ボイスロイドを買ったのでさっそく犯す 作:お兄さマスター
──おかしい。
気がつけば自宅の布団の中だったのだが、友人と酒を飲んでからの記憶があまり残っていない。
俺、家に帰ってから何してたんだっけ。
きりたんのおなかを眺めたかったことしか覚えてないぞ。
「……そと、明るいな」
カーテンの隙間から差す陽の光がやけに眩しい。
壁に掛けてある時計の時刻は朝九時を回った頃だ。
昨晩は翌日の予定が何もないことが分かっていたから浴びるように酒を飲んだわけだが……その結果が良いものではなかったことは容易に想像ができる。
頭がガンガンする。
ちょっとした吐き気もあり、明らかに体調がダルい。
「…………なんだ、これ?」
それに加えて自分の現状も妙だった。
いつも通り部屋のテーブルを片付けてから布団を敷き、床に就いたことは見ればわかるのだが
イタコがうちに来て五人で寝ることになり、今のままでは布団が足りないという話になったため、寝具を新たに購入したのがつい二日ほど前で。
部屋に布団を三つ敷き、左端が俺一人、真ん中が茜ときりたん、右端がずん子とイタコ──そんなポジショニングにしようと事前に決めていたはず……だったのだが。
「なんで俺が真ん中に……」
そう。
俺のいるポジションがおかしい。
左右に美少女。
懐に二人の美少女。
良く言えば同居人と仲睦まじく川の字での就寝だが、実際はそんなほんわかした状況ではない。
俺の腕枕を当然のように享受しているのはイタコとずん子。
まるでコアラのごとく身体に引っ付いて未だに眠りこけている二人は茜ときりたん。
四人の少女たちに囲まれているこの状況はもはや拘束に近く、身動き一つできない俺は天井や窓を見つめるぐらいしか選択肢がない。
加えて男の本能を刺激するような甘い匂いが充満しており、鼻腔を通って強く脳を刺激してくるため、興奮と緊張で心臓の鼓動が爆速になってしまっている。
「──ぅ、ん」
鼓動がそのまま早い鼻息に変換されていくなかで、左胸にくっついて就寝していたきりたんがうっすらと目を覚ました。
発情したように鼻息を荒くしていたせいなのか、その騒音によってほかのボイスロイドたちも朝の眠りから覚醒しようとしている。
「あ……」
ゆっくりと顔を上げ、寝ぼけ眼で俺の存在を視認したきりたんは、なぜか照れたように一瞬目をそらし。
この状況を不可解に思った俺が質問を繰り出すよりも前に、彼女は俺へぽつりと告げた。
「……きのうは、ありがとうございました、あにさま。……えへへ」
若干だらしのない笑顔でそう口にした彼女は、いつもの適切な距離感やほんの少しのメスガキ成分の欠片すら感じさせないまま、まるで同棲している恋人に甘えるかのごとく再び俺に引っ付き、二度寝を始めてしまった。
「…………??????」
──なにが何だかわからない。
昨晩、俺はなにをして。
昨晩、彼女たちはいったい何をされたのか。
まったく思い出せないまま目をぱちくりさせて固まることしか俺にはできなかった。
◆
ボイスロイドたちが買い出しに向かってから数分後。
忘却した記憶に悶々としたままで編集が手につかない俺は気分転換になればと考え、死にゲーで有名なフリーゲームをしながらの雑談配信を開始した。
「あ、そういえばですけど。次回から東北イタコが動画メンバーに加わるんでよろしくです」
また視聴者に騙されてイライラしつつ、思い出したように告知した。
茜がウチにきてからまだ一ヶ月も経ってないのに新しいボイスロイドが加入することについて彼らはどう思うのだろうか。
流石にスパンが短すぎるというか、もともと購入するのはきりたんだけのつもりで視聴者たちにもそう言っていたのに、あれよあれよという間にたった二ヶ月弱で四人までに膨れ上がってしまった。
診療所から給料が出るようになったのと、動画の収益を合わせればギリギリ四人の運用は可能だが、それはそれとして節制しなければいけないのは事実だ。
心配されるのかな。主に生活費の面で。
『は?』
『え』
あ、なんか冷たい。
