白海先輩の開会宣言で大いに盛り上がった開会式が終わり、13時から予選ブロックが始まる。武術王決定戦の予選は、体育館のメインアリーナを目一杯使って4ブロックのリーグ戦をA〜Dブロック、E〜Hブロックと同時進行で行う。予選は1試合5分だから1ブロックあたり30分程度時間がかかる。そのためIブロックの俺までちょっと早送りしようか。
ちなみにCブロックはココさん、Fブロックはあやめ、Hブロックは後輩の黄野竜が勝ち上がった。試合も見たけどドラゴンと鬼人の力はやはり凄まじく、あっという間に決勝進出を決めた。竜も少し危なっかしい所はあったが、なんとか決勝進出した。
「それでは、予選Iブロックを始めます。選手は準備をお願いします。」
Iブロックの審判から試合を始めると言われ、1試合目の相手と見合って互いに特殊固有空間が展開された試合場に入る。試合場は20m×20mの広さで、特殊固有空間によって高さの上限が7mとなっている。特殊固有空間は試合開始前に展開され、選手が潜ると内部と外部双方から干渉ができなくなる。飛び道具が空間から出て通行人が怪我をしないようにされている。
空色に薄く展開されたバリアをコンコンと軽く叩き、外に出れないことを確認すると試合場の中央に向かい対戦相手と握手をする。
「今日はカジノに行かなくていいのかぺこーら?」
「今日は特別ぺこ!今日だけは勇者ぺこーらぺこよ!」
「遊び人みたいな格好でよくいう。」
「これはぺこーらの正装ぺこ!」
「あ、そう。」
「冷たくないぺこか!?」
予選1回戦の相手は、同学年の兎田ぺこら。長いうさ耳が特徴のうさぎの獣人で、語尾に「ぺこ」をつけて喋る。最近ハマったゲームの影響で勇者に憧れているようで、強化期間中でも色んな技を出して練習しているのを何度か見た。ちなみに勇者は土日祝限定で、平日はカジノに入り浸っているとか。スロカスかな?ツインテールに人参が刺さっているのかはいつでも食べれるようにとのこと。実は結構な幸運兎でもある。
普段は制服やジャージ姿だが、今はバニーガールの衣装の上に白いワンピース(……なのか?)を着ている。これが正装ってどんな一族ぺこ?
「そーいうあんたは侍にでもなったつもりぺこか?カッコつけちゃって恥ずかしい〜。」
「いや、これはとある人物の要望でだな。」
俺がさっきまで着ていたジャージは一体何処へ、紺色ベースの剣道の道着と袴に着替えていた。
実はこの特殊固有空間のシステムで、空間内は一種の仮想空間になるため、選手は好きな服装になることができる。俺もどこぞの剣士みたいにコートとか着たかったが、
ふと後ろの観客席を見れば、フブキ達が「がんばれー!」と聞こえてきそうなくらいヒラヒラと手を振っている。そんで誠はフライドポテトを食べていた。さっき昼飯食ったのにまだ食うか。
「それじゃ、位置について。」
審判の先生に誘導され所定の位置につくと、左腰にある愛刀を鞘から出し、視界の左上に緑色のHPバーがあることを確認する。
互いに相手のHPを知るために、空間内に入った選手の頭上と視界の左上に緑色のHPバーが出現する仕様になっている。それと同様に外から見てもわかるように空間内上空にも選手それぞれのHPバーが表示される。どこぞの格ゲー感がすごい。
「使えるか知らんけど魔法使ったら失格だかんな?」
「わかってるぺこだよ!」
そんな感じで互いに煽りあうと、試合開始を知らせるブザーが鳴った。
◇◇◇
「余、ちょっとやりすぎちゃったかもなー。」
「あやめちゃん、お疲れ様。」
「やはり鬼人は伊達じゃねぇな。」
観客席では誠達が杏の応援に来ていた。そこに試合が終わったあやめも合流してより賑やかに。そこにある一般客も加わり、さらに賑やかになる。
「あやめせんぱーい!試合観ましたよー!かっこよかったですー!」
「おーノエルちゃんじゃんか!来てたのか!」
「はい!フレアも一緒です!」
「ホントに2人は仲が良いねー。」
「やっほーフブちゃん!」
「フレアだー!久しぶりー!」
銀髪ショートの女性が白銀ノエル。ゆるふわ脳筋の癒し系お姉さんで実は杏と竜の剣道の先輩。この学校の卒業生で今は大学生として生活している。ちなみに一昨年の武術王決定戦王者でもある。そしてデカイ。
そして隣にいる金髪褐色ロングの女性が不知火フレア。ダークエルフと間違われがちだがハーフエルフである。ノエルと同じくこの学校の卒業生で、弓道部に所属していた。ノエルととても仲良しで、一昨年の武術王決定戦ではベスト4という好成績を残す実力者でもある。そしてデカイ。
「去年は来れなかったので応援に来ちゃいました!」
「ちょうど今ぺこらと杏の試合始まるとこだよ!」
「えっ!ぺこらっちょと杏君同じブロックなんだ!」
「お、ちょうど始まったみたいだぞ。」
試合場を見ると、剣を構えるぺこらと刀を構える杏が剣を交えるところだった。
「おー、後輩君の服様になってんじゃん!」
「本人は普通の服にしようとしてたけど、フブキがアレがいいって駄々こねたからね〜。」
「まつりちゃん言わないでー!」
「次はスーツ着せてもいいかもしれないですよ!」
「お、いいじゃん!決勝進出したらお願いしてみようよフブキ!」
「なんで私に言うの!?」
(主に杏の服装で)話が盛り上がっている横で、その光景を眺めながら1人もそもそとポテトを食べる男が。
(あいつの着せ替え人形化が決まったな。それよりも…………うーん、女の子同士の戯れ最高!!)
◇◇◇
試合開始早々に「『ぺこスラーッシュ』!!」とか言って横一閃の光の刃をぺこらが出した時は少し焦ったが、しゃがんで回避してすかさず刀から地を這う衝撃波を出す。
「やべっ!」
ギリギリのところで躱すぺこらだが、左脚が少し衝撃波に触れて、ぺこらのHPバーの緑色部分が減る。衝撃波が触れた部分は赤いエフェクトになり、ダメージを受けたことになる。
「ちょっとは手加減しろぺこ!」
「一応してるんだよなぁ。」
「うそぺこじゃん。」
実際手加減はしてる。今のに少し力を入れたらぺこらのHPは今の3倍くらい減っていただろう。あと一応女の子相手だし。
「一応って何ぺこかぁ!!」
また俺の思考を読んで剣に炎を纏いながら斬りかかってくるぺこら。それに対抗するように刀に氷を纏わせる。俺の思考簡単に読まれるのナンデ?
「オルァッ!!」
「はぁっ!!」
炎と氷のいくつもの剣撃がぶつかり合い、火花と氷の破片が飛び散り互いのHPが少しずつ削れていく。そしてぺこらの大振りの上段斬りにこちらも上段斬りで合わせて鍔迫り合いに持ち込む。顔の側でチリチリと燃える炎が少し熱いが気にしてられない。
「ほれっ!」
「ちょっ!?」
鍔迫り合いの状態から後ろに下がりながらフッと振りかぶると、ぺこらは頭上に剣を横にして頭を守ろうとする。そしてガラ空きになった左脇腹に一撃スパッと入れてそのまま後退する。剣道の『逆胴』と呼ばれる技だ。それによってぺこらのHPはさらに減り、半分を過ぎて黄色に変色する。自分の残りHPを見て苦悶の表情を浮かべるぺこら。まだやるというのなら相手になるぜ?
「くぅ………!!勇者は、こんなとこで終わるわけないぺこなんだよぉっ!!!」
「来いっ!!」
まだ諦めてないのか、上段で構えたまま突進してきた。それに対して俺は刀を鞘に納め、いつでも抜ける体勢になる。一発で残りHPは流石に削れないが、これで諦めてくれることを願う。
「『刹那』ッ!!!」
ぺこらが剣を振り下ろす前に俺の間合いに入る。俺は一歩踏み出し、剣道の『抜き胴』の要領ですかさず抜刀、ぺこらの左脇腹に一閃をお見舞いする。
想定外の攻撃をくらい、ぺこらは派手に転ぶ。頭上のHPバーを見ると、ぺこらのHPは全体の残り1割5分程度しかなく、瀕死を示す赤色に変わっていた。思ったより削れたのはどうやら
「…………………………。」
仰向けのまま何も言わないぺこら。しかしすぐに手足をジタバタさせて悔しさを身体で表現する。
「あーーーーーもう!!!降参ぺこ降参ぺこ!無理ぺこだよーー!!!」
試合開始からおよそ2分で試合終了を知らせるブザーか鳴り決着がついた。剣道では降参なんてないからこれは優しい設計。実際、これ以上女の子を斬りたくはなかったし。
「あ、ありがとうぺこ。くっそー、少しくらいいけると思ったぺこなんだけどなー。」
「まぁ構えとかスキが多いけど、頑張れば普通にいい勝負できると思うから頑張りなよ。あと2回はあるんだから。」
「なんかムカつくぺこ。」
「実際いい線行ってると思ったけどな。」
「えぇ〜、そうぺこか?」
手を差し伸べてぺこらを立たせてあげて、ぺこらとの試合を振り返りながら個人的に評価をすると、テレテレとにやけ始めた。ちょろい。
「とにかく!この勇者ぺこーらに勝ったんだから、他の奴に負けんじゃないぺこだよ!」
「はいはい。」
捨て台詞を吐いて特殊固有空間を出るぺこらに、最後に勇者として成長するためのアドバイスをしようと思い声をかけた。
「あとぺこら。平日でも剣振って勇者っぽいことしてみろよー。」
「うっせぇ!!!」
治す気はなさそうだ。まぁそういう勇者もいるか、と無理矢理納得しておくことにした。
その後の試合は特に問題なく勝ち、決勝進出を決めた。とりあえず指を詰めたりあやめのパシリになることはなくなった。ちなみにぺこらはあのあと2回とも勝ったようだ。勝った時のあの「ふぁ↑ふぁ↑ふぁ↑ふぁ↑」という独特な笑い声はちょっとクセがあると思うが。
◇◇◇
「「「お疲れ様ー!」」」
「おーサンキュー。」
「杏君、決勝進出おめでとう!」
「あ、ノエルさんにフレアさん。来てたんですね。」
「そりゃあそうでしょ!去年は見に来れなかったから楽しみにしてたんだよ!」
観客席に戻ると応援メンバーと先輩のノエルさんとフレアさんがいた。『大会の日程決まったら教えてね!』と連絡が来て返事をしたから来るとは思っていた。
「いい感じにぺこらをボコしてたねー。」
「一応手加減はしましたよ?いくらなんでも女の子相手ですし。」
「ホントぺこだよ!ぺこーらは悔しいぺこ!」
「どこから湧いた。」
ノエフレの後ろからぺこらが出てきた。計8人であの試合がどうだの、ここがカッコ良かっただの色々褒められていると、親友の姿が見えないことに気づいた。
「あれ、誠の奴は?」
「あ、それならそこで。」
「おん?」
まつりが指さした方を見ると、とてもいい姿勢で観客席に座ったまま合掌をして白くなっている誠がいた。何があった?
「試合観戦中に起こったまつり達のイチャイチャの波動に耐えられなくなったみたい。」
「あっ…………………。」
「」
「ん?」
誠が何か喋ったような気がして近くでよく聞いてみる。
「ノエフレは至高……………」
「それはそう。」
激しく同意。
実はもう1戦書こうと思ってましたが、ホロメンの出番が減っちゃうので割愛して決勝進出させました。
もし要望があれば、そのもう1戦と試合中の観客席のイチャイチャを書こうかなと思ったりそうじゃなかったり。