勝手に俺を殺すな。目の前の美少女が俺だぞ。   作:PGM-2

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交代してくれ

 で。どうすべきか。いま俺は、俺の中の全力を振り絞って考えている。わからないことというのは当然ネットに頼ればいいのだろうけれど、なんか今ネットでこういうのを調べちゃいけないような気がする。こう……説明できない気分がある。敗北感?いや違うな……。まぁいいや、いやよくないけど。この今の状況を打開しなければいいものもよくないし、よくないものもいい。何言ってんだろうな。脳みそがフル回転しすぎてこういうこと言ってないと何しでかすかわからないから喋り続けるしかない。本当に俺と言う人間は欠陥製品すぎる。涙が出てきそうだ。

 

 こんなことならセーラー服を脱がしたい趣味じゃなくて着る趣味も持っておくんだった。こういう時のために使えるということがわかったので、これからは本当に一切理解できないようなことを趣味にしてる人にももっと理解しようと思う。彼らは"来るべき時"に備えて訓練を積んでいるのだと思えば何かの特殊部隊かのようにすら思えてくる。間違いなく特殊性癖部隊ではあるだろうけれども。

 

 天を仰ぐ。為す術なし。ここはもうスマホに頼るしかないのか。しかしここでスマホで調べてしまったら俺は会社の検索履歴に「セーラー服の着方を調べるやつ」として一生記録に残ってしまう。そんな変態と勘違いされるのはまっぴらごめんなので、記録を消すようにサーバーに説教してやりたい。所詮ヒトに作られた機械のくせに偉そうにしやがって、人間様ナメんじゃないわよ!

 

『……もどかしいのう、ワシに貸せ!』

 

 そういえば風呂場にベルトを置き忘れていたような気がする。ちなみに身体を見たくなかったから目隠ししながらシャワーを浴びていたら、そのせいで石鹸で足を滑らせて危うくポックリ死ぬところだった。まさに踏んだり蹴ったり。地雷は踏むわ石鹸は蹴飛ばすわで散々すぎるからいい加減お祓いしようか真剣に悩んでる。

 

『あれ?聞こえてないのか?おーい、返事せんか』

 

 もうめんどくさいから学校サボろうかな。ちょっとぐらい休んでも……バレへんか。なんか幻聴も聞こえてきたし、みんなが働いたり授業受けたりしてる中、布団かぶってスヤスヤしとく方が得策だと思うような気がしてる。やっぱ俺天才かもしれないわ、ということでもう今日は休む。休みま〜す。理由?"精神的ストレスに起因する幻聴"ということでお願いします。

 

『幻聴なわけあるか!やっぱワシの声聞こえとるなお主!』

『……なんすかもう……!てかあなたさっき、夢ん中でしか会えないみたいなこと言ってなかった?』

 

 幻聴だと思いたかったけど、そうは問屋がおろさないらしい。頭の中に直接語りかけてくるように声が響き、俺の頭で喚き散らす。気分はさながら神託を受けたジャンヌ・ダルクのよう。これどうやって相手と会話できてるんだろうか。自分の中では念話的なサムシングだと思っている。強く思うと相手に伝わる感じ。

 現実とはいかなる時も非情に、冷酷に進んでいく。バイアスという単語が俺自身を嘲笑っている声が聞こえてくるような気がする。

 

 そういえば、俺の記憶が正しいとするなら、ヤツは『ワシと会えるの夢の中だけだから明日もよろしくな』みたいな事を言ってたと思う。俺が目覚める少し前の、おぼろげに覚えている部分だからもしかしたら記憶違いかもしれないが。にしてもなんか腹立ってきたな。なんで俺がこんなことしなきゃなんねぇんだよ。

 

『まぁまぁ落ち着くのじゃ。せっかくワシと会話できてるんじゃからもっと嬉しそうにせんか』

『わーい』

 

 このクソ悪魔、どの立場から物申してるのだろうか。俺はもう怖くなってきた。こいつを幹部に起用するような冥界の人材の少なさ、層の薄さ、トップの無能さが。冥界はもう終わりや、人類はもうこれから特に何もしないでも悪魔どもに勝てると思う。逆に今までなんでこんなやつらと人類史をかけた死闘を繰り広げていたか理解できないほどに、肩すかしを食らった気分だと、改めてそう思った。

 

『まぁなんじゃ、それが着たいならワシにお主の身体を貸せ』

『いや、もう学校休もうと思ってんだけど』

『あほ!学校にはちゃんと行け!』

 

 悪魔がそれを言うか。真面目かよ。

 というか今、『ワシに身体を貸せ』って言わなかったか?どういう理論なんだ?

