Nighthawk   作:憑き燈

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日本中どこの地域を探しても、9月〜11月あたりで猛吹雪になったことがあって、スキーができるほど雪が積もる場所なんてないんですよね。スキー場って人工的に造雪しない限りは基本12月に開かれるはずなので。

上手い解釈が見つからなかったので、ここではテキトーに小氷期ということにしておきます(無理矢理)




また、旅館に未成年者のみで宿泊していることに関しては、チェックイン時に電話等で各親権者の同意を得たものと考えます。


第1A話:翡翠

「で、兄貴にはこっ酷くフラれたと」

 

「……」

 

「フラれたというか、まずまともなやりとりが出来なかったと表現する方が正確か。あの人も相変わらずだなぁ」

 

「まさかアンタ、こうなることをわかっててワザと……」

 

「今更だけど、兄貴のことは諦めた方がいい。僕の知り合いって時点で取り合ってくれるわけがない」

 

「最っ低!」

 

「なんとでも言いなよ。僕には今使い捨てにできる手札が山のようにあるんだ。自分のために使う意味がなくなったせいでね」

 

 

 

このまま僕にヘイトを向けさせて、上杉にそれをケアさせるのが手っ取り早いんだろうけど、彼にそういう方面はあんまり期待できそうにないよね。「勉強に集中できるからフラれてよかった」とか口走って余計に関係を悪化させそうだ。

 

兄貴からは今朝お叱りのメールが届いていた。久しぶりに話そうかと思ったのに"返信不要"の4文字が添えられていたせいでそれも叶わず。

 

これからどうしようかな。処方された睡眠薬のおかげで眠れてはいるけど、起きているときの不調はあんまり改善されていない。精神的には少し楽になったのに、未だに頭は碌に働かない。

 

あの泊まり込み試験対策の日以降、上杉がしつこく心配してくるようになったけれど、衝動的に自殺を試みたのはあの日限りだ。睡眠不足も相俟って相当参っていたのだろう。かといって、別に希死念慮が消えたわけではない。貰った薬が切れるまでにはどうするか決めないとね。

 

そういえば病院に行った日、家に帰ってから久々にピアスを取り出してみたのだが、ケースの中で片方の翡翠が粉々に砕け散っていた。

 

正直ゾッとした。ずっと引き出しの中に放置していただけで、特に雑に扱ったり落としたりした記憶はない。大きな地震とかもなかったはず。

 

そもそも、僕は京都に行く前日にピアスが両方とも綺麗な状態で揃っていることを確認したはずなのだ。何かがズレている。この世界では、僕の知っている未来は訪れないのかもしれない。

 

 

 

 

 

あれからしばらく経って中間試験が終わり、結果も返ってきた。

 

こんな状態だから勉強なんて碌にしていなかったけど、全ての科目でそこそこの点数は取れていた。まぁ、一度受けてるはずのテストだから不思議ではない。ちなみに数学は初めて満点を逃した。原因はくだらない計算ミスだ。

 

例の五つ子の方はというと、姉妹全員で1科目ずつ赤点を回避したらしい。なんかよくわからないけど、次女が父親を言い包めて上杉は解雇を免れたそうだ。あの先生がそんな簡単に言い包められるとは思わないけど、きっと娘には甘いのだろう。

 

上杉は未だに僕から離れていくような様子はない。こんな使えないやつ、僕なら真っ先に切り捨てるけど。

 

そういえば、今日から林間学校だったか。僕にとってはただの休日だが。

 

 

 

家のインターホンが鳴った。

 

こんな朝早くに一体誰だろうか。

 

何か荷物が届く予定もないし、わざわざ応答する必要はない。誰もいないとわかればすぐに帰るだろう。

 

 

もう一度インターホンが鳴る。

 

早く帰れよ気持ち悪い。

 

 

更にインターホンが鳴る。

 

間髪入れずに鳴り続ける。

 

警察呼んだ方がいいかな?

