あやめの笑顔で元気を補充して午後の授業を終えて帰る用意を済ませる。今日はこの後バイトが控えているのだ。そのため部活には入っていない。
「あら、愛川様。これからバイトかしら?」
「ゆ、癒月先生。」
バイトまで少し時間があるため、校舎2階の廊下からグラウンドでアップを始める野球部やサッカー部を見下ろしていると背後から艶かしい声で呼ばれた。
悪魔の保険医、癒月ちょこ。白衣に身を包むも抑えきれない豊満な胸。常に谷間が見えてしまうもんで先生と話す生徒は男女問わず視線が泳ぐ。とても、エッチです……。ちなみに保険医なのに化学部の顧問でもある。
「もう、ちょこって呼んでって言ってるのに。」
「いえ、先生にそんな……」
「うふふ♡可愛いわねぇ。」
会うと大体こんな感じで先生のペースに呑まれてしまう。俺の身長の関係もあって女性の中だと割と高身長な先生が上目遣いで話してくるのだ。DTにはキチィ。そして先生と話してると必ずと言っていいほど来る奴がいるんだよな……。早いとこ退散したいが。
「ねええええええええ!!杏またちょこ先生とイチャついてる!!!」
はい残念、間に合わず。背後から制服に身を包む銀髪の魔法使い、紫咲シオンが喚く。1コ下の後輩なのだがいかんせん生意気。クソガキという言葉が似合うクソガキ。最初に会った時は中学生かと思ったくらいには小さい。え?145cm?あー…………。(癒月先生と見比べながら)
「誰が小さいって!?」
「おめーも思考を読むな!てか声がデケェ!また変な噂がたつからやめろ!」
「うっさい!杏のバカあああ!!!!」
「ぐほぉっ!?!?」
「あ、そーだちょこ先生。部活でこれからまた合成しようと思うんだけど監督お願いできる?」
「いいわよ。それじゃあね愛川様。」
「べーーっだ!!」
魔法で加速されたドロップキックをモロに腹にくらって廊下で悶え苦しむ。そんな俺をフン、と鼻で笑うシオンは俺を無視して癒月先生と部活に行ってしまった。真面目なんだかクソガキなんだか…………。
「くおぉぉぉぁぉぉぉ………………!!!!」
キックの瞬間薄紫のパンツが見えたことは黙っておこう。
◇◇◇
シオンのキックで苦しむこと10分。よろめきながらも下駄箱までたどり着いた。普通の人間に魔法で加速されたドロップキックはアカンて……。なんで内臓生きてんの俺。
「すいちゃんはーー?」
「今日も可愛いーー!!」
またしても背後から声をかけられ、脊髄反射で返事をして振り返る。まつりと同じような青髪のサイドテールをした星街すいせいがそこにいた。歌がとても上手くて憧れの存在でもある。会ってから3日で定着した先程の挨拶はもはや骨の髄にまで浸透されており、ある種の催眠なのではと最近思い始めた。ちなみにちょっと前に「今日も小さーい」と言った誠がすいちゃんに連れてかれて3時間ほど帰って来なかったことがある。
「どしたの?腹痛?」
「クソガキに魔法付与したドロップキックくらった。」
「どういうこと?」
「わからんくていい。俺もよくわからん。」
「そ、そう。そういえば今日シフト一緒だったよね?一緒に行こうよ!」
「おう。けどあと2分待って。」
すいちゃんとはバイト先が同じなのでシフトが同じ日だったりするとよく一緒に出勤している。実は初対面もバイト先だったので同じ学校の同学年だとは思わなかった。あと1コ下で同じ学校の後輩もいるのだが、それはまた今度。
住んでるアパートから学校に対して真反対にバイト先のコンビニがあるため、普段は俺の部屋に学校鞄を置いてからバイトに行っている。今日はドロップキックのせいで余裕がなくなったため割愛して直行。
てなわけですいちゃんとバイト先のコンビニに到着。コンビニの制服に着替えてバイト開始。今日はすいちゃんがレジ、俺がバックヤードで作業だ。
「「おはようございまーす。」」
「おはようございますぅ〜。」
パートの宝鐘マリンさんに挨拶してそれぞれ持ち場につく。さて、まずは床のモップがけだな。その後は品出しして、あとウォークインの補充と……
「ちょっと紹介軽すぎないかなぁ!?」
「え、なんですか宝鐘さん。」
「他のメンバーは多少説明してんのになんで私だけそんな軽いのかなぁぁ!?」
「ちょ、メタいです。」
目に見えない何かを読んで癇癪を起こす宝鐘マリンさん。行動や言動にどこか色気と昭和みを感じるパートさん。自分の船を持つことが夢だそうだが、親が漁師なのだろうか?まぁ深く考えないようにしよう。
「偏見混ざってません?」
「そりゃあそうですよ。俺の偏見です。」
「……まぁよしとしましょう。」
そう言って宝鐘さんは発注タブレットを持って作業に戻っていった。思考を読むのは誠とシオンだけで精一杯だからこれ以上増えないでもらいたい。
「あ、そこはご心配なく。今回きりですので。」
「だから」
◇◇◇
4時間後。
「「お先に失礼しまーす。」」
「うん、お疲れさまー。」
深夜勤務の猫又おかゆさんと交代してバイトの時間が終わる。おかゆさんは猫の擬人化と言ってもいいぐらいマイペースなヒトだ。そんでダウナー、絶妙な低音ボイスときた。これはもうまんま猫なんよ。あとボクっ娘。推せる。
「にゃお〜ん。」
「ありがとうございます!」
おかゆさんのサービスをいただいた。これで明日も生きていける。だからすいちゃんそんな目で俺をミナイデ。
すいちゃんのジト目を浴びながらも雑談を交わしながら帰路につく。夜9時過ぎともなれば女の子1人だけ歩かせるわけにもいかないので、今日みたいな日はすいちゃんを家まで送ってから帰るようにしている。そしてコンビニから歩いておよそ10分、星街家に到着。
「送ってくれてありがと。」
「おう、じゃあお疲れ。」
すいちゃんを家に送ったので俺も自分の家の方向に歩みを進める。後ろから「すいちゃんおかえりー!」と大きな声が玄関から漏れている。すいちゃんの姉ちゃんだな。変わらず元気そうだ。
星街家をあとにして晩飯どうするかなとか考えてたら自分の部屋まで帰ってきた。鍵を開けようとしたところで、上の階から誰が降りてきたようだ。
「あ、バイトお疲れ様。ちょうど良かった。」
「ミオ。」
「晩ご飯まだでしょ?これ、良かったらどうぞ。」
白地の部屋着を着たミオからタッパーを受け取った。中にはほんのり温かい肉じゃがが入っていた。これは………。
「ちょっと、作りすぎちゃって……。」
アハハ、と頬を指でかきながら笑うミオ。顔が赤くなってるように見えるのは風呂上がりだからだろうか。
「ありがとなミオ。ご馳走になります。」
「う、うん!じゃあ、おやすみ!」
「あぁ、おやすみ。」
1日の終わりの挨拶を交わすとパタパタとミオは自分の部屋に戻っていった。ミオからご飯のお裾分けをもらうのはこれで何度目だったか。それもほぼ毎回バイトがある日なのでもうこれは…………いや、変な憶測はよそう。ラブコメの主人公じゃあるまいし。
鍵を開けて部屋に入り、制服を脱ぎ捨て風呂に入る。風呂から上がって制服をハンガーにかけ、炊飯器に残ってる米をよそってレンジでチン。温まった米とミオの肉じゃがが今日の晩飯だ。
「いただきます。」
肉じゃがはとても美味しくいただきました。