「今日はセンターで出場の谷口、この七回の守りから、ライトに回ります」
「先日は発表されたオリンピックの日本代表……いや、超日本代表でしたか? 谷口君は総合的な野手として選出されていますし、メンバーから考えると外野の一角で起用される可能性が高いですからね。今のうちに慣らしておくつもりなのでしょう」
「プロ入り後は主に四番サードで起用されてきた谷口ですが、ショート、ファースト、外野とチーム状況に応じて守ってきています。おっと、井口の投じた初球が右中間へ飛ぶ! センターのデレックとライトの谷口が追う! ちょっとデレックは届かないか? おーっと、谷口早い早い。どうだ届くか、谷口横っ飛び! おーっ! 捕りました。これは谷口のファインプレー! 先程はセンターで、今度はライトで魅せます谷口!」
満員のスタジアムから大きな拍手が送られる中、谷口は照れながらベンチへ戻っていった。
◇◇
「次、ノック頼む!」
「キャプテン、やりすぎじゃないっスか? 今日もナイターですよ」
などと言いながら、丸井は谷口の守るライトへとフライを打ち上げる。
「いや、仕方ないっしょ」
「そうそう」
センターのポジションへとデレックが走り、蝦名が一塁、カズマサがレフトへ走る。
「丸井さん、俺たちにもお願いします!」
「……丸井さんはキャプテンにお願いします。倉橋さん、井口よろしくお願いします」
「オウヨ」
「まかせろ」
ノックバットを持った二人がそれぞれのポジションへ強烈なノックを放つ。
「くっ、いやらしいとこにっ!」
デレックが全力で走り落下点へと横っ飛び、ゴロゴロと転がって止まると、矢のような送球を中継に返した。
超日本代表で求められるそれぞれの役割を理解し、準備をする。後に自分自身に、そしてチームへといい影響が伝わるはずだ。
超日本代表は、選抜チームとの壮行試合を行い、オリンピック開幕を迎える。
◇◇◇
オープニングラウンド一回戦 対 中国代表
「先行の日本代表チームのスターティングラインナップを発表いたします」
「さあ、いよいよ超日本代表の初戦です。どのようなスタメンになるのでしょうか」
「楽しみですね」
実況と解説の会話には緊張感はなく、楽しみという気持ちが前面に出ていた。
「一番キャッチャー霧隠カズマサ」
場内がどよめき、列島中も予想外の名前に動揺する。
「てっきり一番はサードで岩鬼選手かと思いましたが、岩田監督は若手の霧隠カズマサをトップに持ってきました」
「予想外ですね」
「二番ショート、デレック井慈田」
二人目も予想を裏切り、若手のデレックが抜擢された。
「……これは戦前の予想とはオーダーかなりかわりそうですね」
「プレッシャーのかからないうちに若手を試合慣れさせるつもりでしょうか。いや、これは予想外。……ですが、次の打者は予想できます。ズバリ蝦名選手でしょう」
解説は三番は蝦名の抜擢と読み解いた。
「三番ピッチャー 蝦名富一」
正解であるが、岩田采配に一枚上を行かれた。
「えっ、ピッチャーで三番ですかっ?」
「指名打者なしとは、まさかですね。一番霧隠君、二番井慈田君、三番蝦名君……彼らは高校生だった朋王学園時代、この並びで朋王三連星と呼ばれていましたが、まさか代表チームで再現されるとは。驚きしかないですね」
「野手としても出場している蝦名投手の打棒には定評はありますが、岩田監督の采配は読めません」
本日のスタメンは以下の通り。
一番捕手 霧隠カズマサ
二番遊撃 デレック井慈田
三番投手 蝦名 富一
四番左翼 景浦安武
五番右翼 微笑三太郎
六番三塁 谷口タカオ
七番中堅 坂田三吉
八番二塁 イガラシ
九番一塁 結城哲也
予想されていた中では山田太郎、岩鬼正美、殿馬一人、やまだたいち、佐藤寿也を外すという大胆なメンバーだが、岩田監督は自信満々の様子だ。
そもそも中国代表チームには特に注目すべき選手はいない。先発はリ・ハンネ、受ける捕手はリ・バンクンというそっくりな顔をした双子がバッテリーを組むらしいが、それだけだ。
「霧隠、頼むぞ!」
「オウヨ!」
キャプテン谷口のゲキにカズマサは力強く答え、打席へ向かう。
(腕を畳んでコツコツ振り切る。狙い球は初球だ)
右腕から投じられた初球は、外角低めやや甘めのストレートに見えた。
「オーバーマーァ!」
カズマサは気合いともにスイング! ボールは少し軌道のズレるムービングボールだったが、カズマサはしっかりとミートしている。
「一番霧額、二遊間を切裂きセンターへ。超日本代表いきなり先頭打者が出ました」
「よーし。続くぞ!」
デレックは気合いの入ったスイングをしてから打席へ入る。
(ま、バントかもしれないけど……)
デレックはサインを確認するが、"打て"だった。
(そう来なくっちゃな。せっかく俺たち三人が並んでるんだから)
カキイン!
