キャストリアちゃん、汎人類史にて過ごすの巻   作:ぴんころ

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感想とか高評価は作者が喜ぶのでじゃんじゃんいれてくれていいですよ?


第二話

「で、今日はなんでわざわざここまで来たのさ、姉さん」

 

「んー? そりゃかわいい弟の顔を見ようと思ってね。十年前にも一回風邪こじらせて死にかけてるわけだから、ちゃんと様子を見にくるのは当然のことでしょ」

 

「別にそれ以降は死にかけたりしてないんだから、そこまで気にしなくてもいいのに」

 

「なーに言ってんの。一人暮らしじゃ『お姉ちゃん助けてー』って言ってもすぐには来れないんだから」

 

 藤丸立花がどういう人物なのかと問われると、昔からの知り合いは口を揃えてブラコンという。

 それこそ、2015年4月。高校進学と同時に一人暮らしを始めたただ一人の弟の様子を七月までに片手で数えられる回数を超える程度の頻度で見に行くことも重なり、その評価は高校の同級生にも浸透している。

 立香の母譲りの黒髪とは違う、父譲りの赤銅色の髪を飾り付けるシュシュを弄びながら、立花はお茶を一口含む。

 

「まさかとは思うけど、こんな早くに自分の面倒見てくれそうな恋人ができたわけではないんでしょ?」

 

「まあそれはね。俺は姉さんと違ってそこまでコミュ力はないから」

 

「えー、そんなにコミュニケーション能力高いかなぁ」

 

 姉の言葉に頷くのとはまた別に、キャスターも肯定を返しているのが契約の経路を通して立香に伝わる。

 嘘を見分け、本質を見抜く妖精眼を持つアルトリアがそう言っているのだから、本人が気づいていなくともまず間違いなくそうなのだ。

 そうでなければ、きっと彼女は人類史を救うことなんてできなかっただろう。まだ救うどころか滅んですらいないが。

 

「まあ、褒められて悪い気はしないね!」

 

「そうかそうか。じゃあいい気分のままお帰りいただこう」

 

「姉への敬意が足りない」

 

「いやいや、足りてるって。十分あるから」

 

「そりゃあ、いつお姉ちゃんがきてもいいようにあんなに大量の食材を買い込んでるから多少は敬意があるんだろうけどさぁ……もうちょっと──」

 

「え?」

 

「え?」

 

「……」

 

「……あれ、もしかして一人で食べる用? そんなに大食漢だったっけ?」

 

「も、黙秘権を行使します」

 

「んー、別にそれくらいはいいけどさあ」

 

 目線を泳がせながら震える声を出す弟に対する立花の視線には、立香にだってわかるほどにはっきりと呆れが滲んでいる。

 それ以上のことは所詮は双子でしかない立香にはわからないだろうが、アルトリアにはわかってしまう。

 けれど立香はそれを知ってなお聞くことはなく、アルトリアも特に喋ることはなく、少しだけ気まずい時間が立香と立花の間に流れ始めるのだが、それも五秒と続かなかった。

 

「熱を出した時に見舞いに来てくれる恋人はいないみたいだけど、ご飯を作りに来てくれる恋人はいるみたいだし、そろそろ私もお役御免かぁ」

 

「は? 彼女とかいないんだが?」

 

「いやいや、さすがに自炊ってレベルの食材じゃないでしょこれ。ごまかしても無駄だって」

 

「ははーん。さては楽しんでるなおめー」

 

「もちろん。女っ気のなかった弟にようやくできた女の子の影だもの。当然からかいますよ」

 

 あっ、とアルトリアが思わず呟いた。

 もちろん、霊体化しているのだから声が聞こえるはずもないのだけれど、ついつい声を出してしまった理由は、うりうりー、と姉の肘で腹を小突かれている様子の己のマスター。

 魔術回路のスイッチが入り、その肉体に流れる魔力はどう見ても身体能力を強化するもの。つまり──

 

「はーい、弟をからかうしか能のない姉は帰しちゃいましょうねー」

 

