Nighthawk 作:憑き燈
時系列:JMO予選(1月中旬)後、遊園地前
結果から言おう。JMO予選は落ちた。
特に思い入れがあるわけでもないため、この話はこれで終了だ。
問題なのはここから。
あれから、上杉とはほとんど関わってなかった。
関わってなかったんだが……
「ええっと……もう1回言ってもらってもいい?」
「だから、数学だけでいいからお前も手伝ってくれ」
「君、家庭教師辞めたんじゃなかったっけ?」
「あぁ、確かに辞めた」
「じゃあなんで?」
「今は正式に雇われているわけではないが、ここでまたコイツらに勉強を教えているんだ。勿論給料は出世払いだ。絶対に回収する」
「風太郎君……」
なぜか五つ子さん達の住居に連れてこられ、よくわからない事態になっている。
「上杉、落ち着いてくれよ。家庭教師というのは信頼関係が重要だ。君が正式な雇用契約がないのにもかかわらず勉強を教えているのも、信頼関係があってこそだろう?そこに僕が下手に割り込むとこじれるよ」
「お前とこいつらにはなくとも、俺とお前の間には一定の信頼がある」
「……どうやら君までバカになってしまったようだ」
あえて五つ子達の方を一瞥してから言ってやる。
「……」
かかった!無言の敵意が飛んでくる。
意地でも巻き込まれてやるわけにはいかない。
年頃の女子高生の相手なんて絶対に面倒くさい。
好感度下げテクニックをフル動員してやる。
「大体、どうして今になってそんなことを?」
「それはだな……」
どうやら行き詰まりの打開策として僕を呼んだらしい。
「うーん、申し訳ないけど無理だね。僕が先に飽きちゃうよ」
頼む!折れてくれ!
「じゃあ何か良い案はないか?」
きた!とにかくそれっぽいことを適当に言って、上杉の思考をそっちに向けさせる。
「さあね。人数構成的にはゼミ形式っぽいけど、テスト勉強に使うものじゃないしなぁ」
さぁ、どうくる?
「ゼミ形式……」
よし!上手くいった。あとは...
「じゃ、僕はこれで帰るよ」
「あ、あぁ。急に連れてきて悪かったな」
「まったくだ」
押し切ったー!!!
客人が去ったあと、アパート内では
「上杉君、あの方がよく話していた本堂君ですか?」
「あぁ、そうだ。確か、二乃はクラス一緒だったろ」
「ほとんど喋ったことないわ。学校に来てない日も多いみたいだし、来てたとしてもずっと座って紙に何か書いてるから」
「そういえば、アイツが俺以外の奴と喋ってるところ見たことないな」
「なんというか、出会ったばかりの頃の上杉君に似た雰囲気を感じました」
後日、上杉から
「お前のおかげで打開策が見えた」
と言われたんだが、一体全体何を言っているのかわからなかった。
詳しく話を聞いてみると、どうやら僕のゼミ形式という言葉が『五つ子が互いに得意科目を教えあう』という発想に繋がったようだった。それは厳密な意味でのゼミ形式とは違うと思うのだが、そこをつつくのは野暮だろう。とにかく、これで僕が唐突に呼ばれるようなことはなくなったのだ。