ボイスロイドを買ったのでさっそく犯す   作:お兄さマスター

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よく見たら茜色

 

 

 叔父さんと晩酌を交わしてアホみたいに酔ってしまい、風呂には入れなかったものの、なんとか自室まで戻って眠りに就いたその翌朝。

 

 幼少時代の懐かしい夢から覚めて起床した俺の布団の中には、なぜか別の部屋を与えたはずのきりたんが潜り込んでいた。

 寝起きのせいで記憶が混濁していた俺は何一つ言葉を発することが出来ず、自分より先に目覚めていたらしいきりたんには『おはようございます、ロリコン兄さま』と突然の罵倒を浴びせられてしまう始末。

 どうして急に悪口を言われたのか。

 固まったまま理由を逡巡していると、ようやくその原因を突き止めることができた。

 

「ご、ごめっ──いだっ!」

 

 焦ってベッドから転げ落ちる。

 寝起きに尻への衝撃をくらって、寝ぼけ眼から一転してすぐさま目が覚めた。

 俺は自分にくっ付いていたきりたんにとんでもないセクハラをしてしまっていたのだ。

 どんな寝相で眠ってたのかは知らないが、俺の右手は彼女の臀部を鷲掴みしてしまっていたようで、きりたんから朝一番の罵倒が飛んでくるのは致し方のないことであった。

 かなりの段階を飛ばしてレベルの高い肉体的接触を行ってしまった俺が悪い。

 そう、俺の責任だ。

 ……と、さっきまではそう思っていた。

 

「まったく。朝からお盛んですね、うちのヘンタイ兄さまは」

 

 とてもひどい言われようだが、そもそもここは俺の部屋だ。

 勝手に入ってきて勝手に布団の中へ潜りこんできたお前が悪いんじゃないの? と言いたかったのだが。

 

「というか兄さま、ちょっと汗臭いですよ? 昨日ちゃんと寝る前にお風呂は入ったのですか」

「い、いや……眠くて、つい」

「はぁー、本当にしょうがない人ですよ兄さまは。お布団に臭いがついちゃったらどうするつもりなんでしょうか」

 

 汗の臭いを指摘されて凹んだのと、なんだかいつもよりも数倍当たりが強いきりたんを前にして、俺は日和ってしまっていた。

 おかしい。

 普段のきりたんなら『朝に入ると思ったのでお風呂沸かしておきました!』とかやんわり言いながら軽くスルーしてくれるはずなのに。

 反抗期なのだろうか。

 

「お風呂は沸かしておきましたから、さっさと入ってきてください。お布団は私が消臭スプレーやっときます」

「う、うん……ありがとう」

 

 どうやらお風呂はいつも通り準備しておいてくれたみたい。

 やばい、ますます分からん。

 反逆するつもりなら浴槽も沸かさないし、なんなら同じ布団の中に潜ったりもしない筈だ。

 普段と変わらずいろいろやってくれてるけど、何故か俺に対しての態度がちょっと厳しい。

 もしかして怒らせちゃったのかな……。

 

 ……

 

 …………

 

「兄さまー? 私も入りますねぇー」

「おいおいオイ待て待て待て!!」

 

 髪を洗っている途中で後ろから物音が聞こえ、何だと思ったらきりたんがとんでもない発言をしながら風呂場へ入ってきてしまった。

 泡で前が見えない俺は焦って手元のシャワーを探すが、ようやく見つけたかと思ったらそれをきりたんに奪われてしまう。

 

「私が洗い流してあげますよ」

 

 そう言いながらお湯を出して近づくきりたん。

 背中には何か柔らかい感触がふにっと当たっている。

 どうなってんだこれは。

 

「き、きりたん? 自分で出来るからいいって、早く出なさいよ」

「なんですか、そんな執拗に追い出そうとして。……もしかして自分より年下のロリに体を洗われて興奮しちゃってるんですか、兄さま」

「は? 大人は子供に触れられても興奮なんてしないが……」

「きゃー、兄さまやっぱりロリコンさん。身の危険を感じますー」

「話を聞けよオイ……!」

 

