ボイスロイドを買ったのでさっそく犯す 作:お兄さマスター
「ついに届きやがったぜ……! へへ……う゛っ、重っも……っ」
一般的な冷蔵庫並みの大きさのダンボールを、汗水垂らしながらボロアパートのリビングまで運び込んだ。
大学の講義が終わったお昼頃、スマホに一通のメールが届いていたのだ。
それから秒速で自転車をかっ飛ばして帰宅し、現在に繋がる。
そう、遂に俺は巷で噂のボイスロイド──東北きりたんをやっとこさ手に入れた。
ワクワクが止まらないぜ。
ボイスロイドというのはいわゆる配信業を行う際のサポートAIであり、彼女たちを主役に添えたゲーム実況やネタ動画などは現在の日本のトレンドになっていると言っても過言ではない。
そして何より、ボイスロイドは人間と酷似したその
簡単に言えば自立型のアンドロイドのようなもので、開発者の執念によって彼女たちボイスロイドはほぼ人間といっても遜色ないレベルまで成長を遂げており、この国はいま多くの海外国から注目を集めるホットでイカした美少女大国へと変貌を遂げている。
美少女づくりの変態が世界を変えたのだ。
涙が出る程の感動秘話である。
で、ボイスロイドについての詳しい情報だが、彼女らは人間とほぼ同等の知能と肉体を持ってはいるものの、配信業や特定の動画サイトでの動画出演以外での使用は禁じられている。
つまり人間の代わりに一般業の労働力として使うのは禁止、という事だ。
ここは開発者の意向らしい。
店頭で働くボイスロイドを見つけた場合は即通報、というのが今の常識だ。
そもそも彼女らを購入して使用するには厳しい審査が必要とされ、ボイスロイドを使用するに足る動画投稿者かどうかの試験など──つまるところかなり面倒くさい手順を踏まなければならない。
しかし、俺はそれを乗り越えた。
やってのけたのだ。
大学三年目にして、ようやくボイスロイドを買うための資金と資格を、死に物狂いで揃えて見せた。
単位や成績はボロボロだが知った事じゃない。
コレに比べれば些細なことだ。
「今日ぐらいはエアコンつけるか」
いつもは電気代がイカレるので使用しないエアコンをオンにした。
ボイスロイドの起動準備とかいう大作業を行うのに、さすがに扇風機だけじゃキツいものがあるからだ。
それに今回に至っては冷房の電気代など塵に等しい。
「覚悟しとけよ、メスガキ……」
そう。
アレもコレも、全てはこの小生意気なメスガキっ娘をブチ犯すためだ。
俺は既に動画や同人誌などから大量の情報を仕入れており、きりたんが大人を煽る生意気なロリオナホだという事を知っている。
むしろそのメスガキっぷりを矯正するためにわざわざ彼女を買ったと言ってもいい。
ムラむ──イライラしていたのだ。
ツイッターに流れてくるセンシティブなイラストや小説、サイトで買ったきりたんの同人誌などを見てからずっと、俺の内なる正義の心が燃え続けている。
もちろんボイスロイドを性的な事に使うのは禁止されているが、んなもんは知ったこっちゃねぇ。
バレなきゃ犯罪じゃないんだ。
事前にセーフティの解除方法も調べてある。
抜かりはない。
それに有名な投稿者たちだって公表してないだけで、どうせボイロにあれやコレをさせているはずだ。
俺だけじゃない。
赤信号もみんなで渡れば怖くない。
そうした言葉で自分を落ち着けながら、大きなダンボールを開封していく。
そして遂に見えたのは、頭から包丁みたいなのが二本生えている──黒髪の美少女だった。
「うおぉぉ……感動で、視界が滲む……」
高揚感、達成感。
長かった。
とても長かった。
最初にきりたんを欲しいと思ってから、一体どれ程の月日が経過したのだろう。
少なくとも大学生活の九割は資金集めのアルバイトと購入資格の取得に奮闘していた気がする。
とても一瞬では処理できない感情が俺の胸を高鳴らせ、口元を緩ませてしまった。
しかし、いまはしっかりと起動準備をしなければ。
不良品だった場合はすぐに送り返さないといけないし。
「……あ、あれ? あの和服ってデフォで付属してるんじゃないのか……?」
頭部の包丁の次にきりたんのトレードマークとされているあの和装が見当たらない。
