ボイスロイドを買ったのでさっそく犯す 作:お兄さマスター
昼過ぎに大学の講義が終わり、クソ暑い日差しに背中を焼かれながら、自転車を漕ぐ。
つい先ほどコンビニへ寄り、きりたんの分のアイスも買って帰路についているところだ。溶けない内に帰宅しないと。
──彼女を家に迎えてから、早くも一週間が経過した。
きりたんはまだまだ新しいマスターには慣れないようで、以前からイメージしていた小生意気なメスガキりたんを見せてくる様子は未だにない。
相も変わらず物腰柔らかなマイルドきりたんであり、献身的に俺をサポートしてくれているのが現状だ。
まぁしかし、夢の島を遊んだとき辺りは彼女らしかったというか、ボスの強さに文句を言いながらゲームをするその姿は、俺が以前から知っているきりたんに近かったような気もする。
一度だけ『兄さま』と呼んでくれた事もあるのだが……またマスターに戻ってしまった。
なかなか急に仲良くなるというのは難しいらしい。
「ただいまー」
額の汗をぬぐいながら自宅の扉を開ける。
するといの一番に、俺の耳に小うるさい音声が飛び込んできた。
『ファアァァっ!! 兄さまがひとりえっちしてるううううう! ずん姉さま! ずん姉さまーっ!! あははは!!』
なんつう動画を見てるんだ、と帰宅早々に辟易してしまった。
「はわっ。……お、お帰りなさいませ、マスター」
居間では行儀よく正座しながらきりたんがノートパソコンで動画を見ており、その画面にはデフォルメされたきりたんがピョンピョン飛び回るアニメーションが映し出されている。
あの動画は俺も見た事がある。
成人向けノベルゲームの様な場面から始まり、いい雰囲気になった辺りで唐突にデフォルメきりたんのカットインが入り、視聴者を煽るかのようにクソムカつく顔で踊り狂うネタ動画だ。
変わったやつ見てますね。
「今日はずっと動画みてたのか?」
「はい、九時半ごろから。基本的な知識だけでは足りないと思ったので、とりあえず東北きりたんのタグが付いた動画を少々」
とはいえあの動画を学ぶ必要は……いや、まぁ取り込む情報が多いに越したことはないか。
少なくとも目の前にいるきりたんは、一人遊びをしているマスターに向かって、あんな風に煽り散らかすことはないだろうし。
というか、きりたんと共同生活をする都合上、しばらくは俺も自慰を控えねばならないのだ。
間違えてもこの動画の様な状況に陥る未来は訪れないだろうが、ちゃんと意識して禁欲を続けないと。
「アイス買ってきたけど」
「わ、ありがとうございます」
彼女の好みであるらしいチョコミントのカップアイスを手渡すと、きりたんはワクワクした面持ちでそれを開封していく。
ボイスロイドにも味覚の趣向は備わっているようで、きりたんは特に甘い物が好きだった。
最近は撮影の手伝いのご褒美としてアイスを一つ、というのがお決まりになっている。
実際彼女が出演を始めてから動画伸び率はうなぎ登りであるため、きりたんに感謝の印として好物を与えるのはマスターとして当然の行いだ。決して餌付けなんかではない。……はず。
「うまうま」
コイツかわいいな……無限にアイスあげちゃいそう……。
俺の人生でここまで美味しそうにアイスを食べてるやつを見るのは初めてだ。
グルメ漫画みたいなリアクションをマジでやるタイプなので、甘味を与える側としても見ていて嬉しくなってしまう。
コンビニでアイス買ってきただけでここまで喜んでくれるなんて、本当にいい子だ。
画面の中にいるメスガきりたんとは大違いである。
「……」
「マスター? お食べにならないのですか」
「えっ。……あ、あぁ、食べるよ」
俺もテーブルの前に座り、買ってきた棒アイスをかじり始めた。
──いけない。
とても良くない。
確かに俺はクソ生意気なメスガキをブチ犯してわからせる為にきりたんを購入した。
どんな卑劣なガキが出てくるのかと期待……もとい警戒しながら彼女を買ったわけだ。
そして、とても単純に考えれば、当初の目的は未だに達成されていない。
メスガキを分からせることは出来ていない。
