Nighthawk 作:憑き燈
結局、僕たちはギリギリ間に合ったものの、長女にトラブルがあったらしく、姉妹の目的は達成できなかったようだ。
「あー、一応間に合ったから、これで貸し借りなしってことで。とか言ってる雰囲気じゃなさそうだね」
「あ、翡翠さんだ!」
「ん?あぁ、上杉妹か。久しぶりだね。君も来てたとは」
「本堂さんの下の名前は、翡翠さんっていうんですね!初めて知りました!」
基本フルネーム名乗らないようにしてたのに......
「上杉妹。僕のことを下の名前で呼ぶなって言ったでしょ?こうやって余計な情報が広まっちゃうから」
「わたしのことは上杉妹じゃなくてらいはって呼んでって言ったでしょ」
クロスカウンターが発動した。しかし、
「断固拒否する」
年下の反撃を容赦なく捻り潰したことで、上杉妹は悲しそうな表情になり、この場にいる姉妹全員から非難の視線を浴びた。
面倒くさくなってきたので、手に持っていたままでヌルくなってしまった、3本目の缶の残りを一気に飲み干した。
「え、アンタそれお酒じゃ......」
「残り1本になっちゃったから、欲しいって言われてももうあげられないよ」
「今すぐやめてください!らいはちゃんの教育に悪いです!」
「君は上杉妹の何なんだ?」
「姉です!」
「それは上杉と結婚するという意味で?」
「はいストップ。とりあえずアンタは一旦それしまいなさい。上杉から連絡来てて、近くの公園に移動することになったから」
ん?なんか違和感のある言い方だな。
「え?僕も一緒に行くの?」
「上杉さんかららいはちゃんの携帯に連絡があったんですよ!本堂さんならライターを持っているはずだから、捕まえて連れていくようにって!」
「ライター......あなた、まさかタバコも?」
「あぁいや、父親の形見のライターでさ。いつも肌身離さず持ち歩いてるんだよ。そういえば、一度上杉にもそんな話をした記憶がある。よく覚えてたねぇ、アイツ」
そうか、上杉がそんなことを。でも、僕がさっさと帰っていたらどうする気だったんだろう?今どきライターなんてそこら辺のコンビニで買えるし......やっぱり僕要らなくない?
「形見ってことは、お父様は......」
「とっくの昔に死んじゃったよ。母親と一緒にね」
交通事故だったと聞いている。数学バカは父親譲りだ。僕は今じゃ単なるバカになってしまったけれど。
「ちなみに、ライター使って何するの?」
「それは......」
「手持ち花火か......よく考えついたね、そんなこと」
公園に到着した。
僕は実績 “5人で花火を見る” の解除方法に感心していた。
「上杉の発案よ。それと、アンタに1つ言っておくことがあるわ」
「なに?」
「五月を無事に送り届けてくれてありがとう」
「あぁ、そのことなら礼はいらないよ。さっき本人にも言ったけれど、五女には食堂で水をもらった恩が、次女には一時的に不眠症を解消してもらった恩があるから、それを返したってだけ。これで貸し借りなし」
「それ、皮肉のつもり?」
「いや、真面目に感謝してるよ。ずっとまともに眠れてなかったからさ。まぁ、あの日以来また眠れなくなっちゃったけど」
「そう。あ、それと、その次女とか五女とかっていうのやめてくれない?いい加減名前覚えて。私は二乃」
「覚えているよ。呼ぶつもりがないだけで。上杉妹に関してもそうだけど、極力他人をファーストネームだけで呼びたくないんだよね。本当は苗字で呼べたら一番いいんだけど、君たち全員中野じゃん?しかも5人もいるから、姉と妹だけじゃ呼び分けられないし」
「めんどくさ。さっさと呼んじゃえばいいのに」
「僕がいきなり二乃って呼び出したらキモくない?」
「......ごめん、やっぱり次女で」
「だよねぇ......」
「ウソウソ、冗談だってば。アンタは今日の功績があるから、それくらい許してあげるわよ」
「最初に要求されたのこっちだよね?なんで上から目線なのか気になるんだけど......」
「細かいこと気にしてたらモテないわよ」
「別にいいよ。今の僕は空っぽだから、万が一他人に好かれたら罪悪感で余計に死にたくなる」
「アンタ、ただでさえ女の子っぽい名前なのに」
「うわぁ、それ言っちゃうんだ。珊瑚の兄貴の忠告通り、最近は極力名前隠してたのになぁ...」
「珊瑚って名前のお兄さんがいるの?」
「いや、遠い親戚。年がそこそこ近いんだけど、学者ばっかりなウチの家系と違って、向こうは医者ばっかりだから、よくウチに避難してきては一緒に数学の話をしてたんだよ。珊瑚と翡翠の宝石コンビってね。不必要に名前を教えると面倒ごとを招くとかなんとか」
「数学...?」
「あぁ、言ってなかったっけ。学年1位は入学以来ずっと上杉だけど、科目別に見た場合、数学だけは僕がずっと1位なんだよ。上杉は1年の最後の期末テストで場合の数の問題をたった1つだけ落としている」
「1つだけって、アンタもアイツもほぼ毎回満点なわけ?キモっ」
「噂によると、上杉が唯一落としたその問題は毎度100点をかっさらう僕らに業を煮やした数学教師が、100点防止のためだけにいれた問題らしい」
「へぇ〜。って、今のアンタの自慢話じゃない」
「これだけならね。でも、次の中間テストはきっと悲惨な結果になってると思うよ。僕は今、まともに数学ができるような状態じゃないから」
「何が言いたいわけ?」
「これで上杉が総合、科目別含めて正真正銘の学年1位になるから、ちゃんと彼についていけば大丈夫って話さ」
「余計なお世話よ」
そう言うと思ったよ。
今日の僕はいつになく饒舌だ。ついつい要らんことまでペラペラと話してしまった気がする。
きっと、アルコールのせいだ。さっき4本目の缶を飲み干したから......
でも、ここに来る前から五女にも散々要らんこと喋ったな、そういえば。
祭りの空気感にでもあてられたのだろう。そう思うことにした。
どれくらいの時間が経過したのかわからないが、ベンチでボーっとしていると、上杉と長女が到着したようだ。
というか、他の4姉妹がいつのまにか花火を始めていたし、上杉妹もいつのまにか近くのベンチで眠っている。
そろそろ帰ろうかと思ったけど、貸したライターが返ってくるのはまだ先だ。
あ、上杉がベンチに向かって歩いてきた。
「本堂。悪いな」
「君のせいでしばらく帰れそうにないんだけど。まさか妹と自分だけ帰ろうとか思ってないよね?」
「あ、いや」
「よーしわかった。君はライターの回収係だ。明日でいいから僕に届けてくれ。くれぐれも彼女たちに預けたままにしないように」
「お、おい!」
酔いが醒める前にさっさと帰って寝てしまおう。寝れるかわからないけど。
オイルライターというのは、充填したオイルが揮発するために、放っておくとすぐに火がつかなくなってしまう。以前は火をつけることもなかったため、そのまま燃料切れにして持ち歩いていたのだが、最近はこまめに充填するようにしていた。何に着火するでもなく、手慰みのように点火することが増えたからだ。
人間、火を見ると不思議と恐怖よりも安心を覚えるものだ。
なんか放火魔みたいだな。断じて違うけど。
やっと素性が明かされるオリ主。