勝手に俺を殺すな。目の前の美少女が俺だぞ。   作:最強雄筋肉チンポバトル

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やると言ったらやる『スゴ味』があるッ!

 あーあーあーやっちゃったやっちゃったよ!クソ!最悪だ!身体中ボロボロで頭がガンガンする。そんなところで人に話しかけられたら対応冷たくなるに決まってんじゃん。バカか?バカは俺だけど。なんだよ、「また会える」って。そりゃまた会えるっしょ、だって学校一緒なんだから。はぁ〜つっかえ。やめたら?人生。やめられたらどれだけラクだろうなぁ。

 しかしまぁ、もう方向性がわからなくなってきた。あそこで誤魔化さずに怪異のせいで女の子になっちゃいました!って言えばよかったのかもしれない。でも現実は違う。誤魔化しちゃったせいで、あいつの中では正体不明の少女としてキャラ確立してしまった。こうなったらやるしかない。俺は一度こうと決めたらテコでも動かない鋼の意志を持ち合わせた男だ。やると決めた以上退くことはできない。キャラを完璧に演じ切ってやる。高校2年3年の間だけだ。こんな短い期間なら俺でもやれる。やるんだな!?今ここで!勝負は今ここで決める!

 

 そうと決まればキャラ設定を考えるしかない。まずは、性格とか嗜好とか思考とか。ギャグじゃない。

 自分で言うのもアレだけど、俺は元来陽気な人間だと思う。だからあんな冷徹な殺戮       みたいな言動は本来得意じゃない。気が立ってるのと疲れてるのと頭の処理が追いつかなかったからで自然とああいうムーブができたけど、もう一度やれと言われたら無理だ。というかなんであのタイミングで駆けつけてくるんだよ。ヒーローは遅れてやってくるってか。余計なお世話だからそのまま直帰してください。本当にタイミングの良い……いや、悪いのか?どっちだ?あいつが怪異を倒す見せ場を作らせることができなかったからタイミングが悪いのかもしれない。主人公がキッチリ倒してくれたら俺がこうならずに済んだし。命投げ捨てる覚悟をしてまで自爆スイッチ押したのに生き延びただけでも恥ずかしいのに、おまけに呪い付きだ。これ家帰っても親に息子って認識されないんじゃないか?そう思うと怖くなってきた。それって……孤立無援、ってコト?!

 今までの悪行の罰が当たったな。天網恢々にして疎に漏らさず、ということわざの通りこれは天罰なのかもしれない。冷蔵庫にある白米だけ全部食べたりとか、悪ふざけで友達と破壊した花瓶を知らないフリしたりだとか、そんなことしなければよかった。その代償で誰も「深山 冬紀」という人間を認識しなくなるのがツラすぎる。半分死人みたいなもんじゃん。戸籍とかどうするんだろうなぁ。

 

 そんな事は今考えてても仕方がない。キャラ設定の話に戻そう。

 このまま帰るわけにはいかないので、とりあえず自販機でお茶を1本だけ買って家の近所の公園に居座る事にする。ここなら誰も来ないし、静かで考え事をするにはうってつけの場所だ。

 

 さてどうするか。土御門に応対したみたいな冷徹さを一貫したいが俺にその素質はない。じゃあどうするか?ここでご都合主義的設定を引き出そう。あぁ、ちゃんと本を読んでおいてよかった。本ってか漫画とかラノベが大部分を占めるけど、こういうう時に役に立つ。やはり人生に無駄な事など無かった。

 

 そう、俺の考えた最強の設定。それは「戦闘中だけ性格が豹変する」だ。どう?完璧じゃない?いやぁ〜自分で自分を褒めたくなる。偉すぎるだろ俺。よし、あとは普段の性格の設定だ。これはまぁ、普段の俺と変わらない感じでいいだろう。

 

 気をつけるべき点としては、土御門のことを普段みたいに「ツッチー」って呼ばないコトだな。この名前で呼んでるの俺だけだし、この名前を出せばかなり怪しまれると思う。だからこの呼び方は封印です封印。さながら有害指定図書を躍起になって図書館から排除しようとするPTAのごとく目を光らせていなければならない。ポロっと出そうになるからね、気を引き締めていこう。

 

 しかし────

 ある「考え」が俺の心の中で首をもたげる。こんな事、実現してはならない。無視せねばならない。でも、どうしても考えてしまう。俺の心の中で暴れ狂う。

 

 この事態を楽しんでみてはどうか?

