彼女は人の目線に立って物事を言えるタイプの様だ。美徳。
「あそこには私のギアが刺さってる。私の膂力じゃ男に致命傷は与えられなかったけど、あそこは確実に今の男の弱点となり得る」
なるほど。なるほどねえ。つまり?
「あいつの固有能力は硬質化。銃弾でさえ奴は傷ひとつつかない。けど、その能力が裏目に出て刺さったナイフを抜くことができない。そこをつくのよ」
あのナイフを押し込んでやればいいと言うわけか。なんて無理ゲー。
「おしゃべりは終わったか?」
時間切れだ。とうとう大男はこちらに攻撃を仕掛けてくる。っておい、さっきより数段速いぞ。てことは威力も増してる。回避はできるがそれだと後ろの障害物ごと美女が吹っ飛ばされてしまう。
やるしかない。
大男の拳をなんとか避け、左脇腹のナイフに回し蹴りを放った。
お、重い…。なんて重さと硬さだ。蹴った足がみしりと悲鳴を上げる。
「う、らああああああ!」
より一層踏ん張りをきかせ、男を蹴り押す。
「ぐっ」
男は2メートルほど吹っ飛ばされたが、綺麗に両足で着地した。ナイフは先程より少し減り込んだ程度だ。
「おいおい。車が全速力で突進してきたって微動だにしねえ俺の身体をよお。ガキ、お前マジか」
鼻くそほどもきいてないくせにそいつはどうもよ。ただ、今のでわかった。状況は変わらず絶望的ってことだ。
「あんまりうろちょろされるのももう飽きた。次で終わらす」
男から異様な空気が立ち昇る。
「アドバンス」
そして、男がそう言うと、メキメキと音を立てながら大男が更に肥大化していく。ツノが生え、先程より鉱物っぽくなり、黒く変色したそいつは最早人間と呼ぶには化け物染みていた。
「もう、かけるしかない」
その様を見て美女が何か呟いた。
「木箱の中身を取り出して」
言われたままに木箱を開ける。そこには
「それは、クローズ・ギア」
銀色に光る腕輪が入っていた。
「それを身に付けなさい」
「それじゃあな」
男が突進してきた。急いで腕輪をつける。
その瞬間、頭にひとつの文字が浮かんだ。
お前なら、どうにか出来るんだな。
頼むぞ、お前の名は
「
____________
「
「ぐあ!」
青年がそう呟くのを、やや後方にて白髪の美女ーロゼッタは見ていた。
瞬間、青年を中心に恐ろしい風が吹き荒れた。それは、迫っていた大男を弾き飛ばすほどの威力だったが、ロゼッタの方に影響はなかった。
嵐と間違える様な風が止んだ後も、青年の周囲には風が逆巻いていた。
「だから……なんだっつうんだよ!!」
「……鈍いな」
大男の大砲の様な突進が青年に向けられる。だが、そこからはロゼッタには視認できなかった。
気付いたら青年の拳が大男の左脇腹に炸裂しており、大男は工場の壁を突き破り吹っ飛ばされた。
「嘘だ…。なんなんだてめえは!」
黒く肥大化した男の体が左脇腹を起点としてボロボロと崩れ始める。元の人の姿に戻った男のはナイフを身の深くまで抉り込ませていた。あれではもう助からない。
「ふう、なんとかなったな」
呆然とするロゼッタに対し、青年は夏休みの宿題でも終わらせたかの様な緊張感の無さだった。それとともに青年を渦巻いてた風も止む。完全に制御ができている。
信じられない。クローズ・ギアと契約もしてないのに、身に付けていなくてあの力の引き出し。身に付けた直後にあそこまでの制御。正に規格外。こんな素質、組織でも何人いるか…。
「お姉さん。大丈夫ですか。なんとかなるもんですね」
ロゼッタの動揺なんて知りもせず、青年は振り返って言った。
「あっ……貴方!私たちに協力してくれない!?」
相当動揺していたのだろう。ロゼッタは即そう切り出した。青年はポカンとしていた。
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と、まあ、こんな感じ。後はさっき説明した通り組織に連れてかれ、クローズ・ギアを悪用させないために日々奮闘中。白髪の美女、ロゼッタさんは後日俺のクラスへ転入してきた。年は俺の2歳上の筈だが、組織とやらはすごい融通が効くらしい。普通に誤魔化して転入してきた。
当時の俺は非日常を駆ける主人公みたいでそれはもうワクワクしたが、今はもう昔の話し。
何故かってそう。彼女だけではないのだ。
俺は、秘密の共有が多すぎる
・白髪美女ロゼッタちゃん
主人公とタッグの人。歳を2歳偽って同じクラスに転入してくる。よく主人公を駆り出す。クローズ・ギアはダガーの様な水色のナイフ。
○主人公の特性
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