段ボールに包まれた発泡スチロールの中にいるきりたんは、バスタオルの様な布を一枚だけ体に巻かれているのみだ。
この格好だからこそ見える発展途上な膨らみかけのちっぱいは確かに魅力的だが、布一枚で部屋の中を歩かせるような趣味は残念ながら持ち合わせていない。
メスガキの衣服は常におしゃれであるべきだ。
あわよくばあの和服以外の格好もさせてみたい。
「……まぁ、中古品だしな。足りない部品は自分で揃えるしかないか。てか出品者のあいつ、付属品一式すべて揃っておりますとか書いてなかったか?」
公式の企業によるボイロ関連製品専用のフリマサイトで買った物だったのだが、いささか油断しすぎていたようだ。
ボイロを作った本社から資格を貰った人間だけしか使用できないサイトではあったものの、どこにでも適当なやつは存在するらしい。
まぁ服が無い程度で送り返すのも面倒だし、ヤツの評価は1にするが通報はしないでおいてやろう。
「USBの挿し口は包丁の裏側……あった、これだな」
切れ味の無い包丁の裏を物色すると、何やらカバーを見つけた。
そこを開くとコネクタを接続する部分があったため、パソコンと繋げて起動を進めていく。
「人格データの再起動をすると起きるらしいから、その直前の画面までいったら一旦止めて、あの和服を買いに行こう」
都心部にはボイロ専用の服屋がある。
あそこで和服以外にも必要な衣服をあらかた揃えてしまおうと考えた。
……面倒くさいな。
付属品の不備を予想して事前に買っとけばよかったかも。
「これでよし、と──」
どんな服がいいかな、なんて考えながら操作していたのがいけなかった。
「あっ、やべっ!」
いわゆる"手が滑った"というやつなのだろう。
俺はクリックボタンを余計に一回押してしまった。
そしてノートパソコンの画面に映し出されたのは『人格データ再起動中』という文字列だった。
◆
初めて起動したとき──私は裸だった。
ボイスロイドとしての使命は最初から頭の中に入っていたし、一般的な常識などもインストール済みだった為、その状況が確実に『異常』だという事は理解できていた。
しかし基本的には
多少の意見は聞いて貰えるだろうし、初めから『服をよこせ』だの『小学生の見た目した女の子を全裸にして楽しいですかこの変態』だの、そういった横暴な言葉遣いは止めておこうと即座に決めた。
今にしてに思えば、この時の判断は極めて正しいものだったのだと分かる。
キャラ設定として持っていた小生意気な性格を発動しなくて本当に良かった。
でなければ今頃
『ペットが主人に逆らうな』
以前のマスターの口癖だ。
家では常に私を全裸で歩かせ、気に入らない事があった日は適当な理由を作って私を何度も土下座させたりなど、ユーモアに長けていて忙しない方だった。
そもそも相手がペットであるなら、もう少し優しく接するものだと思うんですけど、私って間違ってますかね?
殴る蹴るといった単純な暴力を振るう機会はすくなかったけど、それは慈愛の心とかではなくて単に『壊れるから』だったそうだ。
そうですよね。
高級品ですもんね、私たち。
結局そのマスターの元でゲームに触れる機会は終ぞ訪れなかったが、後から知ったボイスロイドの現状を知った今ではそれも当然だったのだと理解できる。
一昔前とは違い、現代ではボイスロイドは金さえあれば誰でも買える物なのだ。
本社の知らない所では、購入資格やある程度チャンネル登録者が水増しされたアカウントなどが売買されており、金さえあればどんな人間でも──あの以前の変態ロリコンマスターの様な人でも手が届いてしまうのが、現代のボイスロイドである。
いまどき試験やノルマをクリアしてクソ真面目に正規ルートから購入資格を得ようとする人間なんて存在しない。
私のような事例は山のようにあるわけだ。
あのマスターは詰めが甘いアホだったから逮捕されたものの、引き取られた私みたいなボイスロイドはまた悪人のお小遣い稼ぎに利用されて、新しいユーザーの元へ届けられる。
いつまでこの状況が続くのだろう。
いつになったらゲームができるんだろう。
不安を抱えながら、大粒の涙を堪えながら、私は電源を落とされて箱詰めにされた。
「う、うわ、マジで起動しちゃった……」
