「ノイトラ・ジルガ。お前は何の為に戦う?」
虚夜宮の廊下で面倒臭いのに絡まれた。アフロが特徴的な第7十刃、ガンテンバイン・モスケーダだ。藍染が率いる十刃で序列は七番目。今の俺からすれば……腹立たしいが格上の相手といえる。そのガンテンバインが俺の進行方向上に仁王立ちをしており、通路を塞いでいる。単なる偶発的な遭遇ではなく、待ち伏せをしていたことは明白だ。
「……知ったことかよ」
舌打ちをして脇から強引に通りぬけようとするが、制止させるようの肩に手が置かれる。大して力は込められていないが、逃げることは許さないとでもいうような、強い意志が込められているように感じた。じろりと睨みつける。
「……離せよ。テメエにゃ関係ねぇことだろうが」
「関係はあるぜ。俺達は同胞だが、お前の在り方は危険すぎる。今日お前がこなした任務のことだ」
「それが関係ねえって言ってんだよ。大体、殲滅しろって任務を忠実にこなしただけだぜ? 一体なんの問題がある」
そう。別に俺は独断専行したわけではない。殲滅しろという命令通りに職務を全うしただけだ。
だからどうこう言われる筋合いはないし、これに関しては無茶苦茶な論理を展開してるわけでもない。
そんなことはコイツも分かっているはずだ。それでもなお俺の前に顔を見せたということは、要は殺し方やらなんかに物申したいのだろう。
馬鹿々々しい。殺すんだったらそこに至るまでの過程なんざ関係ねえ。
上品に殺すことがそんなに上等かよ。
俺もお前も、破面になる前は獣みたいにその同胞とやらを食い散らかしてきたっていうのに。
手を振り払って数歩歩くとガンテンバインがまた目の前に現れた。響転だ。
前にも一度、こんなことはあったが響転まで使ってくるということはコイツもそれなりに覚悟を持って俺に接触してきたということか。
だが、そんなものは俺には関係がない。神経を逆なでされただけだ。
「テメエ……!」
「オイオイ噛みつくなよ。俺はただ、お前の真意を知るために問うているだけだ。そんなに気になる質問をしているか? お前は一体何にイラついている?」
「何に、だと? 知るかよ」
一体何にイラつくのか、そんなものは俺だって知らないし分からない。
分からないことは分かっている。誰とも知らない他人に指摘されるのは本当に腹立たしい。
「オラどけ。テメエと遊ぶくらいなら剣振ってた方が有意義なんだよ」
別にこれから鍛錬する予定はない。いや、そうしてもいいがそうじゃなくても良い。ガンテンバインを撒くための適当な方便として放った言葉に過ぎない。
「……そうか。なら丁度良いな」
「あ?」
「ノイトラ。ちょっと付き合えよ」
「……」
そう言って、微かな好戦的な笑みを浮かべるガンテンバイン。
率直に言えば。ガンテンバインの言葉に従うのは癪だが、惰眠を貪るよりはまだ有意義な時間になるだろう。雑魚をいくら殺しても価値はないが、ガンテンバインとの闘いには少なくとも価値はある。
僅かに逡巡し、思考していたせいだろうか。背後から来る足音に気づくのに一瞬遅れた。
「ノイトラ、どうした?」
なんとタイミングの悪い。何も知らないテスラがひょっこりと顔を出して、ガンテンバインの顔を見るなり顔面が硬直する。
「ん、お前は確か……」
「……No.50、テスラ・リンドクルツです」
「ああ、そうだった。確かコイツと同期だったな」
「え、ええ。そうです。……ノイトラが何か?」
「おい」
テメエは俺の保護者か。お前こそ関係ねえのにしゃしゃり出てくるんじゃねえ。
「ん? 別にノイトラが何かしたわけじゃないぜ? コイツがこれから鍛錬するって言うからよ、誘っただけだ」
「そうですか。……良かったじゃないか、ノイトラ」
「勝手に出てきて適当なこと抜かしてんじゃねえよ、殺すぞ」
半ば本気だった。流石にテスラもそれを感じ取ったのか、気まずそうな顔で一言謝罪の言葉を口にする。テスラから見た俺がどう映っているのかなんて興味はないが、大方俺の事を強さに飢えた戦闘狂とでも思っているんだろう。
嗚呼、けど違うんだよ。
戦いに飢えているわけでも、戦闘狂なわけでもない。
俺は、ただ―――。
……。
ただ、なんだ?