 そんな疑問をよそにして、バフォメットは喋り続ける。

 

『ワシに貸してくれたら着替えのやり方とかちゃんと教えるし、今日一日限りならお主の代わりに授業を受けてもよいぞ!どうかの?』

 

 魅力的な提案。たしかに授業を代わってもらえるのはラクだ。でも。

 

『怖いからやだっ。学校着くまでなら貸してやるからそれで頼む。な?勘弁してよフーちゃん』

『なんじゃその呼び方は……。2000年ぐらい生きててはじめて聞いたぞ』

『まぁともかく!代われるならとっとと着替えてくれよな!早くしないと遅刻すんだからさ!ほら、とっとと!』

『えらっそ〜なヤツじゃの!誰のおかげで今日学校に行けるのかよく考えるんじゃ!』

『親』

『……そうじゃなくて!』

 

 だって学費出してるの親だし。そもそもこうなった元凶がお前なんだから自分のケツは自分で拭けよ、と思う。男ならそうするだろうがよ。

 

『ま、いいのじゃ。いいかの?ワシが合図を出すまで目を瞑ってるのじゃ。さん、にー、いちで手を叩くから、その後に目を開けてうまくいけば交代完了じゃな』

 

 うまくいかなかったら?そのことを考えると不安だ……不安すぎる……。自身の死に際に呪いをかけて、全く違う効果を発揮させた悪魔がこんな自信満々に言うのだから、失敗する予感しかしない。自信満々な時に限ってオチが最悪、というのはよくあることだ。最悪の事態は常に覚悟していなければならない。一回死ぬ危険を味わったのだから、もう二度とそんな目には会いたくはない。だがそこはもう仕方がないと割り切って、死んだらその時はその時に考えよう。大丈夫、なんか死なねぇような気がするし。死んでも俺の責任じゃないから、地獄の沙汰も温情を与えてくれるだろうよ。

 

『大丈夫大丈夫、安心するのじゃ。お主はワシが死なさん。死なれたらワシからしても困るからのー』

『本当だな?信じるからな?言われた通りにやるぞ?』

『悪魔の大将を見くびるでない。成功させると言ったら絶対に成功させるのじゃ』

 

 信じよう。いや、信じるしかない。乗るか反るか、乾坤一擲の大勝負。俺はこいつに全てを委ねる。だから祈る。どうか成功してくれと。火を灯すことができるようにと。

 

『とっととやってくれ。遅刻しちゃうぜ』

『まだ7時15分じゃ。30分あれば着くじゃろうが』

『なんで俺の通学事情知ってんの?背筋が冷たくなるんだけど』

『お主の頭ん中の情報ならほぼ全部お取り寄せできるからのう。ハッキリ覚えてること限定じゃけど、お主の趣味から性癖やら果ては隠し事まで……』

『もういい!はやくしてくれ!』

 

 これマジ?俺他人に脳みその中身見られてんの?考えうる限り最悪じゃん。どうにかならなかったのか、俺の頭は。

 

『……という前置きは置いといて。さぁ目を瞑って、深呼吸するのじゃ。とっとと済ますんじゃろ?』

 

 言われた通り素直に従い、軽く深呼吸しながら目を瞑る。深く呼吸をした。あたりの空気を吸い込み、そして思い切り吐き出す。さながら、巨大な生き物が肺の空気をそっくり入れ替えるようにして。段々と心を落ち着かせて、無念無想へと歩み寄る。

 

『そうそう、そのままそのまま。落ち着いてきたじゃろ?……そろそろ数え始めるのじゃ。さん、にー、いーち……ほいっ』

 

 パンッと手を叩くような音が、小気味良く頭の中で爆ぜる。どうなったのか。成功したのか?

 恐る恐る目を開けると、視界にはさっきと同じ部屋の中の光景が目に写し出される。あぁ、失敗か……。……ん?そういえば、視点がさっきよりも高い。身体も重いが、なぜか苦にならない、長年共に戦ってきたような安心感がある。

 

「おー、成功成功。よかったのう!」

 

 音の方を見れば、つけっぱなしのモニターからそんな声が聞こえてくる。覗き込んでみると、これまた俺の部屋が映し出されている。

 

『ちょっとフーちゃん。これどうなってんの?』

「あ、そうじゃったの。どうも何もそこがお主の頭の中でワシが過ごしとる空間じゃ。夢にも出ておったじゃろ。そのモニターから、一人称視点で自分の行動が見えるというわけじゃな」

 

 悪魔の力ってすげー!

