アニメでは混んでいるといいながらも車で送るシーンがあり、アプリ版はその描写はなく、鉄道の故障でタクシーに乗り換えて会場に来るとありました。
どういうことだろうと考えて総合的にこういう描写に。
ただ麻奈がどうやって事故にあったかを描きたいわけじゃないので悪しからず。
サブタイトルが『感謝』です
病室を出たオレはすぐに耐えられなくなりに壁を背にもたれた。
「なんで守ってくれなかったんですか? マネージャーなんですよね?」
麻奈の妹である琴乃から放たれた言葉にオレは相当参っているらしい。
決勝当日、いつもだったらオレが直接車で麻奈を会場に送るつもりだった。
だけど予想以上に周辺が混んでいるらしく、オレもまだやるべきことがあったために早い段階で代わりに麻奈を送ってもらうことにした。
しかし渋滞に巻き込まれ結局電車に乗ることに。
不運は続く。その後麻奈は電車の故障にも巻き込まれタクシーに乗り換えて会場に向かうと途中で……事故に遭った。
あの出来事は偶然で不幸な事故とも言えるかもしれない。
だけどあの日何が何でも麻奈に付いて行けば事故を回避できたんじゃないか?
そもそもオレがマネージャーとしてその辺りを考えておけばよかったんだ。
「お、牧野じゃないか。麻奈には会えたのか?」
オレはまだまだ未熟だ。自分の能力の低さに笑うしかない。
「おいおい、無視ってことはないだろ」
マネージャーとして本当に失格なんだろう。自覚が足りなさすぎたんだ。
胸が苦しくて体の感覚がおかしい。ああそうだった……事務所に戻らないと。
三枝さんに報告を―
「牧野! 俺だ三枝だ。分かるか?」
「報告を……ってさ、三枝さん!? な、何でここに……」
ふと気づくとオレの前にはその当人がいた。
三枝信司。
星見プロダクションの社長にして麻奈を発掘した人物だ。プロデューサーとしても腕を奮い、麻奈を一躍有名にさせた。
昔は大手芸能事務所バンプロダクションにいたそうだが、独立して星見プロダクションを立ち上げた。
バンプロ時代に大人気アイドルグループ、LizNoirを一からプロデュースした実績もある。
そんなすごい人が当時学生でアイドルについて何もしらないオレをアルバイトとして雇ってもらえたのは奇跡みたいなものかもしれない。
「何でここにって、俺も麻奈のお見舞いに行くって伝えただろ?」
「お見舞い……」
そんなことを言ってたような言ってなかったような……? 今朝はボーっとしてて記憶があいまいだ。
「その顔は忘れてただろ? まあいい。麻奈と会って来たんだろ?」
「え、あ、はい……」
その言葉に病室での出来事を思い出してしまった。 思わずどもってしまう。
「何があったんだ? その様子だと麻奈に面会しただけじゃないんだろ?」
その様子を見てか三枝さんが真剣な表情で語りかけてくるのが分かった。
「……何でもないですよ。少し体調が悪いだけです」
「嘘をつくな。お前のことは多少なりと知っている。アルバイト時代からな」
まずいな。そこまで顔に出てたのか。本当にダメダメだ……
「まあ、ここではなんだ。少し外に出て話さないか?」
そういうと三枝さんは病院の外に向かっていく。
オレは黙って付いて行くしかなかった。
「ここでいいか。まあ座れ。話はそれからだ」
病院外にある近くのベンチに三枝さんは腰を下ろした。
「……」
「ん? どうした。牧野?」
沈黙するオレの様子を見て疑問を投げる。
「すみませんでした! オレは麻奈のマネージャーとして失格です」
残っている気力で声を出して頭を下げる。ただひたすら謝ることしか……
「あの事故のことをいっているのか? お前は悪くない、そういったよな?」
「だけど、オレがもっとしっかりとしていれば……」