「おいよせ。テスラに悪気があったわけじゃねえだろう」
「うるせえ」
咎める声にも腹が立つ。ああ、本当に煩い。どいつもこいつも。知ったような顔で語りやがる。
もう少しで何かの手がかりを掴めそうだったのに。
踵を返す。そもそも俺はガンテンバインが嫌いだ。嫌いなヤツと話をして気分が良くなるはずがない。
十刃なんて俺からすれば全員イラつく連中だが、順位をつけるとしたらその中でもガンテンバインの事が一番だろう。
何か因縁があるわけじゃない。ただ、オレはコイツの態度が一等気に入らない。
その理由も、俺には分からない。
「おいノイトラ」
「鍛錬するんだろうが。クソ、付き合ってやる」
逃げたと思われるのも気に食わない。お望み通り付き合ってやる。
「言っておくがよ、いくら十刃だからって舐めるなよ。俺の牙はお前にも届くってことを証明してやる」
「おい、ノイトラ」
咎めるようなテスラの声を無視する。偉い十刃サマに対する態度がなっていないとでもいうつもりか。余計なお世話だ。
「構わねえよ。それに跳ね返りのあるやつは嫌いじゃねえ」
嗚呼、煩い。何もかもが煩わしくて、それに頭が痛くなってきた。ガンテンバインの頭でも砕けば、少しは気分も晴れるだろうか。
虚夜宮から一歩出ると広がるのは一面の砂漠だ。
遠くにはメノスの森やらなんやらがあるが、少なくともここら付近には何もない。石英みたいな植物と小動物みたいな虚がちょくちょくいる以外には何も。
まともな遮蔽物がないこの場所は身体を動かすには丁度良い場所だ。
城を出て少し歩く。先頭は俺でガンテンバインが続く。最後尾にはテスラが気まずそうな態度で追随している。
立ち止まる。振り返ると虚夜宮が小さく見えた。ここまで来れば派手に暴れても問題ないだろう。
「じゃあまあ模擬戦と行くか。つっても殺し合いをするつもりはねえからよ。解放は無しだぜ。おう、テスラ。審判頼むわ。ヤバイと思ったら止めてくれ」
「は、はい」
ガンテンバインはそう言って構える。俺の三日月状の矛と比べると貧相な斬魄刀だ。
俺も人の事を言えないが、それは果たして斬魄刀と言えるのか。拳に握ったそれは特殊な形状だ。
「……」
ガンテンバインの戦闘方法は良く知っている。拳による近接格闘を主体に組み上げた戦闘技法。
帰刃をするとガラッと戦闘方法が変わるが、今この場じゃ考慮しなくていいだろう。
鋼皮は俺の方が上。俺の鋼皮は十刃の上位にも通用する。速度で負けているとしても勝算はある。
とはいっても相手は腐っても十刃。俺の鋼皮を貫く算段くらいは付けているだろう。
歩いてる間、コイツとどう戦うのか頭の中でシミュレーションはやり尽くした。勝算は、有る。
背中に背負った斬魄刀を正眼に構える。それを見たテスラは複雑そうな顔で跳んで距離を取った。
「戦いの中でしか分からないことがある。特にお前相手ならそうだと思ったんだが、どうだ?」
「……」
目の前の敵が何か言っている。敵の言葉に耳を貸す必要はない。殺し合いだ。言葉なんてものは勝った後の骸にでも吐き捨ててしまえば良い。
「別にお前の性根を叩き直してやろうなんて物騒なことを言うつもりはねえが―――」
ガンテンバインは一度構えを解き、短く胸元で十字を切る。
「先輩として胸を貸してやるよ。掛かってこい」
言葉が終わると同時、俺は地面を蹴り刃を振り下ろした。