Nighthawk   作:憑き燈

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6は最小の完全数。

時系列:前回の続き


第6話:バーンサイドの補題(後編・応用)

「じゃあ正多面体の塗り分け問題に応用していこう」

 

「よし!ついにここまできた!」

 

「まずは証明に入る前にやった具体例をそのまま流用しよう」

 

「正四面体だったよな。4色すべて使った塗り分けで、回転での重複も区別するような塗り方の集合が$X_4$、正四面体群が$G_4$だった」

 

「そうだね。で、$X_4$に$G_4$を作用させることを考える。そうすると、回転での重複を区別しない場合の総数は、バーンサイドの補題から」

 

$|X_4/G_4| = \frac{1}{|G_4|} \displaystyle \sum_{g \in G_4}|X_4^g| $

 

「こう書けるわけだね」

 

「...ここで$|G_4|$を計算しなきゃいけないんだよな?」

 

「まぁ、本当は適当な軸を与えて、何度の回転で元に戻るのかを考えて、その個数を計算して...っていう手順が必要なんだけど、今回は要らないんだよね」

 

「どういうことだ?」

 

「問題の設定をよーく見てみなよ。色の重複があるならともかく、4つの面に4色すべてを使って塗り分けるんだから、回転操作によって不変なのは単位元、つまり“回転しない”だけだよ」

 

「...あー、そういうことか。でも、それってあとのシグマ計算の方が簡単になるってだけで、結局$G_4$の要素の個数は計算しなきゃいけないんじゃないか?」

 

「それがね。正多面体群の位数は『頂点数×1つの頂点に集まる面の数』か『面の数×1つの面にある頂点の数』で出てきちゃうんだよね」

 

「それってたしか、正多面体の頂点数とか、辺の数とかを計算するときに使うやつだよな?」

 

「そうそう。これとオイラーの多面体定理を使って正多面体に関する情報を割り出すのは、立体図形の定番問題だよね」

 

「ええっと、ってことは$|G_4|=4 \times 3=12$か」

 

「シグマの方は、単位元以外の$G_4$の元をとると全部0になってしまうから、単位元で不変な$X_4$の要素の個数、つまりは$|X_4|$だけが残るね」

 

「$|X_4|=4!=24$だから、計算結果は$\frac{24}{12}=2$か」

 

「正直、この問題だったら普通に考えた方が速かったね」

 

「実際、1つの面に塗る色を固定して、残りの3色を塗る方法は円順列を使えば$(3-1)!=2$とすぐわかるからな」

 

「正六面体も同様。威力を発揮するのは正八面体以降だ。」

 

「じゃあ、ついに正八面体を8色すべて使って塗り分ける方法の総数を考えるぞ」

 

「1年前、上杉がテストで間違った問題だね」

 

「あの問題を正解したのは、俺たちの学年の中でお前だけだ」

 

「それもどうかと思うけどね...群論に頼らなくたって、勘違いや計算ミスを極力減らせば解けなくはないと思うんだけど」

 

「俺は二度と同じミスはしない。だが、それを一発でクリアしたお前の解き方が気になったんだ」

 

「ほとんどインチキみたいなものだよ。これは」

 

「ここに辿り着くまで、お前のアシストがあった上でも本当に大変だった。たとえインチキだろうが、お前の努力の結果だろう」

 

「そうかな?まぁ、君がそういうんならそうなんだろうね。本題に戻ろう。と、その前に、正六面体群の位数も計算してしまおう」

 

「なぜだ?」

 

「面白いことがわかるからさ」

 

「$|G_6|=6 \times 4=24$だな。ついでに$|G_8|=8 \times 3=24$だ...え?」

 

「気付いた?ちなみに、4次対称群の位数も$4!=24$だったよね」

 

「何かカラクリがあるのか?」

 

「蓋をあけてみれば簡単なことさ。$G_6$と$G_8$、$S_4$は同型なんだよ。それぞれの間に全単射が存在するから、要素の個数が等しくなるんだ」

 

「そうなのか。しかし、イマイチイメージが湧かないな」

 

「正六面体の各面の中心を結んであげたら正八面体ができるよ。逆に正八面体の各面の中心を結んであげると正六面体が出てくる」

 

「おぉ!たしかに!」

 

「$S_4$との関係は、そうだなぁ。正六面体にある、4本の対角線をイメージしてみてよ」

 

「たしかに4本あるな」

 

「正六面体の回転操作と、その4本の対角線の入れ替え操作は実質的に同じものになるんだ」

 

「...言われてもすぐにイメージできないな」

 

「帰ったらネットで検索するなり、動画サイトでアニメーションを探すなりしてみてよ」

 

「わかった」

 

「あとはもう掛け算と割り算だけだね」

 

「$|X_8|=8!$、$|G_8|=24$だったから、割って残るのは$8 \times 7 \times 6\times 5=1680$だ!」

 

「正解!これが僕の解法だ。納得してもらえたかな?」

 

「あぁ。胸のつっかえがとれたような気分だ」

 

「それはよかった。ちなみにだけど、正十二面体群と正二十面体群は同型で、位数はともに60。同じように12色、または20色をすべて使って塗り分ける方法の総数を計算できるよ。ただし、正十二面体はともかく、正二十面体の桁数はバカでかい。正十二面体の方も約800万通りあるし、高校生が受けるようなテストで、この2つの問題はまず出てこない」

 

「ってことは、あんまり応用がきかないのか?」

 

「いや、むしろこのバーンサイドの補題が真価を発揮するのは、塗る色の重複がある場合だ。正多面体の塗り分けに限らず、重複を許す場合の円順列や数珠順列等にも、適切な集合と作用を設定してあげれば応用可能だよ」

 

「よし!じゃあ早速その問題もやろう!」

 

「ごめん上杉。そろそろ時間」

 

「あー、そうか。じゃあまた今度だな」

 

「いや、もうその問題は、君1人の力で解けるはずだよ。僕は御役御免だ。また何か新しい、面白いものが見つかったら教えるよ」

 

「そうか...そうだな。今まで助かった。感謝してる」

 

「僕が教えられ続けたのは、君のその執念と理解力があってこそだ。それに、僕の方も君に教えることで勉強になった。こちらこそありがとう」

 

 

 

こうして、僕たちの勉強会は、二度目の終わりを迎えた。

 

 




(第四話、第五話の後書きと同一の文章です)

第四話から第六話を今日で一気に書き上げたんですが、一度投稿しないとTeXの確認ができないんですよ。まだTeXに慣れていないのでちゃんと機能しているのか不安でして(実際ミスだらけでした)、一度完全非公開設定にして、1000字までいったら途中で投稿して確認、その後は確認しつつ編集で仕上げていくという形をとりました。今後の更新も、閑話はともかく数学回はそのような形式になります。

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