Nighthawk 作:憑き燈
「本堂。お前、うちの事情知ってたよな...?」
上杉、声が震えているよ。だから止めたのに......
なんて言っても、こんなことを予測できるのは、それこそ未来を知っている人間か、超常的な能力を持つナニカしかいないだろう。
「どうしたんだい?」
白々しい返答しか返せないが、今の上杉にはそんなことを気にしている余裕もないだろう。
そういえば、記憶の中ではここら辺で一度上杉から相談されたような......
「事情はわかったよ」
「本当か!?」
「でもね。昨日は僕もまともに話したわけではないし、仲良くなったわけでもない。あくまでも、君の第一印象よりかはマシってレベルだろう」
相談内容が変わっていた。以前は抽象的なものだったが、今回は僕と彼女に多少なりとも接点ができてしまったからか、直接的に協力してほしいということだった。
「それでも構わない!バイト代がかかっているんだ!」
どうしたものか......
断ってもいい。というか、断るべきだ。実際、上杉一人でどうにかなったんだから、僕がかかわる必要性はない。
それよりも、僕の中にある記憶と、現状が一致しないのはなぜだろうか?
この記憶は未来予知ではなく、やはり夢だったのだろうか?
それとも、今この瞬間が夢や走馬灯の類なのだろうか?
だとすれば、今ここで僕が何をしても、何をしなくても、全てが無駄なのかもしれない。
「......本堂?大丈夫か?」
「え?」
何の話をしていたんだっけ?
僕は今、何を考えていた?
「なんか顔色悪いぞ」
「あー......最近、眠れていなくてさ......」
これは本当だ。顔色が悪い本当の原因は、もっと違うところにあるような気もするけど。
「それで、何の話だっけ?」
「おいおい。ちゃんと聞いていてくれよ」
「わかった。引き受けよう」
「本当か?!」
「上手くいかなくても責任はとれないけれどね」
結局、上杉が昨日失言をかました相手、中野五月との接触に僕が同行することになった。
現状では焼け石に水という言葉がぴったりだと思うけれど、数ヵ月後には何とかなっているはずだから、僕の有無は関係ない。
それよりも、上杉の頼みをここで断らずにおくことで、僕がここから抜け出すための実験に後々協力してもらえるかもしれない。そっちの方が重要だ。“抜け出す”なんて概念が存在するのかという疑問もあるが、そうじゃなかったらここが現実ということになる。死ねば終わりなら、いつでも好きに終われる。明確な終わりがない場合の方がよっぽど恐ろしい。
ダメだ。考えるだけで気が滅入る。今はコイツに協力して気を紛らわせよう。
放課後、上杉は早速中野五月との接触を図るようで、僕も同行することになった。
なったのだが......
当然、周囲には姉妹がいるわけで、彼女が一人になる様子はない。上杉はまだ周囲にいるのが友達だと思っており、一人になる機会を伺って尾行している。
問題は、その尾行の仕方だ。
ここは米花町ではないのだから、一介の高校生が本職の探偵のごとき尾行術を身に付けていればそれはそれでドン引きするが、だからといってこれはないだろう......
五つ子ということを教えてもいいのだが、説明が面倒くさいし、万が一にも情報源を訊かれると困る。
もう面倒だから放っておくことにした。
僕は少し離れた位置で様子を見ることにする。
あ、やっぱり気付かれてる。あれは......多分だけど、五女でも次女でもない気がする。
すぐに離れた?何故だろう?まぁいいか。
再び尾行を再開した上杉についていくと、マンションに着いた。
あれ?記憶の中で上杉に呼び出された五つ子の家?って、ボロボロのアパートじゃなかったっけ?
「何?キミたち、ストーカー?」
見覚えがある。おそらく二乃と呼ばれていた女。あのときと同じく強気な態度だが、何か雰囲気が違うように感じた。
あ、なんか上杉がとんでもない嘘で誤魔化そうとしてる......
「焼肉定食焼肉抜き。ダイエット中?」
あーあ、そんなもんばっかり食うから......
とか呑気なことを考えていた隙に、上杉はマンションの中へ向かって走り出していた。
僕をここに置いていくのなら、何のために連れてきたんだろうか?
