Nighthawk 作:憑き燈
その後、他の3人の説得には参加しなくていいと言われ、僕はリビングに降りた。
そこには装いを変えた次女がいた。
「キミ、なんでまだいるの?さっき用が済んだら帰るって言ったよね?」
「僕の用事は中野五月を説得する上杉の付き添い。用が済んだかどうかを判断するのは僕じゃなくて上杉らしい。誠に遺憾だけど」
「あっそ」
やることがなかったので、リビングの端にうずくまるように座った。
今更ながらに、先ほど説得の際に放った言葉を後悔しはじめている。僕の言葉はいつだって自己満足だ。偽善と同じだ。
きっと彼女はこう思ったのだろう。「お前のようなゴミに言われたくはない」と。そりゃそうだ。
僕自身が無価値な言葉を吐いているのだ。特大ブーメランでしかない。
心が荒んできた。死の直前に見たはずの月明かりを思い出そう。
ボーッとしていると、いつのまにかリビングには人が増えていた。勉強をしている様子はなく、みんなでクッキーをつまんでいる。
「キミはクッキー食べないの?」
次女に唐突に話しかけられた。というか、あの上杉が食べているのが衝撃なのだが......焼肉定食焼肉抜きで腹減ってたのかな?
「食欲がないんだ。放っておいて」
「ふーん。じゃあ喉渇いてない?お水いる?」
「あぁ、もらうよ」
なんか、この姉妹から水もらうこと多いな。僕は植物か何かなんだろうか。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
上杉も水をもらって飲んでいる。
僕は喉の渇きに耐えられず、もらった水を一気に飲み干した。
「バイバーイ」
意識が落ちる。最後に聞いた声は、次女の......
何か、周囲が騒々しい。
非常に眠たく、このまま二度寝してしまいたい。
「いい加減に起きなさい!」
「痛っ......え?」
「ちょ、ちょっと二乃!?」
「あ、やっと起きた」
状況が飲み込めない。というか、日の光が眩しい。
太陽の位置がおかしいことに気付く。これは、朝日?
「何が起こった?」
「朝までずっと寝てたんだよ?家まで送ろうにも生徒手帳が見当たらないし、何度起こしても目覚まさないし。二乃が本当に人を殺めちゃったのかと思って焦ってたんだ」
「ビックリさせないでよ!もう!」
次女が涙目だ。しかし、殺めたと勘違いするとは一体何をされたんだ?背後から鈍器で殴られたとか......いや、血がついていたり腫れているような感触はない。
「二乃に睡眠薬入りの水を飲まされたんですよ。覚えてませんか?」
「睡眠薬...水...あぁ、そういう」
我ながら古典的な手に引っかかったな、などと感心してみるが、普通に薬事法違反かつ暴行罪である。下手すりゃ傷害罪も適用されるし、そのまま死んだら傷害致死罪...そりゃあ焦るわな。
「ハハ、いっそそのまま殺してくれればよかったのに」
そんな言葉が口をついて出る。
「なっ?!」
姉妹全員ドン引きしてるよ。
「これだけ金持ってれば、死体の処理くらいわけないでしょ?」
「何をバカなことを言ってるんですか?!」
「あんた頭おかしいんじゃないの!?」
「他人に睡眠薬盛るやつとどっちが頭おかしいか、比べてみようか?」
「ぐっ...」
「いや、冗談だよ。逆に助かった。ありがとう」
「......はぁ?」
「本堂さんって......ドM?」
四女にとんでもない勘違いをされている。説明しないと伝わらないか。
「ずっと不眠気味でね。久しぶりにぐっすりと寝られた気がするんだ。欲を言えば永眠の方がよかったけどね」
穏やかで深い眠りだったような気がする。心なしかいつもより少し体調がいい。
「き、きみ、変わってるね」
「そうかな?そういえば上杉は?」
「彼なら昨夜のうちに私が家まで送り届けました。今日の午後にまた来るとか言っていましたが」
「そう。じゃあ僕は帰るよ。頑張ってね」
「あなたに一つだけ言っておきます」
「ん?」
「私は結果を出します。絶対に」
「......そっか。じゃあそのとき僕がまだ生きていたら、報告しにきてよ」
「縁起でもないこと言わないでください!というか、そんなに時間をかける気はありません!」
時間がないのは僕の方なんだけどな。まぁいいや。