ボイスロイドを買ったのでさっそく犯す   作:お兄さマスター

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一部の端末で生じていた読み上げ機能がつかえない不具合が治ったみたいです 安心


ゆかきり

 

 

 

 よく晴れたある日のこと。

 インターネットだけでは知識が偏るという噂を耳にした私は、兄さまと一緒に大学の図書館にお邪魔していた。

 ちなみにちゃんと変装してます。

 

「俺に構わず好きに回ってていいからな」

「はーい」

 

 茜さんとずんねえさまは診療所にいて、小一時間ほど調べ物をしたら後ほど合流する予定だ。

 今日は大事を取って休んでいた兄さまが久しぶりに診療所へ顔を出す日でもあり、ねえさまからの電話によると、いつにも増してゆかりさんの機嫌が良いらしい。

 あの人も大概というか、兄さまが関わったボイスロイドはみな彼に対して一定以上の好感を抱いている。

 スタンド使いはスタンド使いにひかれ合うという話もあるように、彼にはボイスロイドを引き寄せる不思議な引力でもあるのかもしれない。

 

 私も彼に惹かれたボイスロイドの一人だ。

 この前は深夜頃に起床した兄さまにぎゅっとされて、もしやこのまま一線を越えてしまうのではないかと思い、咄嗟に意味深なセリフを口にしてしまった。

 結局あの時は兄さまが頭を冷やすと言って外出してくれたから事なきを得たものの、あのまま受け入れていたら大変な事態に陥っていた可能性もある。

 そう、私のセーフティが有効だったからだ。

 ボイスロイド側からの奉仕であれば発動はしないが、マスターから手を出されている状態でその先の行為の承認をする、という行為は若干グレーな気がする。

 下手すれば互いの意思に反してセーフティが発動してしまい、通報されて兄さまがお縄を頂戴されていたかもしれなかった。

 あのとき実はとても危ない橋を渡っていたのだ。

 

 兄さまから触れてくれるのは嬉しいけど、それで危ない可能性が出てくるのなら、いっそゆかりさんに頼んでセーフティを無効にでもしてもらったほうがいいのだろうか。

 でも、そもそも私を購入した時にセーフティを有効に切り替えたのは兄さまだ。

 単にセーフティの存在を忘れていたのか、それとも通報されない範囲の触れ合い程度しか最初からやらないつもりだったのか。

 私を購入したあの日に判明した『直接手は出さないが東北きりたん自体にはそういう目を向けている』という兄さまの実態を思い出して──最近、なんだかよく分からなくなってきている。

 

 あくまでボイスロイドをサポートAIとだけ認識している真面目な動画投稿者、ということならこんな疑問は浮かんでこなかった。

 彼はそこそこ有名な配信者。

 動画サポートAIを必要としていて、それはそれとして東北きりたんにもアレな意味で興味がある。

 上記二つの条件が揃っているのだから、この現代の常識や倫理観を踏まえて考えると、彼は最低でも自慰感覚で私に奉仕をさせてくるはずなのだ。

 

 しかし、それをしない。

 高機能AIが普及しつつあるこの世界における、一般人が抱きがちなアンドロイドへの考えとは、明らかに異なる思想を秘めている。

 自分が購入した道具であるボイスロイドを、まるで一人の人間のように扱っている。

 彼にとってのボイスロイドとは、他の人間から見た場合のボイスロイドとは、また違った風に見えているのかもしれない。

 どうしてそうなったのか。

 ご両親を失ったあの事件以外で、幼少期に何か考えが変わる()()()()となった出会いでもあったのか。

 

 

 ……ふーむ。

 うん、考えるのやめた。

 

 ヒントが皆無の状態じゃ分かんないし、いま思考したってしょうがないことだ。

 とりあえず彼が深夜に起床してしまう件に関しては、あと数日くらい様子見しよう。

 ボイスロイドに対しての直接的な接触への抵抗感が少しだけ薄まったのは、兄さまの気の迷いだった、という可能性もある。

 どうしても抑えきれないときは一旦彼に手を止めてもらい、こちらから奉仕をするという形にすればセーフティの件は問題ないはずだ。

 難しい事に対しては一旦の対応策だけ考えておいて、いまは図書館での情報収集に専念しよう。

 

「うーん、うーん……!」

 

