Tender dreams in bear 作:あべんたどーる
「....はい、それでは授業を終わります。明日までにここからここまで、やっておくように。号令。」
あざーしたー
「やっと昼か...」
「撃沈してたんだから、気づいたら昼、の間違えじゃないの?」
そう言って近づいてきた彼女は、奥沢美咲、それ以上でもそれ以下でもない。
「うーん、なんの事だか」
「あ、そんな強がってるならノート見せません。頑張ってねー」
「うーん、それは勘弁してくれ、アネキ!」
「そんな威厳ないんだけどな...」
と苦笑する。
今日、木曜は、とんでもなく眠い日だ。つまらなくて、退屈で、ただ教科書の復唱して、プリント埋める作業が3時間連チャンで続くとか教育委員会のジジイ頭沸いてんだろ....
「心の声、ダダ漏れですよー」
「こりゃ失敬」
「まあ、お気持ち分かるよ...あ、やば、こころだ」
「みーさきー!お昼を食べましょう!」
そう言ってロンダート(何故かスカートはめくれない...)で教室に飛び込んで来たのは、花咲の超人、弦巻こころだ。あらゆる人に笑顔を届ける聖人だ。世の常識は通用しない...
「ってあら?美咲がいないわ?」
なので、逃げる事にしている。
「こころには非はないんだけどねー...」
それでも一緒に逃げてくれるのは、久々に昼を一緒に食べようと約束してたからだ。
中庭の隅に到着。
「こころにはメッセ送ったから、オッケーだよ」
「毎度サンキュ。最近はクラスで協力してくれるから頭が上がらないや....逃げ切ったら賞金くれないかな」
「黒服さん達に頼んであげよっか?」
「理想が秒で現実になりそうで怖いのでパスでおねがいしますわー」
「あははっ、わかるわかる」
こうして、何でもない、くだらない話をしている時が一番好きだ。
***
初めて話したのはグループ活動だった。もともと3人でやる予定が、1人風邪で休んでしまい、2人で行動することになった訳で...
「不運なんだか奇遇なんだかねー。ま、私と君なら、ちゃちゃっとできるでしょ、ね。」
どっか達観した感じの、適当な人だなというのが第一印象だった。
あまり人付き合い良くなさそうと思って最初はよそよそしく関わっていたが、流石に無言のままやるのも何かチームメイト?的にも気まずいなぁ、と思って、ある時、
「「そういえばさ」」
「「あっ、ごめ」」
「ぷっ...ふふっ」
「変なとこで息が合うというね」
「んで?○○、君?いや○○でいっか、は、どしたの?」
特に嫌そうな雰囲気もなく、話を振っては来たが...
「....忘れちゃったわ」
「ははっ、なにそれー。まあ、私も忘れたんだけど...」
そんな適当と適当がなかなかに合った訳で、その後も発表の時なんかに2人発言被ったりとか、別々に行ったはずなのに間違えた教室に2人偶然鉢合わせて、一緒に遅刻したり、と、周囲にも「よく分からないけど、なんか合うよね」的な雰囲気を醸し出していたのだった。
それからちょっとして、また別の、英語の授業で...
「あれ?○○のペアは?あっ、そうか奇数で余るのか...あー、良いペア候補いたじゃーん、なぁ奥沢ー?」
「はぇ?な、なんで私が?」
と、間の抜けた声で、先生に応対する。
「担任がお似合いだって漏らしてたぞ。」
と、おじさんに似合わぬウィンク。
「....先生、校長先生に、担任に減給するようにご通告お願いします」
「またまた〜冗談言わないの。はい、行く行くー」
とても嫌そうな態度で噛みつく奥沢に対しひらりとその先生はかわし、休みでペアのいない奥沢を自分の近くへ行くように促す。流石に高校生なので馬鹿みたいに、はやしはしないけど、ちょっとは茶化しが入るのがお約束。
「そんな嫌そうだと彼氏可哀想だぞ!」
どっかから飛んだその男子に、流石に面倒なので俺が絡もうとしたら、その前に奥沢は、
「いやいやいや、担任に怒ってるんだって!べつに!別に、○○は
好きっちゃ好きだからいいの!はい、終わり!しゃらーっぷ!」
...........^_^...........
凍りついた教室内を一番に溶かしたのは
「.......よーし、授業はここで終わりだ、終わり!後、皆はその教科書のチャプターを訳と英文で交互に確認!また終わる時に来ます!」
と、責任を放棄した先生だった。
そして目線を逡巡させて、俺の方を見て
「good luck!」とサムズアップをさりげなくかましてくる。そして退室。
「よーし、やろやろ!な、な?!」
気まずさ一色になったクラスでとりあえず盛り上げ役の男子が声をかけ、おうおうと何事もないかのように始める。
当の本人は、自分の前にスッと座り、
「さてさてー、どこだったけー?」
と、焦りは隠せない...ん?待て、焦りが隠せないというのは?と思い今一度証言の照らし合わせを。
「なあ、なあ、別に友達的なあれだろ?そんな気にしなくても
「そーう、そうそう!それが言いたかった!」
近くにいた市ヶ谷が
「焦ってるの隠せてねー...」
と苦笑していた。
こうして確実に、ナニかあるという事は自分でも理解できたが、そうしたら一日中全く生命活動ができないので、考えるのを止めた。
そうしてなんとか放課後まで切り抜けて、挨拶をする。ここまでなると、皆、もはや茶化すどころか関係の進展を望む眼差しを向けていた。それを分かっていたのは俺だけではないだろう。
そそくさと、奥沢は出て行った。
なんか、複雑な気分だった。そういう関係になりたいのかどうなのか、奥沢は、そして自分は。今日聞けなかったらこのままずっと話せなくなる。急にそんな気がして、そしてなにより、
「それはいや。うん。嫌だ。」
奥沢美咲も思いは同じだった。
携帯の通知音が鳴る。見てみると奥沢だった。
『なんか色々と、おつかれ、だね。とりあえず羽沢珈琲店、来れる?』
すこし間を置いて、
『いくわ。まってて』
とだけ返信した。
カラン、と音を立てて中に入る。
いらっしゃいませー、と店員が対応する。
「あ、待ってる人がいるんですけど」
「あ、美咲ちゃん、の?」
「そーうですね...」
知り合いがいるとはまたタイミングが悪い、と思ったが
「二階、貸し切りで用意してますから、ご、ごゆっくりどうぞ!」
と、ぎこちなく案内された。とりあえずこの恩は返さなければ。羽沢、さん、か、サンクス。
「あ、あはは...なんか大げさー。ごめんね」
日中の気まずさは取れていない。
「あ、ああ、別に。むしろありがとう、かな」
とりあえず、とお互いにアイスコーヒーを頼み、一息つく。もう正直頭が真っ白なんだけれど。
「えーと、話、してもいいかな?」
「大丈夫だ、問題ない。」
うっかりエルシャダイ。
「それだと、だめなパターンじゃん、ってそれはおいといて...あのね、さっきの、あれ、ね...
その後、あまり思い出せない。
ただ、後日羽沢つぐみの証言にて、付き合う事にして、奥沢改め美咲は随分と嬉しそうに、自分は恥ずかしさを少し隠しきれない感じで、一緒に歩いて出ていった、との事だ。
一つ覚えているのは、学校の皆には、とりあえず、友達として話つけておこう、という事だ。まあ、結果としてバレバレなんですがね。
***
「ーーーーい、○○?」
「ぉあ、ごめん、トリップしてた...」
「たまにそういう時あるよねー君。なに、出会った時の事でも振り返ってしみじみしてたんですかー?」
「...あながち間違えじゃないのがお恥ずかしいぜ...」
「........んなぁー、もう!そういうのは嘘でも付いてればいいのにー!」
まったく....、といって微笑む美咲が隣にいる。まだ、そんなに関係は深くはないが、そのうち、まあ、うん。
「なんでもいいけど、好きだから。そゆことで」
ちょんちょん指を触ってきながらそれとなく呟かれた。
「なんでもってなんだよ…」
少し指を引っ掛ける。
「なんでしょうね...」
手を重ねる。
「「まあ、
全部の指を絡める。
「「なんでもいっか。」」
恋人繋ぎって、やっぱり温かいなと、どうでもいい事が浮かんだけど、それはとても幸せだった。
徐々に密着度あげていきます