 

一応顔だけでも確認してから……なんでいるの?

 

 

「何してんの?君」

 

「迎えに来た」

 

「は?」

 

来客は今しがた意味不明なことを口走った上杉と、インターホン越しでは見えなかったが、なぜかその後ろにいる例の五つ子。

 

僕の家を知っている上杉が主導してここに連れてきたんだろうけど……

 

「君たち今日から林間学校じゃなかったっけ?」

 

「何で他人事みたいな言い方をしてるんだ。お前もだろうが」

 

「僕がこういう行事に出席しないのはいつものことだって、君ならよく分かっていると思ってたんだけど」

 

実際、記憶の中では上杉がここに来るなんてことはなかった。やっぱり何かがズレてきている。

 

「いいから行くぞ。ほら、準備してこい」

 

「は?いや、行かないけど。何も準備してないし」

 

「そんなことだろうと思って、コイツらにも一旦車から降りてもらったんだよ。上がるぞ」

 

「おい、上杉」

 

僕の制止を振り切って家に入ってくる上杉。と五つ子達。何名か申し訳なさそうにしてたけど、じゃあ入ってくるなよ。

 

正直止める気力もないから形だけの制止だったけど、これって立派な不法侵入だからね。

 

上杉は過去に何回か家に来ている。主にバーンサイドの補題についての勉強会が目的だった。ついでに家にあった入門的な集合・位相及び群論の本を数冊プレゼントしたこともある。数学の本は高価だから、そうでもしないと上杉はまともな教科書なしで勉強することになっていた。渡したのは珊瑚の兄貴に不要になったからと貰ったけど、実は父親の蔵書にもあって重複していた本とかが中心だ。兄貴と父親の2人からセレクトされた本だから、良い本なのは間違いない。ちょっと難しかったかもしれないけど。

 

ちなみに兄貴は何度も家に来ていて、何の本があるのかも全部知っていたはずなんだけど、わざわざ使わなくなった本を僕にくれた意味はよくわかっていない。そういえばあの人、結局うちの蔵書には一切手を付けなかったな。読みたい本があれば持っていってもいいって何度も言ったんだけど、家に来たときにその場で借りるだけで、欲しい本は全部自分で──向こうの父親のクレカで──買っていたみたいだった。

 

僕がボーッとしている間に、大体のモノの位置を把握している上杉が五つ子に指示を出して僕の宿泊用の荷物が出来つつある。

 

上杉でも場所を把握していないようなモノは、僕自身が取ってくるように命じられる。

 

ついでに、散乱していたゴミの類が綺麗に片付けられていく。虫が湧かないようにと生ゴミだけはちゃんと処分していたが、その他のゴミはテキトーに散らかしていた。

 

彼らは一体どんな気持ちで僕の世話を焼いているんだろうか。こんなことをしてまで、僕を林間学校とやらに駆り出す意味は一体なんなんだろう。僕以上に気が触れているんじゃなかろうか。考えてもサッパリわからない。

 

途中で江端さんとかいう人も入ってきてかなりカオスな状況になったけど、林間学校の準備はこれで整ったらしい。ついでに家も少し綺麗になった。

 

「君たち、本当に頭おかしいんじゃない?」

 

睡眠薬だけは忘れちゃいけない。これがないと生きていけない。それから、念のため兄貴に貰った謎の医療セットを。泊まりがけのときはいつも持っていくようにしてるけど、本当に謎なものしか入ってない。聴診器とかパルスオキシメーターとか、一体いつ使うんだよ。一通り使い方は教えてもらったけど、未だに何の役に立つのかはよくわかっていない。

 

「家の掃除までしてあげたのに随分な言われ様ね」

 

「誰もやってくれなんて頼んでないよ。そもそも不法侵入だし。今に至っては略取監禁だし」

 

後で費用請求とかされようものなら刑事告訴してやる。

 

 

 

 

 

 

 