 ──ほう。

 なるほどな。

 この毎回煽りを入れながら適度に誘惑してきやがる言動から合点がいった。

 前々から怪しい部分はあると知っていたが、そうかなるほど、コイツ遂に正真正銘のメスガキになりやがったのか。

 

「……ほ、ほら、ロリの柔らかいお肌スベスベで気持ちいいですね?」

「ばっ、バカ言ってないで洗い流したんなら早く出ろって」

「ふふふ、こうしたらロリコンにウケがいいと薄い本に書いてありましたが本当みたいですね。動揺してるのバレバレですよ……ふぅーっ」

「ッ!!? てめっ、耳に息吹きかけるんじゃねえ!!」

「きゃーこわーい♡」

 

 様々なアプローチを仕掛けてきたきりたんは、ある程度からかって満足したのか、足早に浴場を去っていった。

 ちくしょう。

 悔しい事に助かってしまった、マジで危なかったぞ。

 昨日の夜は自室で久しぶりにお気に入りの同人誌を読みながら楽しもうと思っていたところを、叔父さんに飲みに誘われて断り切れず結局酔ってそのまま眠ってしまい、俺は性欲処理をできないままでいた。

 そこで朝っぱらからこんな事をされては、大人の俺と言えど我慢のゲージは上がっていってしまうわけで。

 きりたんがあそこで切り上げてくれていなかったら、俺はいろんな意味で暴れたはずだ。

 仮に暴走したとしてそこで俺が何をやらかしていたか、自分自身でも予想がつかない。

 本当にきりたんが撤退してくれて助かった。

 

「まるであの同人誌みたいだ……」

 

 朝からマスターを煽ってくる小生意気なきりたん。

 まさに俺のお気に入りであるあの同人誌の内容をそのまま実際に反映させたかのようなイベントだった。

 夏休みの大学生という自分の状況がぴったり当てはまっているのもあって、本当にアレを現実に体験してしまっているんじゃないかと錯覚したほどだ。

 漫画はあのまま風呂場できりたんに一発お世話になって一時的に敗北し、その後はゲームに負けたり川遊び中に下着を見せられて慌てたりと、お兄さまは散々な目に遭う。

 そしてついに堪忍袋の緒が切れ、野外の木陰で彼女を大人棒の叱責で()()()()て、あとはタイトル通りいろんな場所で従順になったきりたんと甘々しつつ夏休みを満喫する──そんな感じの最高な同人誌なのだ。

 

 しかし……し、しかし。

 

「手を出したら怯えて泣いちゃったりしないか……? そ、そもそも野外で手を出すなんて危険極まりないのでは……?」

 

 不安が消えては出てきてを繰り返して止まらないループを発生させている。

 あの本のお兄さまみたいな勇気を出せるか、正直言って自信がない。

 大人棒で分からせた結果きりたんがトロトロになって語尾にハートを付けながら甘えてくるのが確定しているならまだしも、アレを行動に移してそうなるかなんて保証はどこにもない。

 というか彼女に目の前で泣かれてしまったら、その、なんというか……俺の四肢がもげて肉体が爆発四散してしまう恐れがある。余裕で死ねる。

 

 そうだ、今朝のはきりたんの気の迷いかもしれない。

 たまには俺をからかって遊びたいときだってあるだろう。

 いつもは素直で家事も動画も手伝ってくれているのだから、俺を使ってストレス発散をするのはとても正しい選択だ。

 彼女の為にも今日くらいはサンドバッグになってやろうじゃないか。

 

「兄さまよわよわ♡ 片手でタイミングよくボタン押すだけのゲームで全戦全敗♡ 反射神経にぶーい♡」

 

 耐えるんだ、俺は大人なのだから。

 

「お外でロリの下着みてコーフンしちゃってるんですか? このロリコン♡ もう見せてあげませんよ、ばーか♡」

 

 ……こ、これくらいなんて事ない。

 

「え、兄さま一緒に水浴びしてくれないのですか。……ごめんなさい、やっぱり私なんて疎ましいだけですよね。大丈夫です、一人で遊んでいますから。…………ぷっ、ふふっ、あはは! うそでぇーす♡ 兄さま焦り過ぎですよ、おもしろーい♡」

 

 …………。

 

 

 

 

 ──このガキッ!!

