Nighthawk 作:憑き燈
それと、成人したからといって、酒の飲み方を誤ると普通に死ぬので気をつけましょうね。
私は深酒しているとき突然背中に鋭い痛みが走るようになってから、しばらく酒は控えています。
※この物語はフィクションです。
結局、よく眠れたのはあの一日だけだった。
あのあと上杉から聞いた話――なんだか二度目のような気もする――だが、五つ子全員が赤点候補だったらしい。
家庭教師と自分の勉強の両立が大変なんだそうだ。これで君も不眠仲間だな。
だが、三女をどうにか説得して、授業を受けてくれるのが1人から2人に増えたとか。
結果を出すと言っていた末っ子はどうしたんだろうか。わざわざ気にするほどのことでもないが。
そんなことを考えながら、僕は独りで祭りに来ていた。
今までこういうイベントには全く興味がなかったのだが、散歩の最中に見つけてしまったため、寄ることにしたのだ。
頭が働かない状態で家に引きこもると、やることがないせいで更に気が塞ぐため、ここ最近の週末は必ず外に出てフラフラと歩き続けていた。
だからこんなものを見つけてしまうんだろうな。
文字通りゴミのように溢れかえる人を見て、いっそのこと酒でも買って一気に呷ってしまおうかと思った。
未成年の飲酒は勿論法律違反だが、当人には罰則がないせいでどうやっても前科はつかない。というのも、犯罪というのは刑事裁判で有罪判決を受けて初めて正式に認定されるものであり、適用する罰則がない場合はそもそも刑事裁判自体を開くことができないのだ。もちろん補導はされるし、保護監督者や酒類を提供した店側には罰則があるため、完全にノーリスクというわけでもない。
バカなことを考えている自覚はあるが、このまま心をすり潰されるよりかはマシだと思った。
適当な屋台を見繕って、酒税法違反を疑われるところから缶ビールを4本ほど買った。
あくまでも疑いであって、違反と決まったわけじゃない。まぁまともに酒類販売の免許を持っているとも思えないが......そのうちお上から怒られるだろうな、アレ。
なんて、他人のことを言えた義理じゃないか。
気付けば1本飲み干していた。アテを探そうと再び人混みの中を歩き始める。
が、すぐに人の流れが1つの方向に向かって激しくなり、身動きがとりづらくなった。
「うわっ、百鬼夜行かよ」
今すぐにその口を閉じろ、僕。人混みの中で刺されるぞ。
むしろ刺された方がいいのか。
虫刺されは嫌だけど。
バカなことを考えているうちに、人が流れていった方向から轟音が響いた。見上げるとそこには、夏の風物詩があった。
「そうか、花火か」
みんなそれを見に行ったのだろう。
ちょうどいい。これで屋台の方からはある程度人がはける。
ゆっくりと酒のアテを探すことにしよう。今は不思議と食欲が湧いている。これぞアルコールの力だ。
僕の食べた物 全てがきっと生への対価だ
今更な僕はヨダカにさえもなれやしない
「本堂君?」
「ん?」
名前を呼ばれたから振り返ってみると、そこには中野五月がいた。
「やぁ、久しぶり。だっけ?」
「えぇ、お久しぶりです。それより、その手に持っているものは何ですか?」
心なしか、額に青筋が見える気がする。
「何って、ビールだけど。1本飲む?」
先ほど1つ飲み干して、今飲んでいるのが2本目。4本買ったはずだから、1本あげてもまだ残っている。
くれてやるのもやぶさかではない。
「あ、あなた私たちと同い年でしょう?!思いっきり未成年じゃないですか!」
「シッ。声がデカイよ。今周囲にバレれば一緒にいる君も仲間とみなされて補導されかねないけど、それでもいいの?」
「なっ?!......とにかく、それをこっちに渡してください!捨ててきますから!」
「捨てるって......フードロス問題とか知らないの?安易に捨てるとか言わない方がいいよ。地球環境に優しくないから」
