Nighthawk   作:憑き燈

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終章
第F話:終点


「君たちさぁ......京都に来てまで数学の話してて楽しい?」

 

「お前にだけは言われたくない」

 

「代数の勉強なんて自分で適当にやればいいじゃん」

 

「俺に関してはそうだが、武田もいるからなるべく丁寧に教えてくれ」

 

「よろしく頼むよ。本堂君」

 

「ストップ上杉。君、本当はこんなことしてる場合じゃないでしょ?」

 

「え?」

 

「......なぜそう思うんだ?」

 

「説明しようとすると面倒だから、勘ってことにしておいて。それにね、最近鬱気味で調子が悪いんだ。万全の状態の君が指摘しないと、とんでもない間違いを喋ってしまいそうだ」

 

「お前、だからあのとき急いで喋り切ったのか......」

 

「悪いとは思ったんだけど、正直ロクに頭が働いていなくてね」

 

「1つ訊いていいか?」

 

「訊くだけなら自由だよ」

 

「なぜ修学旅行に参加しようと思った?いつものお前なら、こういう行事はパスするはずだ。調子が悪いなら尚更な」

 

「......気分転換だよ。あとは、自分の進退を考えに......かな」

 

「進退って、本堂君は大げさだなぁ」

 

「そうか......」

 

「さぁ、現実逃避の時間は終わりだよ。君は君の......やるべ...き...ことっ」

 

「おい!どうした!?」

 

「ちょっ!本堂君!?大丈夫?!」

 

「......すぅぅぅぅっ......はぁぁぁぁぁっ......大丈夫。ちょっと呼吸が変になっただけだから」

 

「保健の先生呼んでこようか?」

 

「いや、いいよ。病院の検査じゃ何も見つからなかったんだ。つまり精神的な症状ってこと。誰を呼んでもどうにもならないよ」

 

「お前、本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫に見える?相当参ってるよ。早いところカタをつけないと」

 

「カタをつけるって、アテはあるのか?」

 

「まぁね。だからわざわざ、ここまで来たんだ」

 

 

 

 

 

 

 

就寝時間をとっくに過ぎた真夜中、懐中電灯を手に暗がりを歩く影があった。

 

「待てよ本堂。こんな夜中にどこへ行く気だ?」

 

「......上杉?なぜここに......」

 

「寝ていたはずだって?あぁ、ちゃんと寝ていたからな。それより質問に答えてもらおうか?」

 

「単なる散歩だよ。寝付けなくってね」

 

「そっちに行っても山しかないぞ」

 

「......そうか。いや、暗くて気付かなかったよ。助かった。僕はこのまましばらく外を歩くけど、君はもう戻った方がいい。見回りの教師に見つかると大変だ」

 

「その手に乗ると思うか?」

 

「一体何のことかな?」

 

「それより気にならないか?眠っていた俺が、なぜここにいるのか」

 

「......さぁ?降参だ。教えてくれよ」

 

「嘘をつくな。お前なら、もうとっくに見当がついてるんじゃないか?」

 

「嘘じゃないよ。君は僕を買い被りすぎだ。あのとき君は確かに眠っていたはずだ。だから教えてくれない?今目の前にいる君が生き霊の類じゃないというのなら、そのカラクリを」

 

「つまり俺がどうやってここに来たかはわからないが、ここに来た理由自体には見当がついてるってことだな?」

 

「上杉、謎解きを始める気がないなら、もう何も言わずに引き返してくれ。それとも......僕と一緒に死んでくれるのかい?」

 

「......悪いが、そういうわけにはいかない」

 

「ちょっと!バカなこと言わないで!フー君は絶対死なせないわよ!」

 

「お、おい二乃。出てくるなって」

 

「!......なるほど、そういうことか。いや、謎解きはもういい。偶然なのか故意なのかは知らないが、カラクリは大体わかった」

 

「アンタも今すぐ部屋に戻りなさい!折角の修学旅行なんだから、アンタのせいで中止になったらたまったものじゃないわ!」

 

「君たちだけがこのまま引き返して、何も見なかったことにすれば中止にはならないよ。僕が死体となって見つかれば中止になる可能性があるかもしれないけれど、死体が見つからなければ、つまり行方不明のままなら中止の決断はくだせない」

 

「そんなのわからないでしょ!」

 

「ふむ。上杉、君はどう思う?」

 

「どうって......」

 

「修学旅行が中止になるか否か、君の考えを聞かせてくれよ」

 

「問題はそこじゃないだろ」

 

「そこでしかないよ。修学旅行が中止にならなければ、この子は引き下がるんだ。あぁ、ちなみにだけど。僕を説得でどうこうしようとしているなら、適当な嘘はつかない方がいい」

 

「そんな人間の言葉に、お前が耳を貸すことはない...か」

 

「よくわかっているじゃないか」

 

「ちょっと待って。引き下がるなんて言ってないわよ」

 

「は?」

 

「だって、私はよくても......うちの学級長が気に病んじゃうじゃない」

 

「姉妹バカ、か。つまり君はどうあっても引き下がる気はないわけだ。じゃあこうしよう」

 

本堂は懐からナイフを取り出した。

 

「お、おい!早まるなって!」

 

「説得はもうやめだ。君たちの修学旅行がどうなろうが僕の知ったこっちゃない。僕はこのまま山の奥へ進む。近づけば、これで道連れにする。まだ死にたくないのなら追ってくるな」

 

 

 

 

 

「も、もうやめろって。こんな奥まで来たら、本当に帰れなくなる」

 

「じゃあまだ帰れるうちに帰りなよ。っと、そろそろだな」

 

「そろそろって何が......」

 

「ほら、聞こえるだろ?川を流れる水の音が」

 

「まさか」

 

「そう、ここから飛び降りればドザエモンの完成だ。悪いね、上杉。僕は先に逃げるよ」

 

「なぁ、待ってくれ。少し話そうぜ。悩みとかならいくらでも聞くぞ。俺にはアイツらの悩みを解決してやった実績もある。5人分だぞ!5人分!」

 

「悩み...ね。じゃあ、生きているだけで苦しいと言ったら、君はどうやって助けてくれるのかな?」

 

「そ......れは」

 

「冗談だよ。悩みの内容は本当だけどね。だから、これが僕にとっての救済」

 

そういって、本堂は身投げの準備を始めた。

 

「おっと!それ以上近づくと、うっかり君を道連れにしてしまいそうだ。二乃?とか言ったっけ?ちゃんと上杉のこと抑えておいてよ」

 

「頼むから留まってくれ!本堂!」

 

「上杉、いつか言ったよね。君と僕を分ける分水嶺の話」

 

「あ、あぁ」

 

「今ならわかる。君は間違いなく良い方向に変化したんだよ」

 

「だったら!お前だっていつかは」

 

「ありとあらゆるものを犠牲にしてきた人間の末路がこれだ。今の君は間違っていない。だから、もう2度と間違えるな」

 

 

 

 

 

 

 

翌日以降行方不明者の捜索が懸命に行われたが、死体はおろか遺留品すらも見つからなかったという。

 

 

 

 

 




※フィクションです。自殺はやめましょう。

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