 

 

 

 

「クソっ、帰ったら絶対にわからせてやる……」

 

 時刻は夕方を過ぎ、空が茜色に染まった頃。

 俺は一人小さなビニール袋を片手に帰路についていた。

 

 もうきりたんがメスガキだったという事実は確定した。

 いままでの妙に礼儀正しかったり物腰柔らかだったきりたんは全て何かの間違いで幻想だったのだ。

 アレがヤツの本性であり、大人をからかって遊ぶのが楽しい悪趣味なロリガキだったんだ。

 そうと決まれば大人である俺が採るべき選択はただ一つ。

 わからせだ。

 ここまで耐えても煽られる一方なら最終兵器である大人棒を顕現させるしか勝つ方法はあるまい。

 ちょうどこの一ヵ月間は禁欲を余儀なくされてイライラしっぱなしだったし、あのロリを分からせる過程で俺も溜めた鬱憤を晴らさせてもらおうじゃないか。

 すべては煽りやがったあのメスガキのせいなんだからな。

 

「どう教育してやろうかな……」

 

 田んぼ道を歩きながら脳内で妄想する。

 駄菓子屋できりたんとずん子の分のお菓子を買った帰りなので、作戦を立案する時間は今くらいしかないのだ。

 どうしよう──そう考えていたとき、突然後ろから声を掛けられた。

 

「あのっ、すいません!」

 

 なんだと思って振り返ると、そこにいたのは見知らぬ肥満体型の男性だった。

 歳は俺よりも十は上だろうか。

 この暑い中で走っていたせいなのか、彼は汗だくでシャツの首元は見て分かる程に湿っている。

 

「ウチの葵ちゃんを見ませんでしたか!? 一緒に散歩をしていたら、目を離した隙にいなくなってて!」

「へっ……?」

「えと葵ちゃんっていうのはボイスロイドの──」

「あ、あぁ……なるほど、葵ちゃんって琴葉葵のことか。すみません、本体のボイスロイドは見かけてないです……」

 

 雰囲気に圧されつつそう答えると、汗だくな肥満体型の男性は肩を落とす。

 しかしすぐに立ち直り、俺にメモ用紙を手渡してから、彼はまた走り出してしまった。

 

「ボクの電話番号! 見つけたら電話ください! とても大事な子なんですっ!」

 

 言いながら走り去っていく男性。

 尋常ではないあの焦燥具合からして、相当そのボイスロイドを大切に扱っているんだな、と感じて息を呑んだ。

 流石に名も知らぬ他人なので必死になって探そうとは思わないが、見つけたらすぐに連絡の電話をいれるくらいの協力はするべきかもしれない。

 というか、こんな田舎にボイスロイドのマスターがいたのか。

 本社がまだ摘発の件で未だにゴタゴタしているとはいえ、個人的にはまだ違法購入で捕まっていないユーザーがいるとは思いたくない。

 まぁ、多分これは杞憂だろう。

 太っていた彼も俺と同じで、しっかりと資格を得てからボイロを購入したに違いない。

 ……同じボイスロイドのマスターなのに、一度は疑わないといけないのはなんとも嫌な気持ちだ。

 

 

 早く摘発の件も解決してくれないかな──と思いながら歩いていると、いつの間にか家の近くの林道を進んでいた。もうすぐ家だ。

 一度荷物を置いてから数十分だけ、近所くらいは葵ちゃん探しを手伝ってあげようなどと考えながら足を動かす。

 

 すると、俺の耳に聞き慣れた声が飛び込んできた。

 

「あっ、マスター!」

 

