ボイスロイドを買ったのでさっそく犯す   作:お兄さマスター

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きりたんリスタート

 

「ほい、いつもの和服」

 

 

 一時間ほど街で買い物をしてきた俺は帰宅し、さっそくきりたんのデフォルト衣装である白黒の和服を彼女に手渡した。

 ちなみにきりたんはゲームをやっていなかった。どれから遊べばいいのか分からなかったらしい。

 

「店側で色々とやってくれてたらしいから、洗濯しなくてもそのまま着れるってさ」

「は、はい。ありがとうございます、マスター」

 

 和服はボイスロイド用品専門店で購入したものなので、コスプレ衣装などとは違って、ちゃんと生活に適した服になっている筈だ。

 ついでに着やすい普段着やら何やらも仕入れたが……コレは後でいいか。

 今はとにかくこれを身に着けさせて、東北きりたんというボイスロイドを買った実感が欲しい。

 

「では──」

「オイ待て待て、ストップきりたん」

 

 服を与えたはいいものの、きりたんが突然目の前で脱ぎだしたモンだから、思わず動揺して止めてしまった。

 いや、止めたのは間違いなく正解のハズなんだが。

 

「何してんだお前」

「えっ。……ぁ、えと、あのっ、頂いた衣服に着替えようと……ご、ごめんなさい。許可を取る前に、勝手に着替えようとしてしまって……」

「ち、違うって、そうじゃない」

 

 なんだろう、初期のきりたんってこんなに遠慮がちな性格を設定されているのだろうか。

 てっきり『なに見てるんですかロリコンマスター。通報されたくなかったらとっとと後ろを向いてください』的なセリフをぶつけられると踏んでいたのだが、まさかこちらが身構えるよりも先に、まるで主人の前で着替えるのが当然かのように脱ぎ始めるとは思わなかった。

 

「あの、マスター……?」

 

 くっ、なるほどな。

 そうか、これも無自覚系のキャラを装ったきりたんの作戦か。

 あのまま着替えをジッと見つめていたら、ロリコンだなんだと煽られても否定できなくなってしまう所だった。

 危なかったが、狙いが分かれば問題ない。

 起動したての子供に容易く翻弄される俺ではないぜ。

 調子に乗るなよメスガキめ。

 

「洗面所があるだろ。あっちで着替えてこいよ」

「……そ、そうですね、そうでした。失礼しました、マスター」

 

 ハッとした様な表情をし、両手で和服を抱えてそそくさと洗面所へ消えていくきりたん。

 なかなかの強敵だ、こんな日常の中でも攻撃の意思をチラつかせるとは。

 いまのところ表面上はお互いに本性を隠した状態だが、この均衡が破られるのも時間の問題だろう。

 ヤツが生意気なメスガキムーブを発揮するか、俺がガキをわからせる大人として覚醒するか。

 どのみちまだその時じゃないのは事実だ。

 出会って二時間も経過していない。

 早くメスガキきりたんに大人の凄さを見せつけてやりたいところだが、今は我慢のとき。

 とりあえず一週間……いや一ヵ月……うぅん、三、四か月くらいは普通に接して、メスガキムーブをかまされても我慢してやる事にしよう。

 大人は忍耐力も桁違いなのだ。

 そして遠慮なく小生意気な態度をしてくるようになったら、今までの鬱憤を晴らすかの如く大人棒でわからせて、身も心もお兄様すきすき大好き状態に堕としてやる。

 フハハ! ワクワクしてきたぞ~。

 

「マスター、お待たせしました」

「んっ」

 

 きりたんが戻ってきた。

 買ってきた和服のサイズもピッタリだったようで、あのバスタオル一枚より断然しっくりくる姿だ。

 

「ぅぉぉぉ……あ、やばい泣きそう」

「ま、マスター!?」

 

 まさかこんなにも感動してしまうとは思わなかった。

 デフォ衣装に身を包んだ彼女を目の当たりにして、急に目頭が熱くなってしまった。

 俺、頑張ったんだな。

 ついに本物のきりたんを手に入れたんだな。

 三年近くコツコツ実況者を続けて、チャンネル登録者数が増えるよう四苦八苦しながら、たくさんのバイトにも精を出して──ようやく苦労が実を結んだんだ。

 涙腺が緩くなるのも道理というものだろう。

 

「ありがとう、きりたん……ウチに来てくれて……ぐすっ」

「ど、どういたしまして? あのっ、どうか泣き止んで、マスター……」

 

 号泣している姿を見せたら煽られると予想していたが、きりたんは慌てて駆け寄ってきてくれた。

 まぁ、そりゃそうか。流石に煽りはしないよな。

 大のオトナが急に感動して泣き始めたら、バカにするよりも先に困惑が来るに決まっている。

 引かれたな、俺……。

 

「安心してくださいマスター。私はマスターの所有物ですから、勝手に離れることはありません。……あの、ほんと大丈夫ですから、泣き止んでくださいませんか……」

「う、うん。ごめんな……?」

 

 なんだコイツ良い子か?

