大会当日。学校から駅2つ分離れたところに、市の運動公園がある。野球場、サッカー場、陸上競技場、テニスコート、そして体育館と運動設備が充実したこの場所で、年に1回の一大イベントが始まろうとしていた。
生徒会や運営役員は朝7時から会場設営、大会参加者は朝9時から体育館、野球場で最終調整をして、朝11時に参加しない生徒と集合して出欠確認のあとに開会式だ。大会は一般公開もされており、開会式が終わったあとから一般人も入れるようになる。
そんなわけで朝の調整を終わらせて今はクールダウン中だ。他の人の邪魔にならないところで柔軟体操をして、使った筋肉をよくほぐす。
「んひぇぁ!?」
「にゃっ?!」
脚を広げて前屈をしようとした時に首筋が冷たい感覚に一瞬支配された。芝生の音で誰か近づいてきているのはわかっていたが、冷えた不意打ちは想定外だったため変な声をあげてしまう。しかしそのおかげで実行犯はわかった。
「良い反応だねー!ナイスリアクション!」
「ナイスだフブキ………くくっw」
「あ、蒼葉君、笑っちゃダメ……あははは!!」
「ま、まつりちゃんがやれって!!」
「誠がやれってー。」
「ミオが。」
「フブキがやりたいって。」
「なんでぇぇぇ!!」
「よくわからんが賑やかだな。」
今日も変わらず愉快な友達は差し入れを持ってきてくれたみたいだった。そのうちの1つがフブキの持ってるカラダにピースな500mlペットボトルなわけで。
「はい、どうぞ。」
「ありがと。」
ペットボトルを受け取り、キャップをあけて飲んで喉に潤いを供給する。あぁ、美味い。
なんか青春してる感じがする……。
「で?調子はどうよ。去年より上に上がれそうか?」
「いやーわからん。予選の相手が相手だし。」
「お、プログラム出たか。見せてくれ。」
誠にトーナメント表が載ったプログラムを渡すと、他の3人も覗き込むように予選ブロックの対戦相手を確認する。
「うわっ……予選はXブロックまであるの?」
「今回の参加者は96人だと。」
「普通の大会でもXは聞かないね……。」
「予選は4人1ブロックのリーグ戦だからな。」
「あった。Iブロックだって。」
「余はFブロックだよ。」
「びっくりした、あやめちゃんか。」
ヌッと湧いたあやめに一瞬驚く。実はあやめも大会参加者である。どうやら家の関係で参加必須らしく、今年も参加するようだ。去年の成績は俺と同じベスト8。鬼人の力はやはり伊達ではない。
「ワタシはCブロックですね〜。」
「ココちゃんだ!おはようー!」
「先輩方、おはようございます〜!」
またヌッと湧いたココさんにフブキが挨拶をする。ココさんの方が学年は上だが、中学時代の序列で言うとフブキ達の方が上のため、ココさんにとってフブキ達は先輩にあたるらしい。よくわからんけど慣れた。
「舎弟君よぉ、去年のリベンジ、待っとるからな?」
「首を長ーくして待っててください。すぐ追い越すんで。」
「お?言ったなオメー。」
去年の準々決勝でココさんとあたった俺は善戦した方だが圧倒的な差で負けた。自分の中で割と悔しい気持ちが残ったため、次があればとリベンジをしたいと思っていた。決勝トーナメントでぶつかるのは一体いつになるのか……。ちなみにココさんは去年の王者。竜種つえー。
「予選落ちでもしたら指詰めてもらうかんな?」
「ヒェッ……頑張ります。」
「じゃ、またあとでな!」
エールを貰うと、ココさんは野球場の方へと歩いていった。時計を見ると11時になる5分前だった。あと少しで開会式が始まろうとしている。俺たちもそろそろ行かなくては。
「予選落ちは絶対できなくなったね?」
「はぁ〜。しゃーない、ちょっと本気出すか。」
「お、唐突な強キャラ感。」
「でもお前が言うとなー。」
「なんかねー。」
「余とも決勝で闘わないと一生パシリにするよー?」
「色々おかしいなー。」
◇◇◇
野球場の前でフブキ達観戦組と分かれ、大会参加者の俺たちは選手入口から入る。魔術王決定戦の参加者112人もいるため、中の人数はすごいことになっていた。ちなみに魔法の方が人気がある。非日常感がクセになるとか。大丈夫それ危ないモンじゃない?
