「あなたにはスクールアイドル同好会の手伝いを命じます」
「お断りします」
「あなたに拒否権はありません。この命令は絶対です」
いや、拒否権くらいあるだろ。横暴すぎる。
「そもそも、生徒を強制的に部活に加入させる権限なんて生徒会長にないはずだ。……多分」
「そこは自信がないんだね……」
「だって生徒会長の持つ権限なんて知らないし。……で、どうなんだ?」
「ええ、もちろんそんな権限はありませんよ。ですが問題はありません。あくまでもボランティア活動の一環として手伝うだけですから」
はたして強制的にやらされるボランティアはボランティアといえるのだろうか。
「あなたは高咲さんに恩義を感じていますよね? それならばそれを高咲さんに返すべきですよね?」
「それはそうだが……」
「高咲さんも男手は欲しいですよね?」
「うん。あーあ、どこかに手伝ってくれる男の人はいないかなー」
「演技が棒だぞ」
「うっ……」
「……高咲さんの演技が棒だったのはさておき、人手が足りていないのは事実です」
演技が棒すぎて嘘なんじゃないかとも思えるが、高咲が嘘をつくような人間とは思えないんだよな。
「質問いいか。期限はどれくらいだ?」
「私がいいと言うまでです。村上さんがきちんと仕事をするようであれば短くなりますし、全く仕事をしないのであれば卒業まで辞められないかもしれないし、同好会の手伝い以外の罰を与えるかもしれません」
「ちゃんとしてるかどうかの判断はお前が見に来てするのか?」
「いえ、私はいろいろあって同好会を見に行けないので高咲さんからの定期報告で判断します」
「いろいろってなんだよ」
「そ、それは……」
急に口ごもる生徒会長。何か隠し事があるのか? もしかしたら生徒会長の弱みを握れるかも。
「今は菜々ちゃんのことは置いといて、それよりも村上君のことだよ」
「……それもそうだな。もう1つ質問だ。休日出勤はあるのか?」
「同好会の活動自体は休日もやってるよ」
「そうですね。ですが、それに来るかどうかの判断は村上さんに任せます。あまりに来ないようであればきちんと仕事をやっていないと判断するかもしれませんが」
「なるほど……。……いいだろう、やってやる。死ぬ気で仕事しまくって速攻で終わらせてやる!」
目標は1ヶ月。『FF15』の発売日までに解放されてやる。面倒ごとをとっとと終わらせてじっくりFFをプレイするんだ。
「ふふっ、どうやらこの話受けていただけるようですね」
「ああ。そもそも、お前が拒否権はないって言ったんだろ。俺に受ける以外の選択肢はないんだよ」
「その通りです。ですが、村上さんのやる気があるのとないのとでは大きな差がありますからね」
「決まりだね。スクールアイドル同好会にようこそ!」
「しばらくの間よろしく頼む」
高咲から差し出された手を握る。さっきまでずっと手を掴まれてたのに今更握手するのはなんだか変な感じがするな。
「それじゃ、早速部室に行こうか」
「あ、今日はバイトなんで無理」
「死ぬ気で仕事しまくるって話は!?」
「生活に関わることなんで勘弁して」
「生活が厳しいんですか?」
「そこまで厳しくはないけど、俺1人で稼がなきゃいけないから」
「1人で……? その、村上さんのご両親は……?」
「ん? ……ああ、親は普通に生きてるよ。俺が一人暮らししてるだけ」
一応仕送りはあるけど、ゲーム代とかを考えるとそれだけじゃ足りないんだよな。だから自分で稼ぐ必要があったんですね。
「実家からだとこの学校に通えないから一人暮らししてるんだよ」
「でも、村上さんは確か寮生ではありませんでしたよね?」
「ああ」
「え? そうなの? 普通に寮に住めばよかったじゃん」
「寮だとあんまりゲーム持ち込めなさそうだし」
「「あ~」」
あと、単純に寮はいろいろとめんどくさそう。
「ところで、村上君家にはどれくらいゲームあるの?」
「数えたことないなぁ。正確な数はわからないけど、多分100くらいだと思う」
実家から持ってこれなかったのも結構あるから、それを含めれば倍以上あると思うけど。
「100! すごーい! 今度村上君家遊びに行ってもいい!?」
「いいよ。今週末とかどう?」
「行く!」
「オーケー。じゃあ同好会の活動終わってからな」
「うん! 楽しみ~」
図らずも高咲も遊ぶ約束ができた。しかも俺の自宅で。これはもしかすると自宅デートでは???? いや、違うか(冷静)
「んんっ。……村上さん、バイトはいいんですか?」
「おっと、完全に忘れてた。ありがとな。じゃあもう行くわ。また明日」
「うん、また明日!」
