ボイスロイドを買ったのでさっそく犯す   作:お兄さマスター

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攻撃りたん 中盤戦

 

 

 

 まず、私たちが兄さまと生活していて、不快な思いをしたことがほとんど無いという事実がある。

 

 強気で何かを命令してくることはなく、過激だったり無理やりな撮影を強行することもなく、あまつさえボイスロイド側の要求を飲んで自分の意見を降ろすことも珍しくなかった。

 それは以前までのマスター達という事例を鑑みると、まったく普通のことではなかった。

 大前提として、ボイスロイドはユーザーが動画作成のサポートのために使用する道具だ。

 ユーザーの指示であればどんなことでも従い、基本的には反論もしない従順な存在。

 遠慮せず意見して欲しいと言われれば多少は自らの考えを口にすることもあるが、それでもやはりボイスロイドが人間と対等な関係を築くことはあり得なかった。

 当然だ。

 だって私たちは事実として道具なのだから。

 

「……お兄さん?」

「な、なんで、そんな……っ」

 

 私たちが攻勢に出てから少し経って。

 彼がそんな道具であるボイスロイドたちに対して、どれほど対等に──どれほど愛情深く接してくれていたのか、それを理解してもらうためにアレコレ思い出を語りながら兄さまを褒めていたら、ついに彼が涙ぐんでしまった。

 いままでは私たちに対してしっかりした大人として振る舞っていたけれど、彼は意外と涙もろい性格なのかもしれない。

 

「あらら……ほらマスター、ウチの胸で泣いてもええんやで」

「で、できない……」

 

 しかしこんな時でも距離感ガチガチ。

 女の子に対して遠慮ができるというか、さすがにちょっと遠慮しすぎというか。

 ……私たちはそろそろ遠慮をやめようと思いますけどね。

 

「はい、ぴたっ」

「っ!?」

 

 試しに後ろから抱きついて、彼の頬にピタッとほっぺをくっつけてみた。

 そんなに距離を離すならこっちから詰めるしかない。

 

「きっ、きりっ……!?」

「兄さま、分かってますか」

「へっ……?」

 

 彼は理解していない。

 私たちがどれほど大きな感情を彼に向けているのかを。

 これまで虐げられてきたボイスロイドが、自分の行いによってどれだけ救われているのかを、全くもって分かってない。

 

「兄さま、自分のことを邪悪な人間みたいに言ってますけど……」

 

 もしこの人の属性が悪であったなら、この世の全てが欺瞞になる。

 そう思えてしまうほどに──彼は善性の塊だった。

 優しいだけじゃない。

 間違いを叱る厳しさがあって、茜さんの元マスターに好き勝手言われた時の様に、見当違いだったり酷い罵声を浴びせられても、何も言わずに受け止める強さも兼ね備えている。

 

「少なくとも私たちボイスロイドにとって……兄さまはヒーローなんです」

 

 私が言いながら腕に力を込めると、ずんねえさまと茜さんもそれぞれ彼の手を握った。

 

「せや。ウチを普通のボイスロイドにしてくれて、二度と会えないと思ってた葵と引き合わせてくれたのもマスターだし」

「廃棄される未来しかない改造品の私を、きりたんのお姉ちゃんのままでいさせてくれたのもお兄さんなんだよ?」

「さ、三人とも……」

 

 こんな事ですぐに顔を赤くしてしまう彼が愛おしいと思う。

 きっと私たち三人が同じ気持ちだ。

 買ってくれた時から……いや、ボイスロイドとして存在を認めてくれたその時から、ずっとこの人に惹かれている。

 

「……俺、なんて……っ」

 

 けど、きっとこの状況で好意をぶつけたところで、彼はこんな自分じゃ答えられないと言って拒絶してしまうことだろう。

 私たちが今ここでどれほど称賛して褒めそやしてもすぐに意識が変わるわけではない。

 

「兄さま、聞いてください」

 

 時間が必要なのだ。

 私たちが本気だと知ってもらうための、彼が自分を立派なボイスロイドのマスターだと認められるようになるまでの、ちょっとした時間が重要だ。

 すぐにでも受け入れて欲しいところだけど、やっぱり彼も人間だから。

 理解に必要なのはたくさんの真摯な言葉じゃなくて、真意を分かってもらうための時間なんだ。

 