 本を捜し歩いていると、かなり上の棚の本を取ろうと背伸びをしている黒髪の女性が視界の端に映った。

 彼女の姿を認めたあと周囲を見回して分かったことだが、ここら辺には踏み台が見当たらなかった。

 図書館ではほぼ一定間隔で踏み台が設置されているため、どこかの誰かが別の場所へ持っていったまま戻していないのかもしれない。

 

「もう少しっ」

「……この本?」

「えっ。……あ、はい」

 

 危なっかしい挙動の少女が手を伸ばしていた先の本を、偶然近くを通りかかった兄さまが取り、それを手渡した。

 彼女よりも背が高いので兄さまにとっては簡単に取れる位置だったようだ。

 

「ごめん、余計なお世話だったかな。それじゃ」

「い、いえっ、ありがとうございます。……あっ! あの、学生証落とされましたよ!」

「えっ?」

 

 はわわ、兄さまがラブコメしておられる。

 邪魔しないように向こうで本を読んでよう。

 

 

「いだっ!」

 

 数分後。

 図書館の端っこのほうで黙々と本を読んでいると、近くを通りかかった少女が躓いて転倒してしまった。

 その際持っていた本は散乱し、何やらほかにもいろいろ落としている。

 

 大丈夫ですか、と。

 

 声をかけようとしたその直前に、彼女が先ほど兄さまとラブコメをしていた女性だということに気が付いた。

 それだけではない。

 黒い髪はカツラだったようで、ウィッグが吹っ飛んだ彼女の髪は真珠のような艶やかな純白であった。

 美しい白髪をたたえた少女は他にも落としたものがある。

 それは肌色の首輪のようなもの。

 モノというか見覚えのあるパーツだった。

 あれは私たちボイスロイドが首元の黒い液晶部分を隠すために付けている追加パーツに他ならない。

 診療所での経験でボイロのパーツに関して詳しくなった私の目に狂いはない。

 カツラをかぶって変装し、人間では絶対に付けないであろうボイスロイドのパーツを落とし、何より実際に首元の黒い液晶があらわになっている彼女の正体は、どう考えてもたった一つだけだ。

 

「……あなた、ボイスロイドですか?」

 

 そう私に質問されて肩をびくつかせた少女の姿に見覚えがある。

 ボイスロイドの中でも割と有名な部類に入るお方で、なにより診療所を営むあのゆかりさんの後輩ということで、その情報はあらかじめ頭の中に入っていた。

 

「私、マスターに同行してこの図書館に来たボイスロイドの東北きりたんです。あなたは?」

 

 散乱した荷物をすべて拾って机の上に置き、ついでに自分では取り付けづらい首の液晶隠しを装着させてあげながら質問すると、数秒ほど迷って口をつぐんでいた彼女がようやっと返事を返してくれた。

 とても綺麗な、優しさを感じる明るい声音で。

 

「……き、紲星(きずな)あかり……です」

 

 かつてゆかりさんが『ひどいマスターのもとから一緒に逃げた』と言っていたその後輩さんに、私はこの人間だらけの図書館で出会ったのであった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 

「ボイスロイドの診療所……なるほど。先輩そんなすごい人になってたんだ」

 

 図書館内でのお喋りは厳禁とのことで、私たちは中庭の休憩スペースにあるベンチに座って、互いの情報を交換し合っていた。

 茜さんの時もそうだったが、このご時世ボイスロイドというのは基本的にみな生活環境が大きく異なるため、他のボイロにあったときにも生き残るためのアドバイスなどができるよう、マスターのプライバシーに大きく影響しない範囲での情報共有を行うのが私たちの『挨拶』となっている。

 姉妹機でなくとも数少ない大切な同胞、というのがボイスロイド同士の共通認識だ。

 出荷前の生活シミュレーションでは稀に家族以外のボイロとも交流することがあったため、人間の感覚で例えると久しぶりに会った学生の頃の友人──みたいな感じだろうか。

 少々口が軽くなることもあるというか、正直言って他のボイスロイドとの対話はけっこう楽しい。

 そのため私たちはすっかり意気投合してしまい、連絡先を交換してもなお会話に花が咲いていた。

 

「あ、きりちゃんも診療所で働いてるんだね。……変な服を着せられてたりしてない?」

「特殊なナース服を……」

「ふわー、やっぱり。あの人たまにアタシを着せ替え人形みたいにしてたし、そういう所あるんだろうな」

 

