ポケモン世界の職業録   作:砂廣ジュン

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せいそういん ノモセジムでの戦い

『ジムリーダーマキシ対ジムトレーナーテツジの練習試合を始めます』

 

 スタジアムにアナウンスが流れる。

 最近ノモセジムに入門した新人と、ジムリーダーの練習試合。

 新参者の実力を図るために、スタジアムにはノモセジムのジムトレーナーたちが集っていた。

 

「確かフタチマルが相棒だったな」

「元はイッシュのトレーナー。こっちに武者修行に来たとか言っていたが」

「そりゃあ楽しみだ」

 

 ジムトレーナーたちは口では世間話をしていても、視界には必ず新人を入れている。

 どれだけの実力を見せてくれるのか。自分よりも強いのか。一挙一動から見定め、他地方の技を吸収する姿勢。

 純粋なトレーナー、求道者だからこそ、彼らはこの試合に大きな価値を見出している。

 彼らのような若人が未来を切り開くわけだから、ノモセの未来は明るいってもんだ。

 

「あれ、おばさん見ない顔だけど旅の人?」

 

 逆に、ポケモントレーナーでなければこの試合はどうでもいい試合さ。

 マキシマム仮面の試合が見たければジムチャレンジャーの試合を見れば良い。

 エキシビションマッチと称して、他のジムリーダーとの対戦が行われることもある。

 

 街の住民であればそちらを見に行く。

 こんな試合まで見に来るような大ファンなら顔を覚えている。

 だから旅のトレーナーだろうと結論づけたのだろうけど……

 

「あたしもジムの人間だよ。古参も古参、あのマキシマム仮面が着任する前から居るさ」

「こ、これは失礼を。あれ、でも……」

「しっ、始まるよ」

 

 なにか聞きたげな様子の若人を止める。

 あたしの正体よりバトルが大事。

 それに気がついたのか、慌ててフィールドに目を戻した。

 

「よぉーく来たッ!!」

 

 スタジアム中にビリビリと響く声。大きいだけじゃなくてぶっとい芯を感じさせるような音をしている。

 前のジムリーダーと比べても遜色ない圧。やっぱりジムリーダってのはこうじゃないとね。

 

「俺様こそがノモセシティジムリーダーでぇ、その名もマキシマム仮面! テツジよ、修業先としてこのジムを選んだことぉ! 絶対に後悔させん!」

「俺は強くなるためにここへ来ました。バトルも、体も、心も。ジムリーダーとしてもプロレスラーとしても戦い、ファイトマネーを街のために使う貴方の強さ。学ばせていただきます!」

「ぐはは! その心意気やよし! では始めようぞ!」

 

 互いにトレーナーサークルに入り、表情を引き締め、ボールを構える。

 どちらも顔面には戦意に満ち満ちた、戦う者の貌を浮かべている。長年バトルを見てきているが、あの貌ができる奴は例外なく強い。

 

『試合、開始ッ!』

「いくぞォ! ヌオー!」

「出てこい、フタチマル!」

 

 マキシマム仮面がボールから出したヌオーは重量系のポケモン。

 対するフタチマルは軽いフットワークで相手を翻弄するポケモンだ。

 戦闘スタイルが異なるみずポケモンの対面。

 

「まずはどうすると思うかい? 若いの」

「えっ、と、フタチマル側が優位に立っているスピードで翻弄しにいくんじゃ」

「バカ、近づいたらマキシさんのヌオーのパワーの餌食だ。ここはまずだな……」

 

 あたしの問いかけをよびみずにして、ワイワイガヤガヤと考察に熱を上げるジムトレーナーたち。

 こう言った会話も観戦の醍醐味さね。

 まあ、考察に結論が出る前に試合は動くんだけどさ。

 

「フタチマルっ!」

 

 トレーナーの声に反応して、フタチマルが()()()でホタチを振るう。

 その刃は"エアスラッシュ"。当たれば怯んでしまうような、鋭い空気の刃を飛ばす技。

 牽制にしては最良の選択肢だろうよ。

 

「なぁるほど。ヌオー! "10まんばりき"で突っ込めぃ!」

「え!?」

「ぬお!」

 

 フタチマルのトレーナー、テツジは想定に一切なかった展開に驚愕した表情を見せる。

 "エアスラッシュ"は目で見えはしないものの、発射の瞬間から軌道を読むことは比較的容易い技。

 当然避けると考えて、そこからゲームメイクをしようと考えていたのだろうが———

 

「マキシさんは避けねぇ。全部の攻撃を受けて、見てる人も戦ってる相手すらも楽しませるような戦いにしちまう。それがあの人のやり方さ」

 

 "エアスラッシュ"を受けながらも、ヌオーは地面に亀裂を生むほどの踏み込みで接近して、"10まんばりき"でフタチマルをステージの端まで吹き飛ばした。

 もう終わりかと思ったのも束の間。土煙の中からフタチマルが立ち上がる。

 

「いけるか?」

「マルっ!」

「よし、"れんぞくぎり"だ!」

 

 闘志をみなぎらせて復帰する様は見事の一言だね。

 すぐさま気持ちを切り替えて指示するテツジも歴戦のトレーナー。

 指示に従いフタチマルがヌオーに接近して、ホタチで一撃、二撃と"れんぞくぎり"を見舞う。

 

「"エアスラッシュ"に固執せずに、埋まった距離の分を"れんぞくぎり"で活用するのは賢い選択だね。ほら、ヌオーが"10まんばりき"を放とうにも、狙った瞬間にはフタチマルは別の場所、だ」

 