三枝さんはそういうが、オレは納得できないかった。マネージャーとしてあらゆることを想定しておくべきだった。そうしていればあの事故だって回避できたはずなんだ。
「……」
三枝さんは黙っている。その沈黙は震えるほど怖い。だけどオレは取り返しがつかないことをしたんだ……
「俺も過去に様々なことで後悔したことがあるし、正しかったのかと思うこともある」
「三枝さんでもですか?」
いつも飄々しながらも圧倒的な腕と人脈で麻奈をトップアイドルへの道を支えた人だ。
そんな才能溢れる人が後悔なんてあるんだろか。
「ただそれでもLizNoirや長瀬麻奈といったトップアイドルに出会ったんだ。この上ない幸せだ」
思えば三枝さんの心の内というのは聞く機会はなかった。
「まあ、なんだ。お前は20歳にもなっていない身だ。落ち込むにはまだ早いってことだ」
「三枝さん……」
三枝さんにそう言ってもらえるのは純粋に嬉しい。だけど……
「お前は自分のことをマネージャー失格といったが俺は全くそうは思わんさ」
そういうと優しい視線をこっちに向けてきた。
やめてくださいよそんな目で見られるほどオレは出来た人間じゃない
「逆に感謝をしてるんだ。こんな小さな事務所で働いてくれてな。星見プロの名前は全国に広がったがまだまだ小さい弱小事務所だ。人員もそういないなかお前の負担もかなり大きかったと思う。そんな中で尽力してくれた。社長として礼をいいたい」
予想もしてなかった言葉にオレは狼狽する。今まで迷惑をかけてきたし、今回は言い逃れが出来ないぐらいの失態だ。責められると思っていたのに。
「ま、待ってください、買いかぶりすぎです。オレは―」
反論しようとする言葉はすぐに遮られる。
「もちろん星見プロのためだけじゃなく、お前は単純に麻奈のためにやって来たんだと思うがな。それが予想以上の結果をだしてるんだ。お前が自分を評価している以上にな」
「評価している以上?」
オレはただ一生懸命に仕事をやってきたにすぎない。たけどそうなんだろうか?
「バンプロを出てお前たちに出会えたとが最初の幸運だった。ありがとう」
感謝の言葉が予想以上に心を鷲掴みにされる。オレにそんな言葉を……
「さ、三枝さん、あり……」
気づけば自然と涙がこぼれ落ちていた。うまく言葉が紡ぎだせない。
「おいおい泣くなマネージャーだろ? そんな姿は麻奈には見せられないぞ」
「あ……ありがとうございます……三枝さん」
鼻水を垂らし、零れる涙も止めようともせずみっともなくやっと感謝の言葉を口に出すことができた。
三枝さんはベンチから立ち上がるとオレの肩に片手をそっと置いた。
「これからも頼むぞ。お前はもう少しぐらい胸を張ってるぐらいがちょうどいい」
「は、はい……任せてください」
オレは拳を握り空を見上げた。
まだまだ不甲斐ないマネージャーだけど、もう少しだけ頑張ってみるよ、麻奈。
「で、結局あの病室で何か言われたんだろ? 朝より虚ろな表情をしてたからな」
オレは躊躇いながらも麻奈の妹、琴乃のことを話す。
それを聞くと三枝さんはただ一言「そうか」とつぶやいた。
「さて、麻奈の妹さんがいると分かれば、今日はひとまず引き返すとするか。お前はどうする? 事務所にもどるか? 無理せず家に帰ってもいいぞ」
三枝さんは帰るらしい。オレは―
「事務所に遙子さんがいますし、一旦戻ります。 麻奈の様子も伝えたいので」
「そうか。オレは少し用が出来た。今日は事務所に戻らないと思う。すまないが鍵は閉めておいてくれるか?」
そういうといつもの雰囲気で去っていった。
「オレも戻るとするか」
踵を返して立ち去ろうとしたとき、小雨が降りだしていたことに気づいた。
天気はしばらくは晴れなさそうだ。
次話はこの物語のキーマンの一人が登場する予定です。