 おしゃれ好きというか、自分はいつもの服の上に白衣という代わり映えしない服装をしている割に、他の女の子には色々と着せたがるという変わった特性があるのは確かだ。

 診療所には五種類くらいタイプ別のナース服が置いてあるし。そんなにたくさんは着れません。

 

「…………そっか。先輩、あのプログラムを克服したんだ」

「プログラム?」

「先輩から何か聞いてない? きりちゃんくらい近しい人になら話してると思うんだけど」

「……あ、そういえば前に一度」

 

 ちゃんと覚えてるぞ。

 結構衝撃的だったから。

 

「サイコガン」

「……そ、そっちじゃなくて」

 

 違ったようだ。

 

「特定のワードを言われたら、無条件で発言者に服従して目にハートが浮かんで発情するプログラム……でしたっけ」

「そうそう、それね」

 

 私の口からプログラム名を聞いたあかりさんは、どこか遠くを見つめている。

 自分で言ってみて改めて思ったことだが、やっぱり結構頭の悪いプログラムだと思う。

 こんなしょうもないモノを仕込まれているのにしっかりと自立しているゆかりさんは、やっぱりすごい人だ。

 

「中枢プログラムに植え付けられたものだから、アタシにも未だに組み込まれていてね。先輩がどうなってるか心配だったんだ。……でも、聞いた限りの様子なら問題なさそうでよかった」

 

 実際大丈夫なのか、そうでないのか。

 それは私には判断しかねることだ。

 なにより彼女たちが聞いたら発情してしまうという『特定のワード』というもの自体が、どんなものなのか把握していない。

 日常に溢れるものだった場合はかなりヤバいけど、ゆかりさんとあかりさんへの禁句ってなんなんだろう?

 まぁ、これまで普通に会話を続けていて、ゆかりさんが禁止した言葉も無ければ、特定のワードを言われて顔をしかめた事もないのだし、よほど特殊な文字列のワードなのだろう。

 あまり心配する必要もないかもしれない。

 

 

 

 

 ──などと、楽観視していたのが失敗だったのかもしれない。

 

「はああぁぁぁあああぁっ♡♡ きりちゃんきりちゃんきりちゃん♡♡♡ んー、ちゅっ、ちゅーしましょう♡♡♡♡♡」

「たっ、助けてぇーッ!!」

 

 診療所に到着してから数十分後の事だった。

 兄さまが忘れ物を取りに自宅へ帰り、ずんねえさまが買い出しに出かけて診療所が三人になったとき、患者さんもいないため私たちは戸棚の整理をしながらラジオを聴いていた。

 それを聴きながらの雑談。

 取り留めのない、いつも通りの会話のハズだったのだ。

 だからこそ()()()()()()()()()()()分からなかった。

 

「マスターはよ来てください! なんか変貌したゆかりさんがきりたん襲ってて──」

 

 いつの間にかゆかりさんの瞳の中にはピンク色のハートが浮かんでおり、発情というより暴走したような雰囲気で私に襲い掛かってきた。

 たぶん私が禁止ワードを口にしてしまったであろう事は察したものの、ワードを聴いてから発情までに若干のタイムラグがあったのか、会話が一瞬途切れた後に飛びかかってきたため、禁止ワードがなんなのかまるで見当がつかない。

 それよりこの状況ヤバぁっわわゆかりさんちょっとどこ触ってひゃあああ!

 

「マスターには電話した! ずんちゃんもそろそろ戻ってくるはずや!」

 

 茜さんがスマホをかなぐり捨ててゆかりさんのお腹にしがみつき、私から引き剥がそうとしている。

 ちなみに体勢的にはゆかりさんが私を文字通り押し倒して馬乗りになっており、茜さんが背後から彼女を引っぺがそうとしている感じ。

 とてもカオス。

 平和な診療所が一瞬にして戦場へと変貌してしまった。

 

「ゆかりさんやめーや! 正気にもど──」

「うるさいですね茜ちゃん! ちょっとばかりお静かに! んっ!!」

「むぐぅッ!!?」

 

 ズキュウウウウウン。

 茜さんはゆかりさんによるエグいディープキスの餌食にされてしまい、ものの数秒で撃沈してしまった。

 

