Nighthawk   作:憑き燈

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今更ながらに高校生で試験科目が5個ってどういうことなんだろうと思ったんですが、私立高校が違法紛い(?)の独自性を発揮して試験科目を大雑把に統合してしまっている(例:数Ⅱと数Bを1個の試験で同時評価)可能性を考えました。“理事長”なる存在がいるので、旭高校は私立でしかありえないですし。

または、高校の授業科目の細分化が進みすぎたので、ある程度科目や単位の統合が認められた世界線とか。

実際、真面目にやろうとすれば2日か3日以上かかる試験の実施を1日で終わらせることができれば楽ですよねぇ。

あ、今回も時系列いじってます。


第16話:灯火

公園での一件の翌日、二日酔いが酷くて勝手に午前休をとった僕は、登校した直後に次女からライターを返された。

 

どうやらあの後、上杉は疲れて一度眠ってしまったようで、起こされて帰る頃には僕のライターのことなどすっかり忘れていたようだ。

 

というか、次女が同じクラスだったことをそのとき初めて認識した。

 

あれ?そういえば、五つ子全員クラスがバラバラで、ちょうど置換になるとかいう話をかなり前にしたような気がする。これは確か、あの奇妙な記憶の中の話だ。上杉が何か焦っていたような記憶があるが、朧気だ。

 

そろそろ中間試験だからか、何やら奇妙な空気感が学校中に蔓延している。

 

僕は僕で、相も変わらずに鬱屈とした日々を送っている。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、こんな感じだったな......」

 

「急にどうした?真面目に聞いてくれ。大ピンチだ」

 

「いや、なんでもない」

 

ちょっと前世の記憶が、とか言い始めたら完全に狂人だ。

 

上杉から相談があると言われて聞いた内容が、酷く聞き覚えのあるものだった。

 

五女と喧嘩した上に、5人姉妹のうち1人でも赤点をとれば家庭教師をクビになる。

 

あのときやけに焦っていた上杉の様子が、今目の前にいる本人と重なった。

 

「まぁ、なるようになるんじゃない?」

 

投げやりなことしか言えない。

 

だって君、どうせ後から自分で辞めるじゃん、とか口が裂けても言えない。

 

「今回ばかりはマジでピンチだ。頼む、力を貸してくれ」

 

今は貸せる力がないんだよなぁ...

 

珊瑚の兄貴みたいに人助けがとことん嫌いってわけじゃないけど、元々そういう生き方はしていないし、何より今の僕は得意の数学が封じられている。上杉には不調が続いているという話をそれとなくしているし、例の群論の勉強会も完全に中止している状況なのだが、それでも僕に助けを求めてくるとは余程切羽詰まっているらしい。

 

「今の僕が加わると逆にお荷物になりかねないんだけど、それを承知の上で言っているの?」

 

「赤点さえ回避できればいいんだ!今はとにかく力を貸してほしい!」

 

困った。

 

以前とは違って時間だけはたっぷりとあるのだが、いかんせん集中力の低下が酷くて勉強どころではないのだ。テストすらまともに受けられるのか怪しい状況なのに、他人に教えられるとは思えない。しかし、日がな一日抜け殻のように過ごすのもそれはそれで苦痛だ。日常から数学がなくなっただけで、一体なんてザマだ。僕の数学狂いを知っている人たちが「本堂が壊れた」などと話しているのを最近耳にするようになった。こっちは元から壊れているし、今は更に壊れている。木っ端微塵だ。

 

またいつのまにか余計なことをグルグルと考え始めている。

 

本題に戻りたいのだが、1つ問題がある。

 

実際、今の僕に何ができて何ができないのか、僕自身でさえよくわかっていないのだ。

 

「とりあえず、僕に手伝って欲しいことを具体的に教えてほしい。できることとできないことをハッキリさせておこう」

 

 

 

 

 

 

 

結局、あの後話がまとまり切らなかったのだが、半ば強引に上杉の家庭教師に同行させられることとなった。というのも、以前から獲得している知識には特に欠落が見られなかったことがわかったからだ。それがわかったことだけでも収穫だが、だからと言って人に教えられることを包含するかと言われれば、首を傾げざるを得ない。人手自体は増えても足を引っ張りかねないという危険な賭けになる。それほどまでに余裕がないのだろう。

 

ちなみに、僕は記憶の中でも中間試験を受けているはずなのだが、試験内容は綺麗さっぱり忘れてしまっている。印象に残らないということは簡単だったということなのだろうが、五つ子にとっても同じように簡単であるとは限らないだろう。

 

しかし、改めて実情を聞かされてみると、どんなベテラン家庭教師でも泣き言を言わざるを得ないような状況になっているらしい。

 

まず、姉妹全員できることとできないことがバラバラで、同時に同じことを教えて効率化を図るという手段が封じられている。同時に質問が来ようものなら、まず捌くのに時間がかかる。

 

ここで、姉妹で教えあう方式を思い出したが、得意科目であってもレベルが足りていない現状では使い物にならない。

 

次に、次女と五女が単独行動。2人の説得にも時間を使う必要がある。

 

これは1人じゃ無理だ。中間試験までに間に合うわけがない。僕のようなロクデナシの手も借りたくなるはずだ。

 

 

 

「なんでアンタまでここにいるの?」

 

「久しぶり?でいいのかな?」

 

「毎日教室で顔合わせてるでしょうが!」

 