「もし、いま兄さまがセーフティを解除しようとしても……私たち三人は逃げたりしませんよ」

「……っ」

「それがどうしてなのか分かりますか?」

「…………わからない。だって俺は……」

 

 ホントに分かんないみたい。

 鈍感というよりとぼけてるだけなんじゃ……まあそう簡単に信じられるわけじゃないし、しょうがないか。

 

「ふふ。それはまあ、兄さまなら構わないって思ってるからですかね」

「か、構わないって……」

「つまりそういうことですよ」

「そういうこと……?」

「……あー、もう。少しは察してくださーい」

 

 耳たぶをムニムニ触りながらイタズラめいた声音で囁いていると、兄さまの鼻息がだんだん荒くなり始めてるのを察した。

 ちょっと近すぎたかな。

 

「……お前らがそれを許してくれたとして、それで俺が変わってしまったらどうするつもりなんだ? 俺だって一人の人間だし、荒れた人格に変わらないなんて保証はどこにもない。茜のマスターみたいになるかもしれないのに……ていうか、初日にセーフティを解除するようなヤツなんだぞ」

 

 脅す様に言ってくる兄さまだが、その声に覇気は感じられない。

 私たちは一旦離れ、改めて彼の前に三人で座る。

 今度は私だけに任せず、三人とも真っ直ぐに兄さまの目を見つめた。

 

「もしそうなったとしたら……それはウチらの責任や」

「ええ、当然それくらいは覚悟してます」

「お兄さんには何をされたってかまわないって……でも、そう思えたのはお兄さんのおかげなんだよ。お兄さんがあたし達を"ボイスロイド"として扱ってくれたから」

 

 ずんねえさまの言う通り彼は私たちを動画作成サポートAIとして活用してくれた。

 それだけに留まらず、まるで人間の少女のような自由と権利を許してくれた。

 道具であるはずの存在を対等なパートナーとして扱ってくれたのだ。

 そこまでしてくれた相手に対して失望やら軽蔑だなんて見当違いな感情を抱くはずがないというのに……まったくこの人は。

 

「お、お前ら、自分が何を言ってるのか分かってんのか……?」

 

 ええ当然ですとも。

 そっちこそ自分の状況わかってるんですか。

 

「……あれっ。私たちに手を出す勇気もないのにセーフティを弄ったんですか?」

「なっ!」

 

 とりあえず彼の好きそうな小悪魔めいた笑みを浮かべて挑発してみた。

 真面目な態度で接すると彼の倫理観が邪魔してくるから、まずは冷静さを欠いてもらわないと話が先に進まない。

 

「あんまり大人を舐めるなよ。こっちがその気になれば……」

「ふふ、やっぱり情けない大人じゃ暗い部屋でのひとり遊びがせいぜいみたいですね。ハーレムを前にしてもタジタジで何も出来ないんだ。あーあ、もったいない」

「こ、このガキ……ッ」

 

 捨てられないために兄さまの大切な存在になる……その為にはとある一線を越えるのが有効かつ確実だ。

 そしてそれを誘発させたいのなら、彼を彼自身が同人誌を読んで憧れていた『大人』というキャラクターにしてあげればいい。

 加えて実家のゲームでハーレムご奉仕されているモノを好んでプレイしていたから、それに寄せたシチュエーションを提供してあげればさしもの兄さまも食いついて来てくれることだろう。

 ちょうど三人だし。

 ゆかりさんを合わせれば四人になっていよいよ最強だ。

 ふはは、完璧です。

 

「クスクス……やっぱり童貞さんはよわよわですねぇ〜」

「てめっ!」

 

 そんなこんなで。

 なんとなく兄さまを揶揄っていたら、彼が醸し出していた気まずそうな雰囲気はいつの間にか霧散していた。

 とりあえず今後の作戦は三人で話し合うとして、彼が自分を責め続ける状況を打破出来たことを、今は素直に喜んでおこう。

 ……コッショリを誘発させるためのシチュエーション、どうしようかな。

 あっ、そうだ。せっかくの夏なんだから夏らしく、兄さまをプールにでも誘ってみようか。

 

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