聞くところによると、まず上杉妹が熱を出し、その看病のために休もうとした上杉を無理矢理連れていくために五つ子がバスを見送ってリムジンを出させ、上杉の我儘でついでに僕を無理矢理連れていくことになったらしい。バカじゃないの?あ、バカであってたわ。ちなみに謎の人物江端さんはリムジンの運転手だった。長時間運転席で待たせるなよ。様子見に来ちゃったじゃないか。

 

1日中ベッドの上で過ごそうと思っていたから、他人と会話をするのがしんどい。両耳にカナル型のイヤホンを突っ込んで、BPMの遅い音楽を集めたプレイリストを再生する。外界の音を遮断して目を閉じる。薬の副作用で日中も割と眠い。このまま寝た方が楽だ。

 

 

 

 

 

 

 

気付いたら旅館にいた。

 

猛吹雪で渋滞してて目的地まで辿り着けなかったからここで1泊するらしい。リムジン帰っちゃったらしいけど、ここで1泊したところで明日以降どうやって移動する気なんだろうか。下手したら帰ることさえままならなくなるのでは?

 

「あ、ほら!旅館の前にもう1部屋あったじゃない!」

 

次女が言っているのはここに来る途中に見た犬小屋のことだろうか。

 

「よく眠れそうだね」

 

「明日死んでるよ!」

 

「アンタまだ不眠症治ってなかったの?」

 

「いや、薬のおかげで今のところよく眠れてるけど……それでも、目覚めた後から再び眠るまで続くこの憂鬱な気分を二度と味わわずに済むとしたら、一体どれほど幸せなことだろうね」

 

窓の向こうをじっと見つめる。見るだけでも気温の低さが伝わってくる天候だ。外で寝たら本当に永眠できそうだね。

 

 

 

「まさかこんなところで死のうだなんて考えてないよな?」

 

「……上杉。最近の僕はいつだって死ぬことばかりを考えている」

 

「折角何時間もかけてこんないい旅館まで来たんだ。そういうことを考えるのは、せめて楽しんでからにしようぜ」

 

「楽しい、か。それって一体どんな感情だったっけ?」

 

「本堂……」

 

「君は……いや、君達は存分に楽しむといい。その様子を眺めていればいつか思い出すかもしれない」

 

雪はまだ降り続けている。

 

 

 

 

 

 

 

窓の外を眺め続けてどれくらいの時間が経過しただろうか。

 

気付けば夕食の時間になっていた。

 

「……」

 

食欲が湧かない。

 

睡眠薬と同時に処方された食欲亢進作用のある薬は普段からあまり飲んでない。今日みたいに碌に動かずに過ごした日は特にだ。食べなくても問題ない日だから食べない。

 

「食べないんですか?」

 

「6人で分けていいよ」

 

結局一口も手をつけなかった。どうせなら夕食はサプリメントとか用意してくれればよかったんだけど……それは最早食事に該当しないか。

 

分けていいとは言ったものの、1人前が結構な量だ。最終的にはそのほとんどが五女によって処理されるだろう。

 

もういい加減窓の外を眺めるのにも飽きてきたな。そろそろ薬を飲んで寝るか。

 

「それじゃ、僕はここで寝るから」

 

収納されていた布団を全て引っ張り出して、押し入れの中に入る。

 

やっぱり閉暗所は落ち着く。気分はさながら青ダヌキだ。僕にも地球破壊爆弾を寄越せよ。即座に起動してやるから。

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい寝たんだろうか。

 

随分暗いな。こんなに何も見えないことってある?

 

身体を動かそうとすると、すぐに硬い壁のようなものにぶつかった。

 

家の壁じゃない。どこだここ。

 

どうやらかなり狭い場所にいるらしい。スマホとか、ポケットの中に……あった。

 

「眩しっ……」

 

明るさを最低にしておく。

 

どうなってんだこの場所……

 

どうやって寝たんだっけか?