 

 という考えが。

 いささか危険すぎる。危険極まりない。

 でも。なぜか。この状況を楽しまないと損だという思う気持ちが強まっていく。なぜか?俺はもう諦めてるんだ。元に戻れないっていうことが薄々わかっている。呪いをぶつけてきた怪異が死んだのにも関わらず、呪いが解けないということはつまりそういうことだ。俺はもう一生戻れない。そういった諦観の念がある。

 

 じゃあ楽しまないとな!この状況を!さっきまでの設定なんて丸めてポイって捨てよう!いゃっほい!

 

 ということで設定の練り直しだ。戦闘中は性格が豹変する?バカ言ってんじゃないよ。甘い甘い。インドの世界一甘いお菓子、グラブジャムンより甘い。ちなみにこのお菓子、甘すぎて今まで気づかなかったほど小さい虫歯が自分でも分かるぐらいになるほど歯が痛くなるらしい。こわい。

 

 俺は設定を守り抜く意志はある。じゃあどうすればいいか?簡単な話だ。土御門ことツッチーの前で見せつけたあのキャラを突き通せばいい。嘘を嘘で塗り固めてキミだけのサイキョーなキャラクターを作ろう!やかましいわ。

 

 つまり俺がこれから突き落としていくのは「他人に心を開かない不思議な感じのする少女」だ。でもこれじゃさぁ、マンネリなんだよな。いくらでもこんなやついるっつーの。ウチの高校にもそんなやついるんじゃね?絶対いるだろ、後から仲間に加入する追加DLC系のキャラでいるよこんなやつ。最後は主人公に心を開いてクールなツラをかなぐり捨てるんだよ。俺は知ってる。ラノベで死ぬほど見た。そして何度キャラ崩壊に涙を呑んだことか。でも悲しいかな、俺にはこれをベースにするしかない。コピーはできるけど応用が効かないのが俺の欠点だ。こういうのは大学受験で志望校に落ちる。まだ大学受験してないけど。

 

 う〜ん、悩ましいな。このベースのキャラに本来の俺の性格を混ぜ込んでやるとかはどうだろう?たとえば他人には普通だけど1人だけに対してめちゃくちゃ冷たいとか。いやボツだわ、なんか単純にイヤなやつになっちゃう。

 

 あ!そうだ!いい案思い付いた!「怪異とそれを倒すものを憎む執着心の強い少女」ってのはどうだろうか!?なかなかいい線いってると思う。怪異を憎みすぎて一周回ってそれを倒す人間すら憎悪の対象的な。これだと、パンチが強すぎず弱すぎずの重い過去を背負ってる的なキャラだろう。実際怪異は憎んでいるけど、それを倒す人間を憎むほどではない。まぁそんな人間いないだろうけど、キャラ付けなんだし仕方がない。俺はこのキャラで行く。

 

「よっしゃあ!いくぞォ!」

「……大丈夫?どうしたの?」

「うぇぁっへ!?」

 

 うわぁ!?なんだコイツ!?ビックリしたわホンマ……。発破をかけて立ち上がったら急に横から声かけられたモンだから腰抜かすかと思った。

 

「えと……ごめんね?大丈夫?」

「あ、や、大丈夫です……」

「見たところあなたも私と同じ高校でしょう?なんで男子用の制服着てるかは知らないけれど。何年生?私は2年の宮本。宮本 梓織(みやもとしおり)よ。あなたは?」

 

 よく喋るなぁこの子。でも、あれ?宮本って確か同じクラスのやつだったよな。ツッチーと仲のいい女子だって記憶。ちなみに俺は彼女に親の仇を見るような目で見られている。理由は間違えて女子更衣室にツッチーと突入しちゃったから。なぜか俺だけが罪を全て着せられて、クラスの女子からはガチのマジで蔑まれている。その事件のおかげで俺はクラスの男子内で英雄になれたのは別の話だが。恥ずべき成功より誇れる失敗だ。ん?でもこれ両方失敗だよな。

 

「あ……俺は長波です。長波 那月(ながなみなつき)です」

「長波ね……そんな子いなかったような気がするけど……」

「いや、転入生です転入生。明日からですよ」

「ふぅん……」

 

 やばい。嘘がバレそう。ちなみに長波ってのは母さんの旧姓で、那月は冬紀から連想した季節。春だとツッチーと被る、夏なら大丈夫という算段。

 

「じゃ、俺はこれで……」

「待ちなさいよ。そんなズタボロの姿で大丈夫なの?」

「家が近いので……いや、マジのガチでほんとですよ。……じゃ、失礼しまーす」

「ちょっと……!」

 

 後ろから何か言われてる気がするが気にしない気にしない。気にしたら負けだ。

 クソ、にしても今日は厄日だ。会いたくないやつに会うし、最悪のタイミングで同級生にも声をかけられる。踏んだり蹴ったりの日だ。もう家に帰って布団かぶって寝よう。

 

 ……父さんと母さんに、今の状況なんて説明しよう……。


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