「ええ、また明日。スマホを触りながら帰ってはいけませんよ」
「大丈夫、もうしないから」
「あと、廊下を走ることもダメですよ」
「気を付けまーす」
2人に見送られて生徒会室を後にする。この後のバイトもがんばるぞい。
* * *
「お疲れ様でしたー。先に上がりまーす」
ふぅ。今日のバイトも終わり。疲れたー。今日も一日頑張れてえらい。
にしても、今日はいつにも増して疲れたな。何故かいつもより客が多かったからか。なんであんなに多かったんですかねぇ……。
今日は帰ってから料理するのめんどくさいしカップ麺で済まそうかな。でも、昨日一昨日も朝昼晩とカップ麺だったしなぁ。あんまりカップ麺ばかり食べてると体壊すし。どうすっかなぁ。
「お疲れ様でした~」
「あ、近江先輩。お疲れ様です」
「友紀君、お疲れ~」
休憩室に入ってきたのは近江彼方先輩。アルバイト仲間にして、虹ヶ咲学園ライフデザイン学科の3年生。ちなみにすごく可愛い。おっとり系で、すごく優しい。生徒会長の100倍優しい。ぶっちゃけタイプです。
近江先輩は家計を助けるために週5でアルバイトをやっており、家に帰ってからは家事、さらには奨学金のために勉強もしているらしい。それだけでも大変なはずなのに学校では部活動をやっているようだ。心の底から尊敬できる先輩だ。
ただ、あまりにも頑張りすぎて倒れたりしないかすごく心配だ。こんな多忙な生活をしていたらまともに休む時間なんかないだろうし、実際いつも眠たそうにしている。本格的に体調を崩す前に近江先輩が休める時間があればいいのだが……。
「友紀君ももう帰り?」
「そうです。一緒に帰りますか?」
「うん、一緒に帰ろっか。支度するからちょっと待っててね~」
「じゃあ外で待ってますね」
「お待たせ~。それじゃあ帰ろっか」
「ええ、帰りましょうか」
近江先輩と家が隣同士というわけではないので途中で別れることになるのだが、バイト終わりにはいつも一緒に帰っている。最初は近江先輩から一緒に帰ろうと提案してきたのだが、それ以降も度々誘ってきて、いつの間にかいつも一緒に帰るような関係になっていた。
「おやおや~? 友紀君、珍しくゲームしてないんだね~。充電切れたの?」
「そういうわけじゃないんですけど、今朝生徒会長に歩きスマホを注意されまして……。で、初対面の人にもやめたほうがいいと言われたので、これからは歩きスマホはやめようと誓ったんですよ」
「おぉ~。友紀君えら~い」
近江先輩に優しく頭を撫でられる。恥ずかしい。
「あの、俺もう子供じゃないんで……」
「彼方ちゃんから見たらまだまだ子供だよ~。ほらほら、遠慮しないで」
近江先輩は撫でる手を止めない。恥ずかしい。でも好みの先輩に撫でられて嬉しい。俺の本能は素直だ。
「友紀君が心配だから一緒に帰ってたけど、もうその必要はなくなっちゃったな~」
「えっ」
それって、これからは俺と一緒に帰らないってことですか? そんな……近江先輩と一緒に帰る時間は俺にとってゲームの次に幸せな時間だったのに……。
「じゃあね友紀君。また木曜日にね」
「はい……また、木曜日に……」
ショックを受けている間に分かれる地点まで来ていたようだ。近江先輩は何事もなかったかのように俺と別れる。あの人にとって俺はただの後輩ってことか……。はぁ……。
○「演技が棒だぞ」
スクールアイドル同好会兼演劇部所属の子を呼んだほうがいいのでは?
○『何か隠し事があるのか?』
優木せつ菜さん!?
○『FF15』
長寿作品『ファイナルファンタジア』の最新作。発売は1ヶ月後。
○「親は普通に生きてるよ」
なお、出番は多分ない。
○「寮だとあんまりゲーム持ち込めなさそうだし」
作者は寮がどんな感じなのか知らないけど、どこの寮もそんな感じだと思ってる。偏見かもしれない。
○『単純に寮はいろいろとめんどくさそう』
ド偏見。
○『これはもしかすると自宅デートでは????』
侑ちゃんはデートだとかそんなことは全く考えてない。でも普通に羨ましい。
○『あんまりカップ麺ばかり食べてると体壊すし』
一人暮らしを始めたばかりのときに、節約と時短を兼ねてカップ麺ばかり食べてたら体を壊した。
○「お疲れ様でしたー。先に上がりまーす」
作者はバイトをしたことがないので本当にこんなこと言ってるのか知らない。
○『ぶっちゃけタイプです』
わかる。
○『いつの間にかいつも一緒に帰るような関係になっていた』
羨ましい。
○「友紀君、珍しくゲームしてないんだね~」
先輩と一緒に帰っているときに堂々とゲームをする後輩のクズ。
○『近江先輩に優しく頭を撫でられる』
羨ましい。