Nighthawk   作:憑き燈

2 / 26
2は唯一の偶素数。

時系列:林間学校後、期末試験前


第2話:閑話①

「なんだこれは……わけがわからん」

 

「しっかりしてよ。バーンサイドの補題を理解したいって言い出したのは上杉なんだからさ」

 

「お前が飛び道具としてポンポン使ってるから簡単に見えたんだよ……」

 

「ま、集合と写像の話からスタートして、ここまで来れたなら高校2年生にしては上出来じゃないかな?」

 

「1年以上もかかったがな」

 

「それは仕方ないよ。大学レベルの数学に全く触れたことのない人間が、いきなり群論の定理を理解しようってのは無理がある」

 

「……いまだにお前が使ってたあの式の形が見えてこないんだが、ひょっとすると、俺は1年以上もの間騙されてたんじゃないか?」

 

「アレは問題の設定を利用して、手順を大幅に省いただけだからね。一般的な形でやろうとすると、そう上手くはいかないよ。というか、最初に言ったでしょ?単に問題を効率的に解きたいだけなら、コスパが悪いからオススメしないって。所詮は副産物に過ぎないんだから」

 

「ぐっ、し、しかしここまできて諦めるというわけには……」

 

「でも、上杉には家庭教師の件もあるからねぇ。そんなに執着するくらいなら、いっそ公式として暗記しちゃえば?大学生になってから、改めて勉強するというのもアリだと思うよ」

 

「数学において、丸暗記は理解からは程遠いと言ったのはお前だよな?」

 

「その言葉を曲げるつもりはないけど、テストで点数をとりたいだけなら理解してなくてもいいケースが沢山あるからね」

 

点取りゲームの1種目としての数学なのか、学問としての数学なのか。

 

「急に話を変えて悪いが、アイツら…五つ子達にとっては、赤点を回避することが最優先なんだ。お前ならどうする?」

 

「丸暗記する頭すらなかったら詰みじゃない?」

 

「そう……か……」

 

「って答えしか返せないから、僕は家庭教師の手伝いができないのさ」

 

「俺も同じようなもんだよ。アイツらに教えているとき、何が分からないのか分からないことが多々ある」

 

「勉強ができることと教えるのが上手なことは同値じゃないからね。こう言っちゃ悪いけど、あの子達の親はイカれてるよ」

 

「……実は俺、家庭教師辞めようと思ってたんだ」

 

「へぇ、やっぱりいくら相場の5倍とはいえ、5人同時はキツかった?」

 

「確かにそれもある。でも1番の理由は、俺自身の力不足が身に沁みたから……かな」

 

「本当に力不足ならとっくに解雇されてるか、これから解雇の通知でも来るんじゃない?何も自分からやめなくたっていいじゃん。給料もらえるだけもらっておこうよ」

 

「それじゃあアイツらのためにもならない。何より、それは俺自身が許せない」

 

「難儀な性格してるねぇ。まぁ僕から言えるようなことは何もないよ。君がそこまで彼女たちに入れ込んでるのは意外だったけど、僕はそこまで興味がないんだ」

 

「あぁ、分かってる。これはただの愚痴だ。それと、期末試験が終わって以降は新しいバイトに時間を割こうと思ってる。だから、折角ここまで付き合ってもらったのに悪いが、それまでに理解できなかったらこの勉強会も中止だ」

 

「構わないよ。僕も1月のJMO予選に向けて、自分の勉強をしないといけない時期に入るから」

 

そうして、僕らの勉強会は中途半端なところで終焉を迎えたのだった。

 




※JMO予選: JMOとは日本数学オリンピックの略称です。その予選は例年1月中旬に行われます。本選は2月です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。