 聞こえたほうへ振り向くと、雑草が生い茂った林の中に、手を振っているきりたんを見つけた。

 何やら困惑した表情をしており、つい俺のことを言い慣れたマスターと呼んでしまっている事からも、なにか良からぬ物でも見つけて余裕がなくなってしまったのかと思い、俺は焦って彼女のいる場所へ向かっていった。

 

「マスター、こっちです!」

 

 まるで今日一日感じていた、数時間前までのあのメスガキの面影などまるで感じない焦燥。

 俺の中できりたんがますます分からなくなってきた──という個人的な感情は一時的に飲み込み、彼女のもとへ駆けつけた。

 そこには──

 

「…………こ、琴葉、葵……っ?」

 

 きりたんのそばに()()()のは、少し汚れた状態で、仰向けで眠っている蒼い髪の少女だった。

 その姿はどこからどう見ても琴葉葵その人だ。

 彼女はボイスロイド界隈の中では上から数えたほうが早いほどの人気ボイロであり、双子の姉である茜とセットで扱われることが多い──とか、そういう基本情報は置いといて。

 まず、彼女は先ほど出会った肥満体型の男性が探していたボイスロイドだ。

 摘発でユーザーが減ったいま、ボイスロイドを所持している人間はそう多くない。

 加えて人口があまり多くないこの周辺一帯で、ピンポイントに琴葉葵を連れている人間など、一人いるか、誰もいないかのどちらかだ。

 となれば、この少女は先ほどの男性が探していたボイスロイドで間違いない。

 それに万が一の時はボイスロイドに直接、登録ユーザーを質問すれば分かる事だろう。

 

「とりあえず、さっき琴葉葵を探してた人に電話を──」

「ま、待ってくださいマスター!」

「うおっ」

 

 善は急げとスマホを取り出した俺だったが、きりたんがその手を掴んで制止してきた。

 何だってんだこんな時に。

 いまはメスガキ煽りムーブに付き合っている暇はないぞ。

 

「これ、見てください……」

「……?」

 

 きりたんがしゃがみ込んで触れたのは、琴葉葵の蒼い髪の根元だ。

 言われるがまま俺も膝を折って近づき注視してみる。

 そこにあったのは蒼色の髪。

 

「根元から色が変わってます。青じゃなくて、赤色に」

 

 いや、違う。

 至近距離まで接近してようやくその違和感に気づくことができた。

 彼女が指で触れていたのは、きりたんが見抜いてくれた違和感の正体とは、少しだけ蒼色が脱色して露になっていた()()()()()()であった。

 

「マスター、さっき琴葉葵を探してる人がいる……って言ってましたよね?」

 

 そうだ。

 間違いなくしっかりとこの耳で聞いた。

 一緒に散歩をしていたと。

 とても大事な存在だと。

 ()()()()を探している──と。

 

「……たぶんこのボイスロイド、葵さんの恰好をさせられてる琴葉茜さんです」

 

 しかし俺ときりたんが発見した少女は、青色の成分が脱色して赤い髪の毛が明らかになっていて、双子の妹である葵のデフォルト衣装である白い衣装を着せられた琴葉茜だったのだ。

 双子の妹の恰好をさせられている、姉。

 しかもそのボイスロイドは、見て分かる程に汚れていて、ところどころ破損箇所も発見できてしまう程ボロボロな状態にあった。

 

「た、助けてって言ってたんです。それで、エネルギーが枯渇したからスリープモードに。……マスター、このひとを叔父さまの家に匿えませんか? その”葵さん”を探しているという人に連絡するのは、このボイスロイドから事情を聞いてからでも……マスター?」

「…………わかった。とりあえず今ずん子を呼ぶから待っててくれ」

「ま、マスター……っ!」

 

 きりたんがメスガキになったとか、性欲とか左腕の怪我とか、正直自分の事で手いっぱいだったのだが。

 どうやら俺はそれ以上の、とてもとても面倒な──ほんっっっっとうに面倒くさそうな事情が絡み合ったイベントに、不幸にも遭遇してしまったらしい。

 

 

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