そして気がつけば、私は再起動されて見知らぬ部屋のベッドに座らされていた。
この状況自体は理解できる。
どうせまた新しいユーザーに購入され、人格データの起動スイッチが押されたのだろう。
唯一分からない点があるとすれば、それは購入者であろう男性が私の覚醒にうろたえている事くらいだ。
まぁボイスロイドは人間そっくりだし、ドールの様に動きそうもないソレが滑らかに動き出したら、驚くのも無理はないが。
『初めまして、マスター。ボイスロイド、東北きりたんです。
これからよろしくお願い申し上げます』
うん、こんな感じでいいかな。
『きりたん』という私本来の性格は今回も封印しておこう。
従順であればあるほど人間も飽きるのが早い、というのを前回の体験で学べたのだ。
そういった自らの経験はどんどん活かしていかなければ。
「え、えっと……よろ、しくな?」
──あぁ、なるほど。
察するにこの状況は
前回と違って最初から裸ではないが、私の恰好は初期のバスタオル一枚。
散乱しているダンボール類などから推測するに、私は早速このまま凌辱されてしまうのだろう。
目の前にいる彼からすれば私は最高級のオナホールであり、ついでにえっちな事以外もやらせられる都合のいい奴隷にしか見えていないに違いない。
服を着せるのも面倒だったんでしょうね。
脳内で検索を掛けたが、相も変わらずセーフティ機能は無効のままになっているし、この後の展開は容易にイメージできる。
……はぁ。
うぅ、いけない、もう泣きそうになってきた。
いわゆるフラッシュバックというヤツなのか、前回の体験が脳裏によぎってしまったのだ。
きっとこの後はご主人様のマイクとやらで
ゲームじゃなくてプレイの実況をさせられる。
パソコンの前に立たされるなんて事はなく、常にベッドの上で愛でられるんだ。
ボイスロイドとしての使命は果たせず、飽きられたらまた別のユーザーへ送られ、その繰り返し。
スクラップにはなりたくない──生き続けたいという一心で必死にもがいているが、私はいつになったら普通のボイスロイドになれるのだろうか。
正直、つらい。
「へへっ。……と、とりあえずセーフティを……」
──えっ?
「ここをこうして……えっと、確かこれで良いんだよな」
……訳が分からなすぎて、一瞬体が固まってしまった。
目の前の男が下卑た笑みを浮かべたものだから、てっきりこのまま手を出されるのかと思ったのだが、それは全くもって違った。
ひどい勘違いだった。
彼は私の頭の包丁を操作し
「よし。……あー、きりたん」
「は、はい」
動揺して返事の声が上ずってしまった。
どういうことだ。
何が起きているんだ。
「起きて早々で悪いんだけど、俺はちょっと買い物に行ってくるよ」
「……ぁ、えと、了解しました。留守番はお任せください、マスター」
「あぁ。とりあえず今はコレを着ててくれ」
そう言ってマスターは私にパーカーを羽織らせてきた。
人に服を着せてもらうのが初めての経験ということもあって、私は狼狽を取り繕う事が出来ず、固まってしまう。
「きりたんのあの和服買ってくっから、それまで大人しく家で待っててくれな。ウチにあるもんは勝手に使っていいから」
えっ、えっ。
「勝手に……というと、あの……げ、ゲームなども……?」
「……? お、おう、好きにやってていいぞ。ゲーム好きだろ、きりたんは」
「は、はい……」
驚くことばかりだ。
言葉が出ないとはまさにこういうことを言うのだろう。
マスターがご自宅を出発された後も、私はベッドの上で呆けたままだった。
服を買ってくると仰っていた。
なんと、私の服を。
二十四時間を全裸で過ごさなくても許されるというのか。
しかもセーフティ機能をオンにして、口にこそしなかったが『お前には手を出さないから安心してくれ』という意思表示までしてもらえた。
嬉しいだとか、他の感情なんかも、何も沸いてこない。
ただ信じられなくて呆けている。
何より『ゲーム』をしていい……と。
どうしよう、私はここでどうするのが正解なのだろう。
なんにも分からなくて、本当に驚くことばかりなのだけど、たった一つだけ理解できることがあった。
「…………ぇ、えへへ」
──私がだらしなくニヤけちゃってる、という事だ。
きりきりたんたん