 

ええっと

 

 

 

押し入れか。そうだ、思い出した。

 

確か、内側から開けられるように隙間を作っておいたはず。

 

襖を開けてみてもまだ真っ暗だった。そういえば今何時?

 

3時半か。

 

部屋の中ではまだ上杉と五つ子達が眠っている。

 

さっきから身体が痒い。昨日は風呂にも入らずに寝たんだった。今から大浴場でも行ってこようかな。

 

 

 

 

 

 

 

自分以外に誰もいないからと、狂ったように温浴と外気浴を繰り返して時間を潰していたら、あっという間に朝になっていた。

 

脱水症状になりかけていることに気付いて出てきたけど、この後どうやって時間潰そうかな。部屋に戻ってまた押し入れで寝るか。誰か起きてたらウザいなぁ。

 

「あ」

 

ん?

 

あぁ、五女が既に起きてたのか。なんで部屋の前で立ち往生を?

 

「中野と、本堂?ここで何してるんだ?」

 

通路の奥から更に3人来た。教師陣がここにいるということは……

 

面倒だ。五女、後は任せた。

 

 

 

 

 

 

 

夜になった。

 

日中の行事はほぼ全てスルーした。飯盒炊爨で仕事を割り振られたりもしたが、僕は今日も食事を摂るつもりがなかったから無視を決め込んだ。他人のための無償労働以上に馬鹿馬鹿しいものはない。

 

上杉と四女が肝試しをすると言って張り切っていたから、暇つぶしと思って付いてきたが、こっちもこっちで想像以上に暇だ。

 

上杉が「お前も何かやってみるか?」なんてきいてくるものだから「来たやつらを森の奥深くに引きずり込んで一緒に死ぬか」と冗談半分に言ってみたら、えらい剣幕で怒られた。そんなに心配せずとも、巻き込んだ相手はちゃんと生きて帰すよ。

 

それにしても暇だ。二人に気付かれないようにこのまま一人散歩でも始めるか。

 

 

 

 

 

 

 

適当に歩いていると、崖に辿り着いた。

 

空中に足を投げ出して座り込む。

 

 

 

僕は

 

 

 

 

 

何かを求めて月を見ていた

 

 

 

 

 

 

 

異様な音がして気が付いた。

 

静かな夜の森の中で聞こえるはずのない音。

 

後ろの方から、誰かがこちらに向かって走ってきている?

 

減速する様子はない。こっちは崖なのに。

 

後ろを振り返ろうとすると同時に、僕の真横を何かが駆け抜けた。

 

次女?

 

「本堂?!なんでこんなところに!」

 

背後で上杉の声もする。

 

だが、今はそれどころではない。このまま放っておけば、彼女は遥か下の地面に墜落する。

 

この高さは……死ぬ。

 

僕は腕を伸ばして彼女の手を掴み、引っ張りながら崖の縁を全力で蹴ることで、どうにか自分自身と彼女の位置を入れ替えた。

 

こうなると、墜落するのは僕だ。

 

見上げれば、上杉がちゃんと次女を受け止めている。

 

 

 

いい死に方を選べた。

 

今度こそ、自室で目が覚めるなどということはないと思いたい。あれはきっと、僕がこの世に満足することなく死を選んだ結果だ。今回は大丈夫だ。ちゃんと死ねる。

 

 

 

遥か上には輝く月の光

 

 

僕が求めていたものは、死に場所だったのかもしれない

 

 

でもこの光景、どこかで見たことあるな

 

 

あぁ、京都で橋から落ちたときと一緒だ

 

 

 

 

 

 

 




投稿し終わってから気付いたんですが、登山とスキーと川釣りって同時期に同じ場所でやれるものじゃないですよね。雪山登山とか初心者がやるものではないでしょうし、雪が降るくらい寒いとほとんど釣れないと思います。あと、時期と釣る魚の種類によっては禁漁期間とかもありますし。ここでは原作のセリフをカットしていますので、三日目のスケジュールについてはスキーを固定として、残りは違和感のない形で適当に脳内補完してください。
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