「それとこれとは話が別です!」
「地続きだよ。廃棄以外の手段を考えついてから出直してきなよ」
「じゃあ私が一旦預かります!」
「渡した瞬間に高校の同級生が酒買ってるって大声で言いふらすけど」
「さ、最低!!」
「それより、一人で来たの?他の姉妹とか見当たらないけど」
「はぐれてしまったんです。って話を逸らさないでください!」
「じゃあ探してあげるから大人しくしてなよ。とりあえず迷子センターにでも行って、会場内にアナウンスかけてもらうかな」
「ぜ、絶対にやめてください!」
口から出まかせが止まらない。これ絶対アルコールのせいだ。
「五月、と本堂?!」
「ん?上杉も来てたのか。珍しいね」
「それはお前の方だろう。って、それビールじゃねぇか!?」
「あぁ。上杉も1本いる?」
「ちょっと!いい加減に......」
「いや、今はそれどころじゃない。五月、二乃が待ってるところへ急ぐぞ」
「そっか。じゃあ僕はそろそろ」
唐突に腕を掴まれた。
「逃しませんよ?」
「おつまみ買わなきゃいけないから、離してくれる?」
「まだ飲む気なんですか!?」
「おい、五月。置いていくぞ」
「ほら、置いていくってさ」
僕は掴まれた腕を振り払って、上杉とは逆方向に進み出した。
後ろから何か聞こえてくる気がするが、気にしないことにした。
屋台の食べ物をつまみに3本目の缶を開けたところで、再び中野五月に遭遇した。
今日はよく会うなぁ......
「あ、本堂君。う、上杉君が......」
なんか半泣きだし。上杉は一体何をやらかしたんだ?
「つまり、唐突に君を置いてどこかに消えたと?」
事情を聞いてもよくわからないことだらけだ。上杉は神隠しにでもあったんだろうか?
「それで、他の姉妹と合流する目処は?」
「ありません......」
本当は上杉が案内役だったはずだから、そりゃあそうだよね......
「じゃ、迷子センター行くかぁ......」
「こ、こんなときに冗談を言っている場合では!」
「いや、さっきのは冗談だったけど、今度は真面目に。そこ以外に合流する手立てがないし」
「それはそうかもしれませんが......本気ですか?」
「次女あたりを迷子ってことにして呼び出せば、鬼の形相で飛んでくるかもね」
「......やっぱり他の手段を考えましょう」
「んー。というかスマホで連絡つかないの?」
「何度も試しましたが、電波状況が悪くて......」
「さっき、次女がどこかで待ってるって言ってたよね?それって電波が繋がりにくそうな場所?」
「いえ、私たちは毎年どこかの店の屋上を貸し切っているので、そこにいるはずですが」
じゃあ繋がらないのはこっちの問題か。
「一旦会場の外に出よう」
「え?!」
「互いに電波が繋がるような位置にいれば連絡がとれるはずだよ。相手の位置が悪くないならこっちが動くしかない。会場の外を周回しながら電話をかけ続ければ、どこかで繋がるはず」
「でも、花火の終了までもう時間が......」
「どうせこのまま待っていてもタイムオーバーでしょ。間に合わなくても責任はとれないけど、やれることがあるとすればそれくらいじゃない?」
「......あなたも、なぜそこまでしてくれるのですか?」
あなたも、つまり上杉もってことか。アイツはなんなんだろうね。僕にはよくわからないや。
「君には食堂で水を持ってきてもらった恩が、次女には一時的に不眠症を解消してもらった恩がある。時間内に辿り着ければそれで貸し借りなし。上杉の共通の知り合いという関係に戻る」
「それはそれでなんかイヤですね......まぁいいでしょう」
僕たちは一度会場の外へと向かった。
僕の食べた物 全てがきっと生への対価だ
今更な僕はヨダカにさえもなれやしない
靴の花火/ヨルシカ からの引用でした。