「そうだっけ?」

 

そういえば同じクラスだった。でも、僕の意識が教室の中にあることはほとんどない。独りで一日中頭を抱えて過ごしている。心ここにあらずの体現者である。

 

「ほら、上杉。説明しないと混乱が広がるだけだよ」

 

「俺が説明するのか?!」

 

「当たり前でしょ。僕は君に呼ばれてここにいるんだから」

 

 

 

中間試験までの手伝いということを説明してもらい、前回ここに来たときと同じように僕はリビングの隅で様子を眺めていることにした。積極的には手伝わない。あくまでも効率化のための道具として存在するつもりだ。使い物になるかは知らないけど。

 

 

 

「本堂、頼む」

 

「あー、はいはい。英語?......その文法は多分教科書の隅に載ってた気がする。よく探してみなよ」

 

 

 

「本堂、次こっちだ」

 

「現国?小説?......ごめん上杉、チェンジ。国語無理」

 

 

 

「本堂、こっち」

 

「数学?積和の公式と和積の公式?別にどっちがどっちでも困らないでしょ。加法定理で全部計算しちゃいなよ。三角関数関連の公式は大体全部加法定理から出てくるから。え?弧度法?角度の定義をいじっただけだと思うけど、何がわからないの?」

 

 

 

「本堂」

 

「社会?ごめん、全部覚えてとしかいえない。納得のいく解説が欲しかったら上杉に頼んで......上杉、こっち」

 

 

 

「本ど「だから国語は無理だって」...」

 

「え?あ、古典?とりあえず文法全部暗記しようよ。昔けい○んでやってた覚え方があって、助動詞は歌で......」

 

 

 

「ほ「生物範囲は最初から捨ててるからそっちでどうにかして」」

 

赤点回避のために物理化学の範囲を捨てさせたのかもしれないけど、僕は逆に生物が無理。

 

 

 

思っていたよりも呼ばれることが多い。それと、け○おん以外の知識が全く役に立っていない気がする。数学は果たしてあれで伝わっているのだろうか?

 

これは致し方ないことのような気がしてきた。というのも、今まで僕がやってきた赤点回避方法と彼女たちの赤点回避方法が食い違いすぎている。

 

僕の場合、まず国語は現国範囲を選択肢と漢字以外ほぼ全捨てして、暗記で乗り切れる古典を軸にやる。数学はテキトー。英語は単語と文法を徹底的に覚えるだけで、あとはテスト本番その場で勝負。理科は生物範囲を捨て、物理は公式をほとんど覚えずに微分方程式をひたすらいじり回し、化学は公式以外を徹底的に暗記。化学の公式はほぼ比例や一次関数の式なので、単位を合わせて比例定数をかければ丸ごと覚える必要性がない。ただし計算ミスが起こりやすいのでなるべく得点源とは考えない。社会は適度に暗記。これで赤点回避は確実だった。

 

僕は理系科目ではなるべく暗記量を減らすように努めているが、彼女たちはむしろ暗記で解けるものを増やしていかないと辛そうだ。

 

というか、今更ながらに僕が今回の試験で赤点回避できるかどうかが不明なことに気がついた。特に数学とか物理とか、今まで地頭に頼ってやってきたものが通用しなくなる可能性がある。

 

まぁそれはどうでもいいことだ。留年してまで高校にしがみつきたいとは思っていない。僕の体調や精神状態が回復しさえすれば、後からどうにでもなる。世の中には高認なんて制度もあるし、受験は決して団体戦などではなく明らかに個人戦だって珊瑚の兄貴も言ってた。しかし、もし回復しなければ、赤点を回避しても留年を回避してもその先は地獄である。

 

 

 

ふと顔をあげると、なぜか目の前で人生ゲームが行われていた。

 

しばらく呼ばれていないと思ったら、ダレてきて休憩に入っているらしい。

 

最近の僕はこういうことが頻繁に起こる。ロクに働きもしない頭で意味のない思考を続け、ふと気が付いたときには随分と時間が経っている。僕は一体何のために生きているのだろうか?そもそも今の僕は生きているのだろうか?

 

ダメだ。一回死んだ方がいいような気がしてきた。もう一度2学期の初めに戻るようなことがあれば、死ねるまで死に続けてやる。

 

そういえばここ、高層マンションの最上階だったよね?

 

「本堂?どうした?」

 

ベランダに出てみると、かなり高い位置にいるのがわかる。ここから飛び降りれば死ねるだろうか?

 

「おい。急にどうした?」

 

乗り越えるには、柵が若干高い。低かったらそれはそれで問題だが、どうやっても越えられないような高さでもない。

 

「なになに?外に何かあるの?」

 

「いや、コイツが急に......」

 

「って、ちょっと。フータロー、止めた方が」

 

「え?」

 

大体わかった。まずは一旦足をかけて、勢いをつければ...

 

「ストォォォップ!!!!!」

 

空中で、急に加速する向きが反転した。おかげで少し背中を打った。ベランダの内側に残していた足を掴まれたのか。

 

誰に?

 

「誰......?」

 

「は?」

 

「まさか!頭を打った衝撃で記憶が?!」

 

「あぁ、上杉か......上杉?なんで?」

 

「おい!一旦落ち着け!」

 

僕は今、酷く混乱しているのかもしれない。

 

何があった?

 

 

 

 

 

 




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