Eclipse first, the rest nowhere. 作:8OROCHI丸
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走ることが嫌いだ。
レースが嫌いだ。
ウマ娘が嫌いだ。
自分が嫌いだ。
だから私は走る。
走りたくて走りたくてたまらない有象無象の一切を否定してやれたら、どんなに愉しいだろうか。
走ることが好きだ。追いつけないと諦める有象無象の絶望した顔が好きだ。
レースが好きだ。勝てないと悟って泣き言を言う有象無象の諦観した顔が好きだ。
ウマ娘が好きだ。わざわざ自分を踏み台に私を高めてくれる素材が好きだ。
自分が好きだ。他のウマ娘の尽くを足蹴にして頂点に上り詰める自分が大好きだ。
だから私は走る。走ることを諦めない有象無象の一切を肯定してやれたら、どんなに悦ばしいことだろうか。
◆
私は、幼い頃から親に走ることを強制されていた。ウマ娘なんだから走らなければ存在価値がないなんて言われてたけど、とんだ思い上がりだよねぇ。
私は走ることが心底嫌いだ。まだゴキブリのほうが愛着が湧く程度には走ることが大嫌いだ。
走りたいと願う有象無象のウマ娘が心底嫌いだ。たった1%に満たない勝つことに憧れる有象無象が大嫌いだ。
だから、私は走る。走りたいウマ娘を軒並み押し退けて、勝ちたい気持ちなど全く関係ないことを思い知らせてやる。
私の目標は唯一つ。この、トゥインクル・シリーズを完膚なきまでに滅多打ちにすることだ。
私の名はエンペリオ。強いウマ娘など関係ない。私の前では皆等しく有象無象に過ぎない。何故なら私に勝てないからだ。
「キャハッ。どいつもこいつも頑張るわねぇ。その努力は絶対に実を結ばないのに、無駄なこと」
私は今年から中央のウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園に入る。脚が速ければ入れるだけのとっても簡単な門ね。これに落ちることができるのはむしろ才能なんじゃないかしら。
そんな中、今は選抜レースとかいうおままごとの最中だ。私から見れば、やれ誰が速いだの、やれ誰の脚はできあがってるだの、そんなことは関係ない。私に勝てないんだから速かろうと丈夫だろうと有象無象に変わりはないのだ。
「はーあぁ、面倒くさいわねぇ」
次は私の番。有象無象相手に全力を出す気など更々ない。30%くらいに力をセーブしてあげましょうかね。
◆
「クックックッ……。どいつもこいつも見応えがねぇなぁ」
俺様は、栄えある中央トレセン学園のトレーナー、
俺様の目標は唯一つ!ウマ娘をだしに出世!金儲け!!これだけだ!!
あ?今目標二つあるっつったやつは今すぐ顔面凹ましてやるから出てこいよ、おら。
しっかしどんな奴を見てもてんで駄目だ。どいつもこいつも才能がねぇ。気力だけで生きていけるほどこの世界は甘くねぇんだよ。腑抜けたような顔して走りやがって、虫酸が走る。
『…7枠14番、エンペリオ』
…だが、一目惚れっていうのはこういうことを言うんだろうなぁ。あいつ…、エンペリオを見た瞬間、ビビッときやがった。
『エンペリオ、逃げる逃げる!だが、4番シルバーバレッタが追いすがる!だが届かない!!エンペリオ、今ゴールイン!!2着には3バ身差でシルバーバレッタ…』
……あいつの眼が、狂気に染まっていやがるのを見抜いたのは、きっと俺様だけだろうな!
