調子に乗って別作品も書き始めたら投稿が遅れました。
コンコン
「友紀君、もう着替え終わった?」
ジャージに着替えていると、ノックとともに歩夢の声が聞こえた。
「ちょうど今着替え終えたとこ」
「じゃあもう中に入って大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
そう返事すると、頬を少しだけ赤く染めた歩夢がゆっくりとドアを開けて入ってきた。パッと見た感じだと歩夢以外のメンバーはいなかったな。もう練習に行ったのか?
「忘れ物でもしたのか?」
「そうじゃないんだけど……少しだけ2人で話したいことがしたいんだけどいいかな?」
「ああ、構わないぞ」
「ほんと? よかったぁ……」
多分歩夢が話したいことというのは十中八九あれのことだろう。
「友紀君は私のこと覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ。あの時助けた子だろ? さすがに忘れないよ。話したいことっていうのはその時のこと?」
「うん。助けてくれたのにお礼の言葉も言えなかったから……」
「あー、あの時はなるべく話しかけないようにしてたからなぁ。話しかけるのもどうかなと思って」
あと単純に何も話すことなかったし。
「そういう配慮をしてくれたのもすごく嬉しかったんだよ」
「そうか、それならよかった」
「助けてもらって、いろいろ配慮もしてくれたのに何もお礼できなくて……」
「別にいいよ、礼なんか。俺は最初逃げようとしたんだ。礼を言われる資格なんかない」
そう、俺は最初逃げようとしたのだ。あの場から一番逃げだしたかったのは歩夢のはずなのに。そんな俺が礼を言われる資格なんてない。
「でも最後は助けに来てくれたでしょ? あの時は誰にも気付いてもらえなくて、怖くて声が出ないから助けを呼ぶこともできなくて……。もうどうなってもいいやって諦めかけた時に友紀君が私に気付いてくれて、そして勇気を出して助けに来てくれた。それが本当に本当に嬉しくて……。多分友紀君が思ってる以上だよ」
「そう、なのか?」
「だって友紀君が助けてくれなかったらきっと私は笑えてなかっただろうし、スクールアイドルも続けられなかった。それに、こうやって友紀君と笑って会うこともできなかった。今の私が笑っていられるのも、スクールアイドルを続けられるのも全部友紀君のおかげだよ」
「……」
「だから友紀君にはもっと自信を持ってほしい。資格がないなんて言わないでほしい。友紀君が自分のことをどう思っていても、誰が何を言おうと、あの時私を助けてくれたのは友紀君なんだから。私にとって友紀君は、誰よりもかっこいい最高のヒーローだよ」
「そうか……」
ヒーロー、か……。
俺にも昔ヒーローというものに憧れていた頃があった。といっても小学生くらいの頃だが。ヒーロー漫画や特撮ヒーローなんかを見るたびに彼らに憧れた。誰かの危機に駆けつけて敵を華麗に倒し、見返りを求めずにその場から立ち去るその姿に。そんな人間に俺もなりたいと思った。なれると思っていた。
だが、俺はヒーローになんかなれないと悟った。臆病で逃げ癖のある俺には到底不可能だったのだ。俺には他人の危機どころか自分の危機にすら立ち向かうことができなかった。立ち向かうどころか逃げる手段、逃げる口実ばかり考えてしまうのだ。
そんな俺はヒーローになんか絶対になれはしない。そう思ってたんだけどな……。
「俺がヒーローか……」
「うん、あの時の友紀君は誰よりもかっこよかったよ」
かっこよさの欠片もない戦い方だった気もするけどな。後ろからの不意打ちで金的を蹴り上げたり。卑怯にもほどがある。
「ありがとな。歩夢のおかげで少しだけ自信が持てた」
「うん! どういたしまして」
これからはきっと多少危機から逃げずに立ち向かうことができる気がする。正々堂々と真っ正面から立ち向かうかどうかはまた別問題だが。
「私からもお礼を言うね。私のことを助けてくれて本当にありがとう」
「どういたしまして」
純粋な笑顔で真っ直ぐにお礼を言われるとこんなに照れるものなのか。歩夢の笑顔が素敵だから尚更照れる。
「あっ、そうだ。あれを友紀君に返さなきゃ……」
そう言うと歩夢は自分の鞄から一着の制服を取り出した。
「これ、あの時借りた制服、友紀君に返すね」
「ああ、そういえば貸してたな。ありがとう」
貸したこと完全に忘れてたわ。今日の朝着替えの時に探したけど見つからなくて、間違ってバイト先に忘れてきたと思ってたけど、そうだ歩夢に貸したんだった。
「ちゃんと消臭はしたんだけど、もし私の匂いが残ってたらごめんね」
「大丈夫、気にしないようにするから」
良い匂いがしてもくんかくんかしないように自制しようと思います。自制に失敗したらごめんね。
「あとね、このことは同好会の皆には内緒にしてほしいの。お願いできるかな?」
「制服貸したこと?」
「それじゃなくてね。いや、それもなんだけど……私が襲われたこと自体内緒にしてほしいの。皆に心配かけたくないの」
「優しいな、歩夢は。わかった。ないsy『ドンッ!!』」
俺の言葉を遮るように、ドアを思いっきり開ける音が響く。
「歩夢さん! 友紀さん! 今のはどういうことですか! 説明してください!!」
歩夢、ごめんな。早速せつ菜にバレちまったよ……。あと、せつ菜さんは声のボリュームが大きいのでもう少し下げてもらえると嬉しいです。他の人にもバレちゃうだろ。
「せっ、せつ菜ちゃんっ!? どうしてここに!?」
「忘れ物をしたので取りに来ました。わたしのことはどうでもいいです。それよりも、歩夢さんが襲われたことについてちゃんと説明してください」
「えっと、それは……」
「おいおい、生徒会長ともあろうものが盗み聞きかよ」
「ぬ、盗み聞きなんてしてないですよ……? そ、それよりも! 襲われたことについて早く説明してください」
「天王寺達といい、せつ菜といい、何故人は盗み聞きをするのか」
それを調査するため、我々はアマゾンの奥地へと向かった。
「だって、歩夢さんが恥ずかしそうにしながら『友紀君と2人っきりで話したいことがあるから先に行っててほしい』って言うから、そんなの
だからって盗み聞きしていい理由にはならないと思うんですよ。2人きりで話したいって歩夢も言ってるんだし。ギルティですよ、ギルティ。
「あと、そういうことってなんだよ。どういうことだよ」
「それは、その……れ、恋愛的なことです! もしかしたらお2人が付き合ってるのかもと思いまして……」
「付き合ってる? 俺と歩夢が? ないない。俺は歩夢に釣り合うような男じゃないよ。歩夢も俺のことなんて眼中にないだろうし。な、歩夢?」
「……ウン、ソウダネ」
なんでカタコトなんですか。当たり前のことを言ったせいで呆れたとか? 悲しいなぁ……。いやまぁ、別に俺も歩夢のことを恋愛相手として見ているわけではないんですけども。
「そもそも、生徒会長としては生徒の恋愛に首を突っ込むべきではないのでは?」
「いえ、生徒会長としては生徒が風紀を乱していないかは大切なことなので」
「確かに」
風紀を乱してないか確認するのも生徒会長の仕事だったな。じゃあ盗み聞きしたのも正しいことなのか。……正しいのか?
「歩夢さんが風紀を乱すような人とは思っていませんけど」
「確かに」
歩夢は清楚だし、明らかに風紀を乱すタイプの人間ではないよな。わかるわかる。
「友紀さんは最近まで風紀を乱しながら歩いて回ってましたけどね」
「確かに」
確かに確かに言いすぎて確かにスパイラルに陥りそうだ。
「ですが、今日はどうやらスマホを触らずに歩いていたようですね」
「まあね。えらいだろ?」
「それが当たり前のことなんですけど……。まあ、きちんと有言実行したことは褒めるべきことだと思います」
「でしょでしょ」
「今日だけでなく明日も、学内だけでなく学外でもちゃんと続けてくださいね?」
「頑張りまーす」
「そういえば、1つ友紀さんの気になった所を思い出したのですが、何故侑さんの時はすぐに反省したのですか? 私の時はまったく反省してくれなかったのに」
「だって高咲が可愛かったから」
「……それは私を可愛くないと言っていると受け取ってよろしいでしょうか」
「別にそこまでは言ってないんだけど」
改めてせつ菜をじっと観察する。ちゃんと観察したら意外と可愛い顔してんじゃん。いや、意外とじゃなくて普通にくっそ可愛いわ。三つ編みで眼鏡をかけた普段のせつ菜を記憶の中から掘り出してみるが、そっちの姿も普通に可愛かった。何故気付かなかったんだろう。それに、よく見たら身長の割に大きなものをお持ちで……。
「な、なんですか? じっと私のことを見つめて……」
「いや、改めて見ると可愛いなって」
「可愛い!? ほんとですかっ!?」
「ああ。今まではクソ真面目堅物鬼生徒会長のイメージが定着してたせいでお前の可愛さに気付かなかったよ。ごめんな」
「なるほど。あなたは私のことをそう思っていたのですね」
「うん」
「即答ですか。どうやらお説教が必要なようですね。明日の昼休み、生徒会室に来てください。たっぷりとお説教をしてあげます」
そういうとこやぞ。
「あの、せつ菜ちゃん……」
「何ですか、歩夢さん?」
「さっきから友紀君の生徒会長に反応して徐々に生徒会長モードになってきてるよ」
「……あ」
そういえば、俺も無意識のうちにせつ菜のことを生徒会長って呼んでたな。やっぱりせつ菜の正体は生徒会長だったんだな。知ってたけど。
「なるほど……友紀さん、私のことを嵌めましたね?」
「いや、そういうつもりではなかったんだけど」
「明日なんて甘いことは言いません。今からお説教です」
「だからわざとじゃないんだって!」
「私を嵌めるとどうなるか、その身をもって思い知らせてあげます!!」
「信じてくれ~っ!」
「3人とも遅かったね。もう皆ランニング終わっちゃったよ。何かあったの?」
「何もなかったですよ。ね、友紀さん?」
「ウンナニモナカッタヨ」
「あはは……」
「村上君なんでカタコトなの? 大丈夫?」
「ダイジョウブダヨ」
「ほんとに大丈夫!?」
地獄の入り口を見たぜ……。地獄はこの世にあったんだ。
だが、地獄の説教コースのおかげでせつ菜はあのことについては忘れてくれたようだ。歩夢の秘密は守られた。俺の犠牲は無駄じゃなかったんや……。
「それじゃあ私達も行ってくるね」
「友紀さんも一緒に行きましょう!」
「え、絶対嫌だけど?」
疲れるし、しんどいし、明日筋肉痛になるし、そもそも絶対完走できないし。
「私も一緒に走っておいた方がいいと思うな」
「なんで?」
「だってランニングルートは覚えておいた方がいいでしょ?」
「それなら別に走らなくてよくない? 地図見るだけで十分だろ」
「でも、実際に走ったほうがすぐに覚えられますよ」
「それはそうだけどさ……」
「それに、今後のために友紀さんもスタミナをつけておいて損はないと思いますよ」
「あ、あるし。ちゃんとスタミナあるし」
もちろん嘘ですけどね。
「友紀君も一緒に走ろうよ。友紀君に合わせてあげるから」
「でもなぁ……」
「あぁ、なるほど。友紀さんは私達に負けるのが怖いんですか?」
「は?」
「そうですよね。いくら私達がスクールアイドルとはいえ、男の子が女の子にスタミナで負けるのは悔しいですもんね」
「おいおいおい。その程度の煽りに俺が乗るとでも?」
「乗らないんですか?」
「はぁぁぁ……」
あの程度の幼稚な煽りに乗ると思われてるとはね……。悪いけど俺は運動で誰に負けようが気にしないんだよ。運動能力で他人に劣っているのは自覚してるしな。俺を
「その動き、少しだけイラッとしますね……」
ただせつ菜に呆れていることを動きで表しただけなんだが、この程度でイラついているようではせつ菜もまだまだだな。
「いいでしょう。こうなったら意地でも友紀さんを連れていきます!」
「ちょっ、引っ張るな! 危ないだろ!」
「いってらっしゃーい」
せつ菜は俺の腕を掴み、無理やり引っ張っていく。危ないでしょうが。うっかりこけたらどうするんだよ。高咲も止めてくれよ。いってらっしゃいではないんだよ。
「2人は仲が良いんだね……」
「はい! 仲良しです!」
「どこが?」
仲良しならその手を離してくれよ……。もっと友達に対して思いやりを持って。
「せつ菜ちゃん、友紀君といるといつもより楽しそう」
「実際楽しいですよ。友紀さんは面白いことばかり話しますし、行動も予想外のことが多くて楽しいです。……まあ、校則を守らない所だけはいただけませんが」
「失礼な。俺はただ守るべき校則と守る必要のない校則を見極めてるだけだ」
「ちゃんと校則は全部守ろうよ……」
ちゃんとした理由のある校則ならまだしも、大した理由のない無意味な校則は守る気にならないんだよな。例えば昔からの風習とかいう理由な。皆もそう思わない?
「3人ともお帰り。村上君は……死んでる?」
「はぁ……はぁ……うっ!」
「友紀さん!?」
あぁ、もう無理だ。限界だ。すべての力を使い切った。もう立つ力すら残っていない。
「せつ菜、遺言を……」
「遺言だなんて聞きたくないです! まだ死なないでください!」
「今週の、金ロー……天空の城を、録画して、おいて……くれ……」
「友紀さん……今週は……今週の金ローは……風の谷ですよぉ!」
「そんな……ぁぁ……」
「友紀さん! 友紀さーんっ!!」
「2人とも何やってるの?」
「ノリ。死にかけてるのは本当だけど」
「私もノリです。楽しそうだったのでつい……」
「やっぱり仲良しなんだね……」
天空の城も風の谷もどっちも好きです。ここ数年見ていませんが。