ゆるホロの日常。   作:窓風

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強化期間

 

 

 

放課後の第一体育館。

大会まであと2週間ということもあり、特殊固有空間が展開された体育館には大会に出場するであろう生徒たちが各自鍛錬に励んでいた。しかし体育館が2つあるとはいえスペースが限られていて、今回も参加人数は96人と多いため、 30分程度しか空間内で練習できない。

 

「ふぅ、そろそろ時間か。」

 

体育館の時計を見ると練習を始めてから30分が経とうとしていた。他の生徒の邪魔にならないように空間内を抜けて、教室に置いてある鞄からタオルを取り出し、汗を拭く。家で軽くシャワーを浴びてからバイトに行こうと決め、時間が惜しいので早速行動に移す。クールダウンを兼ねてジョギングで家へと帰ろうと教室を出ると、ショートヘアのアヒル……じゃなくて女生徒と鉢合わせる。

 

「あ、先輩。」

「スバル?部活はどうした?」

「大会が近いんで自主練っス。」

「行事の方のね。」

 

1年生の大空スバル。総合格闘技部とeスポーツ部のマネージャーで元気、活発な女の子だが、声質のせいかたまにアヒルの鳴き声に聞こえるためスバルドダッグというアヒルの擬人化なのではとまで言われている。真偽は不明。

 

「……………。」

「ごめんて。」

「まぁいいっスけど。ところで先輩、あくあどこにいるかわかります?」

 

思考を読まれたのかジッと睨まれる。とりあえず謝ると、どうやら人探しをしていたようだった。しかも知ってる名前が出てきた。

 

「あくあか。時間的にもうバイト行ってると思うけど?」

「あーそっかぁ。どーすっかな、コレ。」

「今日金曜日だしな。俺も今日バイトだから、急ぎのプリントだったら渡しとくけど?」

 

スバルは手に持つプリントを見て、どうしたものかと思案している。幸いにも、あくあとバイト先が同じかつ今日は同じシフトの日ということもあり、プリント配達を請け負おうと思った。まぁついでというやつだ。

 

「あ、じゃあお願いしていいっスか?」

「おう。任せろ。」

 

スバルからあくあ宛のプリントを預かり、A4ファイルに入れて鞄にしまう。「頼みましたよー!」と言ってスバルがどこかへ去ると、俺もバイトに行くために家まで帰った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「おはようございまーす。」

「おーおはよー。」

 

バックヤードに入ると、店長が事務作業をしていた。名前は空ヶ丘(そらがおか)(たくみ)。歳は30代後半だと聞いた気がする。実は俺の母と知り合いで、バイトをするとなった際にとてもお世話になった。快くバイトをOKしてくれて本当にありがとうございます。

 

「店長、来週からのシフトなんですけど……。」

「大会でしょ?調整しとくから頑張れよ、ベスト8君。」

「あ、ありがとうございます。」

 

行事があるためバイトに入れない時期を事前に伝えていたため、すぐ意図を察して対応してくれる。いやはやすごい人だ。というか大会見にきてるのか?

 

「お、おはようございます……。」

「おーす。」

「おはよー。」

 

店長とシフトの確認をした直後、バックヤードにもう1人もじもじと入ってきた。薄紫の髪に水色のメッシュが入ったツインテールがトレードマークの湊あくあ。人見知りを治したいとのことで今年からバイトを始めた新人ちゃん。同じ学校の生徒で、シオンやスバルと同じ1年生。身長も俺の頭一つ分小さいので、小動物みたいな印象を受ける。

 

「あ、そうだ。スバルからプリント預かってるんだわ。」

「え、スバルから?」

「そ。急ぎみたいだったから代わりに持ってきた。」

「あ、すすすすいません。ありがとうございます……。」

 

鞄からプリントを取り出し、あくあに渡す。すると俺の後ろから去年コラボしたアニメのA4ファイルが出てきた。

 