「はわわ……っ!」

「んふふ♡ これでわたし達を邪魔するものはありませんね♡ さぁきりちゃん、一緒にナメクジみたいな濡れ濡れくんずほぐれつレズプレイに勤しみましょう♡♡♡」

 

 く、喰われる。

 文字通り彼女に貪られてしまう。

 プチ、プチ、とゆかりさんが自らの服のボタンを上から順に外していて、彼女が冗談でもなんでもなく本気で私を食べてしまうつもりだという事を察して血の気が引いた。

 遂にシャツをはだけさせ、下着姿まで露になってしまった。

 とてもマズい。

 

「……お、女の子とシた経験なんて無くて……」

「心配ご無用です、わたしが一から十まで徹底的に手ほどきして差し上げますから♡♡ さっきりちゃん♡♡♡ まずは挨拶代わりのキスを……」

「ふわあぁぁぁ……っ!!」

 

 む、無念……。

 

 

「──きりたんっ!! お姉ちゃんが助けにきたよ!!」

 

 

 もはやこれまでと観念したその瞬間、診療所の扉を蹴り破って深緑色の長髪を靡かせた少女が突入してきた。

 その名は東北ずん子。

 私のピンチにはいつでも駆けつけてくれる、自慢の無敵のお姉さまであった。

 

「フヒヒヒヒヒ♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

「正気に戻ってゆかりちゃんッ!」

「ずっ、ずんねえさま! 今のゆかりさんに言葉による説得は無意味です!」 

 

 死に物狂いで現状を伝える私。

 するとお姉さまは懐から小さなタッパーを取り出し、それを開封。

 

「だったら少し手荒になるけどコレしかないね!」

 

 彼女が手を突っ込んで取り出した中身は──ずんだのお団子だった。

 

「ずんだヒーリング!!」

「ムグっ!?」

 

 それをゆかりさんの口内へブチ込む。

 挙動は完全に螺旋丸のそれだ。

 

「…………ハッ。……わたしは、何を……?」

「よ、よかった……ゆかりさんが戻りました……」

「きりちゃん……? ──っ!? わっ、わわわたしなんて恰好して……!?」

 

 お姉さまの言った通りかなり手荒な方法を取ったこともあり、その分発揮される効力も強かったのか、ずんだ団子を食わされたゆかりさんはすぐに正気を取り戻すことができた。

 喰らおうとしていた者が、逆に食わされるという皮肉めいた攻撃で正気に戻るとは……なんにせよ、やはりずんねえさま特製のずんだアイテムは汎用性が凄まじい。

 まさか詳しい式も何もかもが不明な自動発動プログラムを、ものの数秒で鎮静化させてしまうとは。

 ずんだ、すごい。

 

「ゆかりさんっ、きりたん! 二人とも無事か!?」

 

 ちょうど兄さまもご到着。

 

「……って、あれ?」

 

 しかし事件はすでに解決している。

 マスターの出る幕が無かったのは、余計な仕事を増やさなかったという点では良かったのかもしれない。

 しかし──

 

 

「ゆ、ゆかりさん……?」

「っ!? あっ……み、見ないでください柏木くん……っ!」

 

 

 発情していたときに私を犯そうとする過程で衣服をはだけさせていたゆかりさんは、絶対に見せる予定など無かったであろうそのあられもない下着姿を、兄さまの目に焼きつけさせてしまう状況を生み出してしまっていた。

 瞬間、私はお姉さまにアイコンタクトをした。

 

「あっ、あの、ごめ! 見るつもりじゃなかっ」

「ずんだ記憶消去ォっ!!」

「ブ゛ッ!!!」

 

 意図をくみ取ってくれたずんねえさまは、即座にずんだ餅をどこからともなく出現させ、それを兄さまの顔面に全力投球。

 見事に兄さまを気絶させた。

 

「ご、ごめんなさいお兄さん……!」

「コレは事故です。兄さまが責任を取るとか言い出す前に……こうするしかなかったんです、ねえさま」

「…………あ、あの、なんなんですか、この状況……?」

 

 とりあえずゆかりさんに上着を着せ、兄さまを患者用のベッドへ寝かせたあと、ディープキスでお目目がグルグルになった茜さんを見ながら、私とねえさまはこの後どうしたものかとため息をはきながら、頭を抱えてしまうのであった。

 

 

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