星降る奇跡と空舞うヒカリ   作:りつくさり

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この小説を見てくださりありがとうございます。


7話はさくらの軸となるお話です。

「星降る奇跡と空舞うヒカリ」において、川咲さくらという人格を形作る大切なお話となるのでこのタイトルにしました。


この心臓がドクンと鳴るたびに聞こえてくるんです『生きたい』って

 さくらちゃんが倒れた後、オレは急いで救急車を呼んだ。

 事情を説明しそのまま病院まで付き添うことになった。

 正直気が気じゃなかった。どうしても麻奈を思い出し胸が苦しくなる。

 運び込まれた後はさくらちゃんの母親に経緯を話した。

 何度も「ありがとうございます」と泣きながら感謝された。

 母親にとって子供はかけがえのない宝なんだなとこのとき肌で感じた。

「この病室か」

 オレは星見総合病院に来ていた。

 昨日はさくらちゃんが無事だという知らせを聞きひとまず家路についた。

 大事には至らず手術も必要ないそうだ。

 身体にかかった疲労が倒れた原因ということらしい。

 今日はそのお見舞だ。

 ドアをノックし開くとそこにさくらちゃんがいた。

「牧野さん! 来てくれたんですね」

 ベッドの上で半身を起こし昨日と同じで病衣を着ている。

「こんにちは。身体は大丈夫? 痛いところとかは……」

「全然っ大丈夫です! 今は元気100倍ですから」

 元気にそう答える姿を見てひとまず胸をなでおろした。

 無邪気で明るいその様子はこの子が病気であることを忘れてしまいそうになる。

「そうそう。これをさくらちゃんにと思って持ってきたんだ」

 オレは抱えていた花束を差し出した。

「わあっ、綺麗な花……」

 惹き付けられたようにまじまじと見るさくらちゃん。

 花というのは不思議なもので何故か多くの人の心を奪ってしまう。

「この花は何ていう名前なんですか?」

「たしか……ネモフィラだったかな?」

 何故この花を選んだのかは自分でも分からない。強いて言うなら魅入られたからだろうか。

 そのときポスっとベッドの上からノートが落ちた。オレは拾い上げて表紙に書かれてある言葉が目に入る。

「……やってみたかったリスト?」

「あ、それは……」

 オレはページを開き思わず見てしまった。

 そこにはやりたいことや行きたい場所などが書き記されていた。

「……」

 そして一部には書き殴られたところや雫が落ちたような丸い跡がくっきり残っていた。

「苦しい時や悲しいときに書いているんです」

 ハッと我に返り視線を前に戻す。

 そこには沈痛な面持ちのさくらちゃんがいた。

 明るさは潜めこちらまで影を差すように感じるのは気のせいだろうか。

「普通じゃないってこんなに苦しいんですね」

 彼女の目にうっすらと涙が溜まっていた。

「当たり前に動けて、どこにも行けて、好きなものを食べれて……そんな『普通』のことができなくなるのがこんなにも辛いだなんて知りませんでした」

「さくらちゃん……」

 初めて会ったとき太陽のように明るい子だと思った。だけどそんな眩い光りでも黒く染まってしまう時があるのだと。

「テレビを見て辛いのを誤魔化してはいるんですけど……それでもこのもやもやした気持ちは消えなくて……だからそのノートを書いたりしてます」

 さっきもそうだった。この子の明るさは本当に病気かと疑ってしまうほどだ。

 けどそれは自分自身のためなのかもしれない。

 元気にそうに笑ったりするのはその思いを誤魔化すためなのかもしれないと。

「でも私は負けませんっ! 退院したら楽しいことをしまくるんです!!」

 両手に拳をつくり、オレを見据えた。

 強いと思った。何度つまづいても進んで見せるという意思を感じさせるほどに。

 自分がその立場だったらこんな気丈に振る舞うことはできるだろうか。

「……必ず治るよ」

 この子を雲らせちゃ駄目だ。太陽が似合うこの少女には。

「今は苦しいことばかりかもしれない。だけど必ず良くなるよ」

 こんなにも頑張っている子が救われないなんてそれは理不尽すぎる。

「だからそのときまでオレもさくらちゃんを支えてもいいかな? 一人より二人のほうがずっといいはずだから」

 昨日出会ったばかりだというのにそうしてあげたいと突き動かされる。

 そしてこの子の病気が完治して燦燦と周りを照らす姿を見てみたいと思った。

「牧野さん……ありがとうございます。何だか昨日から助けられてばかりですね」

 そう言うと笑顔を浮かべるさくらちゃん。

 この子の笑みを見るとこっちまで頬が緩む。それほど魅力的だった。

 やはり麻奈に似ている。一度でもライブに来たら彼女の虜になるように。

 目の前の少女には人の心を動かすものがあると――

「もう一つ理由があります。私が頑張れる理由が」

 胸元に手を添え穏やかそうに吐露した。

「この胸から聞こえてくるんです」

 さくらちゃんは自分自身の鼓動が確かめるように目を瞑った。

「この心臓がドクンと鳴るたびに聞こえてくるんです『生きたい』って」

「心臓が生きたい?」

 どういう意味だろうか。

「だって病気になってもドクンドクンと頑張って動いているんですよ? それってすごいことだと思いませんか!?」

 心臓から聞こえる声。おそらく病に侵されて鼓動を身近に感じれるようになったさくらちゃんだからこそ聞こえる唯一無二の声なんだろう。

「その度に私も負けないぞーって思って毎日張り切ってます!」

 溌溂とした声が病室に響く。

「それでも悲しい時もありますけどね……」

 そう呟いた後に「牧野さん」と声がかかる。

「また……お見舞いきてくれますか?」

 オレの表情を覗くようにさくらちゃんの瞳が不安そうに揺れていた。

「もちろん。何回でもお見舞いに来るから」

 そう言うと綻んだ顔を見せてくれた。

 時計をちらりと見るとそろそろ時間が来ていた。

 星見プロに行かなければならない。

「じゃあそろそろ時間だから。また近いうちに来るよ」

 踵を返して立ち去ろうとしたとき、後ろから声がかかった。

「牧野さん。あの、一つだけお願いが……」

「……何だい?」

 振り返り見ると指先をもじもじさせ視線を彷徨わせているさくらちゃん。

「あ、あのっ、私のこと、さくらって呼んでもらえませんか!」

 頬を紅潮させ意を決したようなその姿に思わずオレは苦笑した。

「……体調には気を付けるんだぞ、さくら」

「……っ! は、はい!」

 こうして退室したオレはもう一度時間を確認した。

 出社まではまだ余裕がある。

「……麻奈」

 麻奈のお見舞い行こうとしたが思いとどまった。あそこには琴乃ちゃんがいるだろう。

 先日あんなことを言われて顔を合わせづらかった。

 後ろ髪を引かれながらも病院の出口に向かう矢先――

「あなた自分の姉のことを何も知らないのね!」

「あなたこそお姉ちゃんの何を知っているんですか!」

 院内に突如、言い争う二人の声が響き渡った。

「あっちは確か麻奈の病室だったはず……」

 気づけばそちらに歩を進めていた。




近いうちに投稿できたらと考えているので、こまめに確認していただけたら幸いです。
次回「LizNoir」
あの人”達”が登場します。
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