この二次創作にお気に入りしてくださる方も心よりのありがとうを。
今回は牧野君と遙子さんとの会話です。
前回にキーマンが出ると書いてしまいましたが、次話に出ると思います......。
「傘を持ってこなかったのは失敗だったな……」
オレは病院から出て事務所に帰る途中に突然雨に降られた。
朝は天気予報なんてみる余裕がなかったし、おかげで全身びしょぬれだ。
季節が冬ということもあって濡れた体が凍るようだ。
寒さから逃げるように向かっているとやっと星見プロが見えてきた。
遙子さんが待っているはずだ。麻奈のことを話さないとな……。
事務所に入ろうとしたとき、扉の前で誰かを待つように立っている人がいた。
「遙子さん……」
遙子さんはオレのことに気づいて大慌てで近寄ってきた。
「わわっ! 牧野くんこんなに濡れてどうしたの? 傘は?」
「あはは……実は雨が降ることを知らなくて外出しちゃいまして……」
オレが「何か拭くものを」と言おうとする前に遙子さんは急いで動きだす。
「待ってて、タオルを持ってくるから。あと体も温めるものも」
「だ、大丈夫ですよ。 そこまで気を使わなくても」
オレはそういうが、ぷんぷん怒ったような表情を向けてきた。
「ダメ! 風邪でもひいたら大変だし、そうなったら辛いだけでしょ?」
「まあ、はい……」
遙子さんとはそこまで歳が離れてはいないけど、何かお姉さんというか―
「いや、母親かも?」
「え、牧野君何か言った?」
「あ、いえ、何でもないです……」
頭の上にハテナのマークがついたような顔で問い返す様子を見てどもりながら答えた。
すぐに遙子さんが持ってきたタオルで髪を拭く。
上着まで預かってもらい何から何までいたせりつくせりだ。申し訳ない。
体を拭いた後、部屋に入ると暑すぎるほどの熱気がオレを包んだ。
ふとリモコンの温度を見るといつも以上に上げられていた。本当に何から何まで配慮が行き届いている。
それから事務所にある予備の服に着替え、自分のデスクに腰を掛けると窓から外を眺めた。
大雨が絶えまなく窓に降りつける。冬の空気と相まって何か外は寂しく思える。
あの日もこんな天気で―
「いや、ダメだ。しっかりしろ」
どんよりとした天気に当てられてか気持ちが何か沈みつつある。
うじうじしているのは分かっている。けど考えずにはいられない。
「オレがしっかりしていればもしかしたら麻奈は……」
思わず内の思いが外に出て呟いてしまう。
三枝さんに励まされたばかりなのにこんなんじゃ駄目だ……駄目だと分かっているはいるけど……。
「ちょっと牧野くん! ずっと無視されちゃうのは傷ついちゃうなぁ」
「え? は、遙子さん!? ど、どうしたんですか?」
考えに耽っている間にいつのまに遙子さんが背後に立っていた。
「確かに私はアイドルとして地味かもしれないしぃ、ネクストビーナスグランプリでもすぐ負けちゃったから存在感がないのは分かってますけどぉ……」
「ち、違いますよ。オレがちょっとぼーっとしてただけです」
肩を落として落ち込んでいた様子を見て慌てて否定した。
「ふふっ、冗談よ。ちょっとからかってみただけ」
そういうといつもの柔らかい笑みがオレの顔に差し込んだ。
佐伯遙子。
麻奈より前にこの事務所に所属しているソロアイドルだ。
どうしても長瀬麻奈の陰に隠れがちだが歌もダンスも申し分ない実力をもっている。
ただそれでもライブバトルでは結果が振るわないのがこの業界の難しいところだ。
「はい、お茶。飲んで体を温めないとね」
「何から何まで本当にありがとうございます」
遙子さんはアイドル活動以外にもこんな雑務もしてくれている。本当はアイドルの活動に専念できるようしてあげたい……こちらが不甲斐ないばかりだ。
「あのね、こんなときだけど。麻奈ちゃん……どんな様子だった?」
手を胸に抑えて言葉を紡ぐようにそっと聞いてきた。
さっきとは違い遙子さんは表情が曇っている
その言葉に思わず動悸が早くなるのを感じるがどうにか口を開いた。
「麻奈は……命に別状はないんです。ただ意識が戻らなくて」
「大丈夫……なんだよね? 助かるんだよね?」
星見プロに入った頃から麻奈は遙子さんと仲がよかった。やや強引なところがあったがそれは一番近くで見ていた同じアイドルとして応援したかったのかもしれない。
「はい……ひとまずはですが……」
くそ、なんでこんな言い方しかできないんだ。もっと他にいいようがあるだろ……。
決意を新たにして手前、まだまだマネージャーとして気を配る配慮ができない自分の不甲斐なさが身に染みる。
自分の失態に心苦しさを感じていると、遙子さんが「よかったぁ……」と安堵の言葉を漏らした。
「大丈夫だよ、牧野くん。麻奈ちゃんはこの程度すぐに乗り越えて帰ってくるよ! 逆に考えられないもん。ステージで歌っているあの姿がみれなくなっちゃうなんて」
「遙子さん……」
いつもの柔らかい笑みを見てオレの心も落ち着いていくのを感じる。
「だからね、元気だよ! 元気! マネージャーがそんな顔してたら麻奈ちゃんにまたからかわれるよ「そんな辛気臭い顔は見たくない!」って」
麻奈の声真似をしながら微笑む姿を見ると心が軽くなった気がする。
「そうですね……いや、その通りだと思います」
そうだ。三枝さんが少しぐらい胸を張るように言ってたじゃないか。麻奈は帰ってくる。何があっても絶対に……。
「ありがとうございます。こんなんじゃ麻奈に笑われちゃいますね」
「そうそう。牧野君なら頑張れる!」
オレは助けられてばかりだ。今はできることをやっていかないとな。
「少し外の空気を吸ってきます。コンビニで何か買ってこようと思ってますけど、何か欲しいものはありますか?」
「私は何もいらないけど……外はすごい雨が降ってるよ、大丈夫?」
「すぐ近くのですから大丈夫ですよ。ちょっと行ってきます」
それでも心に何かがつまったものを感じながらオレは事務所を出た。頑張るんだ……。
事務所は時が止まったように静かになり―
「ま、麻奈ちゃん……麻奈ちゃんっ…」
そこで泣いている彼女の声にオレは気づくことはなかった。
早く麻奈が目覚めてほしい。