何故なら俺の目の前にいる東北きりたんは普通に良い子で、間違えてもメスガキだなんて蔑称で呼べるような相手ではないからだ。
生意気でも何でもない相手に手を出したら、それはもう大人でもなんでもなく、ただの悪漢である。俺は悪漢になるつもりは微塵もない。
ない……が。
「ごちそうさまでした!」
「スプーンは流し台に置いといてくれ」
「いえいえ、残りの洗い物と一緒に片付けてしまいますから、マスターはゆっくりしててください」
「……お、おう。さんきゅ」
とても優しく誠実なこの少女を前にして、邪な考えなど脳内に微塵も存在していない──と言っては嘘になってしまう。
俺はこれまで東北きりたんを邪な目で見ていた。
それは変えようのない事実だ。あの秘密のフォルダが確たる証拠である。それを否定するつもりは毛頭ない。
だから彼女を購入した後は、生意気なクソガきりたんを分からせ続ける、爛れた日々を送るとばかり思っていたのだ。
いや、そうしたいとさえ考えていた。
間違いなく、それが俺の真実だった。
大人を煽る悪いロリを躾けて、兄さまだいすきえっちロリにしてやるつもりだったんだ。
「ふんふっふーんっ♪」
だが、ファルコン伝説のオープニングを鼻歌しながら、台所で洗い物をしてくれているあの東北きりたんに、そんな生意気そうな面影は欠片も見当たらない。
「……ウチにあるDVD、見たのか」
「あ、はい。面白そうなアニメだと思ったので」
「アニメのファルコンパンチ、かっこいいよな」
「です! 最終回は胸が熱くなりました……」
俺がガキの頃に叔父さんから貰った、もう十数年以上前の古いアニメですらも楽しく観れてしまう彼女を、エロ同人みたいにブチ犯す未来などまったく見えないし想像も叶わない。
「マスター、私とてもスマブラがしたい気分です」
「もしかしてファルコン使いたいの?」
「ファルコンパンチ!」
「あれで撃墜は夢のある話だ」
順調にゲームも得意になってきているし、彼女のスマブラのオンライン対戦の動画は、他の投稿してる動画と比べても再生数が頭一つ抜けている。
オンライン対戦型の動画は台本を用意できないため、ある程度はきりたんのアドリブに任せているわけだが、それがまた面白いことになっているのだ。
少しだけ気性が荒くなったり、優位に立つと明らかにニヤニヤしたりと、本来のきりたんに近い様子を見ることができる。
メスガキの片鱗、とまではいかないまでも、動画の映えを意識した都合上ある程度は生意気なセリフも口にするし、自然とそれが出てくることもあるのが彼女の対戦動画だ。
俺自身もそれを見ていて東北きりたんの実況を実感できるため、彼女自ら実況を名乗り出てくれるのは素直にありがたい。
「終わりました! はい、マスターもプロコン持って」
「え、俺もやんの」
「ダブルファルコンです。スマブラ界に蔓延る悪を討ち倒しましょう」
そういえば二人で協力プレイする実況は上げたことが無かった。
これで荒れるのか、それとも好感触を得られるのか、ともかくやってみなければ分からないことだ。
「ブーストファイヤー!」
「ノリノリだね……」
まぁ、きりたんがゲームに対して遠慮がなくなったのは良いことだ。
俺との距離感も少しずつだが縮まってはいるようだし、用意した環境や彼女との接し方は間違えていないと思う。
問題は俺の個人的な感情だけなのだ。
改めて禁欲を意識した途端、なんだか異様にムラムラしてきた。
我慢しよう、だなんて考えなければよかったかもしれない。
手を出すつもりで購入したきりたんには手を出せない。
このクソ狭い家で彼女と生活する都合上、プライベートな空間がほぼ消失し、欲を解消するためのアレコレも出来ない。
そうなると俺は三大欲求の内の一つを長期間封じられることになるわけだ。修行僧かよ。
「ファルコンパンチという名の膝!」
「それでいいのかきりたん」
「ふふふ、勝てばよかろうなのです」
「悪ってお前のことじゃない……?」
……とにかく、だ。
今は邪な考えになど思考は割かず、きりたんからの遠慮が減っている事を喜んでおこう。