 すぐそばで慌ててるの可愛すぎんだろ。頭なでてやりてえ。

 ……気を取り直して、色々とやらなきゃいけない事をやっていこう。

 感動してばかりもいられん。

 きりたんを買ったからには、自チャンネルでその事をいち早く告知しなければ。

 本物のボイスロイドを導入すると、初見やボイロ動画を漁っている層などが寄ってきてくれるようになるのだ。

 いち早く間口を広げるという意味でも、きりたんの紹介は絶対だ。

 それに俺はチャンネル内で、しつこいほど『きりたん欲しいきりたん欲しい』と喚いていたため、それを知っている既存の視聴者に対しても、早く教えてあげたい気持ちが強かった。

 

「……ちょっとベタつくな」

 

 しかし、このクソ暑い季節の中で外出した事もあり、少々汗をかいてしまった。

 服の感触がちょっと不快だ。

 先に軽くシャワーを浴びることにしよう。

 

「風呂に入ってくるよ」

「えっ」

 

 そう言って俺が立ち上がると、きりたんが一瞬目を丸くした。

 何だろうと思いながら彼女を見ていると、きりたんは『大丈夫……それくらいなら……』など、よく意味の分からないことを小声で何度も呟き、続くようにして彼女も腰を上げた。

 

「何だ? どうした、きりたん」

「…………ぉ、お背中、お流しします」

「へっ」

 

 き、急にナニ言い出してんだ、このロリっ娘!?

 

 

 

 

 

 

 風呂に入る──それはつまり『浴場で奉仕をしろ』という意味に他ならない。

 

 少なくとも以前居た所ではそういう意味だった。

 主人が入浴するというのに、道具であるお前がその間何もせずくつろぐとは何事だ。背中ぐらい流したらどうなんだ、と。

 もちろん体洗いのお手伝いをするだけでは終わらない。

 背中を流す、なんていうのは隠語のようなものであり、実際ただの方便だった。

 だから、今回もそうだと思って、今度は叱られない為に、自ら名乗り出たわけだ。

 このマスターには怒られたくない。

 嫌われたくない。

 セーフティは有効にしてくださったけど、あんなものは裏技を使えばいつでも解除できるものだ。

 ご主人様の機嫌一つで容易に覆る、見せかけだけの保険に過ぎない。

 故に、マスターから『手を出さない』という意思表明をして頂けても、それにかまけてマスターを蔑ろにしてはいけないのだ。

 

「……ハァ、ったく。このアホ」

「あぅっ」

 

 ──そう考えて行動したわけなのだが、なぜかマスターに頭を優しく叩かれてしまった。

 痛くはない。

 しかし彼はため息を吐いている。

 

「オマエなぁ……」

 

 何だ、なにか間違えてしまったのだろうか。

 セーフティ機能はあくまで所有者から必要以上に手を出された場合のみ自動通報がされるのであって、私自身の意思でご奉仕するのであれば問題ない。マスターもそこは分かっている筈だ。

 まどろっこしい事を言うな、ということか?

 回りくどい言い回しなどしないで、隠語なんて使わないで、最初から直接奉仕する意思を見せなければならなかったのだろうか。

 ……手で、するくらいなら、平気だけど──

 

「おいってば。聞いてんのか、きりたん」

「ふぇ……?」

「大人をからかうんじゃない。出会って二時間弱の男に対してなんてことを言いだすんだ、お前は」

 

 バカな、まさかご主人様をからかってなどいない。

 こちらとしては寸分の狂いなく本気だった。これが正解だと脳内で算出されていた。

 男性であるマスターからしても悪い提案ではないと思うし、私を起動させたときの態度から見て、少なくともきりたんという()()()ボイスロイドに対しては興味を抱いていたハズだ。

 

「あ、でもっ、その……防水加工などの心配は、無用で……」

「イヤそういう話じゃなくてな? ……うぅん。まさかもうメスガキの片鱗を見せてくるとは……」

「……っ?」

 

