「・・・うっそ〜〜。」
確かに俺は少し腹を立てていた。
その所為で多少身体能力が上がるのは分かる。
だが今、
姐さんの艤装に叩き込んだ一撃は、今までにない最高の威力だった。
現にその攻撃を食らった艤装は、遥遠くへ吹っ飛ばされ体全体にヒビが入る程。
これ程の威力を出せたのは、初めてこの力が発現したレ級と戦りあった時以来だ。
これから俺の艤装の整備は親方達に任せよう。
彼等は本当にいい仕事をしてくれる。
「この人達にやった事は今ので勘弁してやる。 でもそんなに遊びたいなら俺が付き合ってやるよ。」
俺がそう言うと、艤装は立ち上がり満面の笑みを浮かべ俺の方へ走り出す。
考え無しに突っ込んで来るところは昔から変わらない。
俺はもう一度さっきの一撃をぶつける為に構えを取った。
(さぁて、次は何処に入れようか。)
そう俺が次の打点を考えていると、急に背後の女性から声をかけられた。
「あなたは一体何者⁉︎、何で私達を助けてくれたのよ⁉︎。」
痛々しく頭から血を流しフラフラな状態で立っている女性。
その隣には何故か海に浮けている女性。
さっきの2人の会話的に、今にも倒れそうな人は山城で隣の人は提督と言う名前らしい。
「そりゃあんな状況なら誰だって助けるよ。 てかあんたももう休んだら?、俺はそっちの方が気になるよ。」
山城さんの方は限界だろう。
早く親方に診てもらった方が良い。
すぐに向かうと言っていたからもうそろそろ着くはずだ。
ここで俺は自分の犯したミスに気づく。
それは艤装がこちらへ向かって来ているのを一瞬とは言え完全に忘れた事だ。
しかし時既に遅く、
慌てて振り返ったものの、既に奴の拳が俺の右脇腹にめり込み、嫌な音と共に今度は俺の方が大きく吹っ飛ばされたのだ。
何とか上手く着水できたが艤装の攻撃によって胴体の右側は、骨が折れほぼ全ての内臓がえらい事になっていた。
しかしそんな事は梅雨知らず、艤装は山城さん達など気にも止めず俺の方へ真っ直ぐ突進してくる。
傷が治らなければまともに攻撃を出せないし守れない。
治りは遅れるが時間を稼ぐ為、それに親方の仕事の成果が見てみたい。
そう思った俺は、傷の治療を止め親方に直してもらった艤装を展開した。
「艤装⁉︎、それにあれは○○○⁉︎」
遠くで何やら聞こえた気がしたが今は目の前のコイツだ。
まずは1発目。
今までこの主砲は何度も使ってきた。
それこそレ級戦の時から幾度となく。
しかし装填方法や整備方法がまるで分からないのでいつも放置していた。
だが日々過ごしている内にいつの間にか再び撃てるようになっている。
その度に主砲の威力は弱まり、最近はめっきり使う事は無くなっていた。
そして今、たった1発だけ撃った主砲の威力は、間違いなく今まで俺が感じた事もない衝撃と威力を叩き出していた。
その砲弾の違いに気付いたのか、艤装は慌てて両手でガードを固めた。
しかしその回虚しく砲弾は易々と艤装の両腕と胴体を貫き、その後ろに大きな水柱を巻き上げその場にいた全員に強い衝撃を与えた。
艤装は、余程のダメージだったのか前のめりに崩れ落ち暫く動かなかった。
ーーーーーーーーーーーーー
「大丈夫か山城?」
「ええ、問題ないわよ。。 でもあの時もう少し気づくのが遅れていたらこれぐらいの怪我じゃ済まなかったわ。」
山城は艤装に殴られた瞬間、ダメージが最小限になる様威力を散らし致命傷を避けていたのだ。
普通ならあの一撃で山城の命は終わっていた筈が、こうして大破で済んでいる。
これも彼女達が毎日行なっている鍛錬の賜物である。
「ごめんなさい。 私が索敵を怠ってしまったばかりに。」
「夕立も海中の音聞き漏らしてたっぽい・・・」
「いやいや2人とも気にしないで。 恐らく水上艦の私達じゃ海中から来た奴の接近に気付くのは相当難しいはずよ?。 今対戦装備の無い夕立だって正直何も感じ取れなかったんじゃない?。」
その言葉に対し夕立は一つ首を縦に振った。
現に山城の言葉は正しく、艤装の接近する数秒前まで海中からは何の音もしなかった。
夕立が違和感を感じ意識を海中に向けた途端、艤装が勢いよく海中から現れたのだ。
「私次から対潜哨戒機でも積んでこようかしら。」
「まてまて加賀さん、まだ改装してないからそれは無理だろ。」
「そうだ加賀よ。 P-3は無理だ、S-3を持っていけ。」
「ちげーよTBMの方だろそこは⁉︎。 んなもん加賀さんは愚か誰も積めるかよ!。」
「はははっ、冗談だよ。」
危機迫った状況とはガラリと変わった会話と空気。
つい先程まで、仲間が死ぬかもしれない戦いをしていたのが嘘の様だ。
「でもよ、結局アイツは何者なんだ?。 あんな奴条約結んだ時にもいなかったよな?。」
そう天龍が顔で差した方には、提督と川内、妖精の親方によって手当を受けている、先程自分達を助けてくれた少年がいた。
「深海棲艦・・・ぽい?」
「ああ。 しかし彼は我々艦娘と同じ類の艤装をだした。」
「しかもあの艤装は。」
「・・・間違いない、 大和型だ。」
ーーーーーーーーーーーー
「よう親方!、遅かったな!。」
「お前が速すぎるんだよ。 ったく、せっかく俺達が直した艤装が台無しじゃねぇか。」
ハルカは敵艤装に殴られた際、自身の艤装本体に少なからずそのダメージを横流しし、自分へのダメージを軽減していたのですぐさま戦える状態だったのだ。
それでも軽くて重症、下手をすれば即死もあり得た攻撃を受けてなお平然としているハルカは明らかに異常だった。
しかし、
「まあ確かにちょっと欠けたり凹んだりしたけど、それでもちゃんと動くから問題な、」
「アホか‼︎、それを直すだけでも手間だってんだよ!。 これからはそこら辺も気にしろ‼︎。」
「痛いな!。 俺一応こう見えても怪我人だぞ⁉︎。」
そんな怪我をしたハルカに対して、何の遠慮もなく後頭部をしばく親方もまた異常だった。
ーーーーーーーーー
「あのー本当に君大丈夫なの?。凄い血塗れだけど。」
「ああ、平気平気。 そのうち勝手に治るから。」
俺は川内と言う少女が治療を行おうとして来たのできっぱり断った。
なぜかと言うと、
昔姐さん達に治療と称した拷問紛いの事をされてからその言葉を信用しないようにしている。
実際傷はすぐに治るのでそもそも治療など必要ないのだ。
「そっそうなの?。 それならさ、あっちのデカイ奴はどうするの?。 目を覚ましたと思ったらずっとこっちを見てくるんだけど。」
俺達のすぐ近くには、先程ダウンした姐さんの艤装が既に起き上がり此方をじっと見つめている。
しかし流石は姐さんの艤装。
相変わらず回復力は俺より断然上で、胴体に空いた大穴も何事も無かったかの様に元通りだ。
「アイツは放っておいていいよ。 また何かしそうになったら俺が戦るし。」
あの島から俺が出て遊び相手が居なくてストレスが溜まってたんだろう。
今じゃ全力をぶつけてスッキリしたのか幸せそうに口角を上げ笑っている。
俺が知る限りじゃあ、
重巡は今、欧州の姫さんに会いに行ってるし、
水鬼さんは鶴と暫くお出かけ、
ヲ級は東の海へ修行に、
島には湾さんと姐さんぐらいしか残ってないはずだから暇過ぎてストレスが溜まるのもよく分かる。
「なあ、あんたが提督って人間なんだろ?。 今回は俺の知り合いが迷惑を掛けてごめん。 元は俺を助ける為にアイツはここまで来たんだ。 だから俺達はあんた等と敵対しようと思ったわけじゃ無い。」
俺は他の人から提督と呼ばれている人に頭を下げた。
俺は島の皆んなから艦娘やそれを指揮する提督と呼ばれる人間とは戦うなと念を押され育てられて来た。
それがとある人達との約束であり、
「頭を下げないで下さい!。 私達も貴方の仲間に手を出した。 だから私達にも火はあるんです!。」
提督と言う女性も、その場でしゃがみ込み俺に頭を下げた。
綺麗な白い髪が海風に靡く。
皆んなが俺に合ったら伝えるようと言っていた、
白く長い髪をした若い女性の提督への言伝。
もしかしてこの人なのか?。
「2人とも仲直りは済んだみたいだな。 てかハルカよ。 確かにこいつは提督だがちゃんとお前みたいに名前があるんだよ。 こいつの名前は霧山 奏、ってんだ。 仲良くしろよ?」
親方が俺と提督との会話に割って入ってきた。
どうやら山城さんの治療は終えたようだ。
「そうなのか?。 なら俺も自己紹介を、俺の名前はハルカ。 黒い海から人の暮らしを、自分が何なのかを知りに来た。 よろしくな!。」
「私は今親方さんが言った通り、この近くの横須賀鎮守府で提督を務めている 霧山 奏です。 此方こそよろしく。」
俺と奏はお互いに手を出し握手を交わした。
人の挨拶の一つとして教わった握手。
これが、俺が知り得る人間との、生まれて初めての繋がりだった。
ーーーーーーーーーーーーー
「瑞鶴急いで!。 早くしないとまた親方さんに怒られるわよ!。」
「分かってるわよ翔鶴姉!。 それにしても、ハルカも親方さんも早過ぎよ。 私達は艤装の準備があるんだから時間が掛かるのよ⁉︎。」
親方とハルカの後を追っていた翔鶴と瑞鶴は、やっと山から降りて海へ出た。
弓矢の様な艦娘としての武装は直ぐ展開できるが、装甲などの艤装はドックでちゃんと着る必要があるため艦娘の出撃には時間が掛かるのだ。
「ここの崖を越えれば・・・、見えた!、ってあれ?。 あれは誰?。」
瑞鶴達はようやくハルカ達のいる場所を目視することが出来た。
しかしその手前、ハルカ達の事を遠くから見つめる岩に座った色白の女性に2人の目は釘付けになった。
「深海棲艦よね?、だけど何かしらこの違和感。 それに身体が突然震え出してきた。」
「やばいよ翔鶴姉、 アイツ唯の戦艦棲姫じゃない!。」
話し声がきこえたのか、その女性は2人の方を向き微笑みながら言葉を発した。
「ご機嫌よう。 そんなに震えてどうしたの?」
何気ない言葉に聞こえるが翔鶴と瑞鶴はそれだけで彼女が何者なのか確信することが出来、同時に心の底から恐怖で身も心も震え上がっていた。
(女王だ、間違いない!。 ここにいたら殺される!。)
(せめて提督達に伝えないと!。 でも怖くて身体が動かない!。)
恐怖で声も出せず動くことも出来ない、
寧ろ女王である戦艦棲姫の前で立っていられるだけでも称賛に値する。
戦艦棲姫は岩から降りると、震えて立っている2人の方へ話しながら進み出した。
「そこまで怖がらなくてもいいわよ?。 別に私は貴女達へ危害を加えるつもりは無いわ。 私は唯あの子が元気かどうかこの目で確かめたくて来ただけなんだもの。」
「あの子の事よろしくね?。」
そう呟いてすれ違った瞬間、2人の感じていた恐怖は綺麗さっぱり無くなり、慌てて振り返るもそこにはいつもの穏やかな海が広がっていただけだった。