Nighthawk 作:憑き燈
時系列:中間試験前
群論というよりも線形代数に出てくるような内容ですが、置換群の話は後々使うので。
第1話:置換と互換
10月某日の昼、食堂にて
「やぁ上杉。隣、いいかな?」
「あぁ。いいぞ」
少年は、炒飯が乗ったお盆をテーブルの上に置き、隣の椅子に腰を下ろす。
「それで?例の五つ子さん達の家庭教師はどんな感じ?」
「どうもこうもあるか!あいつら、バカすぎて話にならん!」
「仕方ないね。学校のレベルがレベルだから、上杉のようにまともに勉強ができるやつの方が珍しいよ」
「……なぁ、やっぱり手伝ってくれないか?あてにできるようなのがお前しかいない」
「僕は数学に関してくらいしか喋れないし、君みたいにある程度理解力のある人間相手じゃないとまともに教えられないよ」
「そこをなんとか!頼む!」
「そう言われてもね……あぁそうだ。煮詰まっているようだから、気分転換も兼ねて前回の続きを話そう」
少年はポケットの中から、適当な裏紙とシャープペンシルを取り出す。
「五つ子さん達、全員クラスがバラバラらしいね。ちょうどいいから例に使おう」
そういうと、少年は紙の上に何やら書き始めた。
「ええっと、たしか25431の順番だったから」
$\begin{pmatrix}1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\ 2 & 5 & 4 & 3 & 1\end{pmatrix}$
「できた」
「これは行列か?」
「いや、書き方は一緒だけど違うものだよ。これは置換といって、1が2に、2が5に、3が4に、4が3に、5が1に置き換わることを表してるんだ。専門的な用語を使えば、1から5までの整数を要素に持つ集合をXとして、XからXへの全単射写像だね」
「全単射……っていうと、1対1対応のことだよな?」
「そうそう。これは5つの文字を置換してるから、5次の置換と呼ばれる。1からnまでの整数を要素に持つ集合を用意して、同じように全単射写像を考えてあげればn次の置換だ」
「なるほどな。で?これがあいつら五つ子とどう関係があるんだ?」
「よく見てみなよ。長女が2組、次女が5組、三女が4組、四女が3組、五女が1組でしょ?」
「あぁ、そういうことか」
「ここで、5つのうち2つの数字の位置のみを交換する互換というものを考える。記号はこうだ」
(1 2)= $\begin{pmatrix}1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\2 & 1 & 3 & 4 & 5\end{pmatrix}$
「要するに入れ替えだな」
「そうだね。そして、この互換を複数組み合わせて、さっきの置換を表してみるんだ」
「……って言われてもな。どうやればいいんだ?」
「まずは、3から4、4から3の部分が互換になってるよね。ここはこれ以上他の数字に干渉しないから、切り離していい」
「そうなると、1から2、2から5、5から1の部分が残って……おい、まさか表せないとかいうオチじゃないだろうな?」
「まさか。1から2、2から1っていう互換と、1から5、5から1っていう互換をこの順番で組み合わせれば、ちゃんと表せるよ」
1→2
2→1→5
5→1
「あぁ、そうか。2が1に変わって、そこから5に変わるのか」
「つまり、最初の置換は3つの互換の組み合わせとして得られるってこと。3は奇数だから、奇置換って呼ばれるんだ。偶数個の互換で表せたら、偶置換」
「……なぁ、それって必ず偶数か奇数のどちらかになるのか?」
「流石上杉。鋭いね。結論から言えば、なる。けど、表し方が1通りってわけじゃない。例えば、さっきの例でいくと、2から5、5から2っていう互換と、1から2、2から1っていう互換の組み合わせでも成立する」
2→5
5→2→1
1→2
「表し方が複数あるのに、偶奇だけは絶対に変わらないってことか」
「そういうこと。証明は少し面倒だから、また次の機会に回そう。もうすぐ昼休みが終わる時間だ」
「あぁ、そういえばそうだな」
「じゃ!またね」
少年は素早く食堂を後にする。
「アイツ、上手く逃げやがったな……」
取り残された上杉は、そう呟いた。
※証明を小説内で文章化する予定はありません。気になる方は各自で調べてください。