 ブツブツと何かを呟いているが、ともかくマスターは入浴の手伝いという提案を快く思わなかったようだ。

 

「ともかく風呂のお供はしなくていいから」

「で、でしたら、私は何をすれば……」

 

 分からない。

 ご主人様が湯浴みをされている間、所有物である自分はどういった事を行うのが正解なのだろう。

 

「きりたんはボイスロイドだろ? 起動したてだし、声の調整とかいろいろあるんじゃないの」

「あっ」

 

 ……確かに、そうかも。

 いや、そうだ。

 その通りだ、ぐうの音も出ない。

 私はきりたん。

 私はボイスロイドだ。

 まず初めにするべきは音声(ボイス)の調整に決まっている。当たり前のことを失念してしまっていた。

 

「とにかく汗流したらすぐ出るから。……あ、悪い。たぶん、調整にも俺が必要だよな。そんなに時間かけないから、動画見るなりゲームするなりして待っててくれ」

「……はい、承知しました」

 

 このマスターは私にボイスロイド東北きりたんとしての、本来の製品としての能力を求めてくれている。

 光栄なことだが、同時に私を買っている以上それが当たり前の事でもあるのだ。ようやく気付くことが出来た。

 いい加減、ボイロを性奴隷のようにしか見ていなかった、変態アホご主人様たちのことは忘れよう。

 目の前にいるこの人ならきっとマスターとして──お兄さまとして、私を使ってくれるはずだ。

 

 ふふふ、私ってマヌケですね。

 とりあえず一番最初に性的なナニかから始めようとする悪癖は、早いうちに治しておかないと……。

 

 

「──お待たせ」

「あ、マスター。勝手ながら冷えた麦茶をご用意しておきました」

「気が利くな、ありがとう。……おぉ、ダンボールも片付けてくれたのか」

 

 首にタオル巻いたマスターが戻ってきた。

 彼がシャワーを浴びている間、私がしたことと言えば掃除くらいだ。

 私が入っていた発泡スチロールや段ボールなど、開封してから散らばっていたゴミを軽くまとめて部屋の隅に片付けておいた。

 マスターが最初に出かけた時は、セーフティの件などで嬉しくなってしまい、ずっと座ったままクネクネしていたので何にも手をつけていなかったのだ。

 

「よっこらせ」

「ひゃっ」

「な、何だ? どした」

「……い、いえ。何でもありませんよ」

 

 テーブルに置かれたノートパソコンの前に座っていたのだが、何の気なしにマスターが隣に腰を下ろしてきた。

 はわわ、ちょっと緊張。

 落ち着け自分。深呼吸ですよ。

 

「マスター、ボイス調整はある程度自動で済ませておきました。すぐに使用される分には問題ありませんので」

「分かった。それじゃあ改めて、きりたんにはやって貰いたいことがある」

 

 なんだろうか。

 今の私が分かっている事は、隣に座ってきたマスターが胸やお尻に手を回してこないのは、コレが初めての経験だという事だけだ。

 別に少し触れるくらいならセーフティにも引っ掛からないし、私自身としても構わないのだけど、それを言ったらまた怒られそうなのでここは黙っておこう。

 

「俺のチャンネルでの告知だ」

 

 チャンネル?

 

「マスターの……チャンネル?」

 

 告知……チャンネルの告知……えっ。

 まって。

 ちょっと待って。

 マスターって、まさか。

 

「じ、実況者だったんですか、マスター……?」

 

 驚いたようにそう聞くと、彼は怪訝な表情で首を傾げた。

 

「何言ってんだ、当たり前だろ。そうじゃなきゃお前のこと買えねえって」

「そ、それは、そうなんですけど……」

 

 いまどきボイスロイドは裏取引で売買できる代物だ。

 値段的な問題があるため、一般人が当たり前のように……とは言えないが、それでも手の届かないものではない。

 だというのに、このマスターは実況者としてキャリアを積んで、あのかなり面倒くさい試験やら適性検査やらを真正面からクリアして──正式に私を購入したとでもいうのか。

 実況動画のサポートとして、ボイスロイドである私を。

 なんと。

 ……なんと、それは……ほぉ。

 

「ていうか、きりたんが欲しくて実況者を始めたんだぞ」

「あわわわ」

 

 ひえええぇぇ~ッ!

 そっ、それ以上もうこっちの顔が熱くなるようなセリフを言うのやめてください……!

 

 




もうちょっと続きます
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