◆
「エンペリオ!凄い脚だった!是非ともうちのチームに…」
「駄目よ!彼女は私がもらうわ!!あなたの脚ならきっとクラシック3冠が…」
……五月蝿いよ、ゴミ虫共が。中央のトレーナーも所詮有象無象に過ぎない。私に勝てないようなウマ娘しか育てられないようじゃ、この先やっていけないよ。
「ごめんなさい。今、軽率にお返事を出すわけにはいきません。私の進退を決める大切なパートナーとなるトレーナーさんは、じっくり考えた上で決めたいのです。皆様のお気持ちは、大変喜ばしく思います。ですが、今しばらく熟考させていただきたく存じます」
こう言っておけば、アイツラは勝手に期待して身を引いてくれる。キャハハハッ、大人しく他の有象無象を相手にしてな、ゴミ虫。
ある程度目の前から虫が散ったから帰ろうと思った矢先…、
「おい、エンペリオとかいうやつ。話がある、着いてこい」
……また来たよ、ゴミ虫が。そう思って、断りの返事を入れようと思い振り向いて、思わず驚愕した。
――そのトレーナーの目に宿された特濃の狂気に、きっと惹かれてしまったんだろう。
「……ええ、わかりました。着いていきます」
思わず、そう返事をしていた。
◆
そのトレーナーが連れてきたのは、人の寄り付かない校舎裏だった。…そっちの系統か?
「おっと勘違いするなよエンペリオ。俺様はお前に手を出す気は毛頭ない。スカウトしに来たんだ」
ならば、わざわざこんな人気の無い所に呼び出すことはないだろう。なにか、相当重大な話があるに違いない。
「…クックックッ。お前、退屈だろ?」
……ほう?
「いい加減、その猫被りを辞めな。気持ち悪くて仕方がねぇ。俺様は、お前と本心から語りたくてわざわざこんなところまで連れてきてやったんだ。俺様の寛大な心にせいぜい感謝をすることだな」
…随分尊大じゃないか、気に入った。この態度を見抜かれるとは予想もしなかった。
「お前、走るのつまらねぇんだろ。ひと目見てわかったぜ」
なんと、そこまで見抜いていたか。なかなかの観察眼であると褒めてやらなければいけないだろう。
「わかるぜぇ?その気持ち。あのやる気があるんだかないんだかわからない有象無象に全力を出したくない気持ち。俺様にはわかる。全力で走らなくても勝てる相手に全力を出すのが面倒くさいって顔だ」
…今、私はとても興奮している。まさか、私の心象をここまで読み取れるトレーナーがいるなんて想像つかなかった。
「俺様も楽がしたい口だ。楽して金が儲けられるなら御の字なんだよ。どうだ?スカウトとは言ったがこれはあくまでも取引でしかない。トゥインクル・シリーズに出るにはトレーナーが必要不可欠だ。俺様が名義を貸してやる、その代わり俺様のために金を稼げ、俺様が言うことはそれだけだ。」
……へぇ、悪い話ではない。私は走れる、トレーナーは楽に稼げる、実にWin−Winな関係だ。
「お前の顔は、素晴らしい顔だ。自分以外を歯牙にも掛けないその尊大な考えが俺様は気に入った。俺様と一緒に他の有象無象に絶望を見せてやろうぜ?どれだけ努力しようと絶対に超えられない高い壁が存在することを見せつけてやるチャンスだ。走ることが楽しくて楽しくてたまらない有象無象を、走ることに退屈を感じるお前が一掃するなんて、素晴らしい話じゃないか!!」
……ああ、ああ。このトレーナーは、一体どこまで私を昂らせてくれるんだ。
「一緒に駆けようぜエンペリオ。他の有象無象に絶望を。努力という単語に諦めを。全ては唯一抜きん出て並ぶものないお前の力だ!!」
「…キャハハハッ。アンタ、狂ってるねぇ。いいじゃない!その話乗ったわ!!私はエンペリオ!唯一抜きん出て並ぶもののない絶対皇帝よ!!!」
「俺様は飯塚真之!楽をして稼げる道具が見つかって嬉しいぜ。よろしくな!!」
「ええ、よろしく!!」
私はいま、心の底からレースに感謝している。
これに関してはめちゃくちゃプロットが頭の中で練り上げられてるから続ける時間があったら続ける。