蟷螂の斧   作:Mamama

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祈るという言葉が嫌いだ。

それがいくら真の力を発揮するための解号であろうと。俺はその言葉が気に食わない。

解号は適当な言葉を並べればいいってものじゃない。己の力の核を解放する言霊だ。

その言葉が何故、『祈れ』なのか。

 

一体誰に祈るのか。

一体何に祈るのか。

祈ったところで、何の意味があるのか。

意味なんてねえよ。なら、なんで祈る必要があるのか。

 

 

嗚呼、頭が痛い。

ガンテンバインに手痛い攻撃を食らって脳震盪を起こしているのか、考えは取っ散らかっては明後日の方向に広がっていく。

……いいや、違う。解放して傷は癒えたにも関わらず頭は鈍痛を発している。

 

「……ノイトラ。解放は無しだと言ったはずだぜ」

 

 警戒を込めたガンテンバインの言葉に俺は四本の腕を軽く眺めた。

 

「……」

 

 衝動的だった。朦朧とした頭は敵を殺せと訴えて、それに従っていたら解放していた。

 

「テメエも解放しろよ。それで良いだろ」

「いや、よかねえよ。お前はここで本気の殺し合いをするつもりか? 流石にそれは看過できねえ」

「温ィこと言ってんじゃねえよ。俺達が武器を取った段階で殺し合いと変わらねえだろ」

 

 そうだ。俺は殺すつもりだった。模擬戦闘なんて甘いことは言わない。コイツが少しでも油断するようだったら叩き潰してやるつもりだった。

それは今でも変わらない。

 

「……やめようぜ。勝敗は決したんだ」

「俺はまだ生きてる。戦える。それで勝ったつもりか」

 

 餓鬼かよ、とガンテンバインは溜息を零す。

 

「ルールを設け、その範疇で競い合った結果だ。受け止めろよ。……お前は強くなる。けど、今は俺の方が強かった。ただそれだけの話だ」

 

 ああ、それは正しいんだろう。ガンテンバインが正しく、俺が間違っている。

だけどな。そんな言葉一つで足が止まるほど、俺は賢くないんだよ。

 

「止めとけ。お前、解放後だって戦い方が変わるわけじゃねえだろ。俺が解放したらさっきの焼き増しだ」

 

 正論だ。今の俺じゃきっと、コイツには勝てない。四本の腕はガンテンバインに届かない。

 

「だからなんだ。テメエは勝てる勝負しかしねえのかよ」

 

 そうだ。勝ち目が薄い戦いだろうがなんだろうが、終わることは出来ない。

道は未だ分からない。俺がどの道を歩いているのか分からない。この行いが正しいのかどうかも分からない。

ただ、意地を通すってのはそういうことだ。

中途半端に矛を収めるくらいなら初めからやる必要はねえ。

 

ガンテンバインの言葉を借りるなら……どうも、俺は戦闘狂ってわけじゃないらしい。

それでも俺は闘争を求める。何の為に? それはまだ分かんねえ。

ただ、結局のところそれこそが俺の求める答えに帰結するもんだとなんとなく思う。

だから、戦うことは止められない。

 

「いくぜ」

 

 構える。四本の刃の先には敵がいる。今はそれだけで十分だ。

 

「……駆けろ『龍掌』」

 

 ガンテンバインの姿が変化する。アルマジロを彷彿とさせる、解放の姿だ。

示し合わせたわけではないのに、足を踏み込んだのは同時だった。

一瞬の空白の後、轟! と音が響き俺の四本の腕が砕け散る。

 

「……」

 

 腕も刃も俺の霊圧が続く限り再生できる。ただ、四連撃の後の五撃目は腹部に食い込み、俺は血反吐を散らした。

強制的に解除される帰刃。勝負は、ここに決した。

内臓が搔き回されたように痛い。暫くは戦えないだろう。

 

膝を付きそうになるが、それを強引に押しとどめる。単なる気合だ。

 

「……俺の負けだ」

「ようやく認めやがったか。このはねっかえりが」

 

 苦笑するガンテンバインを睨みつける。

 

「だが、俺は生きてる。忘れんなよ、いつかテメエの首を狩り落して十刃の座を奪ってやる。その時まで負けるんじゃねえぞ」

「おう。……ま、俺もそれまで腕を磨いておくさ」

 