「あ、ちょっと……って、すごっ! 女の子が羽毛のように軽いからって、いつの間にこんな簡単に担げるようになったの!?」

 

 実力行使である。

 ひょいと姉を俵を抱くように持ち上げて、玄関の扉からぽいと放り出す。

 姉が尻餅をついている間に扉を閉めて一言。

 

「悪は去った」

 

「お姉さん、多分悪じゃなくて中立・善じゃないかなぁ」

 

 霊体化を解いたアルトリアも、つい思わず苦笑いしてしまうような強引な技だった。

 

 

 

 

 

 たとえ姉が去ろうと、二人が陥っている袋小路は変わらない。

 具体的にはアルトリアが購入して来たどうあがいても冷蔵庫には入りきらない食材の処理。

 生贄、あるいは生き血を用いての魔法陣の描画、魔術の道に足を踏み入れているのであれば、使い道自体は多種多様にあるのだが、かといって一回で使える量というのは大体決まっている。

 冷蔵庫に入らない分を二人で全力で魔術の材料として処理しようと思っても、腐る前に全て使い切るというのは無謀なことであった。

 

「だったら、こう、全部まとめて料理にしちゃえばいいんじゃないかな」

 

「やめなさい。前にそれでとんでも物質ができたの忘れてないからな」

 

「えー。あれはあれでなかなか面白いものになったと思うんだけどなぁ」

 

「使い魔としてはすごかったけど、料理としては落第以下だった。まず食べる工程にたどり着けないのに料理と呼んでいいのか」

 

 濁った目の魚を素体に、背びれに突き刺さった鶏肉を翼代わりとして飛び、豚肉でできた鞭を振り回す危険生物。

 アルトリアが前回料理と呼ぶことすら烏滸がましい工程の果てに生み出した謎生物の恐怖は立香の心に今も深く刻まれている。

 自らのサーヴァントを厨房に立たせてはならない。そのことをよく知った立香は、ぼんやりとアルトリアが買って来たものを仕分けする。

 

「うーん、やっぱ魚ばっかり買って来たんだな。あとチョコ」

 

「チョコは美味しいですからね! ……やっぱり、まずかったですか?」

 

「どうだろ……魚は冷蔵庫に入れて、チョコはひとまとめにしてアルトリアの魔術で温度を調節しておけば大丈夫、だと思う」

 

「任せてください! えーっと、温度の調節温度の調節。これだっけ? 温度の調節なんて普段使わないからなぁ……あ、これを使えばアイスクリームがどこでも冷たいまま食べられるかも」

 

「それはめちゃくちゃ便利。最近は暑いし、外でアイス買ってそのまま溶ける心配もなく食べられるのはいい」

 

「うんうん。後で試してみましょう」

 

「これの収納終わったらねー」

 

「はーい。魔術の訓練も忘れちゃダメですからね」

 

(アルトリア……聞こえていますか……今、あなたの頭の中に直接話しかけています)

 

「え、いや何でわざわざ念話?」

 

「アルトリアのマーリン魔術ってこういうのでは……?」

 

「ちーがーいーまーすー! 確かに習い方はそうだったけど、目の前にいるんだから普通に教えられます。マスターの魔術、私がどうやって教えたと思ってるんですか」

 

 会話の片手間にぽいぽいと冷蔵庫の中に収納する立香の手際は非常に良い。

 アルトリアに十年魔術を習っていて、彼女の弟子だった立香は魔術の後片付けだったりを手伝うことも数え切れないほどに経験済み。

 もちろん、下手なものを置いておくわけにもいかないアルトリアもある程度は片付けができるのだが、そのあたりは立香の方が手際が良かった。

 

「お、アルトリア。アイス、二つ残ってるけど一個食べる?」

 

「食べます!」

 