「あ、杏じゃん。」
「シオンか。小さくて見えんかった。」
「お?それ余に言っとる?」
「なんでそうなる?」
人混みからシオンを発見してちょっといじると、なぜかあやめのヘイトを買う。確かに俺からしたら2人とも頭一つ分小さいが。
「あ、杏先輩。こんるしです。」
「お、るしあも出るのか。」
「はい。色々と不安ですけど……。」
1年生の潤羽るしあ。死霊術師でたまに虚空と会話をしている不思議ちゃん。人前に出るのが苦手だと聞いていたが、今回はちょっと頑張ってみるつもりなのだろう。ただしキレると叫びを超えて咆哮をするので注意。
「るしあなら大丈夫だと思うよ。できることをやればそれで一歩成長。」
「は、はい。ありがとうございます。」
「ちょっと杏がるしあちゃん口説いてるー。」
「お前さんって小さい子が好みなのか……?」
「誤解生まれるからやめてくれ。試合前に消耗したくない。」
「ナニがどっこいだって?」
「あ、やったわ。すまんあやめ決勝行けんかも。」
「余としてはパシリができるからそれでいいんだけど。」
「ダメっぽい。」
喋れば喋るほど墓穴を掘って板挟みに。早く開会式始まんねーかな。しんどい。
「先輩今まな板って言いました?」
「言ってない。思ったこともない。気のせいよ。」
「ならいいですけど。」
「はーい大会参加者のみんなー!もうすぐ入場するからねー!!」
グラウンドに通じる出口からかなたさんのよく通る声が響く。もうすぐ開会式が始まるそうだ。助かった。
『これより、開会式を行います。選手入場。』
「はーいそれじゃ走らないで入場してねー。」
球場にアナウンスが響き渡ると、かなたさんの誘導のもと球場内にぞろぞろと入場していく。球場内の土に足を踏み入れると、観客席からの歓声が肌を突き刺し、イベントの大きさを改めて感じる。なんなら迫力で飛ばされそうになるまである。
「「うわぁ……!!」」
「やっぱすごいよなー。」
「五輪代表選手にでもなった気分だな。」
およそ200人の大会参加者……もう選手でいいや。選手が内野に集まり、体育祭とかでよくある校長や体育教師の話を聞いた。『開会宣言。』とアナウンスが流れると、ホームベース付近に生徒の模範と言っていいほどに制服をきっちり着こなし、左腕に『生徒会』と書いてある腕章をつけた白髪の生徒が現れる。
『よー諸君!今年もこのイベントがきたな!』
彼が3年生で現生徒会長の
「俺には少し眩しすぎるな……」
「杏にはあんな爽やかな雰囲気出せないねー。」
「うっせ。」
『まぁ特に難しい挨拶はしないわ。今日は予選だしな。早く
スラスラと通る声がマイク越しに球場に響き渡る。時間が押してるわけではないが、一部の選手からは闘志が隠しきれなくなってきているようだ。それを察してか、白海先輩はサッと開会宣言を済ませるつもりらしい。まぁそれはそれでこちらも助かるが。
『今年も1年生が多く参加してくれている。とても楽しいイベントだから是非楽しんで欲しい。2年生や3年生も1年の中で数少ないはっちゃけられるイベントだから存分に暴れてくれたまえ。…………さて、挨拶もこのくらいにして、開会宣言をしよう。』
球場のモニターにいつのまにか映し出された映像は、内野上空を飛ぶドローンからのものだ。ドローンが映すのはカメラ目線の白海先輩。スッと息を吸った白海先輩はおもむろにマイクスタンドからマイクを取り、開会宣言をする。
『これより、武術王決定戦、魔術王決定戦の開会を宣言する!いつからか総称して大会と呼ばれるようになったが、俺はあえてこう言おう!!
バトルフロンティア!!!開幕ぅぅぅぅ!!!!!!』
白海先輩が宣言したの同時に、ドローンは外野の方まで後退する。外野いっぱいまで後退すると、上空に昇っていき球場全体を映し、その後に雲が浮かぶ空を映す。
遂に、一大イベントが始まった。
◇◇◇
「そうそうそう、まずは引きで撮って、そんで会場全体を映して、最後は空を映す!完璧なカメラワークぅ!!!」
「ここでアニメのタイトル出たら最高!!!」
「フブキわかってんなぁ!!カメラが引いたあたりで
「イェェェェェェイ!!!!」
「フブキ達どしたの?」
「色んなアニメ観てたらわかるって。」
ナニットモンスターのあの曲(アニメver.)を脳内で流してみてください。オリジナルアニメのOP映像脳内で作りがち。でもそれが楽しい。
(8/31 8:40追記)杏の予選ブロックを間違えたので修正しました。
Lブロック→Iブロック