 同じく帰刃を解除したガンテンバインの死覇装は一閃した後が残っていて、切れた布がひらひらと踊っている。

それを見て満足したわけじゃない。結局、ボロ負けだ。

ただ、ほんの少しだけ頭痛は晴れた。

 

急速に揺らいでいく意識。気づくと砂の地面が迫っていて俺は前のめりに倒れていた。

ノイトラ! と焦るようなテスラの言葉を最後に意識は反転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、アンタ。こんなところに何の用?」

 

 三桁の巣に足を踏み入れるなり、チルッチ・サンダーウィッチに絡まれた。腰を低くし、腰の斬魄刀に手を伸ばしている。既に臨戦態勢だ。

もっとも、俺のようなヤツがいきなり住処に来たらその反応も最もなもんだが。

 

「テメエに用はねえよ。どけ、女」

「あ、ちょっと!」

「―――なんだ、騒がしいな」

 

 俺がチルッチを押しのけるのと奥からガンテンバインが出てくるのは殆ど同時だった。

 

「……よう、ノイトラ」

 

 俺の姿を見るなりどこか気まずそうに声を掛けるガンテンバイン。

 

「ちょっと付き合え」

「……おう。良いぜ。チルッチ、ちょっと出てくる」

「ちょっと、大丈夫なの? ノイトラよ?」

 

 後ろでチルッチが喚いているが、あんな雑魚のことはどうでも良い。

思いの他、素直にガンテンバインは着いてきた。外に出る。あの時の場所だ。別に思い入れがあるわけじゃない。ただ、都合が良い場所を探していたらそこに辿りついていただけの話。

 

「テメエ、俺以外に負けてんじゃねえよ」

 

 俺が声を掛けるとガンテンバインは意外そうな顔で驚いて、頭を掻いた。先日、ガンテンバインは破れ、降格した。十刃落ちだ。ゾマリとかいう破面に負けたコイツは一命をとりとめたものの、十刃ではなくなった。

 

「……ああ。悪い。だが意外だな、お前が態々そんなことを言うなんて」

「うるせえ」

 

 あの時の言葉は単なる口約束。それを律儀に守る必要はない。

だが、苛立つ。本当なら俺がコイツをぶっ殺して十刃になるはずだったのに、予定が狂った。

 

「構えろ」

「おう」

 

 あの時の焼き増しだ。テスラはいないが、構図は同じ。

互いに駆ける。速度は互角。しかし、

 

「くっそ……!」

 

 苦悶の声が上がったのはガンテンバインの方だった。俺の攻撃を受け流し切れていない。

あの時とは違う。俺は霊圧を上げ、技を磨き、更なる高みに登った。

ガンテンバインが弱くなったわけじゃない。単に俺の成長速度がガンテンバインのそれを上回っていただけ。

 

高揚はしない。こうなるだろうな、と薄々分かっていた。

響転にも対応できる。足場を崩すような振り上げにガンテンバインは反応できず、宙を浮く。

そして防御ごと打ち砕く。腕を交差させて多少霊圧を込めたくらいじゃもう、俺の攻撃は防げない。

地面に叩きつけられ、何度かバウンドする。ガンテンバインがようやく態勢を整えた頃には、俺の斬魄刀はガンテンバインの首元に据えていた。

 

「……」

 

 首は落とさない。俺は刃を引いた。

 

「殺さねえのか」

「馬鹿が。テメエにそんな価値があるかよ」

 

 敵は殺す。だが、ガンテンバインは敵ではなくなった。

情けを掛けたわけじゃねえ。情けを掛ける価値もコイツにはなくなってしまった。

格付けは終わった。コイツは生涯俺に敵うことはないだろう。

それが分かっただけで、十分だ。

 

踵を返す。雑魚に掛ける言葉なんてありはしない。

 

「……なぁ、ノイトラ」

「あァ?」

 

 ガンテンバインの言葉に俺は足を止めた。

 

「お前の答えは見つかったか?」

 

 俺は言葉を返さなかった。返せなかったし、返すことが出来たとしてもしなかっただろう。

俺にとってガンテンバインは有象無象に成り下がってしまったんだから。

 

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