 わざわざ大きなサイズのモニターを買っておいてよかった。見やすいことこの上ない。神に感謝。

 

「とりあえず今から着替えの仕方を教えるのじゃ。よく見ておくんじゃぞ?」

『頼まぁ』

 

 しかしまぁ面倒見のいいやつですこと。こんなやつが現実にいたらいい友達になれたと思う。でも悲しいかな、イマジナリーフレンドみたいな扱いにならざるを得ない。俺の意識下でしか生きれないなんて実質上のイマジナリーフレンドでしかないし。他人からしたら妄想だよな。

 なんて思ってる間にパパッと着替えをすましたフーちゃんが鏡の前で服装の歪みを直している。鼻歌まじりに機嫌良く、スカートの裾を持ち上げてホコリを払ったり、胸元のリボンを結び直していた。

 

『そういやさ、なんで制服着てたの?どっかの高校に潜入してた?』

 

 俺が何気なく質問を投げかけると、照れたように笑って恥ずかしげに語り出した。

 

「いやぁ、これは冥界での学校の制服じゃな。人間と同じような学校があるんじゃが、男は真っ黒な学ランで女は真っ白なセーラー服と決まっておるのじゃ。懐かしいのう、何百年も前に卒業したけど未だに同窓会やってないんじゃからみんなヒマじゃないんじゃろなぁ」

 

 それは多分同窓会に誘われていないだけだと思うけどね俺は。

 でも、じゃあなんでそんなものがウチに転がっているのだろうか。もしかして、これは元々普通の高校にあったやつを悪魔がパクったとか。それか普通にコスプレで売っていたりするとか。真実は母のみぞ知る。

 

「着替えも終わったしとっとと代わるのじゃ。ワシは漫画が読みたい。お主の記憶を覗くのは後でやるのじゃ」

『マジで勘弁してください。もしかしてこの本棚にある見覚えのない本に記憶が記してあったりするんですか?』

「お主、勘だけは鋭いのう」

 

 そんなこったろうと思ったよ。次交代する時に全部焼き尽くそう。机の引き出しの中に新品のマッチが入っているはずだし、ダメになっていなければ次は燃やす。跡形も無く、綺麗さっぱり、一切合切を無に帰す。己の過去も未来も今も焼き尽くそうと、決意した。

 

「とっとと代わるのじゃ」

 

 先ほどと全く同じ手順で交代する。手を叩く音で目を開ければ、背丈も小さく身体も軽い。不安になるような軽さだ。強い風でも吹こうものなら飛んでいってしまいそうな弱さを感じる。

 

 学校のカバンを肩から下げ、ビニール傘を持ち、いつものクセで玄関の鏡で身だしなみをチェックしてしまう。

 上から下まで真っ白だ。髪も服もスカートも。俺の心とは反比例的で暴力的ですらある。否応なしに白く塗り潰そうとするような。

 

「いってきます!」

 

 むしゃくしゃして、わざと大声でそう叫ぶ。こんな大声を出せば怒られるだろうがら今は怒ってくれる人すらいない。そのことに余計に腹が立つ。

 

 力任せに玄関のドアを閉めると、気圧の差で風が出る。そこでようやく、重大なことに気が付くことができた。

 

 このスカートとかいう服、足元がめちゃくちゃスースーする。世間の皆さんはこんなので歩いていたのか?

 これで学校までの約30分耐えられるのか、俺は。できらぁ!やってみせろよ。

 

 学校に絶対に遅刻するような時間ではないが、俺は全力で走る。過去から逃げ、今を振り切り、未来へ手を伸ばすように。

 思えば嫌な事から逃げてきた人生だった。今さっきもそうだった。

 傘がミシミシと不機嫌そうな音を鳴らして揺れるが、構うものかと走る速度を上げる。逃げて逃げて逃げ切ったその先に待ち受けるのは、一体何だろうか。間違いなく報いだろう。逃げた分、それの見返りが待っている。だとするのなら、俺はそれすら逃げてみせる。ぶち当たっても駆け抜けてやる。

 

「うおおおおおお!!!!」

 

 言葉にできない感情を叫び声に乗せて住宅街を駆け抜け、疲れのあまり立ち止まると、いつの間にか雨は止んでいた。

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