 わーいチョコアイスだー、などと言いながらもぐもぐ食べるアルトリアを横目に冷蔵庫に限界ギリギリまで詰め終えた後、もう片方のアイスの封を切って立香も食べ始める。

 ひんやりとした口当たりにわずかな頭痛を覚えながらぺろりと平らげてアルトリアを正面に見据えれば、それでようやくいつも通り。

 

「それじゃあ魔術の修行頑張りましょうね」

 

「目指せ、夏場の体育館での校長の長い話からの脱走」

 

「逃げちゃダメなやつなのでは……?」

 

「俺の命の方が大事だから……夏場、冷房もない体育館で校長の特にありがたくもない長い話を聞き続けるとか、いつ誰が熱中症で倒れてもおかしくないから……」

 

「幻術のお勉強は今日はお休みです」

 

「えー」

 

「温度調節ができるんだから問題ないはずですけど」

 

「それをすると汗をかかないで済んじゃうから。そうなると流石に他の人に疑われてもおかしくないし」

 

「しょうがないなぁ……後でちょっと周囲からの見え方を誤魔化す礼装を作ってあげるから、ちゃんと話は聞こう? そこで重要な話が出ても困るから、ね?」

 

「んー、アルトリアがそこまで言うなら。それで、今日は何をするんだ?」

 

「降霊と召喚あたりかなぁ。さっき、お姉さんが来る前に読んでたんだからそれにしましょう。令呪はできる限り取っておきたいから、何かあった時に私が到着できるだけの時間を稼げる何かを持っておくのはいいことだよ」

 

「はーい」

 

 起動する魔術回路。いつものように魔術の訓練が始まり、アルトリアの助手として彼女の魔術の補助をして、そんなことを繰り返すこと十年。

 才能という意味合いでは姉とどっこいどっこい、多少は立香の方が優れているかもしれないがそれでもどんぐりの背比べほどの違いしかないため、訓練自体は遅々として進まなかった。

 カルデアの礼装も存在しない中、補助してくれる何某かもないままに基礎を学んで、ようやく終わりが見えてきた、そんな時期。

 立香が最後に着手するのが、アルトリアの召喚にも通じる降霊、召喚の魔術だった。

 

「とりあえず、使い魔を一つ持っておくといいと思います。縁と霊基グラフがあるからって、魔法陣もないのに私を召喚して維持できてるのは多分そっち方面に適性があるからでしょうし。……変なもの、呼ばないでくださいね?」

 

「フラグぅ」

 

 間違っても英霊召喚の陣なんて書かないように。そう簡単に書けるようなものではないんだが。

 そんな会話をしながらも消去の陣を描くことはなく、もしもやばいものが出た場合に退去させるための陣、召喚それ自体を行うための陣を描いて魔法陣の完成。

 一体何が現れるのか。少なくとも英霊召喚の陣ではないから英霊が召喚されるはずはないが。

 

(ここで召喚しちゃってもおかしくないからなぁ……私のマスター。ああ、嫌だなぁ……ちゃんとしたの出てきてほしいけど……)

 

 魔術回路から魔力を流し、陣を起動させる立香を見ながらアルトリアは選定の杖を力強く握る。

 出てきたものが悪霊の場合、洗礼詠唱などは使えないがお祓い(物理)程度であれば魔術が扱えるから不可能ではない。

 戦闘用の魔術すらも基礎の基礎しか扱えない立香を守れるのは彼女だけなので、そういう意味でもアルトリアは己のマスターの魔術行使に常に最大限の緊張を浮かべている。

 アルトリアの召喚に比べれば小規模な光の柱に対して注意を払い、立香への攻撃が行われようとどうとでもなる位置を維持し、その中から出てくる何者かを消し去る準備すら構えて。

 

「わ……」

 

 光の柱の中から、人間のものと思しき手が出てきた。

 立香で使役までできるか、とちょっとだけアルトリアが不安になったところで。

 

「我が……おっ」

 

「陛下はおかえりください!」

 

 出てくるものを察して、ばちーん、と選定の杖で魔法陣を消去、強制帰還させるのだった。




ごめんな……陛下……君が主役のも多分書くから……

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