勝手に俺を殺すな。目の前の美少女が俺だぞ。   作:PGM-2

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めちゃくちゃどうでもいいんですけど、タルコフ破産しました。


万里の波濤を乗り越えて

「と、いうわけです」

「ごめんもう一回最初っから説明してもらっていい?」

 

 家に帰るなり警察に通報されかけたので懇切丁寧に説明したんです。やめてください、聞き直してくるのは。傷つくんで。懇切丁寧に説明したっていうのに鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてやがる。

 

「だからつまり、かくかくしかじかの経緯で怪異に女の子にされちゃった、ということです」

「……さっぱりわからん。母さん何か言ってやってくれ、父さんは頭が動作不良起こしそうだ」

「理解できたら苦労しないわよ……」

 

 父さんエラーの母さんフリーズらしい。これ俺がエンジニアだったら1発でクビになってそうな布陣だと思う。プログラム書いたことないしC言語とか一切わからないけど、エラーとフリーズってなんかこう、一番やっちゃいけないような感じする。ゲーム中とかにブルスク吐かれたらたまったもんじゃないしな。

 いやしかし悲しいかな、親にすら理解してもらえないというのは。多分3回ぐらい経緯を説明していると思う。それなのに一向に理解してもらえないのは多分脳が理解を拒否してるんだなぁと。

 

「まぁ、でも。冬紀だということは疑いようのない真実だ……と思う。話し方とかはソックリだし。ただ、父さんたちはあまりに唐突なことでびっくりしてるんだ。学校はどうする?服は?これからの生活は?」

「……まだ何も……考えてないです……けど、そこの公園でたまたま会った同級生には明日から学校に登校する転入生、って答えました……」

「オイ」

 

 改めて考えると最悪の一手を打ったような気がする。名前擬装、経歴擬装のツーアウト。野球ならピンチですよピンチ。ってもうほぼ限りなくピンチなんだけどな。アッハッハ。だめだこりゃ。

 こいつはヘビーだぜ。今ならマーティ・マクフライの気持ちもわかろうよ。

 

「冬紀……あんた分かってる?今の状況、誰が見ても卒倒するわよ」

「わかってるよ。誰よりも。だからこそ、だからこそ隠し通さねばならないんだよ。特にツッチーには絶対に隠し通す」

 

 そう。あいつにだけはバレたくない。絶対めちゃくちゃな手を使ってまで戻そうとしてくるだろうし、何よりもう戻る見込みなさそうだからそんな事されたら俺死んじゃう。お嫁に行けないよ。

 

「わかってるならどうするの?そこまでの覚悟があるなら、私たちも止めやしない。バックアップはするわよ」

「えっ!?母さん、まだ何も決めたわけじゃ……」

「あなたは黙ってて」

 

 おい父さん。もっと何か言うことあったろ。そんなすごすごと引き下がられたら父親の面目丸潰れだよ。もうちょっと粘れよ!こう……なんでもいいからさ!「ワシが決める!」ぐらい粘ってくれた方がもうちょっとかっこよかったのに!

 

「……あの、ひとついいですか」

「どうぞ」

「その同級生に偽名で名乗っちゃったんですけど……」

「は?」

「すいません……」

 

 リビング・デッド。生きながらにして死んでいるとはまさに今の俺にぴったりの言葉だ。明らかに凍りついたリビングの空気も含めて。

 凍りついた池を叩き割るように、ひとつ咳払いをしてから父さんが口を開いた。

 

「……やると決めたら、やれ」

 

 その言葉には、どこか重々しい響きがあった。

 

「やると決めたら、やれ。自分の問題だ。他人がどう言おうが干渉できることじゃない。ただ、さっき母さんが言ったみたいにバックアップはする。約束しよう。だから、今ここで、やる事を決めてくれ」

 

 普段おちゃらけた父さんからは想像もできないような威厳のある声で、そう告げた。

 

 俺は考える。どうすればいいかを。どうすべきかを。どうすれば最善かを。

 最善なんてのはない、そもそも公園で宮本さんに会ってテキトーなことをペラペラ喋っちゃったから。ならばどうすべきか?初志貫徹、言ったことを現実にしてやればいい。

 

「父さん、母さん。頼みがあります。偽名使っちゃったから戸籍をなんやかんやして現実のモノにしてほしいのと、高校への編入手続きをしてほしいです。あと、友達が訪ねてきても俺のことは隠してください」

 

