星降る奇跡と空舞うヒカリ   作:りつくさり

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2023年1月16日
一部の描写変更




事故にあったという知らせを聞いた後でもオレはどこかで楽観視していた。考えていることは決勝のことばかり。

 

それは、どこかで麻奈に限って何も起こらないと思い込んでいたのかもしれない。

 

考えられないんだ……星降る奇跡から光が消えること自体に。常に輝きを放っていた彼女がこんなことになるなんて。

 

 「身体が震えているのか……」

 

扉を開く手が震えていた。オレは、牧野航平は麻奈が眠っているとされる病室の前に立ち尽くしていた。

 

あの事故から何日も経過している。星見総合病院に急患で運ばれた後、治療室で手術を受けたそうだ。手術は成功こそしたが、命を落とすかもしれない瀬戸際が続き、家族はもちろんオレも面会することは叶わなかった。

 

そして一命を取り留めた、これは事実だ。だけど彼女の意識が戻ることはなかった。

 

今日は家族に許可を取り、麻奈の面会に来ていた。久し振りに会うことになる。

 

「怖いのか……」

 

嫌な汗が流れる。体が何かに支配されたように動かない。ドアを開けたらあの明るい笑顔で迎えてくれるんじゃないか。

 

元気な声で「牧野くん!」と呼んでくれるのではと思ってしまう。

 

……認めたくないんだろうな。直視してしまえば本当にそれを認めてしまうことになるから。

 

「本当に、なんでこんなことになってしまったんだよ……」

 

叫びたい気持ちをぐっとこらえる。行き場のない気持ちが内で暴れていて、どうにかなってしまいそうだ。

 

 「支えているつもりでいただけで、本当はオレが支えられていたということか」

 

 星見プロに入ってからいつも隣で麻奈を見てきたんだ。あの奇跡を目の前で。彼女にオレの将来を考えて辞めるように言ってきたときも、オレはここに残り続けた。

 

 それは麻奈がどこまでいくのかが気になったというのもあった。だけど、今思いかえしてみればあの場所はオレにとって心地よかったのかもしれない。

 

 この1~2年間は今までの人生の中で一番濃かったんだ。オレは元気や勇気を貰っていたんだと思う。

 

「ハハッ……色んなことがありすぎたな」

 

今でもあの頃を昨日のように思い出すことができる。

 

そして今も昔も麻奈のマネージャーであることは変わっていない。

 

「馬鹿だな、オレは麻奈のマネージャーだろ」

 

こんなところでうじうじしてたら笑われてしまう。頑張れ、牧野航平。

 

何度か深呼吸をし、気持ちと息を整える。大丈夫だ。

 

扉を開ける決心をする。

 

「失礼します」

 

不安をかき消すように勢いよく扉を開けた。

 

 

 

 扉をガラッと開けた瞬間、最初に目に入ったのはベッドに静かに横たわる麻奈だった。

 

 いつもの明るさは影を潜め、ただそこにいるような寂しさが空気となり伝わってくる。

 

 それに白い蛍光灯に照らされ、壁面真っ白な部屋のせいか一段と悲しく思えた。

 この病室はオレにとっては少し辛い場所化もしれない。

 

 そしてその部屋にもう一人。来客用の椅子に腰かけ切なげに目を伏せている少女がいた。肩までかかった黒髪に、くっきりとした顔立ち。容姿は麻奈の面影を感じさせる。

 

 「「……」」

 

目と目が合い、互いに硬直する。おそらく彼女もここに見知らぬ男が来るとは思っていなかったんだろう。オレも今日は誰もいないと思っていたから。

 

「えーと……君はもしかして麻奈の妹であってるかな?」

 

「麻奈? あの……誰ですか?」

 

 オレの突然の来訪に困惑している様子だ。警戒もしていることは表情からも分かった。

 

 

 

「はじめまして。オレ……じゃなくて僕は星見プロダクションの牧野航平といいます。君は妹の琴乃ちゃんであってるかな?」

 

 

 

「……星見プロ……」

 

星見プロの言葉を聞いた瞬間、少し雰囲気が変わった気がする。気のせいか?

 

「星見プロのマネージャーさんが何のようですか」

 

「麻奈のお見舞いに来たんだ。少しだけお邪魔になっていいかな?」

 

彼女は何故か怒っているように見える。いや、間違いなく怒っている。オレは何かやってしまったのだろうか?」

 

「帰ってください……」

 

静かに彼女はそう言った。だけど、内にある敵意はピリピリと伝わってくる。

 

「……えーと?」

 

「帰ってくださいっていっているんです!」

 

オレの疑問は琴乃の悲痛な怒声にかき消された。

 

「私からお姉ちゃんを奪った人たちがここにこないでください!」

 

妹のことで麻奈が悩んでいたことは知っている。アイドルに反対していたことも。 

 

「芸能界に入らなければ……星見プロになんかに入らなければ事故に合わなかった!」

 

 怒りと憎しみがひしひしと突き刺すように伝わってくる。そして次の言葉は胸をえぐるような言葉だった。

 

「なんでお姉ちゃんを守ってくれなかったんですか? マネージャーなんですよね?」

 

「…‥‥すまない」

 

 この感情の嵐の前でただオレは謝ることしかできない。そしてその叫びはあの日の後悔を思い出させるのに十分だった。

 

決勝の当日、何があっても麻奈についていけばよかったこと。そうすれば事故にあわなかったんじゃないかと。

 

ただどれもすべて過去であって現実。取り返しがつかないことがさらにオレの胸を締め付ける。

 

「すまないってなんですか! 私からお姉ちゃんを奪ったくせに」

 

悲痛な言葉が病室にこだまする。涙は溢れ激しく流れていた。

 

「アイドル以外にもなれたのに……それなのにあんな道に進んで、私から離れて……」

 

「……」

 

「どうしたんですか? 何か言い返したらどうなんです。それとも図星ですか?」

 

なんて返すべきなんだろうか。オレは麻奈と何年も二人三脚で共にしてきた。いつもアイドルに真っすぐだったそんな麻奈が間違ってた、なんて思いたくない……

 

 「さっきから黙ってばかりで!何か……言い返してください……」

 

 本当に姉が大好きだったんだろう。だからこそこの行き場のない気持ちと残酷な現実がいろんなものをかき乱していく。オレもこの子もまだ全然受け入れてないんだ。

 

「なんでこんなことになったんだろうな……」

 

弱弱しい声が虚しく溶ける。視線を麻奈に向けても、そこにいつもの太陽の笑顔はなかった。

 

「帰ってください。それともう二度と来ないでください……」

 

「……分かった、今日は帰るよ」

 

これ以上ここにいてもどうしてやることもできない。けど最後に言っておかなければ。

 

「琴乃ちゃん。麻奈は必ず目覚めるよ」

 

「あなたに何が分かるっていうんですか……」

 

琴乃は相変わらず敵意を見せてくる。だけど、

 

「信じてるんだ。麻奈はこんなところで終わる人間じゃないってことを」

 

彼女は今まで大きな嘘をついたことはない。だからもう一度あの舞台に戻ってくる。

 

オレは部屋を去ろうとする前に、ベッドに目を向けてつぶやく。

 

「……ごめん麻奈」

 

オレは複雑な思いを抱えつつも病室を出る。窓の外から見た空はどんよりと曇っていた。

 

 




次回、三枝さん登場。
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