「で、キミもストーカー?」
「......僕は彼の付き添いだ」
「へぇ〜。ストーカーの付き添い?もっとマシなウソつけば?」
あぁ......面倒だ。僕は上杉の頼みを引き受けたことを後悔した。
この世には苦しみしかないのだろうか。
「二乃。五月が言ってた、顔色の悪い男子生徒って......」
「え?もしかしてコイツ?」
顔色悪いってだけで特定しないでくれよ。全国の顔色が悪い人達に謝れ。なんか意味不明だな。ダメだ、疲れてるよ僕。
「その話をしているということは、同時に聞かされているんじゃない?失礼な言葉を浴びせてきた男子生徒のことを」
「なんでそのことを?」
「その男子生徒というのが、さっきのアイツだよ。曰く、中野五月に謝りたいとかなんとか...」
そんなこと言ってた覚えは1つもないけど、まぁ誤差の範疇だろう。
「一応双方に面識のある僕が仲介役を引き受けたんだけど、上杉が一人で先に行っちゃってね。そういうわけだから一旦通してくれない?用が済んだらすぐにでも帰るからさ」
僕はね。
上杉がすぐに帰るかどうかは知らない。
「仕方ないから、一度だけ通してあげるわ。その上杉とかいうやつを見つけたら、さっさと用を済ませて帰りなさい」
すぐに他の姉妹が合流して、五つ子であるということと、部屋が最上階にあるということを聞き、その最上階までエレベーターで案内してもらったわけだが、降りた先には既に修羅場のような光景があった。
人に仲介役を頼んでおいて、先におっぱじめるやつがあるか。
なんかもうどうでもよくなってきた。謝罪まで漕ぎ着けたみたいだし、もう帰ってもいいだろう。
「え?帰っちゃうの?」
つい先ほど名前を聞いた、長女の一花が余計な一言を放つ。
「いや、僕もう必要ないでしょ。あの感じ」
「え?あなたは昨日の......なんであなたまでここに」
「本堂!遅かったな。ってか、なんでこいつらが」
遅かったな、じゃないでしょ......
「なんでって、ここに住んでいるからに決まっているじゃないですか」
「へ、へぇ。同級生の友達5人でシェアハウスか」
上杉、いい加減気付きなよ。
「違います。私たち、五つ子の姉妹です」
ねぇ、もう帰っていいかな?
結局、家庭教師をまともにできる状態なわけもなく、僕は中野五月の説得役として残ることを要請された。無駄じゃないかな?多分。
「いやです!そもそもなぜ同級生のあなたなのですか?この街にはまともな家庭教師は一人もいないのでしょうか」
「あー、中野五月さん。一応コイツ勉強だけは頼りになるから、何かわからないところを訊くとかだけでも......」
「ずっと気になっていたのですが、なぜあなたはここに?」
「上杉に頼まれて、君との仲介をね」
「余計なお世話です。私はこの人に教わる気はありません」
「だってさ、上杉」
「いや、お前もう少し粘れよ」
「......んー。一応忠告しておくけどさ。誰に教わるとか、誰にも教わらないとか、そういうのはどうでもいいんだよ。結果を出せない人間には、元々そんなことを語る資格なんてないから。精々価値のない言葉を吐く人間にだけはならないように気を付けてね」
僕のようなゴミは、散々無価値な言葉を吐き散らして死んでいく運命にある。彼女にとっても、それだけは避けるべきだろう。水を取ってきてもらった恩もあることだし。
「お、おい本堂...?!」
「......言いたいことはそれだけですか?」
「上杉、他に言いたいことは?」
「え、いや......」
「もう結構です!」
ドアが勢いよく閉められた。
「上杉。君、相当嫌われてるね」
「今のは間違いなくお前のせいだ......」
僕?なんか変なこと言っただろうか?
原作だと放課後ストーキングと家庭教師1日目の間が明確に空いていると思いますが(空いてますよね?多分)、アニメだと二乃の土曜日発言がなければ繋がっているようにしか見えませんね...
なんかそこら辺の時系列が混乱しそうだったので、勝手に繋げました。これからも時系列は適当に(テキトーではなく)改変するかもしれないので、ご了承ください。