 自分でも図々しいと思う。ただ、父さんと母さんにはこれができるほどの力がある。はず。母さんはお役所勤めだからその辺どうにかしてくれるだろう。父さんは何やってるか知らないけど、まぁ力にはなってくれるだろう。

 

「よぉしわかった。母さん、戸籍の件について頼める?」

「まぁ納得はいかないけど……やれってんなら、やるわよ」

「さっすが!」

 

 あ、やべ。最後のは余計だった。二人にめっちゃ白い目で見られてる。ごめんってば、悪かったって。

 

「とりあえず制服は私の使いな。そんなボロボロになってちゃ使おうにも使えないでしょ?」

「えっ、母さん制服なんてまだ残してんの?」

「野暮用でね……」

 

 おい。さっきまで白い目で見てきたくせに次は目を逸らそうとするな。ちゃんと目を見て話せ目を見て。

 しかし助かった。まだ6月で夏服の時期なのに、冬服の学ランを羽織って学校行くハメにならなくてよかった。夏にそんなもん着てるのは、ステレオタイプ的露出狂かコスプレイヤーだけだと思う。

 

「じゃあ俺は部屋戻るよ。色々、ありがとうね」

「息子だからな。力になるのは当たり前だ」

「そうそう。あ、明後日から私たち北海道の実家に戻るから。1週間ぐらいかな?とりあえずお留守番よろしくゥ!」

 

 は?ズルいぞアンタら。俺も連れてけよ!……って言おうとしたけど、今この状況じゃ無理だ。多大なる貸しがある。ここは黙って従おう。とっとと2階の自分の部屋に引きこもってやれ。……ちっくしょー、札幌ラーメン食べたかったのに。明日作ろ。

 

 

 

「はぁ……疲れたぁ……」

 

 ベッドの上に手足を投げ出す。思ったより疲れていたらしく、寝転がった途端に手足が棒のように動かなくなってしまった。

 思えば今日一日が濃すぎたからかもしれない。だってよく考えてみろよ、死を覚悟して自爆したら生き残ったばっかりか女の子になっちまって、さらにそれを友達に見られて、そのあと同級生に遭遇して冷汗ダラダラ流しながら嘘八百よ。こんな事ってある?無いっしょ、もう1日が3日ぐらいに感じられたよ。寿命も30年ぐらい縮んだような気がする。勘弁してくれよ。そもそもさぁ、なんで俺なんだよ。俺じゃなくてもよかったじゃん。もっと劇的なドラマ的背景のある人間選んでくれよ。そっちの方がまだ物語的にも見てて楽しそうだし。

 

 ばっかくせぇ。寝て起きたら元に戻ってねぇかな。あ、でもそれじゃ父さんと母さんの頑張りが無駄になっちまうな。ついさっき玄関の扉閉まる音が聞こえたし、書類改竄しに行ったんだろうか。こんな平日の夕方に大丈夫なのかな、銀行強盗みたいに脅迫しだしたら俺は泡食ってぶっ倒れるかもしれん。

 

「あ、いかん。眠気が……」

 

 やばい。段々と眠気に逆らえなくなってきた。深いプールで溺れてるみたいな感覚。もがこうとしても中途半端に浮くだけで、徐々に徐々に底まで引っ張って沈められるような。

 今眠るわけにはいかない。今寝たら深夜の変な時間に起きそうだから。この姿だったらなおのこと、夕飯を逃して腹ペコのまま深夜徘徊するわけにはいかない。というか今の身体だと腹具合とかどうなってんの?まだ何も食べてないからわかんないけど、前よりは確実に食べられないだろうなとは薄々わかる。というか前と同じぐらい食べれたらそれはそれで怖い。

 

 ダメだやっぱ、もう無理眠い。今日はもう寝ます。明日考えりゃいいや、明日。あ、でも明日もう学校行くんだったな……。

 

 

 夢を見た。

 俺は自分の部屋の椅子に座っている。身体は前の状態、つまり「長波 那月」ではなく「深山 冬紀」なのだ。

 

「よう、やっとコンタクトがとれるな」

 

 見なかったことにしておきたい。見なかったことにしておきたいのだが……どうしても無視できない。

 

「ん?聞こえてる?」

「……聞こえてるよ」

 

 あぁ、俺はとんでもなく疲れてるんだろうな。

 俺のベッドの上には、こうなった原因であろう羊頭の悪魔があぐらをかいて鎮座していた。

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