『もしかして本当に石油王?』
『餅くん……』
『いや金は関係ないだろ』
荒れてるわけではないが不穏な空気だ。
というか金は関係ないとはどういう意味だろうか。
『????』
『たしか東北イタコって一般販売してないぞ』
『柏餅は怪盗だった……?』
『なんで非売品が手に入ってるんですかね……』
『正規ルートはなんだったの?』
『去年のボイロフェスで企業側に呼ばれたクリエイターだけ抽選に参加できたらしい』
マジで? 非売品だったのアイツ。
ならボイロ誘拐犯だったあの男って何者だったんだ。
俺の出自も知ってたし、普通は手に入らない非売品のボイロも所持していて……謎だな。
近いうちに面会の申請を出しておこうか。イタコのこと以外にも質問したいことは山積みなんだ。
『ボイロ界隈が無法だった暗黒時代ですら取引されてなかった激レア限定モデルです』
「……そ、そういえばそうでしたね」
『どうやって入手したか聞いてもいいの?』
『バカ』
『おい』
「あっ、いや、大丈夫です。……えーと、あれ知り合いから譲ってもらったんですよ」
『……???』
『餅の人脈どうなってんだ』
なんだか良くない流れな気がする。
イタコの話題はここらへんで終わりにしといたほうがよさそうだ。
「今日の夕方にでも生放送するんで、気になる人はイタコに直接質問してくださいね。質問箱のURL貼っときます」
『たすかる』
『ボイロ自身に質疑応答させるとか相変わらず自由なチャンネルだな』
『マスターとしての柏餅が好かれてるのはサブチャンネルのボイロたちの様子をみればわかるんだけどね……』
『心配してるわけじゃないけど一応聞くね。これで所持ボイロ何人?』
何人だっけ。
「あー……きりたん、ずん子、茜とイタコで四人か。……四人かぁ」
『悲しみの声音が聞こえる』
『かわいそう』
『餅くんって確かまだ大学生じゃなかった?』
『なんでそれ把握してんだよ』
『今年の二月十五日のゲリラ配信で『もう三年生かー』って呟いてたよね』
『みんな知ってるだろ』
『ガチ勢こわ……』
これに関しては年齢がバレるくらいなら別に気にしていない俺サイドにも問題はあるかもしれない。
でもやっぱり視聴者の大半が俺の懐事情の寒さを把握してんの怖いな。俺のこと知りすぎです。
『お餅すっかりハーレム主人公だね』
「そうかな……そうかも……」
男女比の状況だけ考えれば確かにそう見えなくもない。
こんなはずではなかったんだが。
『どうせまた増えるだろ』
「……いやいや、流石にないですよ。マジで四人がギリですって」
『ボイロホイホイがなんか言ってる』
『まぁ初期から柏餅と一緒にいたのは俺たちなんだけどな』
『柏餅は最初からハーレムだったよ』
『登録者五十三人の頃から観てるんで古参面していいか?』
『四人がなんだってんだ! こっちは八十三万人だぞ!!』
『ボイロと張り合うな』
どういう争いしてるんだこのコメント欄は……。
「放送一旦おわりにしますね。お風呂入ってきます」
『●REC』
『通報した』
『お昼から風呂とかしずかちゃんみたいだなお前な』
『…………またボイロ増えたらどうしよう』
え、何の心配?
『こういう時じゃなくてもソロ実況待ってるからね』
「ありがとうございます。明日にでも適当になんかやりますよ」
『わぁい』
『デレた』
『お風呂いってら』
『速報:本社で開発中だったゆかり雫ちゃん脱走 とのこと』
えっ。
『は』
『さすがに草』
『狙ってんのか?』
『一週間後に「というわけで新メンバーが入りました」っていう放送しない? 大丈夫?』
『お餅の引力が発動しないことを切に願う』
「……流石にないですから」
視聴者の変なコメントに辟易して、放送を終わらせた俺は風呂場へと向かっていった。
さすがにもう増えないと思う。
本来はきりたんだけで良かったんだからハーレムなんて望むところではないし、俺としてもこれ以上誰かを引き受ける余裕など残っていないのだ。
仮に脱走したってニュースになってるボイロを見かけても通報してすぐに逃げよう。そうしよう。