 "れんぞくぎり"を一発見舞って即離脱、別の角度から切りかかる戦術。

 熟達したヒットアンドアウェイ。それを支えるのは、ゆらめくようなフタチマルの動き方。

 

「なんだあの動きは……足捌きがタネか!」

「滑るような足捌き。かくとうポケモン専門でもないトレーナーのポケモンがあれをやるとはな」

「本来のフタチマルのスピードを大きく上回っているように見えるが……緩急でそう見せているのか!?」

「俺たちでこれだ。対峙するマキシさんとヌオーはより早く見えているだろうよ」

「これがイッシュの技術、か」

 

 テツジとフタチマルの強さは分かった。わざとは関係ない部分での技術が彼らの持ち味なのだろう。

 なれば否が応でも気になってくるのは、未だ"れんぞくぎり"の猛攻に晒されているヌオーと、そのトレーナー・マキシマム仮面。

 

「ヌオー、構えろ!」

「ぬお」

 

 マキシマム仮面の声にヌオーは力を溜め込む体勢をとる。

 しかしその間にも"れんぞくぎり"の斬撃はヌオーの体に傷をつけていく。

 ヌオーの体力はあと十秒も持たないであろう。"れんぞくぎり"は切れば切るほど威力が上がる技。早めに打開しなければならない。

 

「何をする気なんだ? マキシさんは」

「よく見てな。あの姿が、人間とポケモンのコンビネーションってやつだよ」

 

 マキシマム仮面がフタチマルを注視する。

 動き方の法則。プロレスでは技を合わせるためにも必要なそれを、見切って———

 

「右側に全体重で"のしかかる"だ!」

「ぬおおおお!」

 

 "れんぞくぎり"ごと押しつぶした。

 地面に亀裂が入るほどの力と重さ。フタチマルは力で拮抗することすらできない。

 

「な、なんでわかったんだ? マキシさんは、フタチマルの位置が」

「そりゃあ見ていたからさ、しっかりと。トレーナーが見切って、ポケモンがその通りに動く。これこそトレーナーとポケモンの戦い方さ」

 

 "のしかかる"での拘束を強めるヌオー。

 フタチマルは力を込められるように少し姿勢を変えて、反撃の体勢を整える。

 

「"リベンジ"で押し返せ!」

「マァ、ルゥ!」

「ぬおっ!?」

 

 ヌオーの拘束を強引に引き剥がして、また対面の状態に戻った。

 互いに大きな一発を叩き込むことができれば終わる試合。

 だからこそ、テツジはフタチマルに仕込んだ切り札を切る。

 

「"くさむすび"!」

 

 テツジにとってジムに入門して初めてのバトル。

 ここで存在感を見せてやる。そのためだけに頑張って習得させた技で終わりにしてやると。

 そう意気込んで指示をしても、同じ意気込みを持つフタチマルは1ミリも動かない。

 

 フタチマルは 体が痺れて動けない!

 

 その隙をジムリーダーが見逃すはずもなく———

 

「行けぃ、"きあいパンチ"!」

「ぬおおおお!」

 

 ヌオーの鉄拳がフタチマルを吹き飛ばした。

 

  ◇

 

「"のしかかり"で麻痺していたことが勝負の分け目になったな」

「はい。ですが、フタチマルは持ち物の"しんかのきせき"の効果でもう一発耐えられるだけの耐久力を持っていたはずです。なにかしていたのですか?」

「ああ。"れんぞくぎり"のラッシュの時にひっそりとしっぽで"カウンター"をな」

「なるほど、すこしずつダメージを蓄積させられていたわけですか。参りましたね」

 

 感想戦に花を咲かせるマキシマム仮面と新人。

 彼らの戦いは終わった。でもここからはあたしの戦いだ。

 

「清掃、入りますね〜」

 

 試合中に地面に生まれた亀裂の数々。主にマキシマム仮面のヌオーのパワーのせいだけど、これを整えるのがあたしの仕事さ。

 

「ウパー、出てきて!」

「うぱっ!」

「"マッドショット"!」

 

 地面の亀裂の隙間に"マッドショット"を流し込む。

 うちのウパーの"マッドショット"は、一度固まれば水に溶けない頑丈な土台になる。

 そして試合中に生まれた瓦礫や、はみ出た"マッドショット"の泥をあたしが掃除する。磐石の掃除方法さね。

 

「清掃のおばさんだったのか!?」

「そうだよ? せいそういん歴23年。マイカとウパーとはあたしらのことよ」

 

 さっきまで隣に座っていた若人もあたしの正体に気がついた様子。

 平日はジムで清掃の仕事を、休みの日も別の場所で掃除をしている。

 フタチマルの足捌きのように、毎日積み重ねてきたこのコンビネーションだけは誰にも負けない。

 

「マイカさんとウパーのコンビネーション、いつ見ても見事ですな」

「ありがとねぇ」

 

 ポケモンと人の関わり方は多種多様。戦うだけがコンビネーションじゃない。

 せいそういんとして色々な場所で色々な関わり方を見てきたからこそ、そう思える。

 テツジとフタチマルはコーチとプレイヤーといった雰囲気だった。テツジが仕込んだのであろうあの足捌きは本当に素晴らしかった。

 マキシマム仮面とヌオーは戦友といった感じ。共に鍛え、一心になって戦う。格好いいねぇ。

 

「そういくとあたしらは相棒…って感じかね?」

「うぱあ!」

 

 共に仕事を行う相棒。それがあたしとウパーの関係。

 

 今日からは新人の参入で少しだけにぎやかになった建物を掃除する事になる。

 これも相棒と一緒。

 

 ああ、これほど胸躍ることはない。




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