「これ使いな。」

「え、でもこれお店の……。」

「とっくに終わったキャンペーンの余りモンだからやるよ。」

「あ、ありがとうございます。」

「あ、あとあくたん。今日からレジ打ちやってみるか。」

「ふぇ?」

 

と、いうわけで俺があくあにレジ打ちの仕事を教えることに。「今日金曜日だけどあんま人入ってないからちょうどいいっしょ。」と店長も言ってた。まぁいい機会だ。

 

「ッスーーーー……………。」

「まぁ頑張れ。まずは俺のを見てな。」

 

そう言ってちょうど会計に来た客の対応をする。しかしその客はよく知る顔だった。

 

「いらっしゃいませ。」

「あれ?杏とあくあちゃんじゃん。ここでバイトしてんだ。」

「子どもは寝る時間だぞ。」

「誰が子どもだって?」

「まだ夜6時……。」

 

うーんまさかシオンが来るとは。まぁ客に変わりはないため会話をしながら通常通りにレジ打ちをしていく。

 

「シオンは大会出んの?」

「出るけど。杏も出るの?」

「おう。アイスのスプーンはいる?」

「あ、お願い。まぁ杏のことだから予選敗退するんでしょ。」

「やかましい。自慢じゃないがこれでも去年ベスト8やぞ。牛乳にストローは?」

「それはいらない。まぁせいぜい頑張って〜。」

 

シオンの持ってきた品数がアイス、チョコレート菓子2個、牛乳500mlと少ないのもあるが、慣れるとこのくらいは会話しててもこなせるようにはなった。やっぱ経験よな。

 

「てかあくあちゃんちゃんと仕事出来てるの〜?」

「ぜ全っ然ヨユーだしぃ?レジ打ちなんて3秒でできちゃうもんねぇ。」

「目ぇ泳いでんぞ。783円な。」

「はいはい。あ!わかった!杏に変なことされてるんでしょ!」

「おうコラ何言うとる!」

 

普通にレジ打ちしてただけなのに急にあらぬ疑いをかけられたのだが?

 

「先輩はそんなことしないもん!あぁもう、シオンちゃん心配しすぎ!やっぱあてぃしのこと好きなんじゃないの?」

「そう言うあくあちゃんだって、ホントはシオンのこと好きなんじゃないの〜?」

「べ、べっつに〜?」

 

あ、これなんだっけ。両片思いだっけ。わからんけど、とりあえず互いに嫌いじゃないのはわかるぞ。なんだかんだで仲が良いやつだ。

 

唐突なあくシオに若干戸惑いつつも、会計して商品が入ったレジ袋とお釣りをシオンに渡す。

 

「杏に何かされたらすぐ言ってよね、何度も蹴り飛ばすから。」

「結構キツイからやめてくんねぇかなぁ。」

 

最後にとりあえず蹴りますよ宣言してシオンは店を出ていった。ったくアイツは……。

 

「…………まぁ今みたいに、客が持ってきた商品のバーコードを読み込んで、会計して、お釣りがあったら渡して、商品渡して終わり。箸とか弁当の温めとか揚げ物の注文とか他にもあるけど、基本はこれだね。」

「わ、わかりました……?」

 

とりあえずゆっくりもう一度教えようと思った。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

携帯の着信を知らせるアラームが鳴る。手に取り電話に応答すると、友人の声が携帯から聞こえてきた。

 

「おーフレア。どした?」

『ノエルー。大会もうすぐだけど後輩君から日程聞いてる?』

「うん!再来週の木曜と金曜だって!」

『おっけー。ノエルもその日空いてるよね?』

「もちろん!楽しみだなぁ。」

『去年は2人とも見に行けなかったからねぇ。』

 

母校の一大イベントに心を躍らせる。観てる方も手汗握る熱い闘いがもう少しで始まろうとしていることに、1人の大学生はワクワクが止まらなくなっていた。

 

 

 

 




次回、大会当日っ!
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