「二番デレック井慈田も初球攻撃。ノーアウトで、二塁一塁と超日本代表先制のチャンスに、バッターは三番投手の蝦名。たしかに打者としても実績は残しつつありますが、大抜擢と言えます」
しかし、左打席に入った蝦名から放たれる雰囲気は投手のそれではなく、完全に強打者のものだった。
(カズマサとデレックが出た。当然ここは……)
蝦名もまた初球ややインハイボール気味の球をフルスイング。打球はセンターバックスクリーンへと突き刺さるホームランとなった。
「入ったーっ! 三番蝦名抜擢に応えるスリーラン。超日本代表、たったの三球で三点先制です」
「いやー、驚きましたが……一番霧隠が単打、二番デレックが単打。三番蝦名がホームランというのは、彼らが高校時代の得意攻撃ですからね。プロになっても朋王三連星は健在ですね」
ちなみにプロ入り後はまだこの並びでの出場はない。
「ないバッチ」
「代表戦でも通用したってことは……」
「俺たちやっぱり野球上手かったんだな」
三人のテンションは爆上がり。もちろん代表ベンチも盛り上がる。
「エビ、よーやったで。やーまだもびっくりの飛距離よの」
出番がなく不貞腐れているかと思われた岩鬼が真っ先に出迎え祝福する。
「ありがとうございます」
さすがにあざーすとは略せず、丁寧に蝦名は応える
「ナイスバッティング。次はピッチングだな」
「山田さん、有難うございます!」
「よしよし、ワシの見込んだ通りじゃな」
岩田監督の声が、歓声にかき消された。
「入ったー。四番景浦安武、貫禄の場外ホームラン! レフトスタンドの遥か彼方、福島の空へ打球が飛んでいきました!」
ベテランスラッガーが、違いを見せつける。
「さすが、あぶさん!」
「あぶー!」
さらに、五番微笑三太郎が三者連続弾を左中間へ。
超日本代表打線は止まらない?
「くわーっ!」
六番谷口が左翼ポールギリギリ直撃の四者連続弾で、早くも六点先取。
「なんとか繋げたか。ふうーっ……」
さらに七番坂田三吉レフト前ヒット、八番イガラシ右中間を破るタイムリーツーベース。九番結城哲也がライト前タイムリーと、超日本代表打線はまだ止まらない。
打者一巡して八得点。カズマサ、デレックがそれぞれ内野ゴロに倒れるも、二死三塁として蝦名がセンター前、四番景浦が二打席連続弾で11点。
五番微笑はレフトファールフライに倒れスリーアウト。
生気を失った中国代表相手に蝦名が相対するが、もはや相手は戦意を喪失しており、一番はカーブをひっかけてセカンドゴロ。この試合セカンドに入っているイガラシがなんなく捌きワンナウト。
続く二番は左翼定位置への凡フライ。三番は155キロのストレートで空振り三振。
超日本代表は、二回守りから景浦を下げ、坂田三吉を中堅から左翼へ、中堅は遊撃からデレックを回し、やまだたいちを遊撃に入れる。
蝦名の速い速球(150キロ台)と遅い速球(130キロ台)でタイミングをはずし、決め球のカーブでアウトをとる。
(いっつもこうだとリード楽なんだけどなぁ……)
普段立ち上がりの悪さは顔を出さないまま、テンポよく中国打線を抑えていく。
好調な打線は二回にイガラシがライトスタンドに飛び込むツーラン。三回には、景浦に代わって四番に入っていたやまだたいちの場外弾と効果的に加点。五回表を終えて21対0とし、結局蝦名が五回パーフェクトで